本日行われた第4期清麗戦五番勝負第3局は、後手番の里見女流四冠が中飛車とし対抗形の将棋で加藤清麗を108手で下し、通算3勝0敗で見事にタイトル奪回を果たされました。
ちょうど今私の手元に中島敦の文庫本があるのですが、里見さんを見ていると、その中の『名人伝』という短編エピソードが思い起こされます。弓の名人を志した紀昌という男が、晩年には弓矢そのものを忘れてしまう。古典を題材にした物語ですから、究極の心境をデフォルメして描いたのでしょう。流石に里見さんも、この名人の域には及ばないまでも、何かその入り口に一歩足を踏み入れた人の様相をなしているかのよう。誰かに勝つためとか何かの目的のために戦っているのでもなく、朝起きて歯を磨いて人に会ったらおはようございますと挨拶するかのごとく、対局がつけばそれを喜びに感じ自分の力が十分発揮できることだけに集中し一局を指す。対戦相手からすれば、闘志むき出しで向かってくるでもなく、淡々と自分自身を表現する人と対峙する不気味さがあるのではないかと。
まぁ、これは私の妄想であって、御本人は冗談ではない、一局一局それこそ全身全霊を込めて100%以上の気力体力の全てを注ぎ込んで戦っているのだと。そういうことかもしれませんが...。
これまでの番勝負だと、1局目と3局目は、里見さんもそうですが加藤さんも同じ戦形とすることが多かったと思うので、今日の後手中飛車は若干意外な感じはしました。ただ策を練って相手の思惑を外すために選んだというのでもなく、その時の(つまり今日の)気分とか思いとか考えとか、そういうことのバランスの中での自然な選択の結果ということかと思います。今後、後手番でもやっぱり中飛車が軸になっていて、多少散らすために(研究が枯渇しにくいように)四間飛車等を織り交ぜるのか、或いは主軸を一つに絞らずいろいろ採用するのか、その辺は注目されるところです。
奪取した里見清麗:後手番だったが、うまく手にのって攻めれた。1、2局目は反省の残る将棋だったが、3局目はうまく立て直せれた。今後にいかせるよう頑張りたい。
— 中日新聞 東京新聞 将棋【公式】 (@chunichishogi) August 3, 2022
加藤桃子女流三段:最短で失冠となり残念。里見さんにもたくさん教わりたかった。力が足りなかった。
写真は日本将棋連盟の提供 pic.twitter.com/yGsaMdInHw
ところで、今日の和服は色からすると霧島酒造さん※からのプレゼントの一着ですかね?
(※訂正:記憶違いで、囲碁将棋チャンネルさんからでした...。すいません。)