料理これで全部かエクレアル。良い感じの名前ですが、我輩の名はアルジ。知ってる。
追加はトゥージーに注文して下さい。ロールトゥ!キャベツ!!ほいよ。
トゥージー:ゆめかまぼろしか編に登場した料理人。大抵の料理は作れる。ただし材料が足りない場合は注意が必要。
「ぽいやつ」を使用するため、見た目は美味しそうでも味が異次元になっている可能性があるからだ。正体はタコ。
庭園の晩餐会は大変な盛り上がりだった。
電波の淹れたコーヒーは当然ながら冷たくなっていて、彼はそれを無言でハゲに渡した。
いいかハゲ、取り替えてこい。ねがいをかなえてやろう。これでもくらえっ!!
ハゲはサラダボールを電波に投げた。勿体ないことをするな。僕はそれがコーヒーだと思う。
これ木製だから人に当たったら結構痛いんだぞ。じゃあ次はもっと重いやつにしますよ。
Lとシガーヘッドは横並びで食事していた。いいかムササビ、ここからが本当のたたかいだ。食べ物はでんぱの注文によって増えつづけるだろう。まずはあのばかたれを止める。そうしなければ、な。てめぇヨモギこっち来いや!!ちょっと俺より足速いからって調子に乗るな。
ドードーになるには何年ぐらい修行すれば良いか教えてくれたら、こっちまで来なくていい。
われが鳥であるうちに秘策を聞き出そうというわけだな。いいか電波、毎日ドードーになりたいと言い続けるんだ。
そんなに手間が掛かるならもっと別のものになりたい。
ヨモギが電波の相手をしていると、トゥージーが暇で変な顔になった。タコヨリは起き上がると、アプリコットケーキを持って無人島に帰ろうとした。ばか弟子よ、タコヨリ君が帰るぞ。貴様告げ口とは卑怯だぞ。タコヨリが電波に引っ張られ居間に座らされた。まだ料理残ってるじゃん。こるあ!!ヨモギ!!階段の上はフィールド外だって言ってるだろ!
ケイティとテイティは氷の彫刻を熱心に作っていた。
モデル決まらねぇな。このままだどキマイラ系の化け物氷。ぶつぴょう。Lです。砕氷の術。
Lはイエティ兄弟渾身の力作をシガーヘッドの炎で溶かしてしまった。なんてことをするんだ。テイティは流石に頭にきたが、Lの怒りはそれ以上だった。何故ならば、氷の彫刻の中には彼のダンベルが入っていたからだ。
そのことに気付きながら、こおりの彫刻をつくったお前たちの罪。他の誰が見のがしても、この自分の目はごう。金平牛蒡を!アルジが注文した。誰かあれを止めろ。電波と競って注文なんて。
タコヨリ、材料が全部無くなったってさ!ではこのあと出てくる料理を構成しているのは否・食べ物ということになる。
カキ氷にしよう。……あ?ハゲが怪訝な顔をした。
そんな顔をするな。こんな寒いのにカキ氷食ってどうすんだ。というわけで皆さんご一緒に!
『ご馳走様でした!』
Lです。新しいダンベルをくれ。
ヨモギとランプは正式に電界執行部改め、『ワイスバスターズ』の一員となった。
彼らの記憶に刻まれた、戦いの歴史。
全員で困難に立ち向かったこと。電波がエーテルを使い果たし倒れていたこと。師匠が贈り物をくれたこと。伝令として活躍した、小さな騎士が居たこと。
空は暗く、心は真昼の様に明るい夜。晩餐会は、全員で氷の彫刻を制作する。誰が誰をモデルにしているかは内密にしながら、明日の昼までに各自作品を完成させること。という電波の迷惑な思い付きによって、室内の温度は氷点下に調節され、ガチガチと歯を鳴らしながら不眠不休、まさかの延長戦にもつれ込んだ。
つらい。電波が呟く。
弱音を吐くならさっさと提案を取り下げろ。タコヨリは寒さに強い方だが、とてつもない眠気で制作用の道具を持つ手が震えていた。それは出来ないな。こんな防寒服まで着たんだ。完成したと納得できるまで終わることは。
いいかでんぱ、ブリザードに遭遇したくなかったら大人しく言うことをきけ。終わり!!
「ホログラム」
水牛達は徐々に足並みを揃え、隊員達が互いを援護するために保っている間合いを離すことに専念し始めた。
上空から火砲支援をしているアルジが逸早くそのことに気付き、タコヨリに伝える。数体で同時に動き、銃を構えると四方に散開。何体かを纏めて殲滅するというこちらの戦法が通じ難くなってきた。ケイティが人一人隠れられる規模の氷の壁を作ったが、効果は薄かった。この大きさと厚さでは攻撃を防ぐのに硬度が足らず、何より火砲の支援が受けられなくなってしまう。
視界を狭めるのは得策ではない。彼らは動き回りながら、それぞれが対策を講じていた。
ウィンドリットはアルジと電波の指示に従う。戦場では身を挺して隊員を守るように言いつけられていた。彼には感情というものがないが、記録媒体という『心』を持っている。仲間の危機を察して再生されたのは、戦場を駆け抜ける電波の姿だった。
足を止めたウィンドリットに水牛が襲い掛かる。ウィンドリットは真正面から迫る敵の斜め右を行き、軸足を基点として跳び上がり、蹴りを食らわせたのだ。電波の動きを思い出すように、辿るように。
死守しろと言ったんだ。タコヨリの声が隊員の耳に響く。アレが戻ってきた時に私達が負けたなんて言ってみろ。えらい剣幕で怒るだろうなぁ!!シラタキは敵の猛攻を受けながらも笑っていた。Lです。こんなもんかぁ!!よわすぎて肩がいたい!
ひとすくいの湧き水を口にしたかの様な、一瞬の高揚。しかしそれが、今の彼らには何よりも力となった。
こいつらはまずオラたちを先に倒すつもりだ。ケイティの言葉を聞き、タコヨリは周りを見渡す。確かに氷の壁は削られてない。狙いは我々というわけだ。術者が誰であるか分からない状況、この動きは当然と言えば当然か。
思考しながら戦うことが、これほど面倒だとはな!おい何か変なのがいるぞ!テイティ!そいつも敵か!敵なのか?!
師の連続する斬撃を剣で受け続ける電波。刀身がぶつかる度、波紋の様な青く歪曲した円が広がる。ほんとに良い剣だな!儂が鍛えたんじゃ。知ってます。血が出とるぞ。うるせぇな。静かにしてろ!
ハゲは二人の戦いを見ながら、電波に言われたことを実行しようとしていた。
竜巻なんて発生させたことない。それも『竜巻の逆をやれ』だなんて。ほんとに無茶な奴。
でも駄目だ、出来ないは駄目なんだ。やらなければ師匠を救えない。
集中しろ。周りには何も無い。ハゲは目を瞑った。金属音を排して、微かな風の音だけを聞く。全身に流れるエーテルを両掌へ。
エーテルを風、そして渦に。
何をするつもりか知らないけど、邪魔させてもらうよ。エピセリートの声に反応して、師匠が凄まじい速さでハゲのもとへと走る。電波は剣先を内に返し、柄で師を吹き飛ばした。いてぇな小僧!ごめん!!
電波、厄介な相手ですね。
狙い通り致命傷を与えてくれない。でも操られているワイスナイトとは違って、奴には体力がある。それだけの動きをいつまでしていられるか。こちらはミスを待つだけね。
気になるのは、こいつがさっき風使いに言っていたこと。
まぁいいでしょう。時間が経てば経つほど不利になるのは君達だ。虎を人間界に送るまで残り15分。悪あがきを楽しませてもらうよ。
みたかでんぱっ!!竜巻じゃ!!ハゲの両掌に風の渦がある。上出来!逆だって言ってんだろばか!!ばかはないだろう。
その状態を維持しつつ、風が外側ではなく中心に圧を発生させるように変換させろハゲが。むずかしいこと言いなさる。まだ風力上げるなよ!そんなのわかってるよ。僕だってまだ立ち昇りたくはない。気流の上昇も不可!威力は一定!注文がおおいな君は!!
これでどうだ!風の渦の周囲は無風となった。台風の真逆。中心だけが暴風域の状態だ。
ハゲは勘付いた。でんぱどいてろ。お前が僕にさせたかったことを実践してやる。その言葉を聞いたと同時に電波は師から離れる。
参ったね。エピセリートは敵である彼らに称賛の言葉を贈りたくなった。竜巻は三つに分かれ、師の両腕と両足の動きを封じたのである。
風の鎖とでも言うべきか。実体が無いために、物理的な力でこれを外すのはほぼ不可能と言える。危険視すべきは雷使いだけだと思ってたけど、間違いだった。
残り11分。コアは鎧と一体化している。そこからどうするのか見せてもらおう。
二人は師匠のところへ走った。
コアは、ここにある。
電波が師匠の心臓を指差した。風により動きを止めたからといって、不動というわけではない。師匠、俺はコアだけを破壊する。
五秒、いや一秒。鎧の力に抗え。そしたら皆で仲良く地上に落下だ。うむ。師匠は力強く返事をした。まてでんぱ。どうやってこの箱を落とす気だ。任せなさい。
電波は深く呼吸をすると、剣にエーテルを込めるのを止めた。揺らめく青い靄が消え、剣本来の輝きだけが刀身を染める。
彼の選択は斬撃ではなく刺突。鎧の内側で赤く光る、大きさも形もわからぬ物体を、貫くことで破壊するつもりだ。踏み込み方を誤れば、刃は師の身体まで達してしまう。電波は剣を構え、狙いを定めた。
あっ!プテラノドンがいる。なんだと?師匠が自分の発言に気をとられたその一瞬でコアを破壊、赤い光が消えたのを目で確認し即座に剣を引いた。俺の剣速、一秒を切る。はいはいすごいすごい。ハゲは電波の背中を軽く叩いた。師匠は無傷だった。
これでその鎧に操られることはない。さっさとそれを下に置きな。
雷使い、いや電波。ワタシは君を過小評価してたみたいだ。それも、とてつもない誤差と言える。どこまでわかっているんだ?エピセリートの声から余裕は感じられない。狩れと命じられるままに獣を追い、罠を仕掛け、捕らえ、檻で囲った。
何もかもが想定していた通りに動いていると思っていた。だがその獣は不覚を取り捕まったわけではなく、自らの意志で罠に掛かり、檻の中へ入ったのだ。そして今、鉄球の足枷を引き千切り、囲っていた檻さえもその智慧で壊そうとしている。
師の装備していた鎧を箱内部の地面中央に置き、その上に何か小さなものを乗せた。これで良し。ハゲ!リボルバーを使うぞ。お前が撃つんだ。どこを!!鎧の上にあるやつ!
なんだあれ、銃弾?そう。そうって、銃で銃弾を撃ってどうすんだよ。この浮かんでいる地面を落とす。原理がわからねぇって言ってるだろ。めんどくせぇなあ。あれはね、シラタキに頼んで製作してもらった、251個目の弾丸だ。
撃つと鎧が重くなります。何キロ?6トン。6000キログラム。こういう使い方をすることになるとは、予想外さ。さあて!エピセリート!!この地面を浮かべている『飛空石』の最大積載量を2トンほど上回ることになるぞ!
王様、ワタシはこいつに勝てないかもしれない。でも、やれるだけのことをやる。
彼の方に与えられた任務。その遂行に尽力すると誓ったのだから。
はげ弟子、儂はもう限界じゃ。助けておくれ。集中してんだから話しかけるな。邪険にしおって!後悔するぞい。しかしこんな大事なことをお前が人に任せるなんてな。
電波は紋様の上をうろうろしていた。やっぱり端っこに居るのが一番良い気がする。あ?俺はただ成功の確率を考えてハゲに頼んだだけのこと。空間認識能力は多分、少しハゲの方が優れている。このリボルバーの弾丸はたったの五個ですぞ。無駄にできん。
少しと言うあたりに負けず嫌いが出ておるな。撃つと同時に身構え、落下する準備を。地面に叩き付けられるまでにハゲが風を発生させる。できなかったら?皆で未来にワープする。
……ごちゃごちゃ言ってないで早く撃てっつってんだろ!!
