「恋しくて…」

*12*




翌日。


「お、おはようございます。」

テギョンの顔を見るなり、ミニョが顔を真っ赤にしていた。

テギョンを見るなり、ミニョは、走馬灯のように昨夜のことを思い出していて、しかも、額とは言え、テギョンにキスをされ、挙げ句の果てに、ニッコリと優しく微笑まれたミニョは、ボーッと夢心地のような状態でいた。

「おはよー。あれ?ミニョ?顔、赤いけど、大丈夫?」

ジェルミに指摘され、ミニョが、ハッと驚いたように、目をキョロキョロと動かしながら、両手で頬を挟む。

「えっ、あっ、大丈夫です。よ、よろしくお願いします。」

とミニョは、顔を隠すように頭を下げると、ぎこちない動作でソンミンの元に掛けていく。

テギョンは、そんなミニョを口元を拳で隠しながら声を出さずに笑っている。

「ねぇ、テギョン?昨日、ミニョといいことでもあったの?」

そんな、テギョンの腕をツンツンと肘鉄を入れながらニヤニヤと笑っているワンは、昨日の『貢献者』と言っても、過言ではないだろう。

「ヌナ、昨日は、ありがとうな。」

「あら、あのテギョンから感謝されるなんて・・・どうしましょ?」

バシバシとワンに手加減なしに腕を叩かれ、テギョンは痛さで顔を歪めた。

「でも、今回は、テギョンのためっていうより、可愛い妹のためよ。
ミニョは、大好きなアンタから離れて、ひとりで頑張ってきたの。一生懸命、頑張ってきたんだから、ミニョは幸せにならないといけないのよ。
テギョン、私に感謝してるなら、態度で示しなさい。
あのコの手を掴んで、絶対に離さないで、誰よりもミニョを幸せにしなさい。それが、アンタが私に出来る恩返しよ。わかったわね!」

「あぁ、もちろん、そのつもりだ。」

テギョンの自信に溢れた言い方に、ワンはクスリと笑った。

「さすが、天下のファン・テギョンね。さぁ、仕事、仕事。」

今度は、バシッと背中を叩かれ、テギョンはまた痛さで顔を歪めた。

A.N.JELLのメンバーが準備している間、撮影スタッフも準備の真っ最中だった。

「ミニョ、顔が赤かったけど、ホントに大丈夫なのか?」

ソンミンが心配そうに、ミニョの頬に触れる。

「心配かけて、すみません。大丈夫です。」

真面目に答えるミニョをよそに、そのままムニムニとミニョの頬をつねるソンミン。

ムニムニと頬で遊んでいるようにしかないソンミンに、ミニョがムスッとしている。

「ソンミンさん、私で遊ばないでくさだい!」

衣装のチェックをしているテギョンは、楽しそうにしているふたりを気に食わなさそうに、口を尖らしながら睨むように見ていた。

衣装のチェックも終わり、撮影が始まる。

今日はニューヨークの街並みをバックに撮影をしていく。
シックな装いをしたメンバーたちは、まるで、モードファッション誌のモデルのような颯爽とした出立ちでポーズを決めていく。

テギョンの鋭い視線がカメラを射貫くたびに、ソンミンの後ろにいるミニョは視線が合うたびに、ドキドキしていた。

“まるで、自分を見ているような・・・って・・・ううん、違う・・テギョンさんは、カメラを見てるのよ・・だから、違う。”

それでも何度も合うような視線にミニョは、恥ずかしそうに、頬を赤くして視線を逸らした。

テギョンも、わざと、カメラを見るように、視線をミニョに向けていた。
ミニョは驚いたような顔をしながら、考え事をしているのか、無意識に首を振っている、また視線が合えば、驚いたり、困ったり、終いには、恥ずかしそうに、視線を逸らしてしまっていた。
テギョンは、ミニョの真っ赤な頬がいとしくて、触れたいのに、すぐに触れることは出来なくて、もどかしそうに見つめているテギョンの顔もまた、カメラに収められていた。

