引続き消費税再増税・ありやなしや | Tempo rubato

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アニメーター・演出家 平松禎史のブログ

消費税の再増税の判断まで約一ヶ月。

アメリカの金融緩和終了と入れ替わりに日本銀行が金融緩和を発表しました。
アメリカの投資家がドッと日本へとむらがって平均株価が上がりました。
新聞は盛んに「17,000円を超えるか!」と盛り上がっておりますが、これ日本国民のためでしょうか?
儲かるのは誰?
バブリーな話ですね┐(´∀`)┌ヤレヤレ


安倍総理は経済最優先。デフレ脱却を掲げて再登板しました。

デフレ脱却して景気回復を。
経済の安定的成長によって税収増を実現し、財政の健全化を図る。
適切かつ不可欠な公共事業「国土強靭化」の長期的実施。
生活の安定感によって少子化の解消を。


そのために「大胆な金融緩和と機動的な財政出動」を行うのがアベノミクスの基本 でした。(過去形)
金融緩和に比べて財政出動が少なすぎます。
その結果が消費の縮小、景気回復の鈍化であり、矢先に行われた消費税増税による景気悪化なのです。

増税で実質賃金は下がっています。
9月実質賃金は前年比‐2.9%、夏季賞与23年ぶりの伸び=毎月勤労統計(reuters)
所定内給与(決まった給与から残業など除いた額)は微増していますが消費税と物価上昇に追いつかずマイナスになっている。

これでは消費は活発化しないでしょう。

デフレ時には、政府が仕事を作る財政出動をして賃金が上がる道筋を作り、国民が安心して消費を活発化させられるようにし、企業が投資を積極的に行う環境作りが必要なわけです。

財政均衡・緊縮財政論と、そこから来る「消費税再増税 不可避」論は、上記のどれも実現できなくさせデフレを悪化させる可能性が極めて高いわけです。

アニメに携わるものとして、こんな状況が固定化するのを心配します。

アニメも経済状況と無縁ではありません
お客様の財布の紐が硬くなればソフトが売れなくなります。
そうすれば関連商品が売れなくなります。

個人も企業も実入りが減れば支出を控えます。当然ですね。
するとアニメの制作予算は減らされてしまいます。これまた当然の負の循環です。


アニメには多数の企業が出資してアニメ作品を宣伝媒体として関連商品を売るスタイルが定着しています。
消費が縮小してアニメ関連で収益が期待できなければ出資のメリットがなくなります。
スポンサー企業の業績が悪化すればコストカットに傾いて、本業でないアニメへの出資は「ムダ」ですからカットすることになります。

経済全体の景気が冷え込んで出資してくれる企業が減っていけばアニメの制作予算の継続的獲得は厳しくなっていきます。

アニメ業界のみの問題だけでなく、マクロな経済状況が複合的に影響する。

スタッフの待遇改善が話題になりますが、安定的な予算がとれなければ不可能です。
収益が減っていく場合、他企業と同様に利益の確保にはコストカットを進めることになります。
最も大きい人件費のカットになり待遇は改善されませんし、仕事が海外へ流れてしまいます。

アニメの本数が減らないのは、まだアニメ好きの日本国民が多いからでしょうし、製作・制作に携わる方々がアニメで育ってきたからでしょう。
自分たちが見てきたおもしろいアニメを自分の手で作ろう、次世代のためにもアニメを…そう考える方々が支えています。

デフレ不況によって少子化が進んでアニメファンの分母が減り、必ず売れる方向へと先鋭化が進んで多様化できなくなればアニメ文化は衰退の方向へ向かいかねません。
多種多様、雑多な作品群があってこそ時代を超える名作が現れるものですからね。

デフレの放置は技術継承をできなくさせる
デフレ不況は、コストカット、必ず売れる作品傾向への集中を起こします。
特定のファンに特化したアニメへの偏向が長期化していけば次第に多様なアニメを共通言語にした人が減っていきます。
そうなれば本当にアニメ制作本数は減っていく可能性が高まるでしょう。

その状況が長期化すれば特定の絵柄、内容のアニメしか作れなくなっていきます。
スタッフの地力が低下して、多様な作品に対応できなくなっていくのです。
そうなれば、作りたくても作れる人がいない!という状況になる。
既にそうなりつつあるんじゃないでしょうか。

インフラ整備でも同じようなことが言われます。
土地柄に応じたインフラ整備の重要性が共通言語でなくなってしまった現代、季節ごとの自然災害で脆さが露呈してきてます。
10年…30年…といったスパンで気が付かないうちに進行して、インフラ整備をやろうにも技術を持った人材がいない!という状況が作られます。
既にそうなりつつあるんじゃないでしょうか。

