赤ZUKINちゃん13 | ぶーさーのつやつやブログ

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艶が2次小説と薄桜鬼ドラマCD風小説かいてます。


1階へ戻ると、帰って来た土方と俊太郎を含んだ4人が暖炉前のソファに座って秋斉と高杉が戻るのを待っていた。


2人が部屋に入って来たのを確認して、沖田が口を開いた。
「おばあさんは、なんて・・・?」

俊太郎が土方と目を見合わせて、ひとつ頷いてから言った。


「それが、もっと驚かはるかと思たんどすけど・・・そうでもないんどす。落ち込んでいはったんやけど、やっぱり、みたいに言わはって・・・」


複雑な俊太郎の表情から、お隣のおばあさんへの報告は皆が想像していたのとは違った方向へ展開したようだったのが見て取れた。


「それでーー」
土方が続ける。


少女の母親は妊娠中におばあさんの息子である夫、つまり少女の父親にあたる男が逃げた事がきっかけで、様子がおかしくなる時があったと、話し進めるうちにおばあさんは涙目になって話した。

それから母親は色んな男と関係を持つようになったり、まだ少女が小さい頃におばあさんが訪ねて行った時にも男と出かけていて少女1人でお留守番させていた事があったらしい。

おばあさんが見かねて2人と一緒に暮らすと提案した事もあったが、頑なに母親に拒否され続け、それでも少女が育っていくうちに母親としての自覚を取り戻したかのように見えた。

でも結局は離れて暮らしたのが間違いだったのかねえ、あの子だけ無理にでも私が引き取っていれば・・・と続けて、やっぱりあの女は自分の娘より男を取ったんだね、と最後には少女を憐れんで涙を流して静かに泣いた。


「――という事だ」
ふう、と息をついて黙ったまま聞いていた慶喜・沖田・秋斉・高杉を順に見渡した。


「では、これからあの子は・・・どうする事に・・・?」
誰もが思っていた事を真っ先に言ったのは沖田だった。


「それなんだが」
土方が言いかけた時、階段の方に気配を感じて先を止めた。


「あ、おはよう・・・ございます」
寝起きの少女がにこにこしながらやって来た。


思わず全員が口を噤んでしまった中、慶喜がにっこりとほほ笑み返して
「冷たい飲み物でもどうかな?」
と少女の腕を取ってをターンさせるとダイニングの方へと連れて行った。


慶喜がキッチンからミルクを持って、テーブルにいる少女に出すと暖炉前の男達にウィンクで合図を送った。
そのまま自分もそこに座って、何かあれこれと話して2人で談笑していた。


声を潜めて土方が続きを話す。
「実はおばあさんは引き取りたいらしいんだが、昨日も聞いた通りあの家では2人で暮らすには狭いと言う事で、こっちに住まわせてもらえないかと」
「えええっ!?」
声を上げてすぐ沖田は自分の口を両手で塞いだ。

ダイニングで少女の向こう側に座っている慶喜がこちらを見て責めるような視線を投げてきた。
高杉がそっちに向けて、すまんと手を挙げると沖田をじっろっと睨んだ。
すいません、と小声で謝って肩をすぼめ、横の土方に隠れるようにソファに背を預けた。


「あの子はもうすぐ18歳ですよと話したら、もうそんなに大きくなるのかい、って驚いてたが・・・」
「せやかて、元の家で1人で暮らすにはあの子は浮世離れし過ぎてますしねえ」
少女の背中に視線を投げて、秋斉はふっと微笑んだ。


頭の後ろで両手を組んで、ソファに踏ん反り返った体勢で高杉がぽつりと言った。
「それじゃ、本人さえ良ければここに住みゃいいんじぇねえの?」
「そうですよね・・・おばあさんもそう言ってるなら後は本人次第、ですよね」
慶喜との会話が盛り上がっているんだろうか、楽しそうに肩を揺らして笑っている少女の後姿を見て、沖田は眉を下げた。




