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 本日は久々に「頭の体操」になります。


 以前(09年9月2日)「貯蓄の恐怖 前編」でご紹介した堂免信義氏の新刊「日本を貧困化させる経済学の大間違い 」を大変面白く拝読致しましたので、またまたご紹介。


 ちなみに、この本の帯の裏面は以下のようになっています。


◇これまでの経済学は、カネの流れを逆転して理解できる
政府が国債を発行すると、民間の金融資産が増える
◇"神の見えざる手による調和"は迷信にすぎない
グローバルな自由競争は仕事を減らす
◇「どれだけ稼げるか」ではなく「どれだけカネを使うか」が先
◇"個別対全体の矛盾"という重要概念の認識が必要
◇マルクスも気づいていなかった資本主義経済の格差拡大作用
◇日本が陥っているのは、カネの循環不良を起こす"消滅経済"
◇社会全体では金融資産は無価値


 ちなみに、堂免氏はわたくしが本ブログでご紹介する作家さんの中では、「ノリ」が最も悲観的です。とはいえ、書いていらっしゃることは誠に的を射ていらっしゃると思います(ここまで鳥瞰的に経済をご理解されているのですから、そんなに悲観的な論調にすることもないのに、と一読者としては思います)。


 例えば、P41で堂免氏はこう書いていらっしゃいます。


「使ってもカネは減らない、動くだけ」


 当たり前です。しかし、この当たり前の事実が、なぜか現在の評論家の多くや政治家の頭の中から欠落しているのです。以下、P41から引用します。


『個別の経済主体から見れば、使ったカネは確かになくなります。しかし社会全体では、使ってもカネは減らず、また増えず、動くだけです。個別と全体では経済現象が異なって見えます。カネのこの特性は当然のように思えますが、外と認識されていません。例えば、先に紹介した竹中平蔵氏の次の文章では、
「団塊の世代は、あと10年もすれば、取り崩しの年齢に入ります。この世代は他の世代よりも6割ほど人口が多いため、この世代が貯蓄を増やし続けている間は大した問題は起こりません。しかし、取り崩しをするようになったら、一挙に問題が噴出します」(竹中平蔵著「竹中教授のみんなの経済学」幻冬舎、2000年P111)
 と述べ、貯蓄が取り崩されてなくなることを心配しているようですが、取り崩されても国内で使われる限り、使われたカネは現役世代と企業の貯蓄に移転するので、全体の貯蓄量は維持されます。実際に、2009年度の個人金融資産の現預金保有残高は798兆円で、10年前より53兆円増えています。
 個別の経験を社会全体にも拡張して考える人が、意外と多いのです。(「日本を貧困化させる経済学の大間違い」堂免信義:著 徳間書店 P41-42)』


 堂免氏は、上記のほかにも、
「政府が国債を発行し、財政出動をすれば家計の金融資産が増える」(家計の金融資産があるから、国債を発行できるという話ではない
「消費がどれだけ拡大しても、社会全体の貯金は増えない。増えるのは投資が行われたとき(及び貿易黒字)」
「グローバル度の高い経済ではなく、ローカル度の高い経済こそが国民を幸福にする

 など、非常に示唆的なことを書かれていらっしゃいます。


 が、「日本を滅ぼす経済学の錯覚」と同じように、「ある概念」を無視していらっしゃいますので、最終的な解決策が「ええ?」と思わざるを得ないものになってしまうのです。「ある概念」とは何か?


 というわけで、頭の体操開始です。以下、「日本国家のバランスシート」を眺めながら、読み進めて下さい。


【日本の国家のバランスシート 2010年Q1速報値】
http://members3.jcom.home.ne.jp/takaaki.mitsuhashi/data_30.html#JPBS


 さすがに「国家のバランスシート」の説明は要らないと思いますが、一応、上記は日本の全経済主体の「金融資産」の資産及び負債を合算したものです。日本国家全体では、海外に対し260兆円を越す純資産状態であるため、一番右下が「純資産」になっています。アメリカなどは、一番左下に「純負債」が来ます。


 さて、このグラフを元に「社会全体の貯蓄」すなわち金融資産全体を膨らませる方法を考えてみましょう。(細かいこと書くと、経済学的な貯蓄は借金返済を含みますが、本エントリーでは「財産」としての貯蓄を意味します)
 ちなみに、先の竹中氏の言うように団塊の世代が貯蓄を取り崩し、消費に回したところで、金融資産全体は増えも減りもしません。家計の金融資産からお金が非金融法人企業(以下、一般企業)の資産に移り、それだけです。その後、企業が従業員に給与として支払うと、お金が家計の資産に移り、従業員が消費をすると、またまたお金が一般企業の資産に移るわけです。