失われた技術はそう簡単に取り返せません。
技術は文化の礎です。
文化を継承ができなくなることの恐ろしさはハード面の社会基盤だけでなく、文化全体に及ぶわけです。

アニメ制作に携わる多くの方々は収入に見合わなくても無理してでもやり続け、より良い作品作りに努めています。
ものすごく非効率な仕事です。
この非効率性をムダと言ってはいけません。余裕、遊び心のないアニメなんて誰が楽しめるんだろうか?
デフレ時に経済合理性を優先すれば、大事なムダ、余裕や遊びが削られてしまいます。

技術=文化を継承しようとする気持ちが失われていきます。


政府に求めるのはアニメ業界への直接のコミットメントではなく、景気を回復してアニメ制作の幅を広げられるようにすることです。
「クールジャパン」なんて掲げなくたって自然と実現できるでしょう。
日本人が最高だと思うアニメが作られて初めて外国人の興味を引くんじゃないでしょうか。

民間では出来ない部分があれば政府が援助してくれれば良い。

デフレの今は、まさに民間にはどうにもできない国内の需要創出を政府にやってもらわないといけません。

ということで、経済に関心を持ち、デフレ不況を悪化させている財政均衡・緊縮財政への固執を潰さねば…と考えてこの問題をしつこく書いているわけですね。

消費税再増税、ありやなしや。
素人の居酒屋談義的にそれぞれの可能性について考えてみる。
(素人が居酒屋で談義するくらいに一般化すれば国を動かすことが出来るでしょう。バカにできませんよ。)

再増税「なし」?
2012年の三党合意、税と社会保障一体改革の法律に従い、予定通りの増税を行う。
法律に従えばばこうなります。

しかし、この法律には前回増税時にも話題になった「景気条項」があり、首相官邸のQ&Aではこのように但し書きが付いています。
『税制抜本改革法の附則第18条第3項では、「経済状況の好転について、名目及び実質の経済成長率、物価動向等、種々の経済指標を確認し、前項の措置を踏まえつつ、経済状況等を総合的に勘案した上で、その施行の停止を含め所要の措置を講ずる」こととされています。
 なお、同条第1項では、「平成二十三年度から平成三十二年度までの平均において名目の経済成長率で三パーセント程度かつ実質の経済成長率で二パーセント程度を目指した望ましい経済成長の在り方に早期に近づけるための総合的な施策の実施その他の必要な措置を講ずる」とされております。』


つまり景気回復できてなければこの法律に従って(新たな法案を必要とせず)増税は停止できるわけです。

7~9月期の景気動向は11月17日に速報値が出るそうです。
これまでに出ているデータでは8%への増税までの駆け込み需要は期待するほど無く、増税後の反動減からの回復は鈍かった。
それに加えて増税後の生産調整を超える売れ残りが生じて在庫が積み上がる始末。
国民の消費事情は、これ以上減らせないレベルに達していて、尚もを苦心して控えようとしているのが現実。

金融緩和で増えたお金は借り手がなく金利は主要国最低水準。
企業は投資を控えている。

この状況をまっすぐ見れば、十分に景気条項に則って増税を見送ることが出来る、はず。

アメリカからも
ポール・クルーグマンが「日本経済は消費税10%で完全に終わります」と題されたインタビューでこのように述べています。
『なぜ安倍総理はこんなとんでもない政策に手を付けてしまったのかと考えると、「間違った人々」の声に耳を傾けてしまったのでしょう。離陸するには時速300マイルが必要な時に、「それはちょっと速すぎるから時速200マイルで行こう」と吹き込む人がいたのです。しかし、中途半端な速度で離陸しようとすれば、飛行機がクラッシュしてしまうことは目に見えています。』

消費税は5%へ戻し『財政面、金融面での追加的な刺激策もとるべき』だと。

安倍政権の経済政策は「早過ぎるから時速200マイル」どころか「飛ぶと恐いから翼を折っときましょう」ですな。
墜落することはないけれど、滑走路を越えて民家をなぎ倒し続ける…。

とはいえ、アメリカは日本国民の心配をしているわけでなく、これ以上日本経済が落ち込めばアメリカの商品を買ってもらえなくなるからです。アメリカの国益を毀損するからですね。

日本では三橋貴明氏、青木泰樹氏、宍戸俊太郎氏、藤井聡氏などが延期・凍結を主張し、景気回復の具体案を提言しています。

藤井氏とともに内閣参与である浜田宏一氏は一年半程度の先送りへと主張を転じました。

政府が国民の生活を第一に考えるならば、現実のデータをまっすぐ見て、内外有識者の声を聞き、反対7割の国民の声に従い、消費税再増税は「なし」と決断する はず でしょう。

再増税「あり」?
消費の落ち込みなど最近報道されるようになりましたからご存じの方も多いでしょう。
しかし、政府はなんと言っているんでしょうか?

