劇団鹿殺しの十周年記念公演
『スーパースター』
を青山円形劇場に観に行った。
噂には聞いた事があったが、観るのは今回が初めて。
結論から言うと
面白かったです。
劇中の歌や音楽もオリジナルでバンド活動も行ってる劇団だけあってすご
くよかった。
なんか若い感じの芝居で
みんなで力を合わせて頑張っていこう!って感じがすごく伝わってきて
なんだか青春な感じがした。
来年あたり出てみたいな。
誘われてもねーけど。
二〇〇〇年 一月
僕らのプロとしての芸人生活が始まった。
ネタバトルを勝ち上がって獲得した劇場のレギュラー権。
夢にまでみた劇場のレギュラー。
養成所に入った時、自分がそこに上がれるなんて夢にも思わなかった。
心斎橋の劇場のオーディションに毎回落ちていた時、自分達には無理なんじゃないかと何度も心が折れそうになった。
でも、気持ちだけは負けまいと何度も自分に言い聞かせて頑張った。
誰もが無理だと思っていても自分達だけは出来ると信じてやろうと誓い合って頑張った僕たち。
同期の奴らが笑っても、ネタ合わせを決して辞めなかった。
努力は必ず報われる。
そして勝ち取った権利だった。
でも、本当の戦いはここからだった。さらに過酷な、神経をすり減らすような戦いの日々、そして辛い現実が待っていようとは…
この時の僕らはまだ、知る由も無かった。
そんな思いの詰まったレギュラーライブの初日。
それは衝撃的なものだった。
大阪は古くから演芸が根付いている街。
その為、各テレビ局やラジオ局が主催となってネタのコンテストを数多く行っている。
それらは賞レースと言われた。
その中の一つに若手の登竜門的な位置づけでそこで最優秀新人賞、いわゆる大賞に選ばれると必ず売れると言われ、過去にそうそうたるメンバーが受賞しブレイクしていった賞レースがある。
それは毎年、成人の日の昼間に決勝戦が行われ、その模様が関西地方で生放送される。
その日は丁度成人の日でこのライブに出演するレギュラーメンバーの何組もが決勝に出場していたのだ。
ライブのレギュラーメンバーでその決勝に出ていなかったのは、僕らを含めたったの三組だけだった。しかもその中の一組は僕らと同時に昇格した後輩コンビだった。
僕らはライブ本番だというのに静かな楽屋のテレビでその様子をじっと見守っていた。
緊張の中全てのネタが終わり
そして結果発表…
なんとその中の先輩コンビが見事最優秀新人賞を受賞した。
静かだった楽屋に大歓声が上がった。
開演前の劇場ロビーのもその様子が映し出されていた為、大歓声はロビーにも広がっていた。
一瞬にして興奮に包まれた。
その直後、舞台が開演。
他のメンバーは賞レースに参加していた為、急遽三組だけで幕を開けたライブ。
受賞の興奮に包まれた客席。
ライブ中盤で
生放送を終え到着し、遅れて次々に舞台に入ってくるメンバー達。
その度に大歓声が沸いた。
最後に受賞後の記者会見を終え到着した先輩コンビが舞台に入って来た。その瞬間、会場はこの日一番の大歓声に包まれ、大興奮のままその日の舞台は幕を閉じた。
そして夢のような一日が終わった。
改めて僕はすごい舞台に立っているんだと思った。
芸人になる前から観ていた番組だった。
こんなのに出れたらいいなと思って観ていた。
でも、すごく遠い世界だと思っていた。
そんな番組に出ている人たちと僕は同じ舞台に立っている。
しかも最優秀新人賞まで取った人たちまでいる。
その事を考えただけで興奮した。
僕たちが出演していたレギュラーライブは今考えてもとてもレベルの高いライブだった。
現にその時最優秀新人賞を受賞した先輩コンビは後に始まった漫才日本一を決める番組で日本一になった。その後もそのライブに出ていたコンビが何組も漫才日本一に輝いている。そして他のほとんどのコンビが決勝に駒を進めている。
そんなライブに僕らは出ていた。
祝福される先輩コンビの後ろ姿を見ながら
僕もその番組に出てみたい!