ハゲはリボルバーの銃口を鎧の方へ向け、照準を合わせた。
凝縮された雷は青い光のラインを描いて着弾する。発砲の閃光が見えたと同時に鎧付近に重力場が現れた。三人はその円に触れるか触れないかの場所に居たため、重力の影響は無かった。落下物は重い方が速く落ちる。出来うる限りの後退をしていたことが功を奏し、彼らは風によって難なく地に降り立つことができた。電波の勘がもたらした幸運である。
まあ、こうなるよね。三人は水牛の大群に囲まれていた。
約束の30分が過ぎ、四匹の虎は人間界へと向かう。
それを追う素振りを見せたハゲは度重なる風の力の使用により、突風を数回起こす程度のエーテルしか残っていなかった。師匠は操られたことの反動からか身体が軋み、上手く動けない。師匠、刀をかしてください。師は何も言わず、ハゲに刀を渡した。
彼らが戻ってくることは、君達の仲間が倒されたことを意味する。
エピセリートは相手側の戦力を削り、応援が来る可能性を断った上で三人を仕留める気でいる。この戦いは一対一では無い。仲間の存在あってこその総力戦だ。
ワタシはもう油断しない。人間界に行っている水牛の群れにも、敵を全滅させたらこちらに戻るように言った。もしかしたらものの数分で片付くかもしれない。風使い、ワイスナイト、そして電波。君達に王様と戦う力があるのなら、この状況すらも打破できるはず。
まさか敵同士であるのが惜しいと感じるなんて思わなかったよ。
さぁ、戦いを終わらせよう。
すごい数だな。電波が呟いた。これは、むりかもしれませんね。タコヨリ達はどうしてるだろう。あの四匹の虎、大きな角が二本もあって、鬼みたいだったな。
師匠は昔を思い出していた。自分もこうして、多くの敵に囲まれる状況を経験してきた。あの時と違うのは、護られる側だということ。師は一人、受け継ぐ者がいる喜びを噛み締めた。
どうなるにしろ、後悔することは無い。
ばか弟子よ、人間界の皆が気になるか?儂がこやつらを全部引き受けると言いたいところじゃが、生憎とこの、これで。
うるさいなー!あいつらなら大丈夫だ。それより気が散るから静かにしていてもらえませんか。
おいテイティ!水牛の群れに追われる様にして扉から出てきたのは、見たこともないような鳥だった。ドードーだ。間違いなく人間界で絶滅した飛べない鳥、ドードー。
タコヨリはその鳥が逃げ回りながらも水牛に攻撃しているのを見て、名案を思いついた。シガーヘッドに奴を説得してもらい、こちらの味方にしようと考えたのだ。
了承してくれたらしく、一緒に戦ってくれることになった。それでも優勢には程遠かったが、仲間が一人増えたことの心強さは相当なものだった。
大丈夫と言い切れる根拠はなんだ。エピセリートは予感していた。この局面が覆るという、確かな予感だ。あの虎達は強いよ。仲間が何人いるか知らないが、君達より強い筈はない。己に言い聞かせるように、その予感を払拭するかのように声を響かせた。
…俺は師匠から境界と箱の話を聞いてすぐに旅に出た。二日間くらい。そんで帰ってきたあとは異世界の本が沢山置いてある書斎に籠もってたんだ。姿が見えないと思ったらそんなことをしておったのか。
修行するには時間が足らなかったからな。そんで昨日の夜、小さいがらびに運んでもらった手紙の返事がきてね。
虎が出てきた。あの角の大きさ、まずいですね。『タコヨリさん、虎が来ました!』わかってる。四匹の虎はそれぞれが狙う相手を決め、土を爪で大きく掴むと一斉に隊員達の方へと向かってきた。ケイティ!サンダーを撃て!ケイティは2挺のリボルバーで電撃を放った。直後、Lが何かに激突され、後方に弾き飛ばされる。
はやいな。あしにロケットでも仕込んでるのか。ぐおるぁああ!!Lは唸りを上げ、炎を纏って虎に攻撃を仕掛ける。相手は虎だけではない。敵は疲弊した隊員達に容赦なく襲い掛かった。
ドードーはタコヨリと交戦している二本角の虎のもとへ走ると、自分に注意を向けた。そして咆哮した。
我が名はヨモギ。竜族は竜の姿をしているとは限らない。驚かせてすまなかったな。
ウィンドリットの三倍はあろうかという体躯。異世界からの援軍だ。電波め、こんな奴を呼んでたなんて。隊員達はしばし呆然としていたが、すぐに彼が味方だと理解する。隊員と対峙していた四匹の虎の矛先が、すべて竜に向けられていたからである。
協力して倒すんだ。L!シラタキ!彼の攻撃範囲に入らない位置に移動してくれ!攻撃範囲に入らない場所っつったって。背だ。背に乗れ!ヨモギがそう促すと、シラタキとLはヨモギのもとへ走った。
二人が飛び乗るよりも早く、一匹の虎がシラタキの背後に辿り着く。ヨモギは前方の敵への威嚇を続けたまま、まるで見えているかの如く正確に虎に尾を叩き付けた。Lです。これが大型犬の視点かっ!!敵を確実に倒すため、虎達は全員でヨモギに応戦することを決めた。そして背に乗っていない隊員を水牛の群れに攻撃させる。
敵も馬鹿では無いみたいだが、相手が悪かったな。そうヨモギが呟くと、上空を飛行するエクレアシップの近くを何かが通り過ぎた。
氷の壁で囲まれた戦場に、それは滑空する。アルジは電波に感服した。はは、あの人は本当にいつも、いつも。
有翼の獅子、飛空する鬼。ランプ。第二の援軍が到着した。
ヨモギにランプ?!おうよ。ヨモギは手紙で間に合う?って聞いたら、間に合わせるってさ。ランプは相変わらず、わかったんだか、なんだか。まあ来ると思うよ。
タコヨリ達の強さは認めてる。だからこそ庭園を守るように頼んだ。でも千の軍勢に八人で立ち向かえなんて、無茶を押し付けちまったからな。俺からのプレゼントってところだ。加勢が贈り物とは、お主も少しは仲間を敬う心を。黙れじじい!!
援軍が仲間の窮地を救うということだね。
電波の言い回しからして、かなりの実力者。それでもあの虎達が倒されるとは思えない。彼らはワタシではなく王様に仕えていた、変換装置を守護する番人達だ。この四匹を与えて貰ったからには負けるわけにいかない。
数百はいると思われる敵が、エピセリートの合図で三人目掛けて突進する。退路は無い。包囲は急速に狭まって、触れるだけで傷を負いそうな研ぎ澄まされた二本の角が八方から彼らを狙い、襲い掛かった。
ハゲと師匠、ちょっと伏せてろ。
電波は人間界で縮小された許されざる剣を喰らい、その力を自身に宿した。つまり彼は『許されざる剣そのもの』であるということだ。
確かエーテルを込めることで物質に内在する力が呼び覚まされ、テンは起きるんだったな。電波はヨモギの牙を地に突き立てると、右手で左腕を掴んだ。剣に眠っていた力が、ここに顕現する。
彼の隣に現れたのは光を放つ銀髪の女性。彼女は一瞬で消え、三人を覆うように環状の雷が現れた。これは…、なんじゃ。見ていた二人は言葉を失う。まるで雷が生きているかのように形を成し、襲い掛かった敵の攻撃を防いだのだ。環に触れた角は灰すら残さずに焼失し、彼らの戦意を奪った。
うはは、凄いのが出やがった。エピセリートもこれには驚きを隠せない。環状の雷の一部が離れ、そこに上顎と下顎が出現する。雷の蛇、いや竜か?電波は地に刺した剣を取ると、エピセリートに交換条件を持ち掛けた。
目的は、俺を戦闘不能にすることだったな。これから師匠が人間界へ帰る。それにはこの竜が同行します。こいつは箱を壊し、霧に変わる。異世界には俺とハゲが残る。
箱は壊れるが、お前の目的を達成できる確率が上がるわけだ。その竜の力を使わずに戦うというのか。起死回生の切り札を捨てる?こいつが何を考えてるか分からない。
んでその代わり頼み事がある。師匠には攻撃しないこと。角が折れたら自分の負け。そういう風にこいつらに言ってくれ。数百対二で正面から戦って勝てなければ、お前も納得できるだろ。それで今回の決戦は終わり。どうだ!理解、できた。けれど理解できない。
環竜の力を使えば、恐らく水牛達を完全に倒してしまう。こちらは倒しに掛かっているというのに、自分は倒さないと言う。こいつの『勝利』は、王様の勝利とは全く違うものだ。この調子では人間界へ向かった者達も。
…君のような奴、初めて見た。
その勝負、のった!よし!こいや!!というわけだから、師匠は帰っていいよ。儂も残る。却下します。お前のこと気遣いながら戦う方が危ない。好きにしろばあか!絶対に勝てよ!当たり前じゃん。
儂もそろそろ引退かのう。
師は去るが、師の教えた剣技はここに残る。群れの包囲が開き、師匠は環竜と共に箱のある場所に向かった。彼は二人の弟子の方を見たが、すぐに群れが囲い、見えなくなった。
さあて、ハゲよ。ものは相談なんだが。あ?この剣とかお前の刀だと、相手を斬ることになる。それは止めよう。説明をよろしく。こいつらは敵だが、ちょっと悪さしただけなら一度ぶん殴るくらいでいいんじゃないか?
角だけを斬れ。柄で戦えっていうわけではない。師匠の言葉を思い出すんだ。
『テンを起こした武器は盾にもなる』
なるほどね。二人はヨモギの牙にエーテルを込めた。刀身から青い靄が現れる。この靄は敵の『エーテル属性』の攻撃を防ぐ。電波は水牛の突進を躱し、剣の刀身を横腹の下方から斜め右上に打ち上げた。敵は怯んだが、角で追撃を試みる。
強い奴ばかりだ。根性もある!ハゲはその攻撃を刀で止めた。普通の武器ならおれるかもしれないけど、この刀は一味ちがう。靄が鋭さを増し、まるで刃(やいば)が大きくなったように、片刃の剣が空に伸びる。変幻自在。この牙は相手を斬ることも、打つことも出来る。
角を斬られた者は後方に退く。水牛達、まるで彼らと特訓しているかのようだ。たったの二人、されど二人。これだけの数に臆することなく立ち向かっている。
でんぱ!なに?何匹かいっぺんに倒す方法おもいついた!ヒント宜しく。チェスボード!了解、刀かせ。ハゲは刀を渡した。電波は跳躍し、敵の頭部に着地する。水牛が振り払おうと頭を揺らすと同時に角を蹴り、前方に飛んだ。二本の牙で敵に打撃を与えながら、縦に並ぶ敵の五匹目後方に着地。それを確認したハゲは狙いを定め、リボルバーを撃った。
打撃で敵の位置を調整、その後で角だけを撃ち落した。ワタシは盤上の戦いを見ているのか。しかし風使いは近接武器を失った。この機を逃すわけが。二人は角が折れ、撤退する敵の上に飛び乗ると、お互いに近付いた。ほらよ!放り投げるなばかがっ!!その銃、今度は俺に使えと言っている気がする。
電波は左手に銃、右手に剣を持つと、ハゲと共に水牛から降りた。やっぱりホルスターが無いと邪魔。うるさい!くるぞ!
