「ゼロコロナという病」を主張する「ゼロコロナの病」 | Tempo rubato

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8月12日、中野剛志さんと適菜収さんがBEST TIMESでおこなった一連の対談をまとめた新著が発刊されます。

 

 

今回も、思想面に焦点を合わせて書いてみましょう。

 

「思想」というとえらく難しい堅苦しいもので、カルト思想を連想して思想自体に悪い印象を持ってしまう方もいるかもしれません。前回書いたように、思想とは「ものの見方」「考え方」のことで、意識していない普通の人でも、それぞれの思想に則ってものを見て考えているのです。

個々人のものの見方や考え方は社会的な方向性を決定づける重要なものでして、思想について無関心でいると、知らず識らずのうちにヘンテコな状況に巻き込まれ、後戻りできなくなってしまうのです。

その端的なたとえは、第二次世界大戦下の日本でした。

21世紀には、コロナ禍の機能不全が、端的なたとえとして加わるでしょう。

 

中野剛志さんは、政治経済の思想史を。適菜収さんは、西洋や日本の哲学を研究し、現代日本がハマっている思想的な混迷を指摘するとともに脱却する処方箋を提供しています。

 

次に紹介する佐藤健志さんも同様に、思想面の提言書をたくさん書かれており、ボクの分野と重なるサブカルチャーと社会の関連を取り上げる異色の作家です。

久々に佐藤さんのコラムが掲載されました。

 

 

佐藤さんは、フランス革命は終わっていないと説く。

なぜならば

革命の原動力となった「人間は理性的能力を駆使することで、従来の社会のあり方を全面的にくつがえし、新しい理想的な社会を建設できるはずだ」という信念が、いまも生き続けているためである。

ただし人間はそこまで賢くないという点も変わっていないため、現実の壁にぶつかって自滅的混乱に陥る堂々めぐりが繰り返されるのだ。

 

大被害をもたらした革命や戦争、経済危機や自然災害、そしてCOVID-19災害においても、同じ失敗を繰り返している。

 

学術的検証や科学理論でもって状況を整理し改善策を設計するのが善である、という「理性主義」「設計主義」とも言える人間の思い上がりがつづくかぎり、「第2第3のゴジラがあらわれる」とつぶやいた山根博士を思い出さねばならなくなるのです。

 

成功は、その中にからくも失敗を避けられた幸運や、成功に導いた仲間の努力などが良い方向に重なった結果だと言えます。

成功体験から、失敗したかもしれない負の部分を引き出して教訓としなければ、同じ方法論で大失敗をする。前回書いた、成功体験が思い上がりに変わる末路です。

 

コロナ禍は、そんな思い上がりの数々が毎日のように露呈して1年半を超えている。

 

 

現実と、現実から逃げずに「日本は酷いことになってるぞ」と突きつける論説から、今後の日本が示唆されます。

 

あげだすときりがないので、もっとも大きいテーマを取りあげましょう。

 

  • 日本が立憲君主国の一種であることが認識されていない

 

これには抵抗感があるでしょう。こういう表現がそもそもおかしいと自覚して書いてます。

日本は民主主義国だと思われていますよね。Wikiで「日本」を引くと「民主制国家」と書かれています。間違いではないでしょう。しかし同サイトで「立憲君主国」を引くと日本も含まれています。

 

立憲君主国とは、立憲君主制を採用する国のこと。

【立憲君主制】

憲法に従って君主が政治を行なう制度。君主の権力が憲法によって制限されている君主制。近代市民階級の擡頭により絶対君主制が崩壊し、君主権が議会などの制限を受けることにより成立した。制限君主制。 (大辞林第三版)

 

 

日本がなぜ、立憲君主制と解されないかと言えば、絶対君主制を経ていないからです。

フランスのように市民階級が君主を打倒して政治体制を刷新した歴史を持たない。

従来の社会のあり方を全面的にくつがえし、新しい理想的な社会を建設》した経験を、日本は持ちません。

 

天皇にまつわる制度は慣習法のように積み重ねられたもので、絶対君主的だったのは律令時代までの古代日本であって、平安期には現在の「象徴天皇」への素地が作られたと言われます(今谷明)。江戸時代までに天皇は権力を制限された存在になっていた。そこから明治中期に大日本帝国憲法と議会が制定されて近代日本がはじまりますが、西欧近代のような「全面的なくつがえし」は起きていないのです。「大政奉還」「王政復古」と言ったって、絶対君主制に戻ったわけではなく、イギリスやベルギーに似た立憲君主国になったわけで、日本国憲法ではさらに権能を制限されたものの、本質は変わっていません。議会が優位の立憲君主国の一つと言えます。

そのように理解されないのは、西洋とは違う歴史を歩んだからですが、そこを認識している人は多いと言えないでしょう。特に明治時代を称揚する政治家や言論人は自覚できない。

 

西洋とは歩んだ道筋が違うにもかかわらず、表面的に西洋…特にアメリカと近いように誤認している。その結果、制度運用が曖昧でご都合的になっても気が付かず、制度と人々の感覚との齟齬を埋められない。特に戦後の日本を民主主義国だと思い込む事実誤認は、戦前とは別の失敗を呼び起こしていると考えます。

 

天皇に対する認識とコロナ禍がどうつながるんだ? と思うでしょう。

ボクも直線的につなげる気はありません。

 

日本および日本人とはどういうものなのか? を考える基準がひどく曖昧になっているということです。曖昧さは間違いを引き込み、成功体験の手前勝手な思い上がりで間違いが固定化される。

 

 

「自粛=みづからつつしむ」ことは、ほとんど当たり前の常識観なのですが、当たり前過ぎて自覚できていないため、適用して良い状況なのかを判断できなくなっているのです。

 

