読み始めてすぐに
カフカさんの作品に漂う気配
を感じました。
作者の多和田葉子さんは
ドイツ在住で
日本語とドイツ語の両言語で
著作活動をしているそうです。
そういう先入観があったから
カフカっぽさを感じたのかもしれませんが
作品中に
カフカさんの
ある犬の探求
が登場していて
やっぱり!
と思いました。
ある犬の探求は未読なので
いつか読んでみたいと思います。
で
ぼくは
変身
城
審判
だけしか読んでいませんが
カフカさんの作品の
不条理というか
不安定というか
作品世界の理解しづらさみたいな感覚が好きなので
それっぽい雰囲気のある
この
雪の練習生
も不思議な世界にはまらせていただきました。
主人公は祖母、母、わたしの三世代のホッキョクグマです。
三作の短編の主人公をそれぞれが演じます。
・祖母の退化論
・死の接吻
・北極を想う日
動物を単に擬人化したものとは
ひと味もふた味も違う
ミラクルな文章で
いったいこの作品の世界観は
どういう設定になっているのか
ということが最後まで分かりませんでしたが
それでいて心地いいから不思議です。
ホッキョクグマが
伝記を書いたり
亡命したり
サーカスの演出をしたり
哲学したり。
人間と会話ができるかと思えば
まるっきり意思疎通もできなかったり。
一人称の私が
人間であったのがいつの間にか
ホッキョクグマに変わっていたり。
あと舞台がソ連であったり
東ドイツであったりして
社会主義国のさまざまな制度というか文化というか
生活が垣間見れてそういうのも
興味深かったです。
さすがに不条理な世界観だけあって
感想を文章にするのももどかしいですが
ドイツ文学の格調のようなものを感じさせる作品でした。
論理的で
ユーモアもひねりが利いていて
比喩も洗練されていて
とてもインテリジェンスです。
世界文学です。
北極を想う日
のラストは特に美しかったです。
-雪の練習生-
多和田葉子