5年間で、京都大学「医学部」医学科に3名合格の個人塾
50代の頃に、
「アメリカで教師をしていて、英検1級の自分が京大を受けたら何点とれるのか」
を実証実験してみた。
調査の実施
平成18年、20年(文学部) 正解率の平均 66%(受験英語)
平成21年、22年(教育学部) 正解率の平均 76%(資格英語)
平成24年、25年(総合人間) 正解率の平均 79%(ネイティブ英語)
その結果を、アメブロに書いたら「受験生ランキング」1位となり、Youtubeに投稿したら合計で50万回再生され、毎日新聞の記事に取り上げられた。それなりに、評判になって、塾生も増えた。
こんな小さな個人塾から、5年間で京都大学「医学部」医学科の合格者が3名という結果がでたものだから、全国から
「受験英語、資格英語、ネイティブ英語って、何が違うか詳しく教えて」
という添削依頼がたくさん来るようになった。
私が最初に、アメリカの中学校で授業をした時
“It was not until yesterday that I noticed the difference.”
(昨日はじめてその違いに気がついた)
と言ったら、同席していたネイティブの先生が授業を中断して
“For the first time, he knew the difference yesterday.”
と解説してみえた。
受験勉強をしたことがある人なら、it is not until that -- が、どれほど有名な頻出熟語かご存知だと思う。私も熱心な受験生だったから、アメリカに渡って数か月間は、受験英語で話していたわけです。
しかし、考えてみれば日常会話で強調構文なんて滅多に使うわけない。notice なんて言わなくても、know で済む。それで、アメリカに着いて半年もしないうちに、受験時代に覚えた構文、熟語、難解な単語はすべて捨てました。
みなさんの周りにも、
「see to it that - というのは(取り計らう)という意味。知らなかったの?」
なんて口走るイヤミな子がいたでしょう?でも、たとえば電話をして欲しい場合に
Can you see to it that you call me tomorrow morning? : (明日の朝、電話を下さい)なんて言った人に会ったことがない。Call me tomorrow morning. でいいんです。
私の塾生の半数は「四日市高校」の生徒です。各中学校の上位1桁順位くらいの子たち。そういう子たちは、
「そういえば、長文問題を読んでいてもそんな構文、熟語見たことない」
と気づく。だから、私が
「この模範解答を信じては、高得点はとれないよ」
と言うと、信じてもらえる。
しかし、アメリカから帰国する時に名古屋の7つの予備校や塾に履歴書を送付しても一つも返事がなかった。それで、
「やはり、公的資格をとらないと採用してもらえないのかな」
と考えて、英検1級の教本を見てみたのです。すると、また聞いたこともない熟語や単語の羅列で、ウンザリしてしまいました。その教本を見たネイティブの先生は
「なんで日本人のおまえがこんなの覚えなければならないの?」
とか
「この教本を書いているのは、誰なの?」
と、興味深そうに感想を言っていました。
塾生の子たちも
「そんなこと言っても、学校の先生はこの熟語を暗記しろって言うもんね」
と、ブーブー言うのです。
それで、大学受験でも私の言うことが正しいことを実証しないとおさまらない雰囲気になっていました。この時点では、
「どうすれば、信じてもらえるのかな?」
と、方法が良く分かりませんでした。私には、何の権威もありません。ただの田舎の塾講師ですから。アメリカ暮らしをしていて、英検1級に合格しても、
「河合塾のテキストには、こう書いてあった」
という権威には勝てなかったのです。そこで、
「自分が名古屋の大規模校の講師になればいい」
と考えて、応募しました。14年間、7つの予備校、塾、専門学校で講師をさせてもらいました。生徒アンケートでは、40人中2番の支持があり、高学力の生徒たちは私の言うことに耳を傾けてくれるようになりました。
しかし、保護者の方の中には、やはり駅前ビルとかテレビCMの派手な宣伝を信じる人も多いのですね。そこで、
「何をすれば、タレントを使った宣伝をしている塾より信じてもらえるのかな?」
と、考えたわけです。分かりやすい方法というと、ここ三重県では東大をめざす子は少なく、近い京大をめざす子が多い。権威は、ある。だから、
「自分で受けて、自分の考えが正しいことを実証すればいいかも」
と考え、実行したわけです。
今年(2017年度)の京大の英作文の問題です。
生兵法は大怪我の元と言うが、現代のように個人が簡単に発信できる時代には、特に注意しなければならない。 聞きかじった知識を、さも自分で考えたかのように披露すると、後で必ず痛い目にあう。 専門家とて油断は禁物、専門外では素人であることを忘れがちだ。さまざまな情報がすぐに手に入る世の中だからこそ、確かな知識を身につけることの重要性を見直すことが大切である。
これを英語に直すのは、高校生には難しいでしょうね。「生兵法は大けがの元」だけでも、駿台の解答は It is thought that if you act as if you know more about something than you actually do, you are likely to fail. だし、河合の解答は、People often say that a little learning is a dangerous thing. です。
まるで違うでしょう?駿台の方は、形式主語やら仮定法やら be likely to やら、受験英語のてんこ盛り。河合の方は、かなりネイティブらしいです。なぜかと言うと、
次の詩をごらん下さい。
A little learning is a dang'rous thing;
Drink deep, or taste not the Pierian spring:
There shallow draughts intoxicate the brain,
And drinking largely sobers us again.
