「みんな、そんなに意外だって顔しなくてもいいじゃない」
まわりでどよめきが上がった事に対して厭味を言ったのは沖田だった。
「いや、だってよ・・・総司が、なぁ?左之さん」
「あぁ、平助の言う通りだぜ。どうしたんだよ?」
「まぁね。風間達の実力がどれほどのものか、この目で確かめておくのも悪くはないかなって思ってさ。それに、近藤さんと一緒にお出かけなんて、あまりない機会だしね」
「おぉー、総司。良い心構えだな」
近藤はがははと笑って、総司の肩にぽんと手を置いた。
そして再開した撮影はほどなくして終了し、近藤・土方・山崎・沖田の4人は武道館へと向かった。
―――公演終了後。
控室でdevilのメンバーの挨拶を待っていた沖田は
「僕、ちょっとお手洗いに行ってきますね」
近藤達にそう言って控室を出た。
「って、トイレ・・・どこだっけ」
武道館の丸い外観に添う様に、ステージが作られている中央の会場を囲む形で廊下も緩いカーブを描いている。
ゲストの控室はトイレとかなり離れた貴賓室だったので、目的地にたどり着くまでにいくつもの楽屋を通り過ぎた。
衣裳部屋、マッサージルーム、そしてステージ裏に一番近い階段の手前にdevilのメンバー楽屋があった。
まだ関係者挨拶の準備中なのだろうか、メンバー楽屋の扉は締まっていたのでそのまま前を通り過ぎてトイレを探す。
その時。
廊下側へ向かって勢いよく扉が開いた。
「うわぁっ」
あまりに突然だったので、沖田は思わず声を上げて後ずさった。
「あっ!す、すみませんでした!」
その声に驚き、扉の前で深々と頭を下げたのは、風間千鶴だった。
「あれ?千鶴ちゃん・・・?」
「えっ?」
頭を上げた千鶴は、すぐ目の前にいる沖田を見て信じられない顔をして、口元を手で覆った。
「そ、そ、総司さんっ!」
「あ、やっぱり千鶴ちゃんだった。こんばんは」
「こ、こんばんは・・・じゃなくて、急に勢い良く開けて、すみませんでした!」
「ああ・・・大丈夫だよ。ちょっと、びっくりしたけどね」
そして千鶴にどうして1人きりでこの廊下を歩いていたのか尋ねられた沖田は
「うん、ライブを観に来たんだ、僕だけ・・・ね。あ、もちろん社長やマネージャーは一緒だけど」
「そうでしたか」
「うん、ところでトイレの場所、知らない?」
「へっ?トイレ、ですか?」
「うん、トイレ」
突然の質問内容に千鶴は耳まで真っ赤にして
「そ、そこの角を曲がったところです」
と、10mほど先の場所を指さした。
「ふふっ、ありがと」
沖田は優しく笑って小さく手を振り、くるりと千鶴に背中を向けて歩きだした。
≪総司ルート2へ続く・・・≫