あるところに、与平(よひょう)という男が住んでいました。与平は働き者で正直者でした。
雪の降るある日、仕事場へ行こうとチャリを走らせておりますと、川の淵で一羽の鶴がワナにかかってもがいておりました。動けば動くほどワナは鶴を締めつけます。男はとてもかわいそうに思いました。
「いま助けてやるからなあ。」
助けてやると、鶴は山に飛んでいきました。
しばらくたったある晩。
男が仕事から帰ってきて家でビールなんぞ飲んでおりますと、玄関ドアをたたく音がしました。
「こんな夜更けにだれだろう。」
男がドアを開けますと、美しく若そうな女が立っていました。
「雪が深くて道に迷ってしまいました。バスも電車も最終を過ぎてしまったことですし。。。どうかひと晩泊めていただけないでしょうか。」
「ご覧の通り質素な家ですが、よろしかったらどうぞ。」
次の日も、また次の日も雪が降り続きました。何日かたったある日、美しく若そうな女は 男に言いました。
「私は布を織りたいと思います。 糸を買ってきてくれませんか?」
男はさっそく糸を買ってきました。布を織り始めるとき、美しく若そうな女はこう言いました。
「布を織っているあいだは、け・・・・・・・・・・・・・っして部屋をのぞかないでください。」
「わかりましたよ。けっしてのぞきませんよ。すばらしい布を織ってくださいね。」
若そうな女は部屋に閉じこもり一日中布を織り始めました。 夜になっても出てきません。
次の日もまたその次の日も、若そうな女は布を織り続けました。男は正直ものでしたから、女との約束を守り、布を織る音をただ聞いていました。
さて部屋にこもって布を織っている女は、名をつうといいました。
つうは3日3晩織り続け、やっと布が織りあがりました。その布は、端から端までため息の出るような美しい仕上がりでした。 それにもまして与平が驚いたことに、部屋から出てきたつうは前よりも美しく若そうになっていました。
「こ、これはどうしたことか。 飲まず食わずで布を織り続け、まして眠ってもいないのに、こんなに美しい布を織りあげるとは! そして、栄養も水分も睡眠もとらなかったのに、つうがより美しくなっているとは!」
そんなこんなを思いめぐらしながら、与平はその布を市場へ売りに出かけました。それはそれは美しい布でしたので、その布はとても高く売れました。
つうが布を織り、与平がそれを市場で売る。 そんな生活が続きました。
けれど与平は不思議でたまりません。 つうはどうやってあの美しい布を織っているのか。 そして、布を織るたびにつうはどんどん美しく若そうになっていく。布を織っているときは絶対に部屋をのぞいてはいやだとつうは言うけれど、ひとめでいいから、つうが布を織る姿を見てみたいものだ。
与平のこの思いはどんどん大きくふくらんでいきました。 与平は、根が正直ものでしたから、自分の心に嘘をつくこともできません。
そして。
そしてついに、布織り部屋の戸をそぉ~~~~っと開けてしまいました。
すると、なんということでしょう! つうは、
≪眠くなったので来週日曜日につづく≫