昼の撮影が終わり、近くのレストランで昼食を取る。

「ミニョ、一緒に食べよう」

ジェルミに声を掛けられると、腕を引っ張られるように、メンバーが集まるテーブルにミニョは座った。

「ミニョがいると、すごく懐かしく感じて、なんか、すごく嬉しい!」

ジェルミがミニョを見つめながら、ニコニコ笑う。

「まさか、俺、ジャマ?」

「ミナムぅ、そんなこと言わないでよ…誰よりも愛してるよ、ミナムぅ…」

「うげぇ…キモチワル…」

ミニョは、クスクス楽しそうに笑っている。

「ミニョ、また、笑えるようになってきたみたいだな。」

シヌが良かったとでも言うように、ミニョの頭を優しく撫でる。

ミニョも、メンバーと再会した当初は、懐かしさより、後ろめたさがあり、ぎこちなさがあったが、また、ジェルミのハッピーウィルスとシヌの優しさと世話焼きのワンに接し、そして、何よりも会いたくて、わだかまりのあったテギョンと話したことによって、ミニョの心のつっかえが小さくなってきたように感じていた。

今は、メンバーといると懐かしさや楽しさを素直に感じられるようになり、ミニョは笑顔を見せるようになっていた。

撮影は順調に進み、本日の撮影が終了した。
ミニョは撮影スタッフと共に片付けをして、事務所に戻ると、ミニョの携帯が鳴り出した。

「Hello…」

「もしもし、コ・ミニョ?」

「あ、はい。ジェルミ…お疲れ様です。」

昨日、ジェルミたちとは番号を交換していた。前に使っていた携帯は解約をしてしまい、ニューヨークで、何かあったら困るから、とソンミンに携帯を買い与えられていた。今まで、携帯のアドレスに登録されているのは、ソンミンと事務所と一部のスタッフだけだった。

「ミニョ、今、何処にいる?」

「今、事務所に戻ってきたとこです。」

「ミニョ、今日、夜に時間ある?」

時計を見たら、まだ16:00を過ぎたばかりだった。片付けだけだから大して時間は掛からないはずだろう。

「大丈夫ですよ。」

「一緒に、ブロードウェイ観に行かない?」

「えっ、いいんですか?」

「もちろん!19:00頃、ヒョンが、ミニョのアパート知ってるみたいだから、迎えに行かせるから。よろしくねぇ( ゚∀゚)ノ」

ヒ、ヒョンって、テギョンさんのこと?

ど、どうしよ、そ、そうだ、待たせたらいけないから、仕事、早く終わらせないと。

ミニョは慌てながら、急いで仕事を終わらせ、帰宅した。

部屋に着くと、まだ18:00を過ぎたばかり、お茶を飲もうとケトルの仕度をしていたら、呼び鈴が鳴った。

えっ…ウソ…もう着いた?

そーっとドアの除き穴を覗くと、そこにいたのは、誰でもなくテギョンだった。

ミニョはそーっとドアを開けると、テギョンと視線が合った。

「すみません、まだ帰ったばかりで、すぐ仕度するので、良かったら、中で待っててくださいますか?」

そう言ってミニョは、テギョンを部屋の中に入れた。




「悪かったな、思った以上に早く着いてしまったみたいだ。」

「いいえ、大丈夫です。ソファーに座ってください、今、お茶淹れますね。」

テギョンは部屋をくるりと辺りを見回す。

備え付けの家具がついた部屋らしいが、窓辺にあるマリア像や観葉植物、星をモチーフにしたクッションやライトがあったりと、どことなく、ミニョらしさを感じるからだろうか、テギョンは居心地がよく感じていた。





★★★★


テギョンさん、部屋の潜入成功です。

スローペースで距離を縮めてるので、なかなか思うように進まず、年内に終わらせたいけど、ムリかなぁ…(;゜∀゜)

出来るだけ、描けるときは描いていきたいと思います。更新もスローペースですみません。どうぞ、気長にお待ちくださいませ。






























「恋しくて…」

*11*



テーブルにカクテルが運ばれてきた。
目の前にあるカクテルをテギョンが口を尖らしながら見ている。
しかし、ふたりがいるのはジャズバーで、ジャズの音楽とともに、アルコールを楽しむ場所だ。
ミニョがアルコールが弱いことは、テギョンは知っている。それは、思い出したくもない、忌まわしき過去があるせいだろうか、テギョンは苦い顔をしながら、ミニョのグラスを取り上げた。