正午を過ぎた頃、町から戻ってきた龍馬と翔太に、少女に悟られぬようタイミングを見て成り行きを説明した。


「なんちゅう母親じゃ・・・」
龍馬は怒りの矛先を母親に向けて、ぎり、と歯を噛みしめた。


「可哀そうですね」
翔太も少女の身に降りかかった最悪の出来事に心を痛めた。


「さて・・・だからと言ってこの事を伝えぬ訳にはいかんからな」
土方はソファから立ち上がり、ダイニングテーブルへ向かう。
皆も土方に続いた。


「・・・」
気づいた慶喜が少女との会話の途中で黙って土方を見る。
慶喜の視線の先を追って、少女も椅子に座ったまま背後を振り返った。


「そろそろおばあさんの家に、行こうか」
精いっぱいの笑顔を作って、土方が促した。


「あ、そっか・・・そうね、着替えて来るね」
にっこり微笑み返して、軽やかに階段を上って行った。


はあっと大きな溜息をついたのは慶喜だった。


「慶喜さん・・・」
案じた翔太が側に立って慶喜の肩にそっと手を乗せた。


「・・・あの子、お母さんの事大好きなんだなって・・・今も話していて思ったよ。それなのに、こんな事になるなんて・・・ね・・・」
ぐっと唇の端を噛んで俯いた。


「土方はん、わても一緒に行きますよって」
俊太郎が腕にかけていた上着をはおり直して、玄関先に立つ土方に言うと、私も一緒に・・・と沖田が小走りで駆け寄った。


少女はすぐに降りてきて
「お待たせしました・・・じゃあ行ってきます」
まるで自分の家を出るように、残る皆に手を振って出て行った。


これから聞かされる事実であの天使の様な笑顔が涙で崩れてしまうのだと、微妙な面持ちで見送った。


キッチンの中の小窓から、今出て行った4人が次々に隣の家の玄関から中へ入って行く様子が見えた。


きっとすぐには戻って来ないだろうと、気を紛らわす為に慶喜は昼食の続きを作る事にした。
龍馬と翔太は熊の血で汚れた服を着替えて来ると自室へ向かった。



「高杉はん」
「ん、なんだ」
3人掛けの大きなソファの中心に陣取っている高杉の横に、すっと秋斉が腰を掛ける。


「あの子と・・・なんかあったんどすか?」
あくまでも優しい口調で問われてドキッとする。


「・・・なんかってなんだよ」
内心で、こいつにはいつも隠し事がバレるし俺の心の中をお見通しの様な顔しやがって・・・
相変わらず食えねえ奴だなと思いながら、出来るだけ平静を装って、いつもの不敵な笑いを浮かべる。


「あんさん、さっき客間に行きはったやろ?」
「・・・ああ」
「わて、声掛けるまでずっと見とったんどす。あんさんがあないしてるとこ・・・わては初めて見ましたわ」
決して厭味の無い口調で言って、ふっと微笑んだ。


「なっ・・・なんだよ、それ」
いつものクールな秋斉の瞳ではなく、優しく穏やかな色を湛えた瞳で見つめられ、じわっと顔が赤くなって行くのが自分でもわかった。
その視線から逃げるように、ソファの中央から端へ移動した。


ふふふ、と上品に笑って姿勢正して高杉から正面へと体を向けた。


「・・・あんじょういってるやろか・・・」
見慣れたクールな表情に戻して、ポツリと言った。


その整った横顔を見ながら、ああ、俺はこいつと性格が合わないから苦手なんじゃなくて、こいつが俺の事を一番よく理解しているから避けたかっただけなのかもな・・・と思って
「さあ、どうだろな」
といつもの調子で返事をした。


このままこうして時間を潰すのも手持無沙汰だなと、壁に立てかけてあった楽器を取って、同じ場所に深く腰を下ろしてゆっくりと奏で始めた。



「・・・わて、あんさんの弾くその曲、好きどす」
秋斉は気持ち良さそうに目を閉じて、その身を深くソファに預けた。





≪赤ZUKIN14へ続く・・・≫