2024年4月7日 朝日新聞 リライフ


助け合い  生きる気持ちだけ  あれば

さだまさしさん

 

朝日新聞ReライフPROJECT




■Reライフ 人生充実

 人生後半を自分らしく生きる大人のための文化祭「Reライフフェスティバル2024春」(朝日新聞社主催)が3月上旬に東京都内で開催され、シンガー・ソングライター、小説家のさだまさしさん(71)が「スペシャルトーク&弾き語りライブ」に登場しました。家族との思い出や人生後半をどう生きるかなどについて笑いを交えながら語り、「案山子(かかし)」や「関白宣言」などの代表曲を歌って観客を魅了しました。(根本理香)

 ■俺は何者?悩んでは先延ばし、音楽だけ一生懸命/若い人に残せるかな お金じゃなく、大切な何か
 拍手の中、ステージに登場したさださん。事前にスタッフから「あまりぼやかないで、明日に希望が持てる話をしてください」と言われたことを打ち明けた後に「そうした話は最近ないですよね」と続け、早くもぼやきからスタートした。
 「政治家が未来の日本を語らず、目先のお金の話ばかり」と嘆きつつも、「でも、大丈夫です。どうにかなるんです。どうにかなるっていうのは我が家の家訓です」。戦後の混乱期の様子や、ここ数十年の給料が伸び悩んだことを挙げながら、「お金があろうがなかろうが、みんなで助け合う気持ちと、生きようという気持ちだけあれば、どうにかなる」と語りかけた。
 その後、さださんは代表曲の一つで25歳のときにつくった「案山子」を歌い終え、「当時は気味悪がられました。25歳の若造が、故郷で子どもを心配している親の気持ちがなぜ歌えるのかと」。話はこの曲のベースにもなった母の手紙のことに及んだ。
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 <お金の苦労させぬ> 小さな頃からバイオリンでコンクールに入賞するなど才能を発揮したさださんは、中学1年生から上京して下宿生活に。母からは毎週手紙が届き、手紙の最後には常に「お前を信頼しています。母より」とあった。「この1行は重たいですね」。道を外しそうになっても、踏みとどまらせてくれたという。
 「案山子」に出てくる「お金はあるか」という歌詞については「子どもの頃から、お金で母が苦労しているのを見てきました」と、幼い日の思い出を切り出した。
 「あんた、今日は何食べたかとね」と尋ねる母。財布に少しのお金しかないことをさださんは子どもながらに知っていたので、一番安い「うどんがよか」と応じたという。
 真面目で明るくて、人にだまされては借金を抱える父を見てきたこともあり、「早く大人になりたい。大人になったら母にお金の苦労だけはさせないという自信があった」という。「なぜか働く自信だけはあったんですね」
 高校2年生のころ、不安で寝られない日が続いたという。イライラする原因を突き止めるため、模造紙に不平不満を箇条書きで書き連ねていった。2週間書き続けた後、「これを書いてどうするんだ」と思い、解決したものをマジックで消していくと、二つだけが残った。「私は何のために生まれてきたのか」と「私はどうやって生きていったらいいのか」。どちらも哲学的な問題だった。
 17歳の自分にそんなことがわかるはずがないと思うと、気持ちが晴れた。そして漠然と「45歳になればわかるだろう」と、17歳から45歳までを「仮の人生」と位置づけることにした。
 その間にシンガー・ソングライターとして世間に認められる立場になったが、45歳の誕生日前後に「俺は何者か」と再び悩み、今度は解決を60歳に先延ばしした。その後、60歳になる直前になると、「悩みませんでした」。80歳の時に丸投げしたからだった。
 「大切なことを後に丸投げするような、本当に恥ずかしい人生ですね」と自嘲しつつも、「自分で一つ一つ克服して生きてきたことは、音楽の上だけです。それだけは一生懸命やってきた」と胸を張った。
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 <年寄り株式会社?> さださんは若い世代にも思いを寄せた。「人間だけですよ、戦地に若者を送るっていう馬鹿なことを続けている生き物は」と嘆き、「若い人を殺したくないと思います。若い者を守りましょうよ」と観客に呼びかけた。
 「若い人に何を残せるのかな。お金じゃなくて、もっと大切な何かを残すには、何があるだろうって思いますね」
 そう語った後、ロシアによるウクライナ侵攻のニュース映像をきっかけに書いた「キーウから遠く離れて」を歌った。
 父と母が亡くなった年齢に、さださん自身が近づいてきた。「やがて父や母にあったときに、恥ずかしくない老人って何だろうと、いま探っています」
 人生100年時代、「60歳から高齢者だとすると、老人になってから会社を起こしても、1部上場まで育てられるんじゃないかっていうくらい時間がある」と述べ、人生経験に裏打ちされた知恵や技術を生かして「僕は『年寄り株式会社』っていうのをつくりたいと思っています」と冗談交じりに語った。「今年ぜひ、ホームページで募集しようと思ったりしてね」との言葉に、観客は大いに盛り上がった。

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さだまさし「案山子」