「お前、アルコール弱いんだろ?」

「飲む分量を間違えなければ、大丈夫です。」

ミニョは不満そうに頬を膨らませる。

「ご迷惑はおかけしませんから・・・これでも、ソンミンさんに鍛えられて、だいぶ、強くなったんですよ?」

そう言って、ミニョはカクテルを飲み、ニッコリとご満悦の表情を浮かべていたが、テギョンは、ソンミンの名前を聞いて、口を尖らした。
ミニョは何も言わずに自分の元から離れ、自分の知らない男のそばにミニョはいた。
しかも、ボランティア先のアフリカから母国の韓国に帰ることなく、そのまま、ソンミンとニューヨークに来ている。
初顔合わせのディナーのとき、ふたりの関係を見ていたが、上司と部下と言うような社会的関係よりも、もっと深い関係ではないか、と感じた。ソンミンは、ミニョのことを恋愛感情があるような感じで見ていたし、ミニョも、ソンミンを慕っているように見えた。

“まさか、俺を差し置いて、付き合っていたりとかしてないよな・・・“


「おい、あのカメラマンのソンミンと、お前は、どんな関係なんだ?」

「はい?」

突拍子のない質問にミニョに驚いている。

「答えろよ」

「・・・上司と部下?」

「それだけじゃ、ないだろ?」

テギョンはその答えに満足してないらしく、更に聞いてくる。ミニョは、困惑の表情を浮かべている。

「うぅ…それ以上も、それ以下もないですよ。
ただ・・・私にとって、生きる道を与えてくれた″恩人″です。
一番苦しいときに、手を差し出してくれたんです。ソンミンさんには感謝しかないですよ。今、私がこうしていられるのは、ソンミンさんのおかげです。」

聞いたのは、自分なのに、不満そうに口を尖らすテギョンは、念を押すように聞く。

「恋愛感情とか、ないんだな?」

ミニョは、横を首に振った。

「・・・ソンミンさんを好きになることは、出来ませんでした。やっぱり、私には、一番に輝いている星がありましたから・・・」

そう言って、ミニョは泣きそうな笑顔で、苦しそうに胸をトントンと叩いてみせた。

そして、演奏が終わり、ふたりは店を出ていく。

「それじゃ、また明日」

店の出口でミニョが頭を下げ、歩いていこうとする。

「おい、待てよ。」

そう言って、テギョンはミニョと同じ方向に歩きだす。

「・・あ、あの、ホテルへの道、逆ですよね?」

「・・・送っていく」

戸惑うミニョをよそに、ミニョの身体に腕を回し抱き寄せると、テギョンは歩きはじめる。

“こんなに、身体が小さかっただろうか・・・”

ミニョがいなくなったあと、仕事で、女優を抱き寄せたことは何度もあったが、こんなにも胸が高鳴りを感じたことはなかった。

自分の腕にすっぽりと入る、小さくて細いミニョの身体を、テギョンは大事そうに抱き寄せながら、夜の街を歩いた。

「あ、あの、此処までで、いいです。ありがとうございました。」

ミニョの住むアパートの前にたどり着き、ミニョは、恥ずかしそうに、俯いたまま小さな声で頭を下げる。

「玄関まで送る」

頑なとしてミニョの身体を離れようとしないテギョンは、一緒にアパートの中に入っていく。





螺旋階段を昇り、ミニョの部屋の前にたどり着く。

「すみません、送っていただいて、ありがとうございました。」

ミニョが部屋の鍵を開ける。

「おやすみなさい、また明日、お願いします。」

そう言って、ドアノブを掴み、部屋の中に入ろうとするミニョの肩をテギョンは掴むと、ミニョの額に口づけを落とした。

驚き固まるミニョをよそに、テギョンはニヤリと口角をあげた。

「おやすみ、また明日」

そうして、軽快に螺旋階段を降りていった。

ミニョは、ドアノブを掴んだまま、口づけをされた額に手を当て、顔を真っ赤にしていた。





★★★★


じわりじわりと距離が縮まっています。

テギョンさんも動きだしました。
ちゃっかり、ミニョの部屋まで行ってますからね。

また、スタートに立ったふたりが手を取り合いながら走りだすように、これから、ふたりでゴールを目指したいと思います。

皆様には、もうしばらく、胸キュンしていただきますね( ´∀`)





