呉式太極拳の魅力 | 健康・護身のために太極拳を始めよう

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太極拳は、リラックスによるストレス解消、血行改善、膝・腰強化、病気予防などの健康促進効果以外に、小さな力で大きな力に勝つような護身効果もある。ここでは、中国の伝統太極拳の一種である呉式太極拳の誕生、発展およびその式(慢拳・快拳・剣・推手)を紹介する。


中国では、歳を取るにつれて少林拳など激しい拳法から太極拳へ方向転換する人が多く見られる。そして一度太極拳をものにした人間は二度と他の拳法に戻ることなく、太極拳以外に求めるものがないと口を揃えて言っていると聞いている。また、太極拳の諸流儀の中、陳式は套路に発勁や激しい動きがあり、年配の初心者には向かない。 陳・楊・呉・武・孫の5大流儀の中、武式を除き、呉式が最も歩距や動きが小さく年を取っても練習できる生涯スポーツだと思う。


呉式は「柔」を特徴としこの「柔」は特に相手から力を受ける推手の中でよく見られる。かかってきた「剛」の力を「柔」で受け流し、その瞬間、相手の足元を浮かしたりバランスを崩したり(いわゆる「引進落空」の技)することによって 発勁しなくても小さな力で相手を倒せる。相手と善意な腕試しなどの際に「引進落空」だけで十分試せるので相手の面子のためにも発勁で倒さないほうが賢明だ。 馬岳梁大師の晩年の珍聞はほとんどそれだ。何しろ、発勁は自己消耗にもつながるからだ。 呉式の長寿者はこの長所を見事に生かせたのではないかと思う。但し 相手とレベルが近い場合の「柔」の発揮はそう簡単ではない。その場合の自己消耗も避けられない。 太極拳の他の流儀も同様の「以柔克剛」 (「柔を以って剛を制す」の意)があるが、呉式は最も代表的だと言えよう。


呉式は陳式と楊式のエッセンスの集大成なだけに内容が極めて豊富だ。推手実戦のすべてのケースに対応した定歩推手の十三式もあれば、八卦掌かと一瞬錯覚するほど敵の後ろへ回る活歩推手の九宮歩、七星歩、連環歩もある。また、太極剣・刀・槍・桿などの器械トレーニングにおいても 剣の套路だけでも「乾坤剣」、「七星剣」、「連環剣」と3種類あり その豊富さは太極拳の諸流儀の中で類比するものがなかろう。更に、94式もある動作を5~6分で終わる快拳も希少価値がある。太極拳の他の流儀にもこれに相当する套路が昔からあるが、存命中の伝人が僅かしか残っていないのも事実だ。世間の人の目に映る太極拳はやはりゆっくりと動くものしかないのだ。


呉式にも簡化版がある。 呉英華大師と馬岳梁大師によって編成された 「呉式精簡太極拳」、両大師の長男・現上海鑑泉太極拳社社長の馬海龍大師によって編成された「呉式太極拳十六式」のいずれも 太極拳の普及のために作られたものだ。簡化版は動作の式が省略されただけで要求が下げられたわけではないことに十分注意を要する。 さもなければ太極拳の効果が望めない。また、動作が少ないため一通り行っても運動量が足りないことがある。その場合は同一内容の反復練習が必要だ。


筆者の師匠の一人である蒋忠保大師(楊式五代目伝人)は 陳・呉・武の諸流儀に精通しておられ、呉式の「斜中正」の動きをお辞儀と形容され、「呉式のこのお辞儀はすばらしい。吾ら武術を学ぶ者はこのような謙虚さが必要だ」と 冗談半分でおっしゃられた。上海でも指折りの武術の達人のさりげない冗句がとても印象的だった。これも呉式太極拳の魅力の一つとして肝に銘じたいと思う。