思い通りにもならない
大事なのは風を捉えること
出口 治明(でぐち・はるあき)氏
[ライフネット生命保険会長兼CEO(最高経営責任者)]

長らく生命保険業界で働き、還暦を迎えた折に
様々な縁がつながって、有望な若者たちと一緒に
インターネット生命保険会社を開業しました。
その展開に一番驚いているのが自分自身ですが、
人生とはそのようなもの。
「起業するなら死ぬほど考え抜いて、完璧な準備を
持って臨むべし」といったことは、出来の悪いビジ
ネス書に書いてある幻想です。
そもそも、完璧な準備など人間にはできません。
努力さえすれば何でもできるなどと考えるのも傲慢
そのもので、誰もがオリンピックで金メダルを取れる
わけではない。
何事も自分の思い通りには運ばないのが世の常で、
新しいことを始めれば、99%は失敗するということは
歴史が示している通り。ベンチャー企業のほとんどが
3年以内に消えていくのが現実です。
それでも、そうした厳しさを分かったうえで、自らが信じ
る何かを実現したいと強く思い、たとえ失敗しても諦め
ずに、1%の可能性を信じて挑み続けた人たちが、
世界をより良く変えてきました。
私は専門の保険で何ができるかを考えました。
そして、インターネットの利点を生かして保険料を安く
することで、若い世代の人たちが安心して子供を産み
育てられる社会にしたいと思い、懸命に事業に取り
組んでいます。
何より大事なのは、それぞれの個人の人生であって、
仕事はその一部でしかありません。重視すべきは、
ワーク・ライフ・バランスではなく、ライフ・ワーク・バランス。
マネジメントにおいては、スタッフそれぞれの強みを知り、
適材適所で力を引き出す。
分からないことがあれば、人に聞き、本に問い、道を探せ
ばいい。そうしてひとたび腹が決まったら、迷わず振り返ら
ずに進めばいい。
その時、風は吹かないかもしれません。そこで大事なのは、
いつも都合よく風が吹くわけではないと知っておくこと。
そして、吹く瞬間を逃さずに捉えることです。
(2015.07.20 号から)

出口 治明 氏
「日経ビジネスDigital」 2015.07.20

キーワードは、 完璧な準備などできない です。
出口さんはたいへんな読書家として知られて
います。実際、読んでおくべきビジネス書の
著書も物しています。
「完璧な準備など人間にはできません」
と出口さんは語っています。
ですが、何も準備しなくていいとは、決して言って
いません。
「分からないことがあれば、人に聞き、本に問い、
道を探せばいい」
と語っています。
その上で、
「ひとたび腹が決まったら、迷わず振り返らずに
進めばいい」
とアドバイスしています。
私が、出口さんは素晴らしい人物だと思うことは、
現在の私と同じ還暦になって起業したことです。
年齢は関係ない、と言っていることです。
出口さんが還暦で起業したことと比べると、
レベルは相当低いですが、他のことに挑戦して
います。私にとってのライフワークです。
それは、ブログを更新し続けることや、筋トレを
続けるという誰にでもできそうなことですが、
歳とともに気力や体力が衰えてきます。
それでも続けることが私にとって、とても重要な
ことだ、と考えています。
頭や身体が動かなくなるまでずっと続けます。

ポイントは、
吹く瞬間を逃さずに捉えること
です。
「風は吹かないかもしれません」あるいは、
「いつも都合よく風が吹くわけではないと知って
おくこと」と語り、これらの言葉だけで判断すると、
突き放しているように感じますが、決してそうでは
ありません。
「吹く瞬間を逃さずに捉えることです」
と説いています。チャンスも可能性もある、
と語っています。チャレンジするかしないかの差
だけです。ですが、その差はとてつもなく大きな
ものです。
完璧な準備はできないけれど、普段から準備は
しておきなさい、と語っているのです。
そして、機敏に行動しなさい、と。
チャンスは必ずやってくるので、その瞬間をしっかり
捉えなさい、ということです。
特別のことをやろうとしなくても、自分でできる
精一杯のことで良い、と私は考えています。
他人と比較する必要は全くありません。
自分には何ができるのかを考え、やることが決まった
ら「迷わず振り返らず進めばいい」のです。
「完璧な準備などできない
思い通りにもならない
大事なのは風を捉えること」 ――出口さんの実体験
に基づく私たちへのエールです。