日本経済新聞(夕刊)連載「あすへの話題」

今日(4月30日、金曜日)は執筆者のひとり、THE ALFEEの高見沢俊彦さんの担当日。
高見沢さんの第17回目。次の回までの1週間があっと言う間に過ぎる。この連載を追いかけ始めてもう約4か月。今回のテーマは「記憶のバトン」

 

 

自身の回想を交え、いくつもの忘れられない記憶を伝える。一方で、災害、戦禍など決して忘れてはならない記憶がある。それを記憶のバトンとして次の世代の子供達に渡していきたいと言う。

 

 

記憶のバトン――ミュージシャン高見沢俊彦(あすへの話題)
2021年4月30日  日本経済新聞 夕刊 


 忘れられない映画の記憶がある。日本で1973年に公開されたフランス映画「雪どけ」。離別した夫を待つ妻と、それを取り囲む家族の苦悩。ただ、忘れられないのは内容ではなく、映画のラストにテロップと共に流れた曲だ。残念ながら当時サントラ盤は日本では発売されず、以後耳にする事はなかった。最近、その音源を偶然にも関係者から手に入れ、48年ぶりに聴く事が出来た。イヤフォンから流れ出るミッシェル・ルグランの美しい旋律……脳内にゆっくり染み込むと、当時の感動の記憶がさざ波のように押し寄せてきた。何年経(た)とうが、感銘を受けた記憶は色褪(あ)せないものだ。
 初めて3声のハーモニーを人前で披露したのも48年前。アルフィーの前身のバンドに加入し、今までハードロックを演奏していた自分は、エレキをアコギに持ち替えた。CSNの「青い眼のジュディ」では一番高いコーラスパートを任され、その時のライブの記憶が長い音楽人生の基本になった。3人でハモる爽快感と気の置けない仲間と演奏する楽しさを痛感したからだ。
 我々が決して忘れてはいけないものに、災害の記憶がある。今年で10年を迎えた東日本大震災もそのひとつだ。完全復興にはまだ程遠いからこそ、我々の記憶にだけは鮮明に刻みつけておかなければならない。そして、8月の記憶……鎮魂の夏。かつてこの国も戦禍に見舞われ、多くの尊い命を失った。あの悲惨な記憶を風化させてはいけない。過去の過ちから学び、より良い未来に繋(つな)げるためにも、次世代の子供達に手渡す記憶のバトンには、平和の2文字を深く刻み込んでおきたいものだ。
2021・4・30

 

(第16回)

 

(第15回)