「生産性」ということば | Tempo rubato

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アニメーター・演出家 平松禎史のブログ

 

ユーリ!!! on ICE 劇場版:ICE ADOLESCENCE

 

 

『さよならの朝に約束の花をかざろう』 http://sayoasa.jp/

全国ロードショーはすべて上映終了いたしました。

観てくださった皆さん、上映してくださった映画館の皆さんに、改めて感謝申し上げます。

ありがとうございました!

 

東京下北沢トリウッドにて8月4日から10日まで上映されます。

http://tollywood.jp/

 

P.A.WORKS発刊『さよならの朝に約束の花をかざろう』

井上俊之原画集 発売中

《原画集には1カットずつコメント書きました。 購入特典として私と平松さん堀川Pのコメンタリー付きの原画を撮影した動画を見ることができますよ! よろしくお願いします。》

井上さんのツイッターより https://twitter.com/181ino/status/1001495100088664064

P.A.WORKSサイト http://paworksshop.jp/shopbrand/ct36/

 

第21回上海国際映画祭で

金爵奨:アニメーション最優秀作品賞を受賞しました。

https://natalie.mu/eiga/news/288239

 

10月26日、Blue-ray/DVDの発売開始です。

 

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「LGBTのカップルのために税金を使うことに賛同が得られるものでしょうか。彼ら彼女らは子どもを作らない、つまり生産性がないのです」

自民党 杉田水脈議員が月刊誌に書いた文章の一部です。

 

 

「LGBT」とは、レズ、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダーの(英語の)頭文字をとったもので、いわゆる「性的少数者」を具体的かつ肯定的な意味を含めて総称したものです。

これにクィア(Queer:性的アイデンティティが未確定)を加えた「LGBTQ」のほか様々な表し方があるようです。

 

ここでは、性的アイデンティティそれぞれの価値観については横におきます。

なぜなら、すでにネット上で言われているように、「ならば◯◯者も生産性がないと切り捨てられるのか」と言うように際限なく拡大し問題の本質がぼやけてしまうからです。

杉田議員の性的アイデンティティの捉え方や、個々の価値観の違いに対する捉え方、人権意識など、政治家として疑義があるのは理解できます。

しかし、ことばの間違いは、性的アイデンティティや少数者への差別意識以上に、深刻ではなかろうか、と思う。

 

「生産性」ということばです。

 

杉田議員は、そもそも「生産性」ということばの意味を間違えています。

おそらく、人が元々持っている何らかの「力」だと捉えているようなのです…

 が

違います。

 

【生産性】

生産のために投入される労働・資本などの生産要素が生産に貢献する程度。生産量を生産要素の投入量で割った値で表す。

(大辞林第三版)

 

「生産」は農漁業、製造業、サービス業など、あらゆる分野に存在します。

生産と消費・投資によって経済は循環しています。

生産性が高ければ同じ時間で多くの仕事をこなすことができ、多くの所得を稼ぐことができ、その積み重ねでGDPが成長します。

 

「生産性」ということばが注目されるのは、少子高齢化による人口減少が将来の課題となっているからでしょう。

減っていく人口で経済規模を維持・成長させるには生産性の向上が必要だからです。

一方で

生産性向上への投資には「財政問題」というありもしない壁が立ちはだかっている。

自民党議員の多くが、この存在しない壁とのジレンマで、様々な歪んだ認識を露呈しているのだと思う。

 

 

杉田議員の間違いは、「生産性」が元から人に備わっている、と考えているらしいことです。

でなければ「子供生むこと」に限定して「生産性」の有無を言うことなど考えられません。

LGBTの人が、子供を生むかどうかでその人の価値を決められるはずがない。

生産活動にはあらゆる可能性がありますからね。

 

「生産量」の増大に貢献する「労働・資本などの生産要素」の投入、つまり投資が「生産性」

を決定づけるのです。

 

「生産性」は、人が元から持っているものではなく、投資して投入することによって生まれる、または増大する。

 

杉田議員は、おそらくこれを理解していない。

 

人間は不確実で不効率な存在です。

その集合体である社会も不確実で不効率な存在です。

投資をすれば必ず生産性が上がるわけではありませんが、投資をしなければ生産性向上の可能性は摘まれてしまいます。

 