「恋しくて…」


*10*




“ずっと、ずっと、会いたかった・・・”


ミニョは俯いたまま、流れる涙を拭う。

泣いているミニョを、テギョンはぼんやりと見ていた。
それは、薄暗い店内のせいか、テギョンには、俯いて泣いているミニョが、見えずにいた。

ニンジンやほうれん草を食べ続けていれば、ミニョの表情が、少しはわかったのだろうか・・・

今更、悔いても遅すぎることだ。

ただ、今は暗くても、ミニョの気配をそばに感じる。
同じ過ちを、二度と繰り返したくない。
今度こそ、ミニョを見失わないように、手離さないようにすればいいのだ。

意を決したように、テギョンはそっと手を伸ばし、ミニョの手に触れる。

驚いたようにビクッと震えたミニョの手を、テギョンは力強く握った。

懐かしい柔らかな感触に、テギョンの胸は高鳴り、同時に苦しくなるのを感じる。

「・・・ごめんなさい」

テギョンの大きく温かな手が触れた瞬間、ミニョは罪悪感でいっぱいになった。

沖縄で、この手を離してしまったことに・・・

沖縄を去ったあと、ミニョはテギョンの前に現れることはなく、何も言わずに、遠くに離れて行った。

何も言わずに離れてしまった罪悪感から、帰ることが、出来ずにいた。
テギョンに会いに行けば、嫌がられるかもしれない。
だから、会いに行ってはいけないと。
もう会うことも、帰ること出来ない。
だから、遠くで、寂しくても、テギョンを想い続けることを、ミニョは選んだ。

優しいけど力強く握るその手に、ミニョは謝らずにいられなかったのだ。

ミニョは、涙を落ち着かせるために、一度、深呼吸をする。

テギョンに大事なことを伝えるために・・・

「『約束』・・・守ってくれたんですね?
・・・ありがとうございます。」

『約束』と聞いて、テギョンはすぐに理解した。

「・・・必ず、返すと、お前と約束したからな。」

「・・・ジェルミから歌を聴かせてもらいました。・・・大事にしていただいて、すごく、嬉しかったです・・・本当に、ありがとうございます。」

ミニョは感謝の意を込めて、深々と頭を下げた。

「ミナムが、歌ってもいいと、言ってくれた。」

「兄が・・・ですか?」

「お前たちの親父さんが、きっと喜ぶだろうから、大事にしてくれ、と」

「きっと、父も、母も喜んでくれていると思います。」

何故、この双子は、母親を憎んでいるはずなのに、そんなことが言えるのだろうか・・・?

俺は、あのヒトの息子なのに・・・

俺を憎んでいないのか?

「・・・お前たちは、俺を憎んでないのか?
俺は、お前たちの両親の歌を奪ったあのヒトの息子だ・・・」

「いいえ、一度も、恨んでも、憎んでもいません。貴方が、モ・ファランさんの息子さんであったとしても・・・
あの歌を大事にしてくださっているのですから、感謝しかありません。
兄は、ミュージシャンの貴方を尊敬してると思います。だから、貴方に託したと、思います。」

ミニョが微笑んで見せる。
ミニョの優しいその笑みが、テギョンの心を癒やしていた。


もう、憎しみあうことは、自分たちには、必要ないのだ。

あとは、もう二度と、見失わないように、この手を離さずにいることだ。





★★★★

じわりじわりと、距離を縮めています。

テギョンさんのなかの問題も解決したし、あとは、テギョンさんが、本気出せば、あと、もう少しかな??

あとは、攻めるだけよ、テギョンさん!