「恋しくて…」


*10*




“ずっと、ずっと、会いたかった・・・”


ミニョは俯いたまま、流れる涙を拭う。

泣いているミニョを、テギョンはぼんやりと見ていた。
それは、薄暗い店内のせいか、テギョンには、俯いて泣いているミニョが、見えずにいた。

ニンジンやほうれん草を食べ続けていれば、ミニョの表情が、少しはわかったのだろうか・・・

今更、悔いても遅すぎることだ。

ただ、今は暗くても、ミニョの気配をそばに感じる。
同じ過ちを、二度と繰り返したくない。
今度こそ、ミニョを見失わないように、手離さないようにすればいいのだ。

意を決したように、テギョンはそっと手を伸ばし、ミニョの手に触れる。

驚いたようにビクッと震えたミニョの手を、テギョンは力強く握った。

懐かしい柔らかな感触に、テギョンの胸は高鳴り、同時に苦しくなるのを感じる。

「・・・ごめんなさい」

テギョンの大きく温かな手が触れた瞬間、ミニョは罪悪感でいっぱいになった。

沖縄で、この手を離してしまったことに・・・

沖縄を去ったあと、ミニョはテギョンの前に現れることはなく、何も言わずに、遠くに離れて行った。

何も言わずに離れてしまった罪悪感から、帰ることが、出来ずにいた。
テギョンに会いに行けば、嫌がられるかもしれない。
だから、会いに行ってはいけないと。
もう会うことも、帰ること出来ない。
だから、遠くで、寂しくても、テギョンを想い続けることを、ミニョは選んだ。

優しいけど力強く握るその手に、ミニョは謝らずにいられなかったのだ。

ミニョは、涙を落ち着かせるために、一度、深呼吸をする。

テギョンに大事なことを伝えるために・・・

「『約束』・・・守ってくれたんですね?
・・・ありがとうございます。」

『約束』と聞いて、テギョンはすぐに理解した。

「・・・必ず、返すと、お前と約束したからな。」

「・・・ジェルミから歌を聴かせてもらいました。・・・大事にしていただいて、すごく、嬉しかったです・・・本当に、ありがとうございます。」

ミニョは感謝の意を込めて、深々と頭を下げた。

「ミナムが、歌ってもいいと、言ってくれた。」

「兄が・・・ですか?」

「お前たちの親父さんが、きっと喜ぶだろうから、大事にしてくれ、と」

「きっと、父も、母も喜んでくれていると思います。」

何故、この双子は、母親を憎んでいるはずなのに、そんなことが言えるのだろうか・・・?

俺は、あのヒトの息子なのに・・・

俺を憎んでいないのか?

「・・・お前たちは、俺を憎んでないのか?
俺は、お前たちの両親の歌を奪ったあのヒトの息子だ・・・」

「いいえ、一度も、恨んでも、憎んでもいません。貴方が、モ・ファランさんの息子さんであったとしても・・・
あの歌を大事にしてくださっているのですから、感謝しかありません。
兄は、ミュージシャンの貴方を尊敬してると思います。だから、貴方に託したと、思います。」

ミニョが微笑んで見せる。
ミニョの優しいその笑みが、テギョンの心を癒やしていた。


もう、憎しみあうことは、自分たちには、必要ないのだ。

あとは、もう二度と、見失わないように、この手を離さずにいることだ。





★★★★

じわりじわりと、距離を縮めています。

テギョンさんのなかの問題も解決したし、あとは、テギョンさんが、本気出せば、あと、もう少しかな??

あとは、攻めるだけよ、テギョンさん!