政治の役割は、多様な人々、多様な社会に、短期的な見返りを期待せずに投資すること。

投資によって長期的かつ広域的な生産性を向上させる役割を担います。

 

ところが

杉田議員の言っていることは、こういうことなんじゃないでしょうか。

投資(税金投入)をしても見返りのないもの(こと)には

投資をしない。

 

短期狭小的な思考です。

 

この考え方を敷衍すると、更に恐ろしいことが見えてきます。

 

税金投入したらその見返りがすぐに期待できること、と正反対のこと。

 

防災減災です。

 

防災減災策は、自然災害で被害が出るときに効果を発揮します。

平時には(それ自体は)役に立っているかどうかわかりません。

 

道路や橋梁、港湾の整備

架空電線の地下化

砂防ダム、スーパー堤防、建物の耐震化

住居密集地の分散化、東京一極集中緩和のための地方活性化

などなど

 

どこにどれだけの投資をすればどれだけの経済効果があるか?

20数年継続している財務省の試算方法では、その効果は非常に小さく見積もられています。

そのせいで、緊縮財政が継続されて、インフラ投資は減らされ、国民の生産性が落ちている。

短期狭小的な思考だからです。

 

杉田議員に防災減災策は不要なのか?と問えば「必要です」と言うでしょう。

でも、「生産性」を間違って使っているのは、プライマリバランス黒字化に代表される財政均衡論から離れられないからでしょう。

経済効果のないもの(こと)に投資はしない、という考え方は財政均衡論者のよく言うこと。

それでは財政拡大を強く主張できない。

結果として、防災減災は切り捨てられるのです。すでにそうなっています。

 

長期広域的な思考で投資をし、自然災害による被害を小さくできれば人々は安心して生産に従事できます。

被災したとしても、復興への時間は短くできます。

被災した他の地方を助ける負担も減ります。助け合いが広がります。

東京一極集中の緩和と地方活性化が進めば、日本全体の生産性も向上するでしょう。

 

地方自治体が、学校にエアコンをつける予算がない、なんて状況も改善できます。

 

こまかく個別に見れば、うまくいかないところもあるとして、全体的に効用が大きければやる。

それを決断するのが国会議員の役目でしょう。

 

 

個別の価値観や短期的な経済性で投資すべきかどうかを判別する杉田議員の考え方は

民主党政権時代の事業仕分けと根は同じです。

 

杉田議員はLGBTを差別したわけではない、という擁護論がある。

自民党はLGBTの理解促進に取り組んでいる、という擁護論もある。

そうだとしも

「生産性」ということばの間違いは擁護できるだろうか。

 

LGBTを持ち出したのは最近よく目にするからだろう。杉田議員自身の価値観とも関係するかもしれない。

しかし、経済に対する本質的な理解がないために、様々な価値観が、緊縮財政の肯定に利用されるのです。

 

ことばの間違いが訂正されないと、杉田議員のせいで『「生産性」の向上』が嫌われてしまう。

せっかくの所得増政策…財政拡大を潰すことになりかねません。

デフレ状況がさらに長期化し、国民が心の余裕をさらに失っていけば、様々な少数者に対する一方的な価値観の押しつけ、攻撃も増大していくでしょう。

 

ゆえに、「生産性」ということばの間違いが深刻だと考えるわけです。

 

 

 

「投資(税金投入)しても見返りが期待できないもの(こと)には投資をしない」

この考え方で長らく切り捨てられてきたのは、インフラ投資です。

公共事業費は20年で半分以下になった。

 

その結果、過酷さを増している豪雨災害が防げなくなっている。

7月西日本豪雨災害でも、インフラ整備をしていれば防げた土砂崩れが多々あったと言います。

かつての広島豪雨の時と同じです。

いつどこに来るかわからない大地震への備えが不足しています。

 

個人や地域レベルでできないことをやる。それが国会議員の役目だ。

 

いったい、いつまで間違いを改めないつもりなんでしょうか。

 

日本に財政問題はありません。

政府・与党は、「生産性」を口にするなら

国民負担を増大させる消費税増税は中止し

緊縮財政を改め、財政拡大をせよ。

 

 

 

 

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