 さらに、政府が家計から税金を徴収したり、あるいは子ども手当てとして支給しても、社会全体のお金の量は増減しません。単に、政府と家計の間をお金が移動するだけの話です。
 
 金融資産全体を増やす方法の一つ目は、信用創造です。(要は融資&支出)


 例えば、政府が国債を10兆円発行すると、バランスシート上で以下の動きが生じます。
(1) 金融機関の資産(現預金)10兆円が、別の資産(国債という債権)に姿を変える
(2) 政府の資産(現預金)と負債(国債発行残高)が、10兆円ずつ増える
 というわけで、政府が国債を10兆円発行すると、社会全体の金融資産が10兆円増えます。政府はこのお金を景気対策などに使いますので、その後、バランスシート上で以下の動きが発生します。
(3) 政府の資産(現預金)が、家計もしくは企業の資産(現預金)に姿を変える。政府の負債(国債発行残高)はそのまま。
 最終的には、堂免氏の仰るとおり、
「政府が国債を発行し、財政出動をすれば家計の金融資産が増える」
 となるわけです。


 企業の投資の場合はどうでしょう。A企業が銀行融資で10億円を調達し、設備投資に使用した場合です。
(1) 金融機関の資産(現預金)10億円が、別の資産(A企業への債権)に姿を変える。
(2) A企業の資産(現預金)が10億円増え、同時に負債(金融機関への借入)も10億円増える。
(3) A企業が設備投資をすると、A企業の資産(現預金)10億円が固定資産(設備)に姿を変え、設備を売ったB企業の資産(現預金)が10億円増える。


 固定資産増加分を省き、金融資産だけを見ると、社会全体で10億円増えたことになります

(※固定資産を含めると、借方で20億円(現預金&設備)、貸方も20億円(債権&A企業の純資産)増えたことになります。堂免氏は主にこの投資の貯金(純資産)増大効果を中心に説明されています)


 さらに、信用創造以外にも社会全体の金融資産を拡大する方法はあります。それは、貿易黒字(厳密には経常収支の黒字)です。
 貿易黒字、経常収支黒字になると、その金額分、対外資産が増えます。結果、社会全体で金融資産が増えます。日本は長年、経常収支の黒字が続いていますので、純資産(=対外純資産)が260兆円を超える「世界一のお金持ち」になっているわけです。



 よくよく考えて見れば、金融資産とはバランスシートの借方(左側)全部です。バランスシートの借方、貸方は必ず一致します。というわけで、バランスシートの左側である金融資産を増やすには、融資(負債)もしくは純資産が増えるしかないでしょう、という話であって、当たり前すぎるほど当たり前です。


 ここまでは、ややスケールは違いますが(堂免氏は金融資産ではなく「貯金」という小さい概念で説明してます)、堂免氏が書いていることとほぼ同じです。


 問題は、ここから。


 信用創造(&投資)や経常収支黒字の他にも、もう一つ、社会全体の金融資産を増やす方法があるでしょう、という話です。
 すなわち、日銀が「円」を発行することです。日銀(別に政府でもいいですが)が例えば1兆円の日銀券を発行したとします。すると、日銀のバランスシートの借方で資産(現預金)1兆円が、貸方で負債(通貨発行残高)1兆円が増えます。

 日銀は、発行した円で銀行が保有する国債などを買い取りますので、銀行の資産(国債)が別の資産(現預金)に姿を変えます。逆に、日銀の現預金1兆円は、国債1兆円に姿を変えます。
 結果、社会全体で1兆円の金融資産が増えるわけです。


 「日本を滅ぼす経済学の錯覚」もそうでしたが、なぜか堂免氏は政府の重要機能である「通貨発行(=金融資産増大)」を「ほぼ」無視されます。回も、ほんのちょっとだけ触れてはいらっしゃるのですが、ソリューション(解決策)構築時に日銀(と言うか国家)の機能を丸々無視するのはどうかと思います。


 堂免氏は戦前のお生まれなので、「インフレ」に対する極端なアレルギーがあるのかも知れないですね。
 現在、日銀は普通に買いオペをしていますし、英米欧は中央銀行のバランスシートをどんどん拡大して行っています。現実の世界が「中央銀行のバランスシート」を活用しているにも関わらず、それを堂免氏のような明晰な方が無視するわけですから、「インフレ嫌悪」という病はなかなか重いなあ、などと考えてしまったわけです。


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