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最近、最も度肝を抜かれたのが、以下の記事になります。
『EUのストレステスト:取引債券での損失に限定-文書
http://www.bloomberg.co.jp/apps/news?pid=jp09_newsarchive&sid=a0fWrKtTm7lE
欧州の91銀行を対象としたストレステスト(健全性審査)は、銀行が取引する債券について欧州諸国のソブリン債に絡む損失を査定するものの、償還まで保有する債券については対象としない。欧州中央銀行(ECB)の文書の草稿から分かった。
22日付の機密文書によると、テストでは「デフォルト(債務不履行)は想定していないため、ヘアカット(掛け目、担保価額の割引率)は取引債券ポートフォリオにのみ適用される」。 (後略)』
お分かりになる方はお分かりになると思いますが、これはまさに、
「な、なんだって~っ!!!」(AA略)
と叫び出したくなるくらいのスクープです。
欧州経済について語る際に、いつも付け加えているのですが、確かにギリシャに代表される各国の財政危機も、あるいはスペインなどの不動産バブル崩壊も、あるいはバルト諸国やハンガリーなどの経済危機も問題ではあります。
しかし、それ以上に問題なのは、欧州の金融立国がサブプライム危機からリーマンショックを経た際に発生しているはずの莫大な評価損を、「会計基準」を変更することで隠ぺいしてしまっていることなのです。欧州金融立国の隠れ評価損は、まさしく「欧州経済の爆弾」です。
ちなみに、ここでいう「金融立国」とは、ルクセンブルクやベルギーなどの「いかにも」な金融立国のみならず、ドイツやフランス、スペインなどの大国も全て含んでいます。
ここで改めて、金融機関に評価損の発生する仕組みを復習しておきましょう。
例えば、自己資本50億ドルの金融機関が100億ドルを外部から借り入れ、全額(150億ドル)をアメリカ製証券化商品購入に費やしたとします。その際に、バランスシートは以下の通りになります。
(資産) |(負債)
証券化商品 150億ドル |借入 100億ドル
|自己資本 50億ドル
この状況で、証券化商品の価値が暴落し、市場価格が50億ドルに暴落したと仮定しましょう。その場合、借方(資産サイド)で証券化商品150億ドルが50億ドルに減価されます。すなわち、評価損100億ドルの発生です。
損益計算書上で100億ドルの評価損が発生すると(その他の要因を全て無視すると)、純利益が▲100億ドル(100億ドルの純損失)となり、その金額分をバランスシートの自己資本から控除しなければなりません。ところが、この金融機関の場合は自己資本が50億ドルしかありませんので、評価損100億ドルを計上した瞬間に「債務超過」ということになります。
さらに、たとえ自己資本が潤沢で、債務超過は免れたとしても問題は残ります。何しろ、たとえ資産としての証券化商品が150億ドルから50億ドルに暴落しても、借入金である100億ドルまでもが消えるわけではないのです。
特に、欧州の小さな金融立国は外国からお金を借り入れ、証券化商品や国債購入に費やしていたところが多いわけです。資産サイドの証券化商品などが減価になったとしても、外国からの借り入れ自体は消えません。当然ながら、その国については「対外負債(注:民間金融機関)の返済不安」という問題が沸き起こり、通貨暴落や経済混乱の引き金になりかねないわけです。
まさしくこのままのプロセスを辿り、最終的に破綻したのがアイスランドというわけでございます。
ちなみに、アイスランドの対外負債はGDPの9倍規模でした。それに対し、ルクセンブルクの対外負債はGDPの30倍以上の規模に至っています。
それでもなぜルクセンブルクが破綻しなかったのかと言えば、一つはもちろん「ユーロ」加盟国だからです。アイスランドの場合は独自通貨クローネを使っており、債務危機が一気に通貨暴落につながってしまいました。それに対し、ユーロの場合、ドイツという信用の高い国が加盟していることもあり、ルクセンブルクの影響は極めて限定された範囲にしか及ばないわけです
そして、もう一つが、2008年11月に報道された、債券について「償還まで保有する債券とすることで、時価会計の対象外とする」という、欧州金融立国による会計基準の変更です。
上記の例でいえば、そもそも時価会計を採用しているからこそ、証券化商品の価格暴落分を評価損計上しなければならないわけです。ところが、それらの商品について「満期目的」にすることで、時価会計の対象外となり、評価損計上を免れることができるわけです。
今回のストレステストは、当然ながら上記の「会計基準変更」により隠ぺいされてしまった債券について、明らかにするものだと思っていました。が、どうやら違うようです。
ストレステストの結果、審査を通過しなかった金融機関はわずかに7行で、不足する資本総額は35億ユーロ(3600億円程度)とのことでございます。
・・・・・あり得ません。何しろ、アメリカが発行した証券化商品の7割は欧州の金融機関、もしくは欧州系金融機関が購入していたのです。
結局のところ、欧州経済の真の問題である「評価損隠ぺいという爆弾」は、爆弾のまま残り続けるというのが個人的感想です。
来週以降の金融市場は、果たしてどのようにこれを評価するでしょうか。注目したいと思います。
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