北千住のシアター1010で行われた、ミュージカル座の【ひめゆり】を鑑賞してきました。


ミュージカル座と言う劇団は初鑑賞で、元四季の沼尾みゆきさんが四季退団後初めてミュージカルに出演すると言う事でその縁で観に行きました。
バトラーツの千住大会以来4年2ヶ月振りに訪れる北千住、まずは4年前同様にサニーダイナーで腹ごしらえ。
デカいコーラ。

今回もアボカドバーガー。

お洒落な内装の店内にフレンドリーなスタッフさんに美味しいバーガー。遠くてなかなか行く機会がないけど、北千住に行ったら寄りたいお店です。
さて、ひめゆり。

ミュージカル座は主演クラスを客演で、アンサンブルに当たる部分を劇団員で構成する劇団公演とプロデュース公演の中間的な劇団みたいですね。
主演のキミ役に神田沙也加さん、物語のキーパーソンでもある実在の人物、上原婦長役に沼尾みゆきさん、他。
今年で初演から18年目の作品らしく、キミ役に以前は本田美奈子さんや知念里奈さんなどが、上原婦長役に鈴木ほのかさんや木村花代さんなど元四季や四季の舞台でも見掛ける方々が、その他にも岡幸二郎さん、原田優一さんなど、東宝やホリプロの舞台で活躍中の俳優陣が出ていたそうな。
座席は3列センター上手側通路。
前の席が頭がデカい上に良く左右に動いて目障りだった以外は良い席でした。
以下、ネタバレ注意。
ひめゆり学徒隊の話はもちろん昔から知ってるし、書物や特番などでも観たことありますが、どれも断片的な内容で、特に多くの若い女学生が犠牲になった事に焦点を宛てられ勝ちだけど、この作品ではそれ以外の点での苦しみや女学生達の心情の変化などが描かれていました。
作品はソングスルーミュージカルで、台詞はほとんどがイントロに被せられている感じでした。
ただ、他のソングスルーミュージカルの様に、曲と曲の継ぎ目が不明確ではなく、一曲終わってワンテンポ置いてから次の曲、と言った感じ。
それでも後から後から曲や場面展開が続き、拍手をする余裕すらほとんどありません。
曲は軍歌のような勢いがある物と、乙女達の純粋な心が歌われた綺麗なハーモニーと両極端な物が交互に歌われるかんじで、特に陸軍病院への配属が決まった学徒達が笑顔で、お国の為と歌うシーンは感情を揺さぶられ、この作品初っ端からヤバいかも…とすら感じました。
本心からの笑顔であろう筈がないその表情と言葉。
また、日本軍人は徹底的に憎しみを煽る存在として描かれていました。
女学生達に向かい、親元に帰るか、ここに残って最後まで戦う理想的な生徒であるか選ばなければならない、と煽り、帰ると口にすることが悪であるかの様な洗脳を行う陸軍将校。
捕虜になるくらいなら、日本人だったら死を選べ!!と言う、生きる権利すら認めない理不尽な物言い、従わない者は容赦なく射殺。
泣き止まないからと言う理由だけで、生まれたばかりの赤ん坊の身体を、母親が観ている目の前で握り潰しへし折る。
人殺し!と叫んだ母親を問答無用で射殺。
歩けなくなった兵士は足手まといだからその場で殺処分させる。
鬼と言う形容すらぬるく感じる日本軍人の姿が描かれていました。
陸軍病院の様子も正に地獄絵図。
藁にすがるかの様な勢いで、配属成り立ての右も左もわからぬ学徒の足を掴む兵士。
気が触れた兵士。
傷口に大量の蛆虫が湧いた兵士。
それを観て嘔吐する学徒。
蛆虫が沸いた兵士の足を切り落とすシーンや、犠牲になった学徒が友に囲まれて思い出を語りながら息絶えるシーンなど、目も覆いたくなる様な惨状を、台詞や演技にダイレクトに乗せた演出。
その中でも芽生えた兵士と学徒の交流と、それを引き裂く兵士の非業の死。
神田沙也加演じるキミは、作中4度も大切な人の死に直面し、うち相手が兵士であった二度は気が触れたかの様な絶叫を演じていました。
神田沙也加本人の顔付きなのか何なのかはわからないけど、周りの学徒が様々な表情で喜怒哀楽を表現する中で、常に眉を吊り上げ斜めに構えている様に見え、最初のうちはキミがジャンヌダルクに見えて、何だか一人だけ浮いて見えたんですよ。
ともすれば、このまま『群衆よ立ち上がれ!』とか叫んで行軍でも始めちゃうんじゃないか?って感じの。
周りがぼろぼろでぐちゃぐちゃな顔をしてる中で一人だけ決め顔をしてると、凄く目立つと言うか浮いて見えるじゃないですか?
でもそんな無表情だったキミの後半の豹変振りは凄まじかった。
沼尾さん演じる上原婦長、実在の人物が25歳で戦死した事を考えると、その人物は現代の25歳とは比べ物にならない位大人で、強い女性だった事が伺えます。
戦争で気が触れかけた兵士と真摯に向き合い、何度も命を投げ出そうとした学徒を思い止まらせ、常に先陣を切って立っていました。
彼女が標榜していた人物像はナイチンゲールだそうで、後年彼女は日本のナイチンゲールと呼ばれたそうです。
そんな彼女の死が、ややドラマチックに脚色されていた(実際は爆撃の直撃を喰らっての即死だったそうですが、劇中では学徒達に思いを伝えて息を引き取る)以外は、所謂演劇的な余計な演出はほとんど施されておらず、人の死の瞬間を描くシーンが多いのに、その死の悲しみが客の脳に染み入る前にその場を新たな爆撃が襲ったりして強引に客の脳内を戦場に引き戻すなど、本当に演劇的な見せ場は極力カットされていました。
演出で涙を誘うよりも戦争の悲惨さを伝える事に重点を置いていたかの様な作品でした。
最後に上原婦長が、キミを撃ち殺そうとした軍人を先に撃ち殺したのにはびっくりしたけどね。
あ、何故かこの作品にはおおよそ似つかわしくない様なギャグキャラがいるのが、常に疑問符でしたけど。
和洋問わず実在の戦争を題材にしたミュージカルは幾つか観たことあるけど、その中でも悲劇を色濃く描いている作品だと感じました。
この作品は観れて良かったな。
ふっと思った事。
主役のキミ、もし実在の人物ではなく創作人物だとしたら、そのキミと言う名前は、ひょっとしたら上原婦長の本名である上原貴美子から取られたんじゃないかな、と。
さて、次のミュージカル鑑賞は。
大東亜戦争、沖縄戦の悲劇を描いた【ひめゆり】の次は、ベトナム戦争の悲劇を描いた【ミス・サイゴン】です。
この記事に、ポチッとな。