サカナ君になりそこねた中2病の私 | 「身体と知性を磨こう」90秒の読むサプリ

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心技体のバランスが整ってはじめて安定感が生まれるのではないでしょうか?身体と知性を磨いて楽しい毎日を過ごしましょう。


夏といえばビール。ではなく、私にとっては夏休みなのである。しかし、私の夏休みのゴールデン期は学生時代のだった。そもそも学生時代は人生のはじめの一歩で、体験する何もかもが新鮮でインパクトがあったのかもしれない。その中で特に強烈だったのは中学2年の時のこと。

別に交通事故にあったからとか、初体験をしたとか、はじめて海外旅行をしたとか、特別なことがあったのではない。ただ、本が好きになって本を読み始めた、それだけのことだった。実は文庫本を買って読んだのは中学2年の時が初めてで、それまでは本のストーリーを追うことが苦手で生物や宇宙の図鑑ばかり読んでいた。そのまま図鑑ばかり読んでいたら、今頃サカナ君みたいになっていたかもしれない。でも私はサカナ君にはならず、文学少女になろうとしていた。

文庫本を読むきっかけは国語の先生が出した1年がかりの宿題だった。その宿題とは原稿用紙50枚のプチ論文で、テーマは「海」、「山」、「宇宙」から選んで書くというもの。まず、テーマに関する小説を10冊読んでそれぞれ800字で書評を書き、百科事典などからテーマに関する自然科学のことを2000字、テーマを題材にした創作文を2000字、まえがきとあとがきをつける、というもの。製本まで自分でしなければならず、清書はボールペン、もしくは万年筆で、というものだった。

今考えても14歳の何も考えてないガキがちゃんと書けるのか?と思うけど、後になって聞いたら200人以上の生徒全員が書いたというから驚きだ。断っておくが、別に進学校の話ではない。当時の足立区の公立中学でのことだ。

その課題の本を読んだのが初の文庫本だった。私が選んだテーマは海。海の付く題名が多そうだったから。はじめての文庫本は遠藤周作の「海と毒薬」。いきなり重い本を読んだが、私の強烈な読書体験になった。そこから遠藤周作の小説にのめり込んでしまい、夏休み中、臨海学校とプールに行く以外は部屋の中で遠藤周作を読んで過ごした。今で言う中2病な精神状態かやや不安定な私にとって、おそらくキリスト教的「神」、正義とは?など、心を揺さぶるものだったのかもしれない。夏休みは遠藤周作フェアになってしまった。

あと1週間で夏休みが終わると言う時に、海に関する本を1冊しか読んでいないことに気付き、慌てて「老人と海」、「ドクトルマンボウ航海記」、「天国に一番近い島」など軽めのものを選んで読んだ。軽いものから読むべきだった。

今はいい時代である。
本のあらすじなんかはネットで調べればすぐに出てくる。でもその頃はガチで読んだ。ガチで読み通し、冬には課題も提出できた。おかげで読書が趣味になり、一生涯の友となった。

振り返ってみると中学2年は女子っぽい楽しい思い出がなかった。聖子ちゃんカットにして原宿でクレープを食べることも、友だちとしらこばとのプール(足立区方面の人なら分かるよね)に行くことも、彼氏と豊島園にいくことも全て夢に終わった。

でも学校のプールから帰ってきて、冷房の効いた部屋でスイカを食べながら本を読んでいるだけの1カ月、今考えるとこの上なく贅沢だったと思う。