しかしなんとも、奇妙というか。師匠は足を引き摺りながら、自分の歩く速度に合わせてくれている環竜を眺めていた。半身が地面に潜り、湖面を泳ぐ蛇の様だ。土も草木も全く焼けておらず、風が通り過ぎているかの如く自然な姿を保っている。角は触れただけで焼失したというのに。
考えても仕方がない。儂だって知らないことがまだ沢山あるんじゃ。さあ、箱の前まで来たぞ。これをどうやって。
環竜が空を仰ぎ見ると、黒雲が集まってきた。雲は球状になり、独楽のように回転し始める。その動きで雲が取り払われ、雷で出来た月とでもいうような、眩い光球が現れた。落雷の音が連続して響き渡る。雷の雨。それは箱に降り注いだ。
師匠は唖然としていた。儂の放っていた雷が児戯に思える。この落雷の雷鳴は箱の周囲数メートルにしか聞こえていなかった。つまり、衝撃波の伝わる範囲を意図的に操っているということだ。
箱は完全に破壊されている。これで境界を越えて人間界に行く者を憂慮する必要はなくなったというわけだ。目的達成じゃ。環竜は欠伸をすると、霧になった。名も無き環竜に感謝を。あれ?!いなくなっとる。うむあ、まあ、いいじゃろう。後は、あやつらが帰ってくるのを、ここで待つとするかのう。
箱の破壊は人間界に居るワイス達の戦意を持ち去ってしまった。異世界から放たれた雷は、人間界にある正面扉だけを残し、その他を消滅させた。扉が前に倒れる音で、彼らは何が起きたのかを悟る。
Lは勝利の雄叫びを上げた。アルジが上空を限界速度で旋回する。ウィンドリットは座り込み、深くお辞儀をした。タコヨリは途端に眠くなり倒れてしまった。シラタキはヨモギの背から降りると、先程まで戦っていた虎に会釈をした。ケイティとテイティは嬉しさと達成感から踊るように飛び跳ね、小石に躓いて転んだ。そしてシガーヘッド。
境界から異世界へ戻ろうとする虎の尾を、シガーは掴んでいた。
人間界の勝敗は決したが、電波とエピセリートの『勝負』はまだ続いていた。
あと何匹だー!二人は敵と敵の間を縫う様に走り、打撃で怯ませた相手を盾にして、全方位からの攻撃を防ぐという戦法をとっていた。30匹くらいじゃねぇの!!込めるエーテルが無くなり、身を守る術は己の感覚のみ。何度か角が身体を削るが、その痛みで更に闘争本能を呼び覚まし、数秒前の自分を超えながら戦っている。
自陣に斬り傷を受けた者は見当たらない。ワタシには、この二人こそが獣に見える。自分だけが血を流す戦いを押し通す、獣。この男は、王様には無いものを持っている。
ごめん、でんぱ。こんな軽い刀が、重くて持ち上がらん。倒れたハゲに攻撃しようとする者は、誰一人いなかった。じゃあそれ貸して。
刀?早くしろよ。そんでこれ持ってて。電波は剣をハゲに預け、刀に持ち替えた。
眉間から流れる血を拭い、かかってこいとばかりに青い剣先を動かす彼の気迫が、残り六体になった敵の蹄を後ろへ下げる。一騎打ちだ。残った者の中で最も強い者が、君と一対一で戦う。エピセリートの声に応じて、赤みがかった毛並みの水牛が前に出た。二百いた水牛は半数に減り、遂には一体となった。
エーテルは尽き、普通の人間と変わらない状態のはず。なのに電波の身体からは、それが僅かに流れているように見える。
そうか、許されざる剣に内在していたエーテルが、彼を守っているのか。
そのことを知ってか知らないでか、電波は風使いを庇いながら戦っていた。彼の剣技には師の教えと、強固な信念が見える。
いつ何時、どんな状態でも、戦い方を曲げるな。
『実戦と稽古の境目を無くす。』付け焼刃が通用するほど戦いは甘くない。信じられる武器を作れ。戦場ですらそれを磨け。稽古相手はどこにでもおるぞ。おい聞いてるのかばか弟子!!ああ夕食の時間か。
水牛の突進に怯むことなく一直線に前へ走る。これが最初の一撃とでもいうように、柄を緩く握り締め、刀の峰を肩に乗せ、彼は地を蹴った。
倒れた男のもとに、小さな獣が近付く。シガーヘッドだ。
シガーが敵を詰め込んでいた瓶の中には、白く広がる空間と、大きな湖があり、水面には人間界で起きている戦いの様子が映るようになっている。水牛達は彼ら十人の戦いを見て、戦っている間には見えなかったものが見えるようになっていた。傷が癒える頃には、彼らのことを思い出すに違いない。
憎むべき敵ではなく、また会えることを心のどこかで望んでしまうような、手強い好敵手として。
異世界に来たシガーヘッドは瓶の蓋を開け、水牛を放した。電波と水牛の一騎打ちが始まる少し前の出来事である。なんとまあ、これが戦場ですか。拍手喝采。電波とハゲの二人が数百に及ぶ屈強な者達を倒した事実は、ものの数分で広まった。加勢しようなどと考える者も、そういう力が余っている者も一人として居なかった。
彼は最後の一頭の角に刀が触れる直前で刃を返し、ワタシが居る方を見てこう言った。
引き分けでいいや。
帰るぞ!!師匠が血相を変えて現れた。ドードーの背に乗っている。でんぱが寝てるんですけど。眠ったままで構わん!忘れ物は無いな?!ないよ。電波の寝言だ。ヨモギの牙もあるし、うぐぇ空腹に負けそう。
ドードーはとにかく走った。もうすぐ境界が消える。当然じゃ。箱が消滅してしまったら、つっかえ棒が折れたのと同じこと。たとえがあたまわるそう。余計なお世話だ!逆に訊くが賢い例えってどんなんだ。はげ弟子、無視するな。
よくやったな。隊員は皆、皆無事じゃ。戻ったら祝杯で!俺が淹れたコーヒーがまだ冷めずにあれば良い。それがいちばん。
…ヨモギ、これお前の牙なんだぞ。
差し込む光に目を細めながら、電波は大きく欠伸をした。
おわり
「-救世主 メシア-」
上空から火砲支援をしているアルジが逸早くそのことに気付き、タコヨリに伝える。数体で同時に動き、銃を構えると四方に散開。何体かを纏めて殲滅するというこちらの戦法が通じ難くなってきた。ケイティが人一人隠れられる規模の氷の壁を作ったが、効果は薄かった。この大きさと厚さでは攻撃を防ぐのに硬度が足らず、何より火砲の支援が受けられなくなってしまう。
視界を狭めるのは得策ではない。彼らは動き回りながら、それぞれが対策を講じていた。
ウィンドリットはアルジと電波の指示に従う。戦場では身を挺して隊員を守るように言いつけられていた。彼には感情というものがないが、記録媒体という『心』を持っている。仲間の危機を察して再生されたのは、戦場を駆け抜ける電波の姿だった。
足を止めたウィンドリットに水牛が襲い掛かる。ウィンドリットは真正面から迫る敵の斜め右を行き、軸足を基点として跳び上がり、蹴りを食らわせたのだ。電波の動きを思い出すように、辿るように。
死守しろと言ったんだ。タコヨリの声が隊員の耳に響く。アレが戻ってきた時に私達が負けたなんて言ってみろ。えらい剣幕で怒るだろうなぁ!!シラタキは敵の猛攻を受けながらも笑っていた。Lです。こんなもんかぁ!!よわすぎて肩がいたい!
ひとすくいの湧き水を口にしたかの様な、一瞬の高揚。しかしそれが、今の彼らには何よりも力となった。
こいつらはまずオラたちを先に倒すつもりだ。ケイティの言葉を聞き、タコヨリは周りを見渡す。確かに氷の壁は削られてない。狙いは我々というわけだ。術者が誰であるか分からない状況、この動きは当然と言えば当然か。
思考しながら戦うことが、これほど面倒だとはな!おい何か変なのがいるぞ!テイティ!そいつも敵か!敵なのか?!
師の連続する斬撃を剣で受け続ける電波。刀身がぶつかる度、波紋の様な青く歪曲した円が広がる。ほんとに良い剣だな!儂が鍛えたんじゃ。知ってます。血が出とるぞ。うるせぇな。静かにしてろ!
ハゲは二人の戦いを見ながら、電波に言われたことを実行しようとしていた。
竜巻なんて発生させたことない。それも『竜巻の逆をやれ』だなんて。ほんとに無茶な奴。
でも駄目だ、出来ないは駄目なんだ。やらなければ師匠を救えない。
集中しろ。周りには何も無い。ハゲは目を瞑った。金属音を排して、微かな風の音だけを聞く。全身に流れるエーテルを両掌へ。
エーテルを風、そして渦に。
何をするつもりか知らないけど、邪魔させてもらうよ。エピセリートの声に反応して、師匠が凄まじい速さでハゲのもとへと走る。電波は剣先を内に返し、柄で師を吹き飛ばした。いてぇな小僧!ごめん!!
電波、厄介な相手ですね。
狙い通り致命傷を与えてくれない。でも操られているワイスナイトとは違って、奴には体力がある。それだけの動きをいつまでしていられるか。こちらはミスを待つだけね。
気になるのは、こいつがさっき風使いに言っていたこと。
まぁいいでしょう。時間が経てば経つほど不利になるのは君達だ。虎を人間界に送るまで残り15分。悪あがきを楽しませてもらうよ。
みたかでんぱっ!!竜巻じゃ!!ハゲの両掌に風の渦がある。上出来!逆だって言ってんだろばか!!ばかはないだろう。
その状態を維持しつつ、風が外側ではなく中心に圧を発生させるように変換させろハゲが。むずかしいこと言いなさる。まだ風力上げるなよ!そんなのわかってるよ。僕だってまだ立ち昇りたくはない。気流の上昇も不可!威力は一定!注文がおおいな君は!!
これでどうだ!風の渦の周囲は無風となった。台風の真逆。中心だけが暴風域の状態だ。
ハゲは勘付いた。でんぱどいてろ。お前が僕にさせたかったことを実践してやる。その言葉を聞いたと同時に電波は師から離れる。
参ったね。エピセリートは敵である彼らに称賛の言葉を贈りたくなった。竜巻は三つに分かれ、師の両腕と両足の動きを封じたのである。
風の鎖とでも言うべきか。実体が無いために、物理的な力でこれを外すのはほぼ不可能と言える。危険視すべきは雷使いだけだと思ってたけど、間違いだった。
残り11分。コアは鎧と一体化している。そこからどうするのか見せてもらおう。
二人は師匠のところへ走った。
コアは、ここにある。
電波が師匠の心臓を指差した。風により動きを止めたからといって、不動というわけではない。師匠、俺はコアだけを破壊する。
五秒、いや一秒。鎧の力に抗え。そしたら皆で仲良く地上に落下だ。うむ。師匠は力強く返事をした。まてでんぱ。どうやってこの箱を落とす気だ。任せなさい。
電波は深く呼吸をすると、剣にエーテルを込めるのを止めた。揺らめく青い靄が消え、剣本来の輝きだけが刀身を染める。
彼の選択は斬撃ではなく刺突。鎧の内側で赤く光る、大きさも形もわからぬ物体を、貫くことで破壊するつもりだ。踏み込み方を誤れば、刃は師の身体まで達してしまう。電波は剣を構え、狙いを定めた。
あっ!プテラノドンがいる。なんだと?師匠が自分の発言に気をとられたその一瞬でコアを破壊、赤い光が消えたのを目で確認し即座に剣を引いた。俺の剣速、一秒を切る。はいはいすごいすごい。ハゲは電波の背中を軽く叩いた。師匠は無傷だった。
これでその鎧に操られることはない。さっさとそれを下に置きな。
雷使い、いや電波。ワタシは君を過小評価してたみたいだ。それも、とてつもない誤差と言える。どこまでわかっているんだ?エピセリートの声から余裕は感じられない。狩れと命じられるままに獣を追い、罠を仕掛け、捕らえ、檻で囲った。
何もかもが想定していた通りに動いていると思っていた。だがその獣は不覚を取り捕まったわけではなく、自らの意志で罠に掛かり、檻の中へ入ったのだ。そして今、鉄球の足枷を引き千切り、囲っていた檻さえもその智慧で壊そうとしている。
師の装備していた鎧を箱内部の地面中央に置き、その上に何か小さなものを乗せた。これで良し。ハゲ!リボルバーを使うぞ。お前が撃つんだ。どこを!!鎧の上にあるやつ!
なんだあれ、銃弾?そう。そうって、銃で銃弾を撃ってどうすんだよ。この浮かんでいる地面を落とす。原理がわからねぇって言ってるだろ。めんどくせぇなあ。あれはね、シラタキに頼んで製作してもらった、251個目の弾丸だ。
撃つと鎧が重くなります。何キロ?6トン。6000キログラム。こういう使い方をすることになるとは、予想外さ。さあて!エピセリート!!この地面を浮かべている『飛空石』の最大積載量を2トンほど上回ることになるぞ!
王様、ワタシはこいつに勝てないかもしれない。でも、やれるだけのことをやる。
彼の方に与えられた任務。その遂行に尽力すると誓ったのだから。
はげ弟子、儂はもう限界じゃ。助けておくれ。集中してんだから話しかけるな。邪険にしおって!後悔するぞい。しかしこんな大事なことをお前が人に任せるなんてな。
電波は紋様の上をうろうろしていた。やっぱり端っこに居るのが一番良い気がする。あ?俺はただ成功の確率を考えてハゲに頼んだだけのこと。空間認識能力は多分、少しハゲの方が優れている。このリボルバーの弾丸はたったの五個ですぞ。無駄にできん。
少しと言うあたりに負けず嫌いが出ておるな。撃つと同時に身構え、落下する準備を。地面に叩き付けられるまでにハゲが風を発生させる。できなかったら?皆で未来にワープする。
……ごちゃごちゃ言ってないで早く撃てっつってんだろ!!
