前回分
「……だ、代償……? 一体、どんな貸しがあるんだよ…」
軽石乃亜(カルイシ ノア)は椅子が斜めになりながらも声を出す。
「ということはあり過ぎて思い出せないということで良いかしらね?
まー思い出したとして、あなたの力で返せるとは到底思えないもの」
「つーかよ~~いい加減、ここから降ろしてくんない? オバサン……うわ~~!」
とうとう椅子は更に傾き、横向きになってしまう!
「す……すみません! ごめんなさい! 美しいお姉さん!」
乃亜は訂正するものの……
椅子の傾きは直らなかった。
「いいじゃない、そのままで斜めより楽じゃない?」
魔女は不敵に笑む。
「……いや、それよりこの状態やめてくれないかな?」
乃亜は真横になったまま動けない。
「だから、あなた次第よ、その状態でいるか、それとも過去に戻り借りを作らないようにするかはね」
過去?
乃亜はいぶかしがる。
そして魔女は続けて……
「過去に戻る場合は失敗する度に代償を頂くことになるけれど。
そして、その状態で間地菜乃に対する様々なことを思い出せたら、あなたからの代償は極力とらないであげるわ」
「えっ⁉️ マジかよ!」
思わず動き落ちそうになる。
天井際にいると意外と高く感じて……
「ちょっと時間をくれ」と乃亜。
「それはいくらでも待てるわ、構わないわよ」
魔女は動じない。
乃亜は椅子ごと真横になったまま思い出す。
……間地菜乃。
オレと同じ会社に入ってきた。
視力が悪くてメガネだったが、乃亜がコンタクトレンズにしろと言ったら、本当に実行した女。
コンタクトレンズにしたら、意外とましになり……
そういえばどことなく、母親に似てるような気がしてきた。
乃亜は最初の頃の菜乃を思い浮かべる。
車ははっきり言ってオレより高い車に乗っていて、しょっちゅう車を出させてもらったし、更に自分も運転して乗り回していた。
ただ……だんだん重く感じてきて……
したい時だけ呼び出していた。
その内、仕事を転職したら転職先で出会いがあって、菜乃を捨て……
あ……
「そういうこと~~よく思い出したわね? 車をさんざん乗り付けて……それから、体だけ求めて、更に他の女性にのりかえたと、
じゃあ、それ全部返してくれるかしら?」
魔女の顔が突然乃亜の目の前に現れて……!
え!? 今、どういう空間になっているんだと、乃亜は混乱していた。
「だから言ったでしょう? 魔女だとね」
魔女は乃亜と同じ向きに真横に浮いていて……!
「金か! ……それでおとしまえがつくなら仕方ない……」
「お金なんていらないわ。
わたしが欲しいものは、娘のおとしまえをつける為に必要な代償なのよ!」
魔女は力強く言った。
「じゃあ、オレの車を持っていけばいい! それから……それから……そのオレが代わりにあんたの相手になってやるっていうのは?」
乃亜は更にそう言うと……
「……わたしの娘のおとしまえはそんなものじゃ足りないわよ。
わたしがあなたから頂く代償は……あなたの家族! それだけよ」
乃亜に衝撃が走る!
「ええ!? 嘘だろう? そこまでしないだろう? 冗談だろう? 家族は関係ないだろう?」
「残念だけど……選んだのはあなたよ、結局、あなたは自分を差し出せなかったんだものね、それがあなたの本心よね」
「待ってくれ! これは悪い冗談だろ? ただの夢なんだろう?」
「夢かどうかはあなた自身で確かめなさいな、もう2度と会うことはないと思うわ、さようなら」
パチン!
目の前に火花が散った気がして、ハッと我に返った時は……
乃亜は車の運転中で……
そして家族を全員乗せて、そのままなぜなのか崖から今まさに転落して……!
気づいた時には乃亜は意識だけがあり……
何とかまわりを見渡すと、妻も子供ふたりも無惨にも血だらけで息絶えていた。
そして乃亜は激痛が走り、まさかと恐る恐る下を……下半身を見ると、そこには血がもの凄く広がっていて……!
乃亜は絶望と苦痛と激痛という、いくつもの衝撃を一気に味わい声にならない声をあげていた。
その様子をまたもや遠くから見つめる魔女がいて……
「おとしまえつけさせてもらったわ、極力取らなかったでしょう?
1ヶ所以外は。
生きるって時には地獄かもね」
魔女は……間地菜乃の母親と名乗る魔女は3つの魂と男の局部を淡々と持ち去って行った。
続き
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