“猫好きの幸せは猫の量” by 浅田次郎 | 平準司@神戸メンタルサービス カウンセラー養成・個人カウンセリング・心理学の講演、執筆を行っています!

夜遅くにわが家に帰ってきて、クルマを駐車場に停め、そして、家に入ろうとしたその瞬間のことであった。

 

子ネコの鳴き声がしたのである。

 

「むむむ‥‥、子ネコが鳴いておる‥‥」

 

わが家は、ものすごい田舎の一軒家である。すると、駐車場の奥や納屋の奥でよく野良ネコが出産するのである。

 

声がするほうに行ってみたところ、な、なんと、とてもかわゆい子ネコが5匹もいるではないか!

 

 

幸いにも親ネコが不在だったので、すぐさま、うちの奥さまを呼びにいき、あまりのかわいさに夫婦ともどもメロメロになった。

 

わが家はネコ屋敷である。母親が住んでいる母屋には2匹いて、離れのわが家には20匹ほどいる。

 

「ほど」というのは、ものすごく出入りが激しいからである。

 

うちの家に住んでいるネコは、ほとんどが野良ネコである。なんとか餌付けし、そして、去勢しているので、家の中にいるネコはこれ以上増えることはない。どころか、病気や交通事故で死んでしまう子が意外と多い。

 

しかし、今回のように、しばしば野良ネコがうちの敷地で出産し、やがて、その子ネコたちがうちに庭あたりを走り回るようになったりするのである。

 

で、うちのネコがその子たちを「よかったら、うち来ない?」と誘い、「では、お邪魔します」と、知らぬまに家の住人が増えているということがしょっちゅうなのである。

 

また、うちのネコたちは、自分は子どもが生めないからか、ありあまる母性本能をよその子ネコに注ぐことも多い。

 

で、どこからか子ネコを4匹もくわえ込んできて、家の中で育てるというようなことも起こり、なぜかわが家のネコの数はどんどん増えていくのである。

 

さらに、野良ネコはたいてい一度に4匹ほど出産するのであるが、子ネコが大きくなってくると、4匹に与えるミルクの絶対量が足りなくなったりする。すると、親ネコは習性として、丈夫そうな12匹を連れて引っ越してしまう。

 

弱い子ネコは捨てられるのだが、どれだけ鳴こうが、親ネコはけっして迎えにくることはない。その子ネコたちの親ネコに私がなるのである。

 

こんな話をすると、みなさんはネズミ算ならぬネコ算として、平家にはネコがどんどん増えてくると思われるかもしれない。

 

しかし、親に捨てられた子ネコは、もともと体がものすごく弱い場合が多く、死んでいってしまうことが少なくないのである。なんとかしてやりたくて病院には連れていくのであるが、どうしようもないことが多い。

 

また、ど田舎ゆえ、目の前にある道路にはめったに車が通らない。それで無防備になったネコたちが、たまたま来たクルマにはねられて死んでしまうという事故も多発する。

 

そのようなネコたちのために、田んぼを一枚潰し、“にゃんこメモリアルパーク”を作っている。もう31基もあるのである。

 

いま、わが家のネコの多くは、うちの奥さまの12畳の仕事部屋にネコタワーを置いてもらい、さらに猫用のマットと毛布を敷いてもらい、快適に暮らしていらっしゃる。それ以外にもそれぞれ気に入った場所があり、そこで過ごすことが多いのである。

 

また、田舎なので家の敷地が広く、母屋のまわりには納屋や倉がある。私たちの住む離れとの間には、中庭と“平公園”と勝手に呼んでいる広い庭があるのであるが、その至るところに、うちのネコと知らないネコがいるのである。

 

これだけネコが多いと、たいへんなのがネコのトイレの掃除である。奥様の仕事部屋と中庭にえさ場があり、それぞれの場所に複数のトイレを置いているのだが、われわれ夫婦はひまがあればトイレの掃除をしているのである。

 

私たちが移動すると、その後ろを必ず78匹のネコが着いてくる。私が出勤するときも、お見送りネコが必ずいるのである。

 

そして、仕事から帰宅するや、水屋の上から下から、いろいろなネコが飛びついてくるのである。それを受け止め、ネコだらけになりながらわが家に入る。

 

食卓では、サンマなんか焼こうものなら、もうたいへん。1匹目のサンマはネコたちにふるまわれ、われわれはネコたちがそれを食べているあいだに自分のサンマを食べねばならないのである。

 

毎日がネコカフェ状態のわが家。

 

幸せなのである。