ハゲはリボルバーの銃口を鎧の方へ向け、照準を合わせた。
凝縮された雷は青い光のラインを描いて着弾する。発砲の閃光が見えたと同時に鎧付近に重力場が現れた。三人はその円に触れるか触れないかの場所に居たため、重力の影響は無かった。落下物は重い方が速く落ちる。出来うる限りの後退をしていたことが功を奏し、彼らは風によって難なく地に降り立つことができた。電波の勘がもたらした幸運である。
まあ、こうなるよね。三人は水牛の大群に囲まれていた。
約束の30分が過ぎ、四匹の虎は人間界へと向かう。
それを追う素振りを見せたハゲは度重なる風の力の使用により、突風を数回起こす程度のエーテルしか残っていなかった。師匠は操られたことの反動からか身体が軋み、上手く動けない。師匠、刀をかしてください。師は何も言わず、ハゲに刀を渡した。
彼らが戻ってくることは、君達の仲間が倒されたことを意味する。
エピセリートは相手側の戦力を削り、応援が来る可能性を断った上で三人を仕留める気でいる。この戦いは一対一では無い。仲間の存在あってこその総力戦だ。
ワタシはもう油断しない。人間界に行っている水牛の群れにも、敵を全滅させたらこちらに戻るように言った。もしかしたらものの数分で片付くかもしれない。風使い、ワイスナイト、そして電波。君達に王様と戦う力があるのなら、この状況すらも打破できるはず。
まさか敵同士であるのが惜しいと感じるなんて思わなかったよ。
さぁ、戦いを終わらせよう。
すごい数だな。電波が呟いた。これは、むりかもしれませんね。タコヨリ達はどうしてるだろう。あの四匹の虎、大きな角が二本もあって、鬼みたいだったな。
師匠は昔を思い出していた。自分もこうして、多くの敵に囲まれる状況を経験してきた。あの時と違うのは、護られる側だということ。師は一人、受け継ぐ者がいる喜びを噛み締めた。
どうなるにしろ、後悔することは無い。
ばか弟子よ、人間界の皆が気になるか?儂がこやつらを全部引き受けると言いたいところじゃが、生憎とこの、これで。
うるさいなー!あいつらなら大丈夫だ。それより気が散るから静かにしていてもらえませんか。
おいテイティ!水牛の群れに追われる様にして扉から出てきたのは、見たこともないような鳥だった。ドードーだ。間違いなく人間界で絶滅した飛べない鳥、ドードー。
タコヨリはその鳥が逃げ回りながらも水牛に攻撃しているのを見て、名案を思いついた。シガーヘッドに奴を説得してもらい、こちらの味方にしようと考えたのだ。
了承してくれたらしく、一緒に戦ってくれることになった。それでも優勢には程遠かったが、仲間が一人増えたことの心強さは相当なものだった。
大丈夫と言い切れる根拠はなんだ。エピセリートは予感していた。この局面が覆るという、確かな予感だ。あの虎達は強いよ。仲間が何人いるか知らないが、君達より強い筈はない。己に言い聞かせるように、その予感を払拭するかのように声を響かせた。
…俺は師匠から境界と箱の話を聞いてすぐに旅に出た。二日間くらい。そんで帰ってきたあとは異世界の本が沢山置いてある書斎に籠もってたんだ。姿が見えないと思ったらそんなことをしておったのか。
修行するには時間が足らなかったからな。そんで昨日の夜、小さいがらびに運んでもらった手紙の返事がきてね。
虎が出てきた。あの角の大きさ、まずいですね。『タコヨリさん、虎が来ました!』わかってる。四匹の虎はそれぞれが狙う相手を決め、土を爪で大きく掴むと一斉に隊員達の方へと向かってきた。ケイティ!サンダーを撃て!ケイティは2挺のリボルバーで電撃を放った。直後、Lが何かに激突され、後方に弾き飛ばされる。
はやいな。あしにロケットでも仕込んでるのか。ぐおるぁああ!!Lは唸りを上げ、炎を纏って虎に攻撃を仕掛ける。相手は虎だけではない。敵は疲弊した隊員達に容赦なく襲い掛かった。
ドードーはタコヨリと交戦している二本角の虎のもとへ走ると、自分に注意を向けた。そして咆哮した。
我が名はヨモギ。竜族は竜の姿をしているとは限らない。驚かせてすまなかったな。
ウィンドリットの三倍はあろうかという体躯。異世界からの援軍だ。電波め、こんな奴を呼んでたなんて。隊員達はしばし呆然としていたが、すぐに彼が味方だと理解する。隊員と対峙していた四匹の虎の矛先が、すべて竜に向けられていたからである。
協力して倒すんだ。L!シラタキ!彼の攻撃範囲に入らない位置に移動してくれ!攻撃範囲に入らない場所っつったって。背だ。背に乗れ!ヨモギがそう促すと、シラタキとLはヨモギのもとへ走った。
二人が飛び乗るよりも早く、一匹の虎がシラタキの背後に辿り着く。ヨモギは前方の敵への威嚇を続けたまま、まるで見えているかの如く正確に虎に尾を叩き付けた。Lです。これが大型犬の視点かっ!!敵を確実に倒すため、虎達は全員でヨモギに応戦することを決めた。そして背に乗っていない隊員を水牛の群れに攻撃させる。
敵も馬鹿では無いみたいだが、相手が悪かったな。そうヨモギが呟くと、上空を飛行するエクレアシップの近くを何かが通り過ぎた。
氷の壁で囲まれた戦場に、それは滑空する。アルジは電波に感服した。はは、あの人は本当にいつも、いつも。
有翼の獅子、飛空する鬼。ランプ。第二の援軍が到着した。
ヨモギにランプ?!おうよ。ヨモギは手紙で間に合う?って聞いたら、間に合わせるってさ。ランプは相変わらず、わかったんだか、なんだか。まあ来ると思うよ。
タコヨリ達の強さは認めてる。だからこそ庭園を守るように頼んだ。でも千の軍勢に八人で立ち向かえなんて、無茶を押し付けちまったからな。俺からのプレゼントってところだ。加勢が贈り物とは、お主も少しは仲間を敬う心を。黙れじじい!!
援軍が仲間の窮地を救うということだね。
電波の言い回しからして、かなりの実力者。それでもあの虎達が倒されるとは思えない。彼らはワタシではなく王様に仕えていた、変換装置を守護する番人達だ。この四匹を与えて貰ったからには負けるわけにいかない。
数百はいると思われる敵が、エピセリートの合図で三人目掛けて突進する。退路は無い。包囲は急速に狭まって、触れるだけで傷を負いそうな研ぎ澄まされた二本の角が八方から彼らを狙い、襲い掛かった。
ハゲと師匠、ちょっと伏せてろ。
電波は人間界で縮小された許されざる剣を喰らい、その力を自身に宿した。つまり彼は『許されざる剣そのもの』であるということだ。
確かエーテルを込めることで物質に内在する力が呼び覚まされ、テンは起きるんだったな。電波はヨモギの牙を地に突き立てると、右手で左腕を掴んだ。剣に眠っていた力が、ここに顕現する。
彼の隣に現れたのは光を放つ銀髪の女性。彼女は一瞬で消え、三人を覆うように環状の雷が現れた。これは…、なんじゃ。見ていた二人は言葉を失う。まるで雷が生きているかのように形を成し、襲い掛かった敵の攻撃を防いだのだ。環に触れた角は灰すら残さずに焼失し、彼らの戦意を奪った。
うはは、凄いのが出やがった。エピセリートもこれには驚きを隠せない。環状の雷の一部が離れ、そこに上顎と下顎が出現する。雷の蛇、いや竜か?電波は地に刺した剣を取ると、エピセリートに交換条件を持ち掛けた。
目的は、俺を戦闘不能にすることだったな。これから師匠が人間界へ帰る。それにはこの竜が同行します。こいつは箱を壊し、霧に変わる。異世界には俺とハゲが残る。
箱は壊れるが、お前の目的を達成できる確率が上がるわけだ。その竜の力を使わずに戦うというのか。起死回生の切り札を捨てる?こいつが何を考えてるか分からない。
んでその代わり頼み事がある。師匠には攻撃しないこと。角が折れたら自分の負け。そういう風にこいつらに言ってくれ。数百対二で正面から戦って勝てなければ、お前も納得できるだろ。それで今回の決戦は終わり。どうだ!理解、できた。けれど理解できない。
環竜の力を使えば、恐らく水牛達を完全に倒してしまう。こちらは倒しに掛かっているというのに、自分は倒さないと言う。こいつの『勝利』は、王様の勝利とは全く違うものだ。この調子では人間界へ向かった者達も。
…君のような奴、初めて見た。
その勝負、のった!よし!こいや!!というわけだから、師匠は帰っていいよ。儂も残る。却下します。お前のこと気遣いながら戦う方が危ない。好きにしろばあか!絶対に勝てよ!当たり前じゃん。
儂もそろそろ引退かのう。
師は去るが、師の教えた剣技はここに残る。群れの包囲が開き、師匠は環竜と共に箱のある場所に向かった。彼は二人の弟子の方を見たが、すぐに群れが囲い、見えなくなった。
さあて、ハゲよ。ものは相談なんだが。あ?この剣とかお前の刀だと、相手を斬ることになる。それは止めよう。説明をよろしく。こいつらは敵だが、ちょっと悪さしただけなら一度ぶん殴るくらいでいいんじゃないか?
角だけを斬れ。柄で戦えっていうわけではない。師匠の言葉を思い出すんだ。
『テンを起こした武器は盾にもなる』
なるほどね。二人はヨモギの牙にエーテルを込めた。刀身から青い靄が現れる。この靄は敵の『エーテル属性』の攻撃を防ぐ。電波は水牛の突進を躱し、剣の刀身を横腹の下方から斜め右上に打ち上げた。敵は怯んだが、角で追撃を試みる。
強い奴ばかりだ。根性もある!ハゲはその攻撃を刀で止めた。普通の武器ならおれるかもしれないけど、この刀は一味ちがう。靄が鋭さを増し、まるで刃(やいば)が大きくなったように、片刃の剣が空に伸びる。変幻自在。この牙は相手を斬ることも、打つことも出来る。
角を斬られた者は後方に退く。水牛達、まるで彼らと特訓しているかのようだ。たったの二人、されど二人。これだけの数に臆することなく立ち向かっている。
でんぱ!なに?何匹かいっぺんに倒す方法おもいついた!ヒント宜しく。チェスボード!了解、刀かせ。ハゲは刀を渡した。電波は跳躍し、敵の頭部に着地する。水牛が振り払おうと頭を揺らすと同時に角を蹴り、前方に飛んだ。二本の牙で敵に打撃を与えながら、縦に並ぶ敵の五匹目後方に着地。それを確認したハゲは狙いを定め、リボルバーを撃った。
打撃で敵の位置を調整、その後で角だけを撃ち落した。ワタシは盤上の戦いを見ているのか。しかし風使いは近接武器を失った。この機を逃すわけが。二人は角が折れ、撤退する敵の上に飛び乗ると、お互いに近付いた。ほらよ!放り投げるなばかがっ!!その銃、今度は俺に使えと言っている気がする。
電波は左手に銃、右手に剣を持つと、ハゲと共に水牛から降りた。やっぱりホルスターが無いと邪魔。うるさい!くるぞ!