第1波は全国でも50人程度まで感染者を抑えこむのに成功しました。

政府は国民の後追いで自粛要請しただけで欧州のような法に基づく制限措置(ロックダウン)はしませんでした。それでも欧州のロックダウン並みかそれ以上の人流減少があり、これによって感染拡大は抑えられたと考えても間違わないでしょう

これは「自粛力」発動の結果でした。これが成功体験となり、成功体験を手前勝手に解釈し、以後日本では自粛要請を中心とした感染対策しか行われなくなる。

自粛は人々の自由裁量ですから、政府に責任を求められない。自己責任が横行します。政府の役割である財政支援も一度しか行われず、給付や支援金は滞ってなかなか届かない。そんな状況でも、国民は自粛をしますが、次第にバカらしくなってやらなくなっている。

 

感染症が伝播する原理に基づけば、財政支援を徹底的にやった上で、法的な制限措置を発動するのが最も合理的かつ実効的なはずです。行動制限と都道府県境を越える移動制限です。

国民の自粛に依存するのではなく、政府が責任を負い役割を果たすのが大前提ということ。

ボクは去年2月に直感してこのブログにも書いています。中国、台湾、オーストラリア、ニュージーランド、カナダなどは実行しました。財政支援の程度は国ごとに分かれますが、早期の抑え込みで平時に近い経済状況を取り戻せているのです。

 

日本は、たまたま成功した自粛要請に依存し、状況が変化しても甘えから脱せず、より主体的で厳しい制限措置へ移行できなかった。

日本および日本人とはどういうものなのか? を自覚できていないからこうなるのです。

 

「自粛丸投げ」の政府だけでなく、逆方向に自覚できてない人々もいる。

COVID-19を「風邪と変わらない、大したことないもの」「コロナ(ウイルス)なんて飲んでも平気ですよ、あんなもの」と主張し、「メディアが作り出した怪物」と主張し、「自粛を甘受するのは社交の大切さを知らないガキ・コロナ脳のバカ」「大嫌い、日本人」と言う藤井聡教授のような人々のことです。いや、そこまで言ってのけるのは藤井教授だけでしょう。失礼しました。

繰り返し書いていますが、藤井教授の「公害」ぶりは、「政府は財政政策を徹底的にやると思えない」とあきらめたところから論理を構築していることです。感染症に関して間違っているだけでなく、その間違いを経済論にまで拡大しているから深刻なのです。

 

ここのとこが、以前から藤井教授を知っている人と、コロナ禍で知った人とでギャップがある。

以前から知っている人の中には「主張がおかしい」と気づく人が増えている。しかし、コロナ禍で知って、財政に興味を持たない人は「コロナは風邪と変わらないものだから、若者は街に出て経済を回すべし!」と言われれば勇気づけられ、賛同者から「財源には限りがありますからね!」と、MMTはおろか以前からの藤井教授の経済論をぶち壊すコメントを引き出してしまったのです。

藤井教授が、どんだけ「令和の政策ピボット」の基本理念から遠いかを示す証拠となりました。

 

このような深刻な誤謬を引き起こすのは、日本および日本人とはどういうものか、を自覚できていない、手前勝手なイメージで凝り固まってしまっているからだと考えます。

 

礼賛する人、批判する人、双方に、天皇のイメージは(無意識的に)強固です。

その捉え方が歪んでしまっているために、特に政治経済において、歪みが拡大してしまう。

 

礼賛・批判、善・悪、肯定・否定、などの態度を決める前に、まず「それはどういうものなのか」考えてみることが重要です。日本が政治をおこなうようになった約1400年の歴史を、まずは良し悪しを横において観察してみましょう。現代がいかに狂っているか見えてきます。

 

 

欧米の研究論文や研究を生かした対策を見ていると、気がつくことがあります。

「人間は理性的能力を駆使することで、従来の社会のあり方を全面的にくつがえし、新しい理想的な社会を建設できるはずだ」という信念  …を自覚しているため、改められることがあるのです。つまり、作り上げた理性的な制度設計を状況によっては批判的に改めることがあるのです。経済政策ではグローバリズムからの反転がありました。今回のCOVID-19でも、初期対策を誤った欧州諸国は方針転換してロックダウンをおこない、財政支援も複数回おこなった。対策を否定していたスウェーデンも方針転換して行動制限をおこないました。ただし、こうした方向転換が常に正しいわけではないのですが。

間違いを改められるのは、自分たちが何をやっているのか自覚しているからではないかと思う。
 

 

藤井教授は、コロナ軽視論者のお仲間、木村盛世氏との共著「ゼロコロナという病」を上梓されました。一体誰がCOVID-19をゼロ状態に出来るなどと主張しているんだろう。試しにググってみると、去年はほぼヒットせず、ワクチンへの期待が高まってきた今年に入って政治家や言論人が言い出したものだとわかります。ボクはことば通りの「ゼロコロナ」には与しませんが、財政支援の増強・状況に応じた制限措置・ワクチン普及のみっつが必要で、COVID-19を風邪やインフルエンザに近づけていくことが重要だと考えます。

読んでないので見出しからしかわからないが、『シン・ゴジラ』を引用するならこうですよ。藤井教授らはチャラい閣僚や前半の首相以下だ。早くから危機意識を持って実直に仕事した主人公や集められた民間の研究者を、あなた方はバカにしてきたのじゃないか、と。

藤井教授は、財政拡大要求で敗北し、感染症の評価を間違えて敗北したことを認めない。

 

ボクに言わせれば、「風邪と変わらない」「だから経済を回せ」「コロナを怖がるのはコロナ脳」などと、コロナを存在しないものと言いたげな藤井聡教授と軽視論者こそ、

重篤な「ゼロコロナの病」なのです。

 

 

 

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