前回、お話ししたように、「空白の一日」とでもいおうか、奇跡的にも日曜日のスケジュールの空きがあり、私の野望は高まったのである。
計画はほぼ固まった。真冬の2月3日‥‥、真冬であるがゆえに、真冬らしい場所に行こうと思ったのである。
つまり、雪国に向かうことにしたのである。
雪国ということで、「トンネルを抜けるとそこは雪国であった‥‥」のフレーズで有名な川端康成先生も認めるほどの雪国、越後湯沢に行くことにしたのである。
私は温泉マニアでもあるのだが、新潟県と島根県の温泉にはいまいち弱い。
そこで、川端康成先生が『雪国』の執筆のために籠もったという、越後湯沢の『高半旅館』 に泊まりたいと思ったのである。
しかも、この宿の温泉は越後湯沢一の名湯といわれ、硫黄泉でありながらpH値は9.3もあると聞く。
「おお~~」
「おお、ぜひともとろんでみたい!」
そして、2月2日、明日の越後湯沢を夢見ながら、東京でのリーダーシップ・トレーニングを過ごしていたところ、心ここに有らずのバチでもあたったのであろうか‥‥。
そう、1週間ほど前から、右肩の調子がすこぶる悪かったのである。
まるで、ヘンな寝違えをして、それが肩まで下りてきたかのような、ものすごいコリ。
行きつけのマッサージでは、ほとんどいつも、腰から下の下半身を重点的にもんでもらっていたのだが、最近は肩甲骨のあたりばかりをもみほぐしてもらっていた。
そして、この日、セミナー中にまるでコンクリート・ブロックを背負ったかのような重みが肩にやってきた。
なんとかかんとか、セミナーを終えたものの、打ち上げではマッサージの腕があるイケメンをつかまえ、メシも食わさず、もんでもらうような始末。
そして、次の日の朝。
それはそれはもう、超うずくのである。
まるで、数年前に経験した尿管結石のようなうずきであった。
「ひょっとして、これは肩こりなどではなく、尿管結石の再発ではないだろうか?」 普通の人とは、なにかと違う私。
じつは尿管が腎臓から右脇を経由して、右肩まで伸びているのかもしれぬ。
その尿管に結石が入り、ちょうど右肩甲骨の裏あたりで詰まっているのではないか。
このうずき、尋常ではないのである。
しかしながら、泊まっているのがいつもの定宿である温泉付きのホテルだったので、朝6時から湯船につかってみたところ、温めているあいだは痛みが消える。
「うーん、残念ながら、尿管結石ではないようだ‥‥」
風呂上がり、しばらくして筋肉が冷えてきたら、また痛みがぶりかえしてきた。
とてもではないが、重いトランクなど持って、越後湯沢まで行けないのである。
「登る勇気よりも、撤退する勇気のほうが何倍も尊い」と山の本で学んだとおり、午前8時、まずはトヨタレンタカー越後湯沢店にキャンセルの電話を入れた。
そして、『高半旅館』にもキャンセルの電話を入れた。
一人泊まりを快く受けていただいていたのに、当日キャンセルするハメになるとは‥‥。
当日キャンセルの場合、宿泊料金は全額払わねばならないところなのであるが、「次回、あらためて来ていただければ、宿泊日の変更ということで無料とさせていただきます」との温かい言葉‥‥。
あまりのやさしさに、思わず、股を伝う温かいものが‥‥、あ、いや、違う、頬であった。
「必ず行くぞ、高半!」
そして、この日は東京のホテルをチェックアウトする日だったのであるが、一日延泊し、治療に努めることにしたのである。
しかし、この肩甲骨のうずきは、いったいなんなのであろう?
コリというどころじゃない、あの尿管結石のときのような、身悶えるようなこのうずきは‥‥?
以下、次号。