しかしなんとも、奇妙というか。師匠は足を引き摺りながら、自分の歩く速度に合わせてくれている環竜を眺めていた。半身が地面に潜り、湖面を泳ぐ蛇の様だ。土も草木も全く焼けておらず、風が通り過ぎているかの如く自然な姿を保っている。角は触れただけで焼失したというのに。
考えても仕方がない。儂だって知らないことがまだ沢山あるんじゃ。さあ、箱の前まで来たぞ。これをどうやって。
環竜が空を仰ぎ見ると、黒雲が集まってきた。雲は球状になり、独楽のように回転し始める。その動きで雲が取り払われ、雷で出来た月とでもいうような、眩い光球が現れた。落雷の音が連続して響き渡る。雷の雨。それは箱に降り注いだ。
師匠は唖然としていた。儂の放っていた雷が児戯に思える。この落雷の雷鳴は箱の周囲数メートルにしか聞こえていなかった。つまり、衝撃波の伝わる範囲を意図的に操っているということだ。
箱は完全に破壊されている。これで境界を越えて人間界に行く者を憂慮する必要はなくなったというわけだ。目的達成じゃ。環竜は欠伸をすると、霧になった。名も無き環竜に感謝を。あれ?!いなくなっとる。うむあ、まあ、いいじゃろう。後は、あやつらが帰ってくるのを、ここで待つとするかのう。
箱の破壊は人間界に居るワイス達の戦意を持ち去ってしまった。異世界から放たれた雷は、人間界にある正面扉だけを残し、その他を消滅させた。扉が前に倒れる音で、彼らは何が起きたのかを悟る。
Lは勝利の雄叫びを上げた。アルジが上空を限界速度で旋回する。ウィンドリットは座り込み、深くお辞儀をした。タコヨリは途端に眠くなり倒れてしまった。シラタキはヨモギの背から降りると、先程まで戦っていた虎に会釈をした。ケイティとテイティは嬉しさと達成感から踊るように飛び跳ね、小石に躓いて転んだ。そしてシガーヘッド。
境界から異世界へ戻ろうとする虎の尾を、シガーは掴んでいた。
人間界の勝敗は決したが、電波とエピセリートの『勝負』はまだ続いていた。
あと何匹だー!二人は敵と敵の間を縫う様に走り、打撃で怯ませた相手を盾にして、全方位からの攻撃を防ぐという戦法をとっていた。30匹くらいじゃねぇの!!込めるエーテルが無くなり、身を守る術は己の感覚のみ。何度か角が身体を削るが、その痛みで更に闘争本能を呼び覚まし、数秒前の自分を超えながら戦っている。
自陣に斬り傷を受けた者は見当たらない。ワタシには、この二人こそが獣に見える。自分だけが血を流す戦いを押し通す、獣。この男は、王様には無いものを持っている。
ごめん、でんぱ。こんな軽い刀が、重くて持ち上がらん。倒れたハゲに攻撃しようとする者は、誰一人いなかった。じゃあそれ貸して。
刀?早くしろよ。そんでこれ持ってて。電波は剣をハゲに預け、刀に持ち替えた。
眉間から流れる血を拭い、かかってこいとばかりに青い剣先を動かす彼の気迫が、残り六体になった敵の蹄を後ろへ下げる。一騎打ちだ。残った者の中で最も強い者が、君と一対一で戦う。エピセリートの声に応じて、赤みがかった毛並みの水牛が前に出た。二百いた水牛は半数に減り、遂には一体となった。
エーテルは尽き、普通の人間と変わらない状態のはず。なのに電波の身体からは、それが僅かに流れているように見える。
そうか、許されざる剣に内在していたエーテルが、彼を守っているのか。
そのことを知ってか知らないでか、電波は風使いを庇いながら戦っていた。彼の剣技には師の教えと、強固な信念が見える。
いつ何時、どんな状態でも、戦い方を曲げるな。
『実戦と稽古の境目を無くす。』付け焼刃が通用するほど戦いは甘くない。信じられる武器を作れ。戦場ですらそれを磨け。稽古相手はどこにでもおるぞ。おい聞いてるのかばか弟子!!ああ夕食の時間か。
水牛の突進に怯むことなく一直線に前へ走る。これが最初の一撃とでもいうように、柄を緩く握り締め、刀の峰を肩に乗せ、彼は地を蹴った。
倒れた男のもとに、小さな獣が近付く。シガーヘッドだ。
シガーが敵を詰め込んでいた瓶の中には、白く広がる空間と、大きな湖があり、水面には人間界で起きている戦いの様子が映るようになっている。水牛達は彼ら十人の戦いを見て、戦っている間には見えなかったものが見えるようになっていた。傷が癒える頃には、彼らのことを思い出すに違いない。
憎むべき敵ではなく、また会えることを心のどこかで望んでしまうような、手強い好敵手として。
異世界に来たシガーヘッドは瓶の蓋を開け、水牛を放した。電波と水牛の一騎打ちが始まる少し前の出来事である。なんとまあ、これが戦場ですか。拍手喝采。電波とハゲの二人が数百に及ぶ屈強な者達を倒した事実は、ものの数分で広まった。加勢しようなどと考える者も、そういう力が余っている者も一人として居なかった。
彼は最後の一頭の角に刀が触れる直前で刃を返し、ワタシが居る方を見てこう言った。
引き分けでいいや。
帰るぞ!!師匠が血相を変えて現れた。ドードーの背に乗っている。でんぱが寝てるんですけど。眠ったままで構わん!忘れ物は無いな?!ないよ。電波の寝言だ。ヨモギの牙もあるし、うぐぇ空腹に負けそう。
ドードーはとにかく走った。もうすぐ境界が消える。当然じゃ。箱が消滅してしまったら、つっかえ棒が折れたのと同じこと。たとえがあたまわるそう。余計なお世話だ!逆に訊くが賢い例えってどんなんだ。はげ弟子、無視するな。
よくやったな。隊員は皆、皆無事じゃ。戻ったら祝杯で!俺が淹れたコーヒーがまだ冷めずにあれば良い。それがいちばん。
…ヨモギ、これお前の牙なんだぞ。
差し込む光に目を細めながら、電波は大きく欠伸をした。
おわり
「-救世主 メシア-」
決戦前夜。弾丸の作製も完了し、後は明日の戦いを待つのみとなった。
皆の衆!お前らよくも。敵の情報を与えるから頭に叩き込め!!それとお菓子でも食え。ハゲ配って。いやだね。つかれてんだ!さっさと配れや!俺が全部もらったっていいんだぞ。ハゲは観念してお菓子を皆に配った。タコヨリ眠ったら庭園の外に放り込むよ。眠ってない。頑張れもう少しだ。
電波は皆がリラックスしたのを見て、説明を始めた。
ツノがあるワイスのことを『物理型』と言います。
異世界で最も数が多く、近接戦闘に長ける。
角の本数や大きさを見れば、ある程度強さを判断できるんだ。攻撃的で動きが速い。恐らく今回の敵の殆どが物理型だろう。
次に『能力型』
数は少なく物理攻撃に弱いが、面白い力を持つ奴がいる。俺達はどちらかと言えばこっちに該当するってことだな。これだけ聞くと明日の戦いが負け戦になるのではと、不安になる奴もいるかもしれないが、安心しろ。
物理型は己のエーテルを角というアンテナを介して腕や脚に送り、攻撃力や速力をアップしている。その際エーテルは『筋力を強めるエネルギーに変化』しているんだ。エネルギーがエネルギーに変化。Lです。ようするにそのツノを斬っちまえば無力化できるということですね。えるさん素晴らしい。
攻撃力の低い物理型なんぞ普通の動物とか人間と同じさー。だがここで注意してほしいことがある。エーテルで筋力を強化できなくなっても、戦えなくなるわけじゃないってことだ。
例えば相手が体重一トン以上ある水牛のワイスだった場合、力が弱まっても充分脅威。油断は禁物ってこと!
まあこっちには筋肉魔人犬がいるし。わりと物理攻撃も強いシラタキとか、ドリトだっているし。いぇるちぇんの攻撃力には期待しておるよ。Lです。けちらしてやるぜ。そういえばアルジ、えるの手袋って完成したのか?
もちろんです。対ワイス用戦闘手袋、その名も『ボイジャー88号』!!
炎を纏った拳で敵を倒す。腕を前に向かって素早く伸ばせば、炎を飛ばすこともできる。普通の炎ではありません。燃える弾丸だと思って下さい。
メモリーキューブに保存されているシガーさんのエーテルを使うわけだから、Lさんは能力型(仮)になれるというわけですね。
それってまさか自分まで燃えたりしないよな?電波!!これを作ったのは我輩だぞ!攻撃対象を自分にしない限り絶対に燃えません。もう一つ訊きたい。
これ俺も使える?Lです。ふざけんなお前。冗談だってば。怒るなよ筋肉。
おっと!そういえばまだ他にもいるんだった。儂が説明しようかの。ちょうど良かった。菓子が食えなくて困ってたんだ。師匠眠いから早めにお願いします。
『固有種』
向こう側にしかいない種族。
彼らはワイスではない。しかし強力な個体が多いため、捕獲を試みる者もいる。虹蛇がコレじゃな。自分の認めた者の味方をする傾向があるらしい。
ファンタジーな敵がいたら固有種だと思いなさい。人間界に来る可能性は低いが、遭遇した場合は必ず二人掛かり、もしくはそれ以上で戦うこと。
明日はアルジ君がなんとかシップに搭乗して、後方支援をするそうじゃ。エクレアシップです。空を飛びながら皆さんをサポートするので、我輩にはリボルバーとか豆鉄砲は必要ありません。
火砲の威力は電波の電撃より威力は低いが、連射性能で勝る。飛行する敵に対応するためにと、随分前からアルジが製作していたものだ。
おあ!ケイティが閃いた。みんなでそれに乗ればいいんでねーかい?ケイティさん、残念ながらエクレアシップは一人乗りなんです。もしオラに当たったら交代してくれ。
誘導弾ですからロックオンした相手にしか当たりません!つまんねーべさ。
どんな風に動けばいいのか見えてきたな。俺は異世界に行かなければならないから、その間タコヨリを司令塔に任命します。お前が俺の代わりだ。というか、お前が俺で、俺がお前で。
電波の代わりか。私は風車を眺めてから夢見たい。
風車背負って戦えやタコ。ヨリ。意味も無く間隔をあけるのはやめろ。タコ!!ヨリ。うるさいぞ。隊員への指示はこの『耳ガード付きヘッドフォン無線機(丸型トランシーバー×2)』を使え。
名前長くね?省略せよ。はいそこのハゲ宜しく。
耳線。採用。Lです。ふさいよう。
…さてと!菓子を食べ、熱いストレートティーを片手に聞いてくれ。皆は電波の話を聞きながらお菓子を食べ、更に疲れた身体を休めるという高度な技を披露した。
心の準備はできてるか?俺達が明日の戦いに負けること、それ即ちこの庭園を奴らに明け渡すということだ。なにか変ですね。うるせ。そういうことなんだよ。だから絶対に勝つ。
集合は朝8時!それまでずっと眠るも良し、何時間か前に起きてゲームするも良し。というわけでおやすみ。気合い入れるのは朝でいいよね。お前ら寝坊したらぶっ飛ばしに行くからな。
そんで代わりにコヨーテ、サーベルタイガー、ウーパールーパー、そういうのを急にメンバーとして迎えてみせよう今すぐに。ここで眠りませんか?アルジが提案した。名案だな。起こしに行く手間が省ける。
寝息が聞こえる。半数以上の隊員が既に眠っていた。よほど疲れていたのだろう。
気が付くとアルジしか起きていなかった。まずはお菓子や紅茶、テーブルを片付け、二階へ。倉庫に到着後ため息をつくと、一枚の毛布を担いだ。とても重い。それは大広間にいる全員を覆う程の大きさだった。ウィンドリットに助けを求め、何とか皆のもとへ持ってゆく。
シラタキが移動している。テイティが居ない。
取り敢えず覆える奴だけ覆う。眠たい目をこすりながら、アルジの孤独な戦いは30分に及んだ。
深夜になり、皆が寝静まった頃、一人の男が立ち上がった。
いびきがうるせぇ。電波はハゲの鼻をつまもうとしたが、やめておいた。まだかなり時間があるな。ちょっくら散策でもしてくっか。彼も少しは緊張しているようで、落ち着かない様子だ。
一階にある調理場に入ると、ドーナッツを見つけた。水が沸騰するのを待つ間にそれを食べ、準備運動を行う。外は寒い。胃を脅かすためにコーヒーを淹れる魂胆らしい。つくづくこの男の思考は意味不明である。ふと窓の外を見ると、遠くの空で何か光るものが見えた。沼がある方角だ。
彼は何も言わずに一人、光の見えた場所へと向かった。
早起きして正解。
境界が出現し、箱がすぐそこまで迫っている。アルジが嘘を?それは無い。
微塵も疑いはしなかった。戦いにはこういう予期せぬ出来事が付き物だよ、な!
電波は右腕を箱に向けると、電撃を放った。押し戻すつもりだ。火花が散り、夜空が朝の様に明るくなる。隊員達の状態を考えると、ここで扉を開かせるわけにはいかない。彼らに充分な休息を与えるため、箱の進行を遅らせるつもりだ。
数十分、数時間。可能であれば、約束の時間まで。獅子の咆哮にも似た轟音が鳴り響く。
沼地から庭園まではかなりの距離がある。この音が届く心配はない。
ウィンドリットの最終調整を行うため、アルジは二時間程前に起床した。他の隊員達はまだ眠っている。彼は自分の探究室に『ある物』を置き忘れていたことを思い出し、急いで支度をすると塔へと向かった。
アルジの塔の場所は庭園の正面扉を出て右に曲がり、一直線に進んだ先にある。ウィンドリットの肩は乗り心地が良いとは言えないが、眠気を覚ますには丁度良い。
道中アルジが沼のある方を見なければ、電波を失うことになっていた。この物語に分岐は無い。彼は助かったのだ。
皆さん起きて下さい!!
6時23分21秒。事の重大性は蒼白な顔と、額から流れる汗が示していた。
境界が出現しました。
でんぱがいない。隊員は武器を手に取り、沼へ走った。
6時49分59秒。到着と同時にケイティが氷の壁で四方を覆う。箱の扉はまだ開いてはいない。ウィンドリットがギリギリのところで食い止めているようだ。
ばかかお前!!ハゲは叫んだ。周辺の木々が焼け焦げている。扉が開くのを防ぐのと、箱の進行を遅らせるのとでは、必要になる力が全く違う。
箱が完全にこちら側に来てしまえば、自分の力では扉が開くのを阻止できないことを、電波は分かっていた。俺の思い描いた通りの到着順じゃん。どういうことー。ハゲ!エーテルは回復したか。疲れはとれたか?おかげさまで!!
