生きる力をくれるものは「存在」なのかもしれない~若おかみは小学生~ | 仕事とマンガと心理学

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心理学でマンガをみるとオモシロいので、それを伝えたくて
ぐだぐだお送りしますので、楽しんでくださいね!

こんにちは、プロフェッショナル心理カウンセラーの織田です。

やっと観てきました~。

今日は、漫画ではなく、アニメから。

まだ観ていない方はネタバレがあるのでご注意です。

 

 

小学6年生のおっこちゃんは、交通事故で両親を亡くし

祖母の経営する「春の屋」という温泉旅館に引き取られます。

不思議な幽霊たちと旅館にやってくる不思議なお客様たちとの物語。

 

と、要約するとそういうあらすじなんですけれど

しみじみと元気になれる映画でした。

 

優れた作品は、心理的に追いかけても破綻がない・・というのは

何度も思うことだけれど

この映画についても、同じことを感じます。

 

主人公のおっこちゃん(織子)は、突然の交通事故で

両親を亡くします。

とても健気でいい子すぎるとレビューの感想にありました。

確かにいい子だけれど

スーパー小学生とまで言われると、

子どもをしらないなあ・・・とは、子どもを育てていない私が

言うのもなんですけれど、

いざとなると、子どもっていい子なんですよ。

 

冒頭、誰もいない家から出るとき

おそらく二度と戻ってこない誰もいない家なのに

「いってきます」とあいさつするおっこちゃん。

 

ああ、まだまだ両親の死が受け入れられていないんだなと

思って、少しばかりほろり。

だって、さよなら、でしょ?どう考えても。

自分も何度となく「二度と帰ってこない家」を出ましたけれど

いってきます、にはならなかったなあ。

 

そう、この物語は、おっこちゃんが

ご両親の死というトラウマを受け入れ超えていく心理劇として

観ることができるのです。

・・・というより、私がそう観てしまったんですけれど。

 

11歳、12歳という年齢は

文学的に表現するなら「子どもと大人の間」。

性がまだ強く表現されず

でも、子どものように自分をかまえとも言わない。

あやういバランスを取りながら

日々を過ごす時期なのです。

 

それでも、両親をいっぺんに亡くしたという事実は

どれだけ重く辛いことなのか。

彼女は、少なくとも映画の中盤ぐらいまでは

両親を亡くしたことに対する衝撃を

直接表現することはありません。

 

でも、それこそが彼女の衝撃を表現しているんですよね。

防衛機制という心の仕組みがありますが

自分の心を守るために

それが働いている。

とても素直に泣いたり落ち込んだりすることができない。

私から見ると、母親を亡くして素直に落ち込み

ひねくれて見せる少年の方がよっぽど心配しない。

当然見せる落ち込みを見せないことが

強い抑圧を感じさせるのです。

 

物語の中では、時折両親の幻?が現れます。

両親のベットに潜り込む幻影/夢の中で

おっこちゃんはこうつぶやきます。

「なんだ、お父さんたち、死んでなかったんだ」。

そう、おっこちゃんがそう思いたいから。

 

そこから、おっこちゃんは何度か

「お父さんもお母さんも死んでなかったんだ」と

彼女の心に納得させるように

幻影を見ています。

ここで興味深いのは

両親の幻影は「死んでないよ」とも「死んでるんだよ」とも

何もコメントしないこと。

 

つまり、彼女の無意識は両親の死をもちろん知っているのだけれども

今はまだそれを受け入れられず、

ありえない望みをつないでる、という状態。

そういう心の仕組みが丁寧に描かれているのは

この映画の素晴らしいところの一つですね。

 

そして、ウリ坊こと、幽霊のまこと君。

春の屋のおかみ、みねこさんの幼馴染で、大好きだった「みねこちゃん」のことを

ずっと見守っている男の子(の幽霊)。

そして、同級生のまつきさんの亡くなったお姉さんの幽霊

みよちゃん(見かけが7歳なのでちゃん付けです)。

そして鈴の鬼、なのかな?「スズキ」くん(鬼なら、さま、でしょうか)

この3名?の幽霊と妖怪が物語を彩るキャラクターたち。

 

これはまさしく「イマジナリーフレンド」。

両親の幻影だけではとても「足りない」ので

常に彼女が必要とするときにはそばにいて、

彼女とぽんぽん言い合いをしたり

彼女を怒らせたり困らせたり笑わせたり

「心を忙しく」されてくれています。

 

そう、心が壊れてしまうことを防ぐために

日常の些末的なことで

一生懸命心を忙しくさせておくことは

実は、心を回復させるある時期に

よくあることなのです。

 