大勢のお客さんの前でネタをしてみたい!
そう、強く思った。
二十三歳の成人の日の事だった。
最近
ユーミンにはまってます。
いや、ムーミンじゃなくてユーミンです。
いや、だからホーチミンじゃなくてユーミンです。
松任谷由美(荒井由美)さんです。
昔のユーミンの曲を聴いていると
無性に恋がしたくなります。
あ~
自転車の後ろに女の子を乗せて
坂道下りてぇ~
「好きなひとが、できました」
って言いてぇ~
中二の恋がしてぇ~
いや、中二と、じゃなくて
中二の、です。
一九九九年 年末
劇場に昇格して間もなく仕事が舞い込んできた。
カウントダウンライブ。
劇場のレギュラー組三十組が総出演するそのライブ。
つい先日レギュラーに昇格したばかりの僕らもメンバーに入っていた。
そのリハーサル。
目の前にテレビで観ていた憧れの先輩芸人たち大勢いる。
当たり前のことだが。
その中に僕らが入っているのが信じられなかった。
養成所に入ろうと決めた時、入学願書と一緒に入っていたパンフレットの主な出身芸人に名前が載っていた人たち。
「こんな世界に自分も入れるのか?」
ただ憧れていただけだったあの頃。
その中に今自分がいる。
夢のようだった。
劇場のレギュラー芸人はランク付けがあった。
トップ組と呼ばれる三組。
劇場のリーダー的存在で、すでに深夜に冠番組を持っていて、その人気は爆発的なものがあった。
プロデュース組。
約十五組くらい在籍。
毎日、開演している劇場ライブに日替わりで出演する他に多いコンビで一ヶ月に一度の単独ライブ開催。少ないコンビでも三ヶ月に一度の単独ライブをすることが義務付けられている。言わば会社側からも認められた実力派芸人達。
準レギュラー組
十組。
毎週月曜日に新ネタライブを行う。そしてイレギュラーでトップ組、プロデュース組の先輩達に混ざり日替わりライブに出演。
僕らはその最下層である準レギュラー組。だがその下にはその枠を狙うオーディション組が何百組とも何千組ともいうほどいる。
まさにお笑い戦国ピラミッド。
僕らはそんな中にいた。
そして、そんな僕らを含めた準レギュラー組十組は新しく出来たその若手の劇場の向かいにあるこの会社の総本山と言われている劇場担当だった。
その舞台ソデ。
出番前を待つ僕ら。
その前で僕ら十組が出演するレギュラーライブのリーダー的存在で今回このカウントダウンライブの僕らの仕切りを任されていた先輩芸人が僕ら十組の担当マネージャーさんとなにやらヒソヒソ話をしていた。
僕はその内容に耳を疑った。
「あ~SEXしてぇ~」
「あとでな。あとでな」
ソデは薄暗くて見えにくかったが、その手は握られていた。
「え~!!!」
その真意は分からなかったけど、
僕は
「怖い世界に来た」
そう思った。
とはいえイベントは始まり
目の前には千人近いお客さん。
全てが初めての経験だった。
ソデで先輩たちのネタを観ていた。
地響きのような爆笑の数々。
これが、テレビで活躍しているプロの芸人。
レベルの違いをまじまじと感じさせられた。
僕も早くこうなりたいと思った。
緊張ととまどいの中、無事イベントは終了した。
緊張で頭の中は真っ白だった。
だけど
幸せだった。
この中にいることが
幸せだった。
夢に向かう第一歩。
スタートラインに立った。
そのことだけで幸せだった。
こうして僕の芸人人生は始まった。
そして新しい年も始まった。
僕はここからどんどんのし上がる。
その為の努力は惜しまない。
面白いネタを作り続ければ必ず売れる。
そして僕らは東京に行く。
僕らの目は希望に満ち溢れていた。
この先、何度となく訪れる壁も二人で力を合わせれば必ず乗り越えられる。
そう思っていた。
その頃はまだ、そう思っていた。
二十一世紀まであと一年、二〇〇〇年の元旦の事だった。