ばか弟子が!なんで俺頑張ったのに怒られてんの。扉を開かせ、自分だけで殲滅するという選択をしなかったのは褒めてやる。一応は考えてるからね。飛ぶ奴とかいるみたいだし。俺一人しかいない状況で出来ることは、これしかないと思いまして。
6時56分02秒。エクレアシップが上空を飛行している。アルジ君も来たみたいじゃな。師匠はウィンドリットの背中から荷物を降ろした。まったく。お主の電撃が使えない状況なんて考えもしなかったわ。
すいません。儂のエーテルを半分くれてやる。
オラ達のもあげられるか?それはできん。能力型にエーテルを与える場合、力の系統が一致しなくてはならん。磁石の逆じゃ。極が同じ者以外は弾かれる。丁度良い。お前は雷に頼り過ぎだからな。別の戦い方をするのもいいだろうよ!あーあ、これで俺も師匠と省エネ仲間。
問題は箱を壊せるかどうかだが、こうなったら不確定要素に賭けるしかしかあるまい。
これが儂からお前達二人への、最後のお年玉じゃ。
両刃の剣を電波に、そして銀色のスーツケースをハゲに渡した。なんだこれすげ。剣の刀身は青く輝いていた。ハゲがケースを開けると、中には一挺の銃。外装は紅く、グリップは黒い。
『ヨモギの牙』そして『ライジング・リボルバー』
扉が開く。武器の説明はあとだ!電波は剣の鞘をタコヨリに預けた。無くしたら怒る。師匠は刀の柄に手をかけた。Lは地面を強く踏み締める。銃を持つ者はホルスターを装備した。弾丸装填。
7時08分30秒。電波の掛け声に隊員が応える。
『死守しろ!!』『おう!』
『そうさ俺達?!』
『ワイスバスターズ!!』
戦いが始まった。
エクレアシップ機内。我輩の見立ては間違っていなかったはず。箱の進行速度が上がるなんて。皆さんの力を信じるしかない。さあどんどん来い!飛空艇は戦地の上空を大きく旋回し、押し寄せるワイスに照準を定めると、火砲による援護を開始した。
先陣を切ったのは電波。相手は異世界の水牛。それも群れだ。普通であればこの勢いに気圧されるところだが、前日の電波の例に挙がっていたことが、隊員達の動揺を抑えたのだ。
誰一人として怯むことなく、最良と思えるほどの素早さで彼らは展開し、敵を迎え撃った。
電波は地を蹴り、周りと比べ二回りも大きな、恐らく群れの長と思われる水牛の額に膝で蹴りを食らわせた。水牛は苦痛に顔を歪ませる。青い円が広がった瞬間、角は落ち、同時に身体が縮小した。すかさず彼の背に張り付いていたシガーヘッドがそれを小瓶に入れる。
長が倒されたことで群れは統率者を失い、指揮系統が一気に崩れた。電波が別の水牛に飛び乗り、身を翻すと、Lの炎が一列に並んだ敵を薙ぎ払う。第一波殲滅完了。
あざやかと言うほかない。えるさん、それは自分で言うことではありませんよ。さっさと行け!電波とハゲと師匠は風を受け、箱の内部へ突撃した。
…変だな。前方に異世界側から届いていると思われる光が見える。大勢のワイスが走ってくると考えていたが、どうも様子がおかしい。…地鳴り?箱の内部の壁が振動している。
奴ら完全に俺達の動向を知ってるぞ。電波は何が起きているか気付いた様だ。それに続いて師匠とハゲも事態を把握する。
すまない。儂の調査不足じゃ。
最初に倒した敵が来たのは三人が走っている部分。つまり箱には三つの扉と、三つの通路があり、そのすべてが異世界と人間界を繋いでいる。
他の扉のある場所は恐らく箱の側面だな。それも開くまで扉とわからないように細工したに違いねぇ。罠ですかね?だろうな。だがそうだとしても、ここまできて戻ることはできない。
誰の仕業だか知らないが、少しは面白い奴が向こうにも居るみたいだな。ワクワクしてきた!!
でんぱはタコヨリ達を信頼している。だから前に進むことができる。それに何もせずに人間界にもどって加勢したりしたら、装置はどうした、箱はどうしたと怒られるだろう。罠があったら突破するのが僕達だ。
師匠!武器のこと教えとけや!おおそうじゃったな。走りながら説明なんて何年振りじゃろう。
…儂とお前が持つ青い刀身の剣と刀。これはお主らが以前、異世界で手助けした者からの贈り物だ。
ヨモギという竜を覚えとるだろう。
じゃあ『ヨモギの牙』って名前の通り。うむ。竜族が戦うべき時に生えると言われている、超硬度の牙。礼の品として渡せるものを何も持たぬ故、これを貰ってくれと。良い話だなああ!ありがたい。剣にしたのは儂じゃよ。トカゲ元気ですかね。
使い方は向こうに着いてから教える。少ないエーテルを無駄にはしたくないだろう。うるせ。(竜族が人間に友好的なのは知っていたが、牙を与えるなど異例にも程があるわい。こいつはほんとになんなんじゃ。)
この銃は?ハゲが電波に銃口を向けた。電波はスピードアップして銃口を避けた。おお、その銃はな。ばか弟子が虹蛇と戦った時に作った剣を精製し、金属と複合した物をもとに。
よくわからない。あの剣は見た目こそ剣であったが、材質はエーテルと電気。そのまま放っておけば霧散してしまう。そこを見逃さないのがアルジ君じゃ。回収してすぐに手持ちの良質な金属と合成し、電気属性を持つインゴットにしてしまった。そしてその金属を使って作製されたのがこの紅い銃と、専用弾だ。
5連装リボルバー。量産不可の特注品。構造は人間界の物と同じ。電波の電撃を一点に凝縮して対象に撃つという特性から、銃自体にもそれに耐えられるだけの強度が必要だった。耐熱性の無い別の銃でその弾丸を撃ったら、融解するじゃろうな。とける?!まじかよ。ていうか弾丸は五個しかないんですね。
撃った後の弾倉は約11時間ほど冷却させなければならん。成る程な。よって今回は次弾が必要になることはないと判断した。そろそろ異世界じゃ。
よし!気合いおらぁ!!三人で一気にはまずいね。最初に俺が出る。様子を見てお前らも来い。イエッサー!
人間界。
中央の扉は閉まり、箱の側面に二つの扉が現れていた。
L、シラタキ、左を。ウィンドリットは右だ。ケイティ、テイティ、私で彼らを援護する。シガーヘッドは隙を見て攻撃。だが無茶はするな。
単純だが効果的な攻撃方法だ。あれだけ密集して突進されたら、半端な武器では対応しきれない。はんぱな武器ならなぁ!!シラタキが息巻いた。奴らオレらが予想以上に手ごわいとわかって、攻撃に徹することができてねぇ。最初に電波が長を倒したのが効いたな。おめぇらのボスはオラだちのボスがたおしちまったどー!!Lです。ボスは自分だ!
わんちゃん強いですね。テイティがLに感心した。ばかたれがぁ!!きこえてるぞ!自分は耳がよくきこえる。足音からして水牛の大群。でもさっきより強そうだ。
随分と数多く手懐けているようで。タコヨリが溜め息をついた。
『こちらが疲弊したところで屈強な奴を送り込んでくるかもしれません。油断しないように。』
アルジから伝言だ。何か彼に言いたいことは?…了解。
全隊員からアルジへ。『しっかり援護しろよエクレアルジ。』
皆さん戦いはこれからですよ。その名前もう一回言ったら我輩は帰りますからね!ウィンドリットは調子良さそうだ。この戦いのためにパワーアップさせたからなぁ。なんにせよ、庭園から奴らを出すわけにはいかない。勝つぞー!『うるさい!』すみませんタコヨリさん。回線繋がってるのに独り言多くて。
数では圧倒的に不利。一人でも倒れれば連携を取り難くなり、途端に戦況が厳しくなる。隊員達は善戦していた。踏み潰しで数体の動きを止め、氷球で攻撃。動きを止められた敵が壁となり、後方から迫り来る者の行く手を阻む。仲間が攻撃を受けそうになれば、トラベルショットにより回避させる。弾丸の作製には攻撃力の強化とは別に、二つの狙いがあった。
エーテルの積み立て、体力の増強。
積み立てとは読んで字の如く、リボルバーを使えばエーテルを消費せずに能力を使用できるため、体力を温存して戦うことができるということだ。
保有できるエーテルには各々限界があり、上限をアップさせるためには修行を必要とする。彼らは能力を使えなくなるまで発動した経験が無いに等しかった。しかし決戦までの六日間で、エーテルを使い切り、眠ることによって回復させるという工程を何度も繰り返すことになる。
弾丸を完成させるという目的、人間に危害を及ぼす相手を倒さねばならないという使命感。電波と共に戦う決意。これらの要素が折り重なって、彼らは気付かぬうちにエーテルの総量を上げ、飛躍的に強くなっていた。
そしてシラタキ達から離れ、人知れず苦行を積む者。その名は、L。
彼の強さについて不思議に思う人も多いだろう。犬なのに人語を介す。筋トレをする。これらはたった一文で理由を説明することができる。
彼は固有種の血を引いているのだ。
その力は小型犬でありながら、ウィンドリットに匹敵するレベルまで達している。
タコヨリとシラタキによるダブルトントップーが、襲い来る水牛の群れを吹き飛ばした。タコヨリは標的を変え、テイティに攻撃を仕掛けようとする敵にサンダードードーを撃つ。攻撃範囲が広いために悪くすれば味方に当たり兼ねないが、彼は連日の訓練によって射程を完璧に把握していた。
吹き飛ばされた水牛達は体勢を整え、再び突進を試みる。そこに小さな影が二つ。
L&シガーヘッド。ファイアエルボー+炎の息。ボイジャー88号で炎を発生させ、火の衣を纏うことで、Lは火炎の中でも動き回れるようになっていた。それを利用したタッグ攻撃。拳で発生させた炎に、シガーヘッドが炎を直接上乗せすることで強化したのだ。これはエーテルが同質であるからこそ可能な技である。
Lは発生させた炎が尽きるまで走り、攻撃の手を休めなかった。エーテルの炎が消えかけた瞬間、拳に火を集中させ、前方の敵に向かって撃つ。何体もの水牛が同時に小さくなった。
シガーヘッドはひょいっと小さくなった敵を掬い上げると、小瓶に詰め込む。瓶の中は真っ白で何も見えない。Lです。お前らそこで反省してろ!
ここが異世界、か。電波が誰に問うでもなく呟いた。敵が見当たらない。広大で、それこそ箱の様な空間。足元には奇妙な紋様が描かれている。異質な空気に戸惑っていると突然、扉が閉まった。
とじこめられた。な、なんか動いてませんか?箱が振動している。上昇しているようじゃな。ロープの無いエレベーターみたいな感じだってこれ、このまま落とされたらどうするよ!
その時は僕が風でとばしてやるよ!冗談はやめろ。いや本気なんですけどね。
皆さんこんにちは。この声が聞こえたら返事してくれ。なんだ、どこだ。空間全体に響き渡る甲高い声。名前は『エピセリート』いいます。宜しく宜しく宜しく。人数分よろしくと言ってしまうのが癖で。
罠だと分かっているのに飛び込んでくるなんて、何があっても切り抜けられる自信がおありなんでしょうね。この度は王様の剣を返しに来てくれたそうで、感謝します。
そういえばこっちに来たのに何も起きないぞ!話が違う!じじいこのやろう!!おかしいな、不調じゃろうか。不調!?仕方ない、持ち得る武器で何とかしなされ。他人事かよ。
電波は異世界に来てからずっと、『流動する何者かの存在』を感じ取っていた。
気にはなるがそれよりも、現状の装備でどうやってこの空間を突破し、箱と装置を壊すかを考えなくてはならない。隊員達のことも心配だ。もたもたしていれば、次々に新手が現れる。
…聞き及んでいた通りの人ですね。エピセリートの声に反応するように、空間の横一面にある壁が透過を始めた。やはりこの巨大な箱は空に浮かんでいる。下には人間界へ続く境界、そして先刻三人の通った箱が見えた。付近には水牛の大群。なかには電波の倒した長とそう変わらない大きさのものまで居る。
…宝殿を襲撃した雷の使い手。容貌の情報からしてワイスナイトでは無い。王様は自分の奪った能力の源となる部分がそいつに宿っていると、すぐに気付いたそうです。でなければ雷を扱うのに苦労などしなかったはず。
君が虹蛇を倒したとわかった時、彼の方はとても嬉しそうでした。自分と同じ雷の使い手。
それも許されざる剣の選んだ者が、人間界には居る。
選ばれたのが君であるのなら、その適性ごと力を貰い受けると仰った。電波という奴以外はいらない。だからまずは『ワイスナイト』に風使いを消してもらって、その後で電波を戦闘不能にし、連れて行くことにします。
師匠に黒い煙が巻き付いた。いい武器を持ってますね。地に描かれた紋様が赤い光を放ち、師匠を包み込む。煙は鎧になり、師をワイスナイトと呼ばれていた頃の風貌へと変化させた。
刀を捨てようとしても無駄ですよ。お前はワタシの操り人形となり、その二人を倒してしまうのです。幸いにして意識なくなることありません。
王様余興が好きでね。鎧にはワイスを物質にする装置の『コア(核)』が埋め込まれてます。師を倒せば装置を壊したと同じことになる。
時間が経つほど仲間も危なくなるよ。30分で決着つかなければ、四匹の虎を人間界に送ります。こいつら凄く強い。水牛の群れと戦って疲労した彼らに、果たして倒せるでしょうか。
一つ質問。お前を倒すとどうなる。それに答える意味はなし。だってワタシがどこいるか分からないだろう。…まあね。さてどうするか。
駄目じゃ言うこと聞かん!ハゲは風をぶつけて師匠の攻撃を逸らした。師匠のくせにはやい!師匠の癖にってなんじゃ!!お前ら真面目に考えろって!電波は攻撃を避けながら周囲を見渡す。どこかに突破口があるはずだ。
もしやその刀、王様の武器と同じ。師匠がヨモギの牙にエーテルを込めると、青い靄(もや)のようなものが刀身から出てきた。当たりですね。
『テン』を起こしやがった。
なんだそれ!操られながら説明なんて久々じゃのう!
テンとは異世界にある『黎明の国』で信仰されている、小さな動物の名。この刀の様な靄につつまれている時は、地上にいるどんな生物よりも速く動き、同時に最高峰の防御力を持つ。眠っている時は靄が出ることはない。
だからそれこの現象のことを『テンを起こす』というんじゃ!成る程!もしかしてこれ攻撃力も。上がるめっちゃ上がる!!
