太極拳の修行方法の心得 (4) | 健康・護身のために太極拳を始めよう

健康・護身のために太極拳を始めよう

太極拳は、リラックスによるストレス解消、血行改善、膝・腰強化、病気予防などの健康促進効果以外に、小さな力で大きな力に勝つような護身効果もある。ここでは、中国の伝統太極拳の一種である呉式太極拳の誕生、発展およびその式(慢拳・快拳・剣・推手)を紹介する。


◎套路と他のトレーニング
  套路とは、太極拳の各技法の動作を一本化し、一定の長さで連続して日常的に練習できるように作られたものだ。套路練習のメリットは、これまでに述べたように体の経絡を毎日気をめぐらすことによって健康・長寿に資する ことは言うまでもないが、聴勁など太極勁の形成に不可欠な、動きの均等・ 軽霊・連貫などの諸要領も套路のような一定の長さを必要としている。また、太極拳の套路練習そのものも内功修行の一部分だ。 要求通りに套路練習 を積み重ねていくと、所謂「積柔成剛」(「柔を重ねると剛となる」の意)ともなり、内功の強化ともなる。

  では、太極拳の修行は套路だけで十分なのか。われわれ現代人は主食のご飯以外に ビタミン剤といったサプリメントを飲んでより元気にしている人も多数いる。 套路を主食とすれば、站樁(立禅)や他の様々なトレーニング方法がサプリメントとなる。 世の中は主食だけで元気に暮らしている人もおれば、規則正しく食事がとれずサプリメントに頼って生きている人もいる。但 し格闘技が主目的の場合、このようなサプリメントを飲んでより強くせねばな らないだろう。


◎呉式と他流儀
  呉式太極拳の魅力は別論にするが、ここでは動きの特徴から複数の流儀を習う場合の順序の合理さと留意点について私見を述べたいと思う。武式を除けば、陳・楊・呉・孫の諸流儀の中で呉式は最も動きが小さい。 「先求開展,後求緊湊」 (《十三勢行功心解》より。「先ず肢体の伸展を求め、後からコンパクトを求めていく」の意)の原則によれば、複数を習う場合、陳・楊・孫から呉へ、又は呉から武への順序がより合理的と言えよう。 逆に言えば、呉式の後に武式以外の流儀を習うことは合理的ではないことになる。

一方、他流儀の経験者が呉式を習う際に最も留意すべき点は2つある。1)呉式は勁力の伝達に独特な力学構造を持っており、弓歩時に上体の前傾(所謂「斜中正」)を要求する。これは他流儀練習者の慣れないところだ。2)呉式は前足と後足を同じ方向へ向くように置く所謂「平行歩」と「川」の字のように前進・後退する所謂「川字歩」が頻繁に使われており、他流儀練習者にとってはこれも難所のようだ。

◎規範と探求
   太極拳は流儀を問わず共通の要求・要領がある。この要求・要領の規範化、即ち少しでも外れてはいけないことは、誰しも疑問を持たない。 とはいえ、筆者の《太極拳の流儀と規範化》の文中にも議論したが 動作の内容においては、流儀が異なると当然異なるが、同じ流儀でも師匠によって異なるケースが多々ある。 呉鑑泉始祖でさえ、型が早期と晩年によって異なるくらいだ。これは探求と理解すべきだ。

   太極拳は生き物だ。形式的に拘ってしまうと成長しなくなる。その原理は習字と同様だ。最初は名手の字を模倣する。その段階では基本的な要求・要領を学び、規範化を求める。しかし、その規範が身についた段階になると、更にその殻を破って新しい可能性を探求するのだ。 さもなければ、オリジナリティもなければ、新しい発展もないのだ。