9月のとある日、私は福岡のセミナーに向かうべく、飛行機に乗った。
不思議なことに、その飛行機は鹿児島空港に着いたのである。
しかも、まるでタイムマシンに乗ったかのように、到着したのは福岡に行かねばならぬ日の1日前であった。
「おやおや、世の中では変なことが起こるもんだなぁ」
しかしまあ、そんなわけで、なぜか鹿児島空港に着いてしまい、なぜか1日、時間をつぶさねばならぬハメに陥ったわけだからして、ここは一つ、温泉に入らねばならぬであろう。なんといっても、鹿児島空港の付近は温泉だらけなのである。
なぜか予約してあったレンタカーに乗り(アラ不思議!)、15分も走れば妙見温泉
や安楽温泉
である。さらにもう少し走れば霧島温泉郷
と、このあたりはそれはもう温泉銀座なのである。
とはいえ、一日に入れる温泉の数には限りがある。“断腸の思い”というのは、まさに数々の素晴らしい温泉の中で、どこに入るかを決めなければいけないときに使うべき言葉であろう。
この日は新湯温泉の『新燃荘』
と妙見温泉の『おりはし旅館』
の名湯・キズ湯に入湯し、それから、このあたりに来ると必ず寄る食堂に入ってお腹を満たした。
この食堂、おじいちゃんとおばあちゃんがやっているのであるが、おじいちゃんは鮎や岩魚釣りの名人で、朝、釣ってきた魚を出してくれるのである。
この日は店に入るといきなり「うなぎあるよ!」と言ってくれたので、うなぎの蒲焼き定食を頼んだ。それ以外にも、「あれも食え」、「これも食え」と山のようにおかずを出してくれるのである。で、1,000円ちょうど! 安すぎると思いませんか?!
昔、家族旅行でこの地を訪れた際、たまたま入ってすっかり気に入り、それ以降、このあたりに来たときは必ず寄るようにしているのである。
そして、私はここでは「有馬温泉さん」と呼ばれている。私が神戸の有馬温泉の近くから来るというのを憶えていらっしゃるからである。
ちなみに、このように私はいろいろな名前をもつ男として、日本全国を漫遊しているのである。
この日は、本来ならば、どこかこのあたりの温泉宿に泊まりたかったのであるが、じつは鹿児島市内にちょっとした用事があったため、市内の『城山観光ホテル』
に宿をとった。
このホテルは高台にあり、真正面には桜島がある。鹿児島市内を一望できるので、ホテル自体がもはや観光地のようになっているのである。
このホテルも大浴場は温泉となっている。桜島のおかげで、掘れば温泉が湧くという夢のようなエリアであり、鹿児島市内の銭湯もほとんどが温泉なのである。
さて、鹿児島に来ると、私は必ず仙厳園(旧・磯庭園)
に行きたくなる。ここは島津家のお殿様が別荘として使っていたところで、とても素晴らしい庭園なのである。
今回も、朝、レンタカーを飛ばして行ってみると、なんと、外人だらけであった。どうも、鹿児島港に大型クルーズ船が入港し、なんと、バス10台ぐらいで大挙して観光に来られていたらしいのである。
庭園の一室に、示現流のデモンストレーション映像を流しているコーナーがあった。示現流とは薩摩の剣道の流派で、荒っぽいことで有名である。
それを見ていたところ、ある外人が声をかけてきたのである。
侍についての説明を求められたのであるが、私は剣道4段なので、ちょっぴし自慢をしたのである。
「じつは、私も侍なのだよ。フフフフ‥‥」
このひと言があのような大惨事を招くことになろうとは、この時点ではもちろん考えてはいなかったのである。
その後、私は約200人の外人に行列をつくられる“伝説の男”となってしまったのである。
以下、次号。