(Alexander Pope, An Essay on Criticism)、1711
(Alexander Pope (1688-1744) イギリスの詩人、評論家。)
日本の諺を英語になおす場合、駿台のように説明する方法もありうる。でも、それでは深い意味が伝わらないので
「英語圏にも、似たような意味の諺か名言がないかな」
と探した結果、上記の詩人の一節を用いるのが定番になったわけです。こちらの方が簡潔だし、英語圏の人には理解しやすい。京大レベルになると、これくらいの教養は求められます。
どちらが何点とれるのかは、私のように実証しないと分かりません。
「河合塾のA先生なら、満点だよ」
なんて言う生徒は、何も分かっていないし、私に
「なんだ、80%?ということは、20%間違えたのか。信用できん!」
と言った人もみえました。無知は、コワイことなんです。まさに、A little learning is a dang'rous thing; 京大のボーダーは65%程度の正解率で、合格者の平均は70%前後。80%を超えると、最難関の医学部でも合格できます。
単純に考えると、京都大学卒の講師でも7割くらいの得点率なので医学部受験生を指導できません。だから、多くの予備校では京都大学を落ちた(あるいは、受けられなかった)講師が、京都大学の受験生を指導しているのが現実です。
英検1級ですら持っていない講師も多い。私が名古屋の予備校や塾で出会った講師は、1級を持っていませんでした。旧帝卒の講師にも、滅多に会ったことがありません。それで、
「こう書けば合格できる」
と、模範解答を示しているのだから、おかしな話なんです。
そういう事情に気づいた旧帝受験者、特に医学部受験生の中には無名の私を添削者に指名してくれる。これが、過去5年間に京都大学医学部医学科に3名の合格者が出た理由です。
いろいろやってきて、気づいたことがある。
「大多数の子は、タレントが宣伝したり駅前にビルのある塾を選ぶ」
ということ。だから、私は受験に真剣に向き合っている高学力の子をターゲットにした塾を運営している。知名度だけで講師を選ぶタイプの子は、ほとんど有名大学に合格できないと経験から知ってしまったからです。
本気で、京大医学部か東大理Ⅲに合格したいなら、底辺校に行くわけないでしょう。周囲を囲む友人も、みんな優秀でなければならない。指導する教師(講師)も、優秀な子を指導できるだけの学力・指導力を持たなければならない。
そして、しっかりしたカリキュラムのもと合格をめざして頑張る。それだけやっても、なかなか合格できないのが現実だ。甘い人生観で生きている人は
「そんなに勉強ばかりして、どうする」
とか
「みんなで仲良く助け合う教育はどうなるのだ」
と、敗北の言葉が語られるだろうが、すべて無視する。スポーツだって、優秀な選手ばかり集めて強化合宿をするではないか。音楽でも、音感のすぐれた子を集めて英才教育をするではないか。
医者や弁護士など、専門職をめざす子、研究者をめざす子は、誰でも指導できるわけではない。町の英会話教室からは、英語の達人は生まれてこないのです。当塾の通信生には東京の開成高校や京都の洛南高校の生徒も在籍しています。