テンを起こした武器は盾にもなる。物理型でいえば、彼らの角自体が鋭さと強度を増すと考えい!折れない焦げない曲がらない。電波は持っていた剣にエーテルを込めた。そして空間の壁を攻撃する。斬れないじゃん。
ざんねんそうな顔を!うわっ!ハゲは師匠の刀を躱し続けた。
儂を斬れ。それで目的の一つは達成する。あほか。電波はハゲの前に出て、師匠の刀を剣で受け止めた。お前達を斬るなんて御免じゃよ。鎧の奥で師匠は笑った。早くしろ。時間は止まってはくれないぞ。
ハゲ師匠こんなこと言ってるけど。
ふざけんなばーか!!×2
君の行動パターンは実に単純なんですよ。甲高い声が響く。あ?!箱の作製中に王様は、ワイスナイトがこちらの偵察に来ていることに気付いた。
そして何も知らない振りをして、境界の出現する数時間前、ギリギリになってワタシを森へ向かわせた。
時間が早まったのはお前の能力か。事は予想通りに進んでいると思って油断しましたね。王様は風使いやワイスナイト以外の仲間の存在を知らなかったけれど、雷の使い手が異世界に来れば何も問題は無いと考えた。
君は誰よりも先に最も危険な場所へ向かう。他の誰かに頼るということを、極力避ける傾向がある。そこを利用させてもらった。
雷の力には驚かされたね。箱の進行を遅らせるほどの威力。
しかし懸念していた許されざる剣の力が使えないようだし、戦の神はこちらに味方している。さぁワイスナイト。そろそろ本気で戦ってもらうよ。
皆の衆!お前らよくも。敵の情報を与えるから頭に叩き込め!!それとお菓子でも食え。ハゲ配って。いやだね。つかれてんだ!さっさと配れや!俺が全部もらったっていいんだぞ。ハゲは観念してお菓子を皆に配った。タコヨリ眠ったら庭園の外に放り込むよ。眠ってない。頑張れもう少しだ。
電波は皆がリラックスしたのを見て、説明を始めた。
ツノがあるワイスのことを『物理型』と言います。
異世界で最も数が多く、近接戦闘に長ける。
角の本数や大きさを見れば、ある程度強さを判断できるんだ。攻撃的で動きが速い。恐らく今回の敵の殆どが物理型だろう。
次に『能力型』
数は少なく物理攻撃に弱いが、面白い力を持つ奴がいる。俺達はどちらかと言えばこっちに該当するってことだな。これだけ聞くと明日の戦いが負け戦になるのではと、不安になる奴もいるかもしれないが、安心しろ。
物理型は己のエーテルを角というアンテナを介して腕や脚に送り、攻撃力や速力をアップしている。その際エーテルは『筋力を強めるエネルギーに変化』しているんだ。エネルギーがエネルギーに変化。Lです。ようするにそのツノを斬っちまえば無力化できるということですね。えるさん素晴らしい。
攻撃力の低い物理型なんぞ普通の動物とか人間と同じさー。だがここで注意してほしいことがある。エーテルで筋力を強化できなくなっても、戦えなくなるわけじゃないってことだ。
例えば相手が体重一トン以上ある水牛のワイスだった場合、力が弱まっても充分脅威。油断は禁物ってこと!
まあこっちには筋肉魔人犬がいるし。わりと物理攻撃も強いシラタキとか、ドリトだっているし。いぇるちぇんの攻撃力には期待しておるよ。Lです。けちらしてやるぜ。そういえばアルジ、えるの手袋って完成したのか?
もちろんです。対ワイス用戦闘手袋、その名も『ボイジャー88号』!!
炎を纏った拳で敵を倒す。腕を前に向かって素早く伸ばせば、炎を飛ばすこともできる。普通の炎ではありません。燃える弾丸だと思って下さい。
メモリーキューブに保存されているシガーさんのエーテルを使うわけだから、Lさんは能力型(仮)になれるというわけですね。
それってまさか自分まで燃えたりしないよな?電波!!これを作ったのは我輩だぞ!攻撃対象を自分にしない限り絶対に燃えません。もう一つ訊きたい。
これ俺も使える?Lです。ふざけんなお前。冗談だってば。怒るなよ筋肉。
おっと!そういえばまだ他にもいるんだった。儂が説明しようかの。ちょうど良かった。菓子が食えなくて困ってたんだ。師匠眠いから早めにお願いします。
『固有種』
向こう側にしかいない種族。
彼らはワイスではない。しかし強力な個体が多いため、捕獲を試みる者もいる。虹蛇がコレじゃな。自分の認めた者の味方をする傾向があるらしい。
ファンタジーな敵がいたら固有種だと思いなさい。人間界に来る可能性は低いが、遭遇した場合は必ず二人掛かり、もしくはそれ以上で戦うこと。
明日はアルジ君がなんとかシップに搭乗して、後方支援をするそうじゃ。エクレアシップです。空を飛びながら皆さんをサポートするので、我輩にはリボルバーとか豆鉄砲は必要ありません。
火砲の威力は電波の電撃より威力は低いが、連射性能で勝る。飛行する敵に対応するためにと、随分前からアルジが製作していたものだ。
おあ!ケイティが閃いた。みんなでそれに乗ればいいんでねーかい?ケイティさん、残念ながらエクレアシップは一人乗りなんです。もしオラに当たったら交代してくれ。
誘導弾ですからロックオンした相手にしか当たりません!つまんねーべさ。
どんな風に動けばいいのか見えてきたな。俺は異世界に行かなければならないから、その間タコヨリを司令塔に任命します。お前が俺の代わりだ。というか、お前が俺で、俺がお前で。
電波の代わりか。私は風車を眺めてから夢見たい。
風車背負って戦えやタコ。ヨリ。意味も無く間隔をあけるのはやめろ。タコ!!ヨリ。うるさいぞ。隊員への指示はこの『耳ガード付きヘッドフォン無線機(丸型トランシーバー×2)』を使え。
名前長くね?省略せよ。はいそこのハゲ宜しく。
耳線。採用。Lです。ふさいよう。
…さてと!菓子を食べ、熱いストレートティーを片手に聞いてくれ。皆は電波の話を聞きながらお菓子を食べ、更に疲れた身体を休めるという高度な技を披露した。
心の準備はできてるか?俺達が明日の戦いに負けること、それ即ちこの庭園を奴らに明け渡すということだ。なにか変ですね。うるせ。そういうことなんだよ。だから絶対に勝つ。
集合は朝8時!それまでずっと眠るも良し、何時間か前に起きてゲームするも良し。というわけでおやすみ。気合い入れるのは朝でいいよね。お前ら寝坊したらぶっ飛ばしに行くからな。
そんで代わりにコヨーテ、サーベルタイガー、ウーパールーパー、そういうのを急にメンバーとして迎えてみせよう今すぐに。ここで眠りませんか?アルジが提案した。名案だな。起こしに行く手間が省ける。
寝息が聞こえる。半数以上の隊員が既に眠っていた。よほど疲れていたのだろう。
気が付くとアルジしか起きていなかった。まずはお菓子や紅茶、テーブルを片付け、二階へ。倉庫に到着後ため息をつくと、一枚の毛布を担いだ。とても重い。それは大広間にいる全員を覆う程の大きさだった。ウィンドリットに助けを求め、何とか皆のもとへ持ってゆく。
シラタキが移動している。テイティが居ない。
取り敢えず覆える奴だけ覆う。眠たい目をこすりながら、アルジの孤独な戦いは30分に及んだ。
深夜になり、皆が寝静まった頃、一人の男が立ち上がった。
いびきがうるせぇ。電波はハゲの鼻をつまもうとしたが、やめておいた。まだかなり時間があるな。ちょっくら散策でもしてくっか。彼も少しは緊張しているようで、落ち着かない様子だ。
一階にある調理場に入ると、ドーナッツを見つけた。水が沸騰するのを待つ間にそれを食べ、準備運動を行う。外は寒い。胃を脅かすためにコーヒーを淹れる魂胆らしい。つくづくこの男の思考は意味不明である。ふと窓の外を見ると、遠くの空で何か光るものが見えた。沼がある方角だ。
彼は何も言わずに一人、光の見えた場所へと向かった。
早起きして正解。
境界が出現し、箱がすぐそこまで迫っている。アルジが嘘を?それは無い。
微塵も疑いはしなかった。戦いにはこういう予期せぬ出来事が付き物だよ、な!
電波は右腕を箱に向けると、電撃を放った。押し戻すつもりだ。火花が散り、夜空が朝の様に明るくなる。隊員達の状態を考えると、ここで扉を開かせるわけにはいかない。彼らに充分な休息を与えるため、箱の進行を遅らせるつもりだ。
数十分、数時間。可能であれば、約束の時間まで。獅子の咆哮にも似た轟音が鳴り響く。
沼地から庭園まではかなりの距離がある。この音が届く心配はない。
ウィンドリットの最終調整を行うため、アルジは二時間程前に起床した。他の隊員達はまだ眠っている。彼は自分の探究室に『ある物』を置き忘れていたことを思い出し、急いで支度をすると塔へと向かった。
アルジの塔の場所は庭園の正面扉を出て右に曲がり、一直線に進んだ先にある。ウィンドリットの肩は乗り心地が良いとは言えないが、眠気を覚ますには丁度良い。
道中アルジが沼のある方を見なければ、電波を失うことになっていた。この物語に分岐は無い。彼は助かったのだ。
皆さん起きて下さい!!
6時23分21秒。事の重大性は蒼白な顔と、額から流れる汗が示していた。
境界が出現しました。
でんぱがいない。隊員は武器を手に取り、沼へ走った。
6時49分59秒。到着と同時にケイティが氷の壁で四方を覆う。箱の扉はまだ開いてはいない。ウィンドリットがギリギリのところで食い止めているようだ。
ばかかお前!!ハゲは叫んだ。周辺の木々が焼け焦げている。扉が開くのを防ぐのと、箱の進行を遅らせるのとでは、必要になる力が全く違う。
箱が完全にこちら側に来てしまえば、自分の力では扉が開くのを阻止できないことを、電波は分かっていた。俺の思い描いた通りの到着順じゃん。どういうことー。ハゲ!エーテルは回復したか。疲れはとれたか?おかげさまで!!
ばか弟子が!なんで俺頑張ったのに怒られてんの。扉を開かせ、自分だけで殲滅するという選択をしなかったのは褒めてやる。一応は考えてるからね。飛ぶ奴とかいるみたいだし。俺一人しかいない状況で出来ることは、これしかないと思いまして。
6時56分02秒。エクレアシップが上空を飛行している。アルジ君も来たみたいじゃな。師匠はウィンドリットの背中から荷物を降ろした。まったく。お主の電撃が使えない状況なんて考えもしなかったわ。
すいません。儂のエーテルを半分くれてやる。
オラ達のもあげられるか?それはできん。能力型にエーテルを与える場合、力の系統が一致しなくてはならん。磁石の逆じゃ。極が同じ者以外は弾かれる。丁度良い。お前は雷に頼り過ぎだからな。別の戦い方をするのもいいだろうよ!あーあ、これで俺も師匠と省エネ仲間。
問題は箱を壊せるかどうかだが、こうなったら不確定要素に賭けるしかしかあるまい。
これが儂からお前達二人への、最後のお年玉じゃ。
両刃の剣を電波に、そして銀色のスーツケースをハゲに渡した。なんだこれすげ。剣の刀身は青く輝いていた。ハゲがケースを開けると、中には一挺の銃。外装は紅く、グリップは黒い。
『ヨモギの牙』そして『ライジング・リボルバー』
扉が開く。武器の説明はあとだ!電波は剣の鞘をタコヨリに預けた。無くしたら怒る。師匠は刀の柄に手をかけた。Lは地面を強く踏み締める。銃を持つ者はホルスターを装備した。弾丸装填。
7時08分30秒。電波の掛け声に隊員が応える。
『死守しろ!!』『おう!』
『そうさ俺達?!』
『ワイスバスターズ!!』
戦いが始まった。
エクレアシップ機内。我輩の見立ては間違っていなかったはず。箱の進行速度が上がるなんて。皆さんの力を信じるしかない。さあどんどん来い!飛空艇は戦地の上空を大きく旋回し、押し寄せるワイスに照準を定めると、火砲による援護を開始した。
先陣を切ったのは電波。相手は異世界の水牛。それも群れだ。普通であればこの勢いに気圧されるところだが、前日の電波の例に挙がっていたことが、隊員達の動揺を抑えたのだ。
誰一人として怯むことなく、最良と思えるほどの素早さで彼らは展開し、敵を迎え撃った。
電波は地を蹴り、周りと比べ二回りも大きな、恐らく群れの長と思われる水牛の額に膝で蹴りを食らわせた。水牛は苦痛に顔を歪ませる。青い円が広がった瞬間、角は落ち、同時に身体が縮小した。すかさず彼の背に張り付いていたシガーヘッドがそれを小瓶に入れる。
長が倒されたことで群れは統率者を失い、指揮系統が一気に崩れた。電波が別の水牛に飛び乗り、身を翻すと、Lの炎が一列に並んだ敵を薙ぎ払う。第一波殲滅完了。
あざやかと言うほかない。えるさん、それは自分で言うことではありませんよ。さっさと行け!電波とハゲと師匠は風を受け、箱の内部へ突撃した。
…変だな。前方に異世界側から届いていると思われる光が見える。大勢のワイスが走ってくると考えていたが、どうも様子がおかしい。…地鳴り?箱の内部の壁が振動している。
奴ら完全に俺達の動向を知ってるぞ。電波は何が起きているか気付いた様だ。それに続いて師匠とハゲも事態を把握する。
すまない。儂の調査不足じゃ。
最初に倒した敵が来たのは三人が走っている部分。つまり箱には三つの扉と、三つの通路があり、そのすべてが異世界と人間界を繋いでいる。
他の扉のある場所は恐らく箱の側面だな。それも開くまで扉とわからないように細工したに違いねぇ。罠ですかね?だろうな。だがそうだとしても、ここまできて戻ることはできない。
誰の仕業だか知らないが、少しは面白い奴が向こうにも居るみたいだな。ワクワクしてきた!!