だから、新しい生活になじんできて

充分「忙しく」なってくると

彼女はだんだん、幽霊たちの姿を見なくなっていきます。

最初は、ほぼ行動を一緒にしている感のあるウリ坊も

中盤以降はあまり姿を見せることがないわけです。

 

そして、中盤、

占い師の水領さん(映画で名刺が映った時、こういう字だったような・・・)と

ドライブに行くあたりから

物語が色を変えていきます。

 

水領さんと

おっこちゃんがドライブに行くときに

最初から幽霊たちの小さい人形を握りしめていますね。

怖いんです。

少なくとも、映画の中では、最初の交通事故以来

おっこちゃんは車に乗っていません。

だから、知らないうちに体が恐怖の記憶に反応しだす。

無意識ってこういうところに現れるし

下手すると過呼吸かなあ、フラッシュバックかなあと

思っていたら、そうなりました。

 

すごい映画だ。

 

そして、事故の原因になったのか

巻き込まれてそうなったのかわかりませんが

おっこちゃんの事故の原因になった人が

お客様としてやってきて

それをおっこちゃんが知るシーン。

 

ここで、両親の幻影が初めて

自分たちは死んでいるとおっこちゃんに告げます。

この徹底的なシーンに

おっこちゃんの目にウリ坊もみよちゃんも見えることがなく

「私を一人にしないで」とおっこちゃんは

泣き叫びます。

 

そう、大事な人に死なれるのは

一人にされてしまうこと。

圧倒的な孤独と喪失感が世界を覆いつくしてしまうような

そんな感情に襲われること。

 

いつもそばにいてくれた親も

わいわいにぎやかに自分と一緒にいてくれた

イマジナリーフレンドも誰もいない。

 

彼女はパニックを起こし、両親に呼びかけ

ウリ防たちの名をよび

外を走る光の筋にお化けたちがあそこにいると

外に飛び出します。

そんな彼女の前に現れたのは

「ともだち」になってくれた水領さんでした。

 

なぜ泣き叫び、パニックに襲われている

おっこちゃんを抱きとめるのが

おばあちゃんじゃないんでしょうね。

それは、私が考えるところ

おばあちゃんも、たぶんそう遠くない未来に

去っていく人物だからなのです。

そう、年齢的に。

 

たくさんの存在を無くしてしまったおっこちゃんには

自分をひとりにしないでいてくれる「存在」を

受け入れることが、必要だったのです。

例えば、友達。

これからの未来を共有することができる新しい仲間。

 

そう、家族ではなく

自分が作っていく人間関係。

これが、おっこちゃんの思春期の始まり、といったら

うがちすぎかな?

 

両親の幻影とウリ坊たちに囲まれているおっこちゃんには

現実世界の友達を受け入れることがないかのように

見えていました。

だって、彼らは、おっこちゃんを困らせたり怒らせたりするけれど

彼女を傷つけることはないし

親の死を突き付けることもない。

それは与えられた関係性であり、彼女が選んだ関係性ではなく

しかも、基本的には無償のかかわりで

充足していける。

 

けれども、「ともだち」はそうはいきません。

自分が育てていく人間関係には、やり取りがあり誤解があり

時に争いも傷つけあいもあるかもしれない。

そして、理解があり協力があり、わかちあいがある。

そう、これからの未来を共有できる存在が

彼女の生きる力につながっていくように思うのです。

 

映画のラストシーン、お神楽を一緒に舞うのは

何かと角突き合わせながら、いい仲間になれそうな

まつきさん。(ピンフリには笑った)

一緒に舞うウリ坊とみよちゃんには、本来未来はないけれど

ここで語られているのは

「生まれ直して、ここに来てね」という未来の夢。

 

そして、おっこちゃんの未来には

もう現れることのない両親は、見守る側として

観客席にいる。

彼らはもう舞台の上に立って舞うことはないけれど

彼女の心の中にはいつも「見守っていてくれる」存在として

いつづけるのでしょう。

そう、拍手してくれる人って、応援してくれたりほめてくれるんだけれど

それ以外何もしてくれない存在なんですよねwww

いえいえ、それが悪いんではなくて

それはとてもありがたくてうれしいことなんだけれど

頼ることができるのは、一緒に舞台に立つ仲間だったりするのです、やはり。

(おばあちゃんは一緒に舞台に立って琴を弾いてる。さすがだ、漏れがない)

 

この映画、癒される人多いだろうなあと思いました。

人の心が回復し、未来に向けて歩みだす過程が

とても丹念に描かれていると感じるから。

うん、見終わった後がとっても気持ちがいい映画。

 

11/8まで上映しています。

まだ観ていない人がここまで読んでおられるかどうか

わかりませんが

まだの方はぜひ!

 

おすすめできる映画です。

 

https://www.waka-okami.jp/movie/