「あーあ、家に帰りたくねーなー」
仕事帰りのあるお父さん、45歳の加襟卓那(カエリ タクナ)がそんな風にぼやいていた。
時間は夜の8時……
妻は子供のことばかり、長女はもうすぐ高校受験。
下の子供達も卓那に昔よりお父さんお父さん言わなくなる。
家では蚊帳の外。
自分の居場所がない状態だ。
ブラブラとしながら時間を潰す始末。
「一服するか~~」
駅から徒歩なのでアルコール可能。
コンビニには……もっと大きな通りに行かないとなかった。
自販機は……アルコールは入っていない。
「あ~~ビールでも欲しいな~~」
と呟いた時だった。
ふと気づくと、風変わりな自販機が目につく。
ただ、百円以上を入れて下さいと書いてあり、後は何が出てくるか判らない自販機ガチャです。
ただしあなたのお望みのものが必ず手に入ります。
と記されていただけだった。
「何だこれは~~⁉️」
卓那はいぶかしく思い……
通り過ぎようとするものの……
今まで見たことがない自販機ガチャがどうしても気になる。
「何が出るか判らないけど、百円以上ならいいわけか、だったら百円でもいいってことか?」
百円玉を入れようとする。
「いやいや……百円だととんでもないものとか出てくる可能性も大きいってことだよな、じゃあ~~」
卓那はチャリンチャリンと百円玉を2枚入れた。
ボタンは1つのみ。
ガシャンと缶ものが落ちてきた。
思わず、手に取る卓那。
「え? 凄い嘘だろう? ジョッキ缶……かよ!」
卓那が欲しがっていたビールしかもジョッキ缶だった!
近くにベンチを探して蓋を開けると、泡がみるみる出て来て!
「かあ~~! うめ~~!」
思い切り昔の親父的になる卓那。
「これ開発した人はすげえな~~……」
飲みながらふと缶の裏側の文字を思わず読んでしまい……
そこには、
これは次の日に持ち越さないように、その日の内に飲み干して下さい。
1週間のみですが驚く程家族と仲良くなれます。
「ええっ⁉️」
まるでモンスターのように文言が書いてあった。
1週間……
それでも家族と仲良くなれるとは、加襟卓那の願望そのものだった。
昔のようにみんなと楽しく出来る⁉️
そう思いながら、卓那は帰宅すると、
「お帰りー!」
まさかの家族総出で迎えてくれた。
妻も子供達もみんな揃っていて……
「ただいま……」
卓那は感激する。
「ご飯にする? お風呂にする?」と妻。
「お風呂一緒に入りた~~い」と小4の末っ子の息子。
突然、みんなで卓那を構ってくれて……
卓那はとっさに自販機ガチャが頭に浮かび、あの自販機ガチャのおかげだと気づく。
そして、先にお風呂に末っ子の息子と一緒に入る。
それから妻が優しくご飯の用意をしてくれて、目の前に座ってくれた。
いつも夜はひとりでご飯を食べる。
またもや感激する卓那。
更に、
「はーい! ジョッキ缶! とうとう生産が追いついたみたいでどこのお店にも普通に置いてあるようになったのよ」
「え? そうなんだ……」
卓那は戸惑う。
さっき自販機ガチャでジョッキ缶を飲んできたばかりだから……
「どうぞ」
と妻にすすめられて、卓那はジョッキ缶をグイグイと飲む。
途端、
「あれ? 私何してんだろう? もう寝るねー、後片付けお願いね」
そっけなく卓那の前から席を外していく。
子供達もリビングでわいわいしていたのに、突然、それぞれの部屋へ行ってしまう。
卓那はあれ? となり、ジョッキ缶の裏側に書いてあったことを思い出そうとした。
……ただし、同じ飲み物を飲むと効力は途端に失ってしまうので気をつけて下さい。
そんなことはあり得ないと思って、さあーと読んだだけで、注意事項を忘れていた卓那。
「そんな~~」
卓那はガッカリする。
ジョッキ缶の効力は数時間後に消え失せていた。
……また別の人があの自販機ガチャで百円玉を入れていた。
そして出てきたのは、
「やった! Yクルト1000だー!」
と喜んでいた。
続き