でんぱはタコヨリ達を信頼している。だから前に進むことができる。それに何もせずに人間界にもどって加勢したりしたら、装置はどうした、箱はどうしたと怒られるだろう。罠があったら突破するのが僕達だ。
師匠!武器のこと教えとけや!おおそうじゃったな。走りながら説明なんて何年振りじゃろう。
…儂とお前が持つ青い刀身の剣と刀。これはお主らが以前、異世界で手助けした者からの贈り物だ。
ヨモギという竜を覚えとるだろう。
じゃあ『ヨモギの牙』って名前の通り。うむ。竜族が戦うべき時に生えると言われている、超硬度の牙。礼の品として渡せるものを何も持たぬ故、これを貰ってくれと。良い話だなああ!ありがたい。剣にしたのは儂じゃよ。トカゲ元気ですかね。
使い方は向こうに着いてから教える。少ないエーテルを無駄にはしたくないだろう。うるせ。(竜族が人間に友好的なのは知っていたが、牙を与えるなど異例にも程があるわい。こいつはほんとになんなんじゃ。)
この銃は?ハゲが電波に銃口を向けた。電波はスピードアップして銃口を避けた。おお、その銃はな。ばか弟子が虹蛇と戦った時に作った剣を精製し、金属と複合した物をもとに。
よくわからない。あの剣は見た目こそ剣であったが、材質はエーテルと電気。そのまま放っておけば霧散してしまう。そこを見逃さないのがアルジ君じゃ。回収してすぐに手持ちの良質な金属と合成し、電気属性を持つインゴットにしてしまった。そしてその金属を使って作製されたのがこの紅い銃と、専用弾だ。
5連装リボルバー。量産不可の特注品。構造は人間界の物と同じ。電波の電撃を一点に凝縮して対象に撃つという特性から、銃自体にもそれに耐えられるだけの強度が必要だった。耐熱性の無い別の銃でその弾丸を撃ったら、融解するじゃろうな。とける?!まじかよ。ていうか弾丸は五個しかないんですね。
撃った後の弾倉は約11時間ほど冷却させなければならん。成る程な。よって今回は次弾が必要になることはないと判断した。そろそろ異世界じゃ。
よし!気合いおらぁ!!三人で一気にはまずいね。最初に俺が出る。様子を見てお前らも来い。イエッサー!
人間界。
中央の扉は閉まり、箱の側面に二つの扉が現れていた。
L、シラタキ、左を。ウィンドリットは右だ。ケイティ、テイティ、私で彼らを援護する。シガーヘッドは隙を見て攻撃。だが無茶はするな。
単純だが効果的な攻撃方法だ。あれだけ密集して突進されたら、半端な武器では対応しきれない。はんぱな武器ならなぁ!!シラタキが息巻いた。奴らオレらが予想以上に手ごわいとわかって、攻撃に徹することができてねぇ。最初に電波が長を倒したのが効いたな。おめぇらのボスはオラだちのボスがたおしちまったどー!!Lです。ボスは自分だ!
わんちゃん強いですね。テイティがLに感心した。ばかたれがぁ!!きこえてるぞ!自分は耳がよくきこえる。足音からして水牛の大群。でもさっきより強そうだ。
随分と数多く手懐けているようで。タコヨリが溜め息をついた。
『こちらが疲弊したところで屈強な奴を送り込んでくるかもしれません。油断しないように。』
アルジから伝言だ。何か彼に言いたいことは?…了解。
全隊員からアルジへ。『しっかり援護しろよエクレアルジ。』
皆さん戦いはこれからですよ。その名前もう一回言ったら我輩は帰りますからね!ウィンドリットは調子良さそうだ。この戦いのためにパワーアップさせたからなぁ。なんにせよ、庭園から奴らを出すわけにはいかない。勝つぞー!『うるさい!』すみませんタコヨリさん。回線繋がってるのに独り言多くて。
数では圧倒的に不利。一人でも倒れれば連携を取り難くなり、途端に戦況が厳しくなる。隊員達は善戦していた。踏み潰しで数体の動きを止め、氷球で攻撃。動きを止められた敵が壁となり、後方から迫り来る者の行く手を阻む。仲間が攻撃を受けそうになれば、トラベルショットにより回避させる。弾丸の作製には攻撃力の強化とは別に、二つの狙いがあった。
エーテルの積み立て、体力の増強。
積み立てとは読んで字の如く、リボルバーを使えばエーテルを消費せずに能力を使用できるため、体力を温存して戦うことができるということだ。
保有できるエーテルには各々限界があり、上限をアップさせるためには修行を必要とする。彼らは能力を使えなくなるまで発動した経験が無いに等しかった。しかし決戦までの六日間で、エーテルを使い切り、眠ることによって回復させるという工程を何度も繰り返すことになる。
弾丸を完成させるという目的、人間に危害を及ぼす相手を倒さねばならないという使命感。電波と共に戦う決意。これらの要素が折り重なって、彼らは気付かぬうちにエーテルの総量を上げ、飛躍的に強くなっていた。
そしてシラタキ達から離れ、人知れず苦行を積む者。その名は、L。
彼の強さについて不思議に思う人も多いだろう。犬なのに人語を介す。筋トレをする。これらはたった一文で理由を説明することができる。
彼は固有種の血を引いているのだ。
その力は小型犬でありながら、ウィンドリットに匹敵するレベルまで達している。
タコヨリとシラタキによるダブルトントップーが、襲い来る水牛の群れを吹き飛ばした。タコヨリは標的を変え、テイティに攻撃を仕掛けようとする敵にサンダードードーを撃つ。攻撃範囲が広いために悪くすれば味方に当たり兼ねないが、彼は連日の訓練によって射程を完璧に把握していた。
吹き飛ばされた水牛達は体勢を整え、再び突進を試みる。そこに小さな影が二つ。
L&シガーヘッド。ファイアエルボー+炎の息。ボイジャー88号で炎を発生させ、火の衣を纏うことで、Lは火炎の中でも動き回れるようになっていた。それを利用したタッグ攻撃。拳で発生させた炎に、シガーヘッドが炎を直接上乗せすることで強化したのだ。これはエーテルが同質であるからこそ可能な技である。
Lは発生させた炎が尽きるまで走り、攻撃の手を休めなかった。エーテルの炎が消えかけた瞬間、拳に火を集中させ、前方の敵に向かって撃つ。何体もの水牛が同時に小さくなった。
シガーヘッドはひょいっと小さくなった敵を掬い上げると、小瓶に詰め込む。瓶の中は真っ白で何も見えない。Lです。お前らそこで反省してろ!
ここが異世界、か。電波が誰に問うでもなく呟いた。敵が見当たらない。広大で、それこそ箱の様な空間。足元には奇妙な紋様が描かれている。異質な空気に戸惑っていると突然、扉が閉まった。
とじこめられた。な、なんか動いてませんか?箱が振動している。上昇しているようじゃな。ロープの無いエレベーターみたいな感じだってこれ、このまま落とされたらどうするよ!
その時は僕が風でとばしてやるよ!冗談はやめろ。いや本気なんですけどね。
皆さんこんにちは。この声が聞こえたら返事してくれ。なんだ、どこだ。空間全体に響き渡る甲高い声。名前は『エピセリート』いいます。宜しく宜しく宜しく。人数分よろしくと言ってしまうのが癖で。
罠だと分かっているのに飛び込んでくるなんて、何があっても切り抜けられる自信がおありなんでしょうね。この度は王様の剣を返しに来てくれたそうで、感謝します。
そういえばこっちに来たのに何も起きないぞ!話が違う!じじいこのやろう!!おかしいな、不調じゃろうか。不調!?仕方ない、持ち得る武器で何とかしなされ。他人事かよ。
電波は異世界に来てからずっと、『流動する何者かの存在』を感じ取っていた。
気にはなるがそれよりも、現状の装備でどうやってこの空間を突破し、箱と装置を壊すかを考えなくてはならない。隊員達のことも心配だ。もたもたしていれば、次々に新手が現れる。
…聞き及んでいた通りの人ですね。エピセリートの声に反応するように、空間の横一面にある壁が透過を始めた。やはりこの巨大な箱は空に浮かんでいる。下には人間界へ続く境界、そして先刻三人の通った箱が見えた。付近には水牛の大群。なかには電波の倒した長とそう変わらない大きさのものまで居る。
…宝殿を襲撃した雷の使い手。容貌の情報からしてワイスナイトでは無い。王様は自分の奪った能力の源となる部分がそいつに宿っていると、すぐに気付いたそうです。でなければ雷を扱うのに苦労などしなかったはず。
君が虹蛇を倒したとわかった時、彼の方はとても嬉しそうでした。自分と同じ雷の使い手。
それも許されざる剣の選んだ者が、人間界には居る。
選ばれたのが君であるのなら、その適性ごと力を貰い受けると仰った。電波という奴以外はいらない。だからまずは『ワイスナイト』に風使いを消してもらって、その後で電波を戦闘不能にし、連れて行くことにします。
師匠に黒い煙が巻き付いた。いい武器を持ってますね。地に描かれた紋様が赤い光を放ち、師匠を包み込む。煙は鎧になり、師をワイスナイトと呼ばれていた頃の風貌へと変化させた。
刀を捨てようとしても無駄ですよ。お前はワタシの操り人形となり、その二人を倒してしまうのです。幸いにして意識なくなることありません。
王様余興が好きでね。鎧にはワイスを物質にする装置の『コア(核)』が埋め込まれてます。師を倒せば装置を壊したと同じことになる。
時間が経つほど仲間も危なくなるよ。30分で決着つかなければ、四匹の虎を人間界に送ります。こいつら凄く強い。水牛の群れと戦って疲労した彼らに、果たして倒せるでしょうか。
一つ質問。お前を倒すとどうなる。それに答える意味はなし。だってワタシがどこいるか分からないだろう。…まあね。さてどうするか。
駄目じゃ言うこと聞かん!ハゲは風をぶつけて師匠の攻撃を逸らした。師匠のくせにはやい!師匠の癖にってなんじゃ!!お前ら真面目に考えろって!電波は攻撃を避けながら周囲を見渡す。どこかに突破口があるはずだ。
もしやその刀、王様の武器と同じ。師匠がヨモギの牙にエーテルを込めると、青い靄(もや)のようなものが刀身から出てきた。当たりですね。
『テン』を起こしやがった。
なんだそれ!操られながら説明なんて久々じゃのう!
テンとは異世界にある『黎明の国』で信仰されている、小さな動物の名。この刀の様な靄につつまれている時は、地上にいるどんな生物よりも速く動き、同時に最高峰の防御力を持つ。眠っている時は靄が出ることはない。
だからそれこの現象のことを『テンを起こす』というんじゃ!成る程!もしかしてこれ攻撃力も。上がるめっちゃ上がる!!
テンを起こした武器は盾にもなる。物理型でいえば、彼らの角自体が鋭さと強度を増すと考えい!折れない焦げない曲がらない。電波は持っていた剣にエーテルを込めた。そして空間の壁を攻撃する。斬れないじゃん。
ざんねんそうな顔を!うわっ!ハゲは師匠の刀を躱し続けた。
儂を斬れ。それで目的の一つは達成する。あほか。電波はハゲの前に出て、師匠の刀を剣で受け止めた。お前達を斬るなんて御免じゃよ。鎧の奥で師匠は笑った。早くしろ。時間は止まってはくれないぞ。
ハゲ師匠こんなこと言ってるけど。
ふざけんなばーか!!×2
君の行動パターンは実に単純なんですよ。甲高い声が響く。あ?!箱の作製中に王様は、ワイスナイトがこちらの偵察に来ていることに気付いた。
そして何も知らない振りをして、境界の出現する数時間前、ギリギリになってワタシを森へ向かわせた。
時間が早まったのはお前の能力か。事は予想通りに進んでいると思って油断しましたね。王様は風使いやワイスナイト以外の仲間の存在を知らなかったけれど、雷の使い手が異世界に来れば何も問題は無いと考えた。
君は誰よりも先に最も危険な場所へ向かう。他の誰かに頼るということを、極力避ける傾向がある。そこを利用させてもらった。
雷の力には驚かされたね。箱の進行を遅らせるほどの威力。
しかし懸念していた許されざる剣の力が使えないようだし、戦の神はこちらに味方している。さぁワイスナイト。そろそろ本気で戦ってもらうよ。