前回は、福岡の感謝祭に向かうべく、東京からファーストクラスの飛行機に乗って、現地入りしたという話を書いた。
福岡では、博多駅前の温泉付きホテルに泊まるのを常としているのであるが、なぜかこの日は、その定宿が満室でとれなかったのである。
そこで、仕方なく、他のホテルを探してみたところ、外資系のおしゃれなシティホテルが、なんと、朝食付き9,000円で出ていたのである。
「おお、これはすばらしい!」
そこで、このホテルに2泊することにした。
この期間、私はホテルもセレブだったのである。
福岡入りした1日目の夜は、新年会を企画していただいていたのだが、天神地区の大名という地域の居酒屋に連れていってもらい、それはそれはおいしい料理を堪能した。
たぶん、私がいままでに行った中で、いちばんうまい居酒屋だったのではないだろうか。
そのぐらい感動したのである。
その日は二次会にも行ったりして、しこたま飲んで騒ぎ、次の日の感謝祭への英気を養ったわけである。
そして、土曜日は感謝祭で福岡のみなさんと出会い、歓談し、それはそれは楽しいひとときを過ごし、打ち上げでひとはしゃぎし、私はホテルへと戻ったのである。
翌日の日曜日は、大阪で朝10時から研修生ミーティングが入っているという地獄のスケジュールであった。
福岡空港07:05発の伊丹行きの便で大阪に帰ることになっていたので、5時半には起きなければいけないわけである。
つまり、早く寝ないと体がもたないのである。
この時期、私は睡眠不足が続いており、体調もだいぶ思わしくなかったのである。
だからして、この日は二次会には行かず、さっさとホテルに戻り、マッサージを受け、さあ、寝ようとしていたのである。
ところが、である。
異様な物音で目が覚めたのである。
異様な物音というと、以前、東京のホテルで、私の部屋に侵入者がいたという話を書いたのであるが、今回のそれは、悲鳴のごとき叫び声であったのである。
「なにごと?!」と目を覚まし、よくよく聞いてみると、それは悲鳴ではなく、歓喜の声だったのである。
ふだんの私は、ビジネスホテルに泊まることが多い。
そして、ビジネスホテルは、それが何曜日であろうと関係ないのであるが、この日、私が泊まっていたのは、ラグジュアリーでおしゃれなシティホテルであり、かつ、土曜日の夜だったのである。
どうやら、カップルがこぞって泊まっているようなのである。
私はシングル使用で泊まったのであるが、ダブルベッドの部屋を所望したために、この階は、ダブルのお部屋が多いフロアだったようなのである。
それはまるで、猛獣のオリの横で寝る動物園ナイトのようなものだったのである。
すっかり目が覚めてしまった私は、ノドの乾きを感じ、ソフトドリンクを買いに、部屋の外の自動販売機に向かったのであるが、なんとまあ、どの部屋からも歓喜の声が上がっているのである。
部屋に戻り、仕方なくテレビをつけてみたところ、なんと、アジアカップの決勝戦、日本対オーストラリアをやっているではないか。
つい、観入ってしまったのである。
結果はもう、みなさんご存じであろうが、ハラハラドキドキの展開で、なかなか決着がつかず、私が翌朝5時半に起きなければいけない事情であるにもかかわらず、延長戦にまでもつれ込んだのである。
そして、いよいよ、延長後半。
長友のサイドアタックからのセンタリング、それを受けた李のものすごくすばらしいボレーシュートで、日本は決勝ゴールを奪ったのである。
その瞬間、たぶん、午前2時半ぐらいであったと思う。
一人、孤立無援であった私が、いままでのうっぷんを晴らすかのごとく、歓喜の声を左右両隣の部屋のみなさんにお届けしたのである。
そして、次の日、私が睡眠不足で抜け殻のようになっていたことは、書くまでもないことなのである。