日経ビジネスのインタビュー(143) たとえ赤字でも 撤退はあり得ない | 藤巻隆(ふじまき・たかし)オフィシャルブログ

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たとえ赤字でも
撤退はあり得ない

2014.10.27

日覺 昭廣(にっかく・あきひろ)氏

[東レ社長]


 我々はあくまで素材メーカーです。

 世の中を変えるのは、革新的な素材しかない

 と信じています。小さくてもキラリと光るものが

 あればいい。成長している分野で求められて

 いるものを生み出し続ける限り、必ず競合他社

 に打ち勝ち、最後まで生き残れます。


 炭素繊維は研究予算だけで1400億円を投入

 しました。確かに我々は相当しつこいかもしれ

 ません(笑)。ただその間、どこにも採用されず、

 赤字を垂れ流していたわけではありませんよ。

 最初はテニスラケットやゴルフシャフト、釣りざお

 などに使われ、そこで生産技術を磨いてきました。


 研究チームの合言葉は「黒い航空機を飛ばそう」

 でした。


 自動車メーカーが炭素繊維を本格採用し、全体の

 供給量が増えることは大歓迎です。結果として、

 競合の参入が増えても、勝ち続ければいいのです

 から。炭素繊維複合材料の加工技術を磨いている

 のは、そのための準備と位置付けています。


 水処理膜の分野では、東レは68年に世界に先駆け

 てRO(逆浸透)膜の開発を始め、80年頃に製品化

 に成功しました。その結果、半導体製造に使う超純水

 用では市場をほぼ独占しました。


 ファーストリとのパートナーシップは10年以上が経ち、

 ますます強固になっています。共同開発の製品数が

 増え、売り上げが伸びているという直接的な効果だけ

 ではありません。ユニクロの「ウルトラライトダウン」を

 手に取って、「持ち運べるアウターもいいな」と感じる

 消費者が現れれば、新たな市場を創造できます。

 それは我々だけでなく、繊維業界全体にとっても

 プラスに働くのです。


 東レのコア技術は何かと言えば、合成繊維を作り出す

 高分子化学であり、有機合成化学なのです。繊維以外

 の分野に展開できる応用力もあります。


 東レは個人株主が3割程度を占めますが、長期的視点

 での素材開発に取り組む我々を許容してくれています。

 米国ではこうはいかないでしょう。投資家は財務諸表

 ばかり見ているため、短期で儲かる会社にしか資金が

 集まらない。デュポンだけでなく、ベンチャーですら

 そのような状態なのです。


 東レには、財務諸表だけで事業を切り貼りしたり、

 経営を判断したりする社外取締役は必要ありません。


 現場を理解している経営者がいなかったら、東レは

 繊維をやめていたかもしれない。そうなっていたら、

 今の成長は手に入らなかった。


 市場が存在し続ける限りは、撤退なんてあり得ません。

 苦しい時を耐え忍び、20~30年待っていると、国内

 海外を問わず優秀な人材が育ってきます。それは

 何にも代えがたい財産になるからです。


 順調の時ほど非常に怖い。業績が悪ければ、何が

 悪いのか分かるのですぐに手を打てます。その意味

 で私は、東レの全ての事業が弱点だと思っています。

 死角がないどころか、死角だらけだと。だから日々、

 問題を見つける努力が必要になります。


 (問題とは)不十分なコスト管理ですね。2016年度

 までの3年間で、生産設備のプロセス革新や材料の

 切り替えなどを通じて、2000億円を削減する計画

 です。


 



東レ社長 日覺 昭廣氏

東レ社長 日覺 昭廣氏
(『日経ビジネス』 2014.10.27号 P.043)




今回の編集長インタビューは、
特集「東レ 勝つまでやり切る経営」
のPART3として構成されています。


その意味で、通常号のインタビューとは異なります。



東レと言いますと、すぐに思い浮かぶのは、
ユニクロ(ファーストリテイリング)との事業
提携です。


『ヒートテック』は、東レと共同開発した素材で、
革新的です。


少し古い話ですが、ユニクロの柳井正会長兼
社長が、
『柳井正の希望を持とう』(柳井正 朝日新書
2011年6月30日 第1刷)の中で、
『ヒートテック』について書いています。


 2010年のシーズン、ヒートテックは7000万枚
 
 を売りきった。日本の服飾史上、一種類の服

 がこれほどたくさん売れた例はないだろう。

 服のヒット商品と言えばせいぜい数千点、

 多くても数十万だったのが、ヒートテックは

 それを軽々と超えた。世界中に店舗網を張り

 巡らせようとしているのだから、こうした新しい

 商品の開発は欠かせないと思っている。 
 

  (上掲書 PP.26-27)



日覺さんは、東レの裏打ちされた実績を
背景に、強気な発言が多かったですね。


技術力と、その技術を生かす市場を的確に
見据える目が備わっている、ということでしょう。
あるいは技術力によって、新しい市場を創造
できる、と考えているのかもしれません。


また、日覺さんは、
「小さくてもキラリと光るものがあればいい」
とも話しています。


「山椒は小粒でもぴりりと辛い」
という言葉に近いでしょうか。


「小さく産んで大きく育てる」
という言葉も産業界ではよく使われます。


ですが、ことは簡単ではありません。
人間でも同じですが、大きく育てる(もちろん、
身体だけを言っているのではありません)
ためには、重要な点があります。


育てる側には、育て抜く強い意思と、根気が
なければなりません。


一方、本人には「ひとかどの人間」になろう
とする向上心・向学心と行動が不可欠です。


育てる側、本人のどちらかが、「もうこれでいい」
と思って気を緩めてしまえば、その瞬間に成長
は止まります。本気度が試されることになります。


「長い目で見る」度量が必要ですが、東レには
ありそうです。人材が人財に育つのを待つ余裕
を感じました。


それにしましても、日覺さんの考え方=現在の
東レの戦略は凄いですね。


「有望だと確信すれば、数十年待つこともいとわ
ない」
というブレない方針は、様子見をし、同じ行動を
とりがちな日本企業にあって、特異な存在だ、
と思いました。


「市場が存在し続ける限りは、撤退なんてあり
得ません」
と言う日覺さんの自信に満ちた言葉に、
東レの先端技術は廃れることはない、
と確信しました。


そして、トップに危機意識があるところに、
重要なポイントがある、と思いました。


「勝って兜の緒を締めよ」
といったところでしょうか。


油断してはいけないこと、「成功の復讐」に遭遇
しないことを常に意識しているからだ、と思います。




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