さて、では7月に予定されている大型アップデートが適用されると、具体的にETHのマイニング報酬がどのくらい変わるのか確認してみましょう。
ETHマイニング報酬(1MH/sあたりのUSD価格)
このグラフは過去1年のハッシュレート1MH/sあたりのETHのマイニング報酬の推移です。
こちらのサイト からスクショさせていただきました。
ご覧になるとわかる通り、昨年8-9月ごろに一度山があり、一回レートが下がった後今年に入ってから急増して、2月末に一度下がりましたが現在は再び盛り返しています。
縦軸は1MH/sあたりの報酬のUSD価格ですが、実際は報酬はETHで支払われていますので、ETHの価格が上昇した年末から2月までで大きく伸びているのがわかります。
横軸は期間でこのグラフでは1年間で出力しているので、グラフの一番右は今からちょうど1年前ごろ。1MH/sあたりおよそ0.009USDで、つまり日本円にして1円程度しか報酬がなかったということです。
現在消費電力に対してハッシュレートの効率(ワットあたりのパフォーマンス、いわゆるワッパ)がよいグラボの場合、目安としてだいたい1MH/sあたり2wくらいの電力を消費します。2wの電力というのは1日の電気代でいうと1kWh = 28円の場合でおよそ1.3円/日。つまり、電気代に対して完全に赤字のレートとなります(日本の電気代では、という意味です。念のため)。
このレートは1年後の現在とくらべて1/10以下です。なぜこんなに差があるのか?一つの理由は報酬の通貨であるETHの価格がまったく違うからです。これを書いている3月19日現在、1ETH = 19万5千円前後の価格で取引されていますが、1年前はおよそ1万3千円程度。ほぼ15倍の差がありました。
収益性が悪かった1年前と、格段に収益性がよい現在とではマイニングをしているマイナーの数、投入されているグラボの数が段違いに増えていて同じハッシュレートで獲得できるETHの基本量はむしろ減っているのですが、USDや日本円に換算した際の価値が15倍も違えばドル建て、円建ての収益は向上するわけです。
つぎに見ていただきたいのが同じサイトの別のデータのグラフです。
ETHマイニング報酬にしめる送金手数料(fee)の割合
さきほどのグラフとくらべて、昨年8-9月の山が今年に入ってからの山よりすこし高くなったりしていますが山や谷のある時期は一致しているのがわかると思います。
ひとつ前のエントリでETHのマイニング報酬は今年7月予定の変更で変更され、送金手数料がマイナーに支払われなくなる、という説明をしました。
ETHのマイニング報酬は、ブロック報酬と呼ばれる1つの計算のかたまり(ブロック)を処理するのに貢献したマイナー全員に分配される定額の報酬と、それに上乗せされる送金手数料とで成り立っています。
ブロック報酬が基本給だとすると、送金手数料は早く・たくさんの計算をしてほしい送金依頼者からのチップのようなものです。このチップに相当する報酬の大部分がマイナーに支払われなくなる、というのがアップデートの基本的な内容でした。
そこで問題なのが、たとえば3月19日現在1MH/sあたりおおよそ11円くらいのマイニング報酬のうちどのくらいがこのチップに相当するのかというと、このグラフをみるとほぼ50%に達しているのがわかります。
つまり、今日のETH価格のまま、いますぐアップデートが実行された場合、マイニング報酬は現在の約11円/MH/sから、だいたい6円/MH/s程度までほぼ半減してしまうと予想されます。
2つのグラフを合わせてみると、USDを日本円にざっくり換算して以下のようになっています。
・2020年3月18日は総額約1円/MH/sで、手数料分を除くとおよそ0.95円前後
・2021年1月1日は総額約5円/MH/sで、手数料分を除くとおよそ3.7円前後
・2021年3月17日は総額約12.5円/MH/sで、手数料分を除くとおよそ6.3円前後
2020年3月18日はだいたい1ETH =1万3千円くらい、2021年1月1日におよそ7万7千円くらいで現在はだいたい19万5千円ですから、送金手数料のブーストを除いてもETHの価格が上昇した分だけ報酬はよくなっているのですが、よく見ると2020年3月18日は報酬 / ETH価格はだいたい13,000分の1くらいだったものが、2021年1月1日は20,800分の1前後、3月17日は31,000分の1あたりまで比率が減少しています。
1つのブロックの計算を処理した際の報酬総額は固定のはずなのに、なぜ実際の報酬が減っているのか?答えはマイニングをする人が増え、また1人が導入しているグラボの数が増え、マイナー同士の競争が激化しているからです。つまり、1人当たりの取り分が少なくなってきているのです。
ETHマイニング総ハッシュレート推移
このグラフは上に書いたタイトル通り、ETHのマイニングに参加しているすべてのマイナーの(あるいはグラボの)ハッシュレートの合計の推移です。
ご覧の通り1年前は低い水準で推移していたのが、昨年の8-9月ごろにDeFiというETH特有の取引が注目を集めたことから取引量が増え、手数料増加に伴うマイニング報酬の上昇がマイナーの流入を促した結果が見て取れます。その後いったん上昇ペースは鈍化しましたが、昨年末から今年の年明けにかけて値動きが激しくなったことに伴い、報酬のドル・円建ての利益が増えたことと、取引量そのものが増えたことの相乗効果でマイニング報酬が急上昇し、あわせてマイナーの数が右肩上がりで増えてきている、という状態になっています。
もし、ETH価格が現在の水準のままだったと仮定して、このままマイナーの数、グラボの数が増え続けていった場合、しばらくは現在のマイニング報酬(1MH/sあたり10から13円程度)がゆるやかに下降する程度で推移すると思いますが、さらに取引手数料が報酬から除かれるアップデートが入った場合はどうなるか?
今日時点で手数料を除いてすでに1MH/sあたり6.3円程度のマイニング報酬はさらに悪くなる、ということになります。
もちろん、たとえばマイニング報酬がETH建てで半分になったとしても、ETHの価値が日本円建てで2倍になれば今までと同じ利益率が確保できます。が、それを織り込んで投資するのはさすがに非現実的でしょう。私は実際の取引手数料が激減するわけではなさそうなこのアップデートでそこまでETHの価値が上がるとは思えません。
あるいは、労力に対して得られる報酬が減ることでマイナーの一部がETHマイニングから撤退し、同じハッシュレートで得られるETH報酬が増えることはあり得ます。しかし、この場合先に撤退するのは電気代が高額な国や地域に住んでいるマイナー、すなわち日本のマイナー達でしょう。
ここでは送金手数料は7月以降マイニング報酬には一切回らなくなった場合、の金額で試算しました。実際はたとえば今の半分ぐらいは報酬に残るのかもしれません(そのあたりを詳しく説明している情報がどうにも見つかりませんでした)。ですが、ETHのデベロッパー達がこの変更についてtwitterなどで語っているときの内容を見ると、「送金手数料を釣り上げるマイナー、あるいはアタッカー」と言っていたり、「この変更が今導入されていたら1日で市場に新規発行されるETHがこれだけ焼却される(流通されず消滅する=その分ホルダーの手元のETHの価値が上がる)」という事を誇らしげに語っていたりと、どうにもマイナーに手数料が渡ってその分のETHが市場に売り出されるのを快く思っていないのは明白かと思います。あまり期待しない方がよさそうだ、7月以降はいきなり電気代を利益が下回るとまではいかないまでも、いまとは全く違う収益構造になる、と思っておいた方がよいと私は思っています。