「恋しくて…」

*11*



テーブルにカクテルが運ばれてきた。
目の前にあるカクテルをテギョンが口を尖らしながら見ている。
しかし、ふたりがいるのはジャズバーで、ジャズの音楽とともに、アルコールを楽しむ場所だ。
ミニョがアルコールが弱いことは、テギョンは知っている。それは、思い出したくもない、忌まわしき過去があるせいだろうか、テギョンは苦い顔をしながら、ミニョのグラスを取り上げた。

「お前、アルコール弱いんだろ?」

「飲む分量を間違えなければ、大丈夫です。」

ミニョは不満そうに頬を膨らませる。

「ご迷惑はおかけしませんから・・・これでも、ソンミンさんに鍛えられて、だいぶ、強くなったんですよ?」

そう言って、ミニョはカクテルを飲み、ニッコリとご満悦の表情を浮かべていたが、テギョンは、ソンミンの名前を聞いて、口を尖らした。
ミニョは何も言わずに自分の元から離れ、自分の知らない男のそばにミニョはいた。
しかも、ボランティア先のアフリカから母国の韓国に帰ることなく、そのまま、ソンミンとニューヨークに来ている。
初顔合わせのディナーのとき、ふたりの関係を見ていたが、上司と部下と言うような社会的関係よりも、もっと深い関係ではないか、と感じた。ソンミンは、ミニョのことを恋愛感情があるような感じで見ていたし、ミニョも、ソンミンを慕っているように見えた。

“まさか、俺を差し置いて、付き合っていたりとかしてないよな・・・“


「おい、あのカメラマンのソンミンと、お前は、どんな関係なんだ?」

「はい?」

突拍子のない質問にミニョに驚いている。

「答えろよ」

「・・・上司と部下?」

「それだけじゃ、ないだろ?」

テギョンはその答えに満足してないらしく、更に聞いてくる。ミニョは、困惑の表情を浮かべている。

「うぅ…それ以上も、それ以下もないですよ。
ただ・・・私にとって、生きる道を与えてくれた″恩人″です。
一番苦しいときに、手を差し出してくれたんです。ソンミンさんには感謝しかないですよ。今、私がこうしていられるのは、ソンミンさんのおかげです。」

聞いたのは、自分なのに、不満そうに口を尖らすテギョンは、念を押すように聞く。

「恋愛感情とか、ないんだな?」

ミニョは、横を首に振った。

「・・・ソンミンさんを好きになることは、出来ませんでした。やっぱり、私には、一番に輝いている星がありましたから・・・」

そう言って、ミニョは泣きそうな笑顔で、苦しそうに胸をトントンと叩いてみせた。

そして、演奏が終わり、ふたりは店を出ていく。

「それじゃ、また明日」

店の出口でミニョが頭を下げ、歩いていこうとする。

「おい、待てよ。」

そう言って、テギョンはミニョと同じ方向に歩きだす。

「・・あ、あの、ホテルへの道、逆ですよね?」

「・・・送っていく」

戸惑うミニョをよそに、ミニョの身体に腕を回し抱き寄せると、テギョンは歩きはじめる。

“こんなに、身体が小さかっただろうか・・・”

ミニョがいなくなったあと、仕事で、女優を抱き寄せたことは何度もあったが、こんなにも胸が高鳴りを感じたことはなかった。

自分の腕にすっぽりと入る、小さくて細いミニョの身体を、テギョンは大事そうに抱き寄せながら、夜の街を歩いた。

「あ、あの、此処までで、いいです。ありがとうございました。」

ミニョの住むアパートの前にたどり着き、ミニョは、恥ずかしそうに、俯いたまま小さな声で頭を下げる。

「玄関まで送る」

頑なとしてミニョの身体を離れようとしないテギョンは、一緒にアパートの中に入っていく。





螺旋階段を昇り、ミニョの部屋の前にたどり着く。

「すみません、送っていただいて、ありがとうございました。」

ミニョが部屋の鍵を開ける。

「おやすみなさい、また明日、お願いします。」

そう言って、ドアノブを掴み、部屋の中に入ろうとするミニョの肩をテギョンは掴むと、ミニョの額に口づけを落とした。

驚き固まるミニョをよそに、テギョンはニヤリと口角をあげた。

「おやすみ、また明日」

そうして、軽快に螺旋階段を降りていった。

ミニョは、ドアノブを掴んだまま、口づけをされた額に手を当て、顔を真っ赤にしていた。





★★★★


じわりじわりと距離が縮まっています。

テギョンさんも動きだしました。
ちゃっかり、ミニョの部屋まで行ってますからね。

また、スタートに立ったふたりが手を取り合いながら走りだすように、これから、ふたりでゴールを目指したいと思います。

皆様には、もうしばらく、胸キュンしていただきますね( ´∀`)