消費が伸びなかったのは
「夏の天候不順のせい」
「9月は去年より休みが一日少なかったから」
(主に甘利大臣)だそうです。

つまり8%への増税の影響は「想定内」であり、そのうち改善されると読んでいる。
現実のデータは想定内じゃないでしょう。

加えて
消費税増税は「国際社会に対する約束」(麻生大臣)だとも言っています。
内政問題なのにどうして国際社会と約束しなくてはいけないんでしょうか?

企業の雇用状況は改善しているとも言っていましたが、総務省統計局のデータ(第一表)を見れば、最も増えたのは契約社員で非正規がそれに続くのが現実。
正規社員はそれほど増えていません。
これでは雇用状況の改善とは言えないでしょう。

再増税を延期すればアベノミクスが失敗だったと認めることになる。
政府にはそれが出来ない。

安倍総理はじめ政府全体にあるのは、長期政権を実現するための高支持率確保と株価を支える海外投資家へのサービスです。

中韓への毅然とした態度や、自然災害への対処力で多くの国民は安心感を持っている。
株価が上がっていくのも悪い気はしませんから高支持率が長いこと続いています。

しかし、海外投資家へのサービスは、国益に資するとは限りません。
実質賃金の引き下げ。
外国人労働者の受入れ。
日本国民を貧乏にすることで国際競争力を強くしようとする「成長戦略」が次々検討されています。

政府だけでなく与野党含めた政治全体、マスメディア含めた国民全体に、財政均衡・緊縮財政が正しいものとされ、景気縮小政策を許してしまう空気が出来上がっている。

反対しつつも「再増税はしかたない」という漠然とした空気が出来上がりつつあります。

以上のようなレトリック、固定観念、現実を直視しないでデータを歪めてまで増税を正当化しようとする政府の言動からは国民不在が明らかであり、ならば再増税「あり」なのではないか?と思えてきます。

複数の選択肢
現実の政治は0/1ではありません。

再増税あり・なしの両方に併行する複数の方法論が考えられます。
前回増税の際にもやりましたけど、これも再び。
(ものすごく大雑把ですよ)

◯再増税あり
 【い】10%への再増税のみ。景気対策の追加予算なし。
 【ろ】10%への再増税。景気対策の追加予算あり。単年度的な三兆円程度。
 【は】10%への再増税。景気対策の追加予算あり。中長期的な数十兆円規模。

◯再増税なし
 【に】再増税見送りのみ。景気対策の追加予算なし。
 【ほ】再増税見送り。景気対策の追加予算あり。単年度的な三兆円程度。
 【へ】再増税見送り。景気対策の追加予算あり。中長期的な数十兆円規模。

上ほどダメージが酷く、下ほど景気回復につながると考えます。

尤も、再増税の断行は、財政均衡・緊縮財政論に拠っていますから支出拡大の【は】はまずあり得ません。

財政均衡・緊縮財政論は再増税をしぶしぶ見送ったとしても【へ】は採らせないでしょう。

というわけで
再増税ありならば、前回同様ちょびっと追加予算の【ろ】

再増税を見送るなら、収入が減るのだから新たな支出は控えるべき、という声に押されて【に】
【ほ】を選ぶ可能性は…希望的にはあってほしいけど、ないでしょうね。

前回と同じ「再増税ありでちょびっと追加予算」が選択される可能性が最も高く、デフレが長引くことになるのでしょう。

財政健全化のため、政府にしかできない積極財政を
デフレ時にはお金の循環が滞ります。
「誰かの消費が他の誰かの所得になる」経済循環の基本が縮小していくのがデフレです。
金融緩和をしてお金が増えて、円が下がって株価がバク上げしても国民の所得は増えません。

金融緩和で増えたお金は銀行に積まれたまま、借り手がいなくて使われないから、誰の所得増にも寄与していないのです。

民間はコストカットに走って投資をしない。国民は消費を控える。
ですから、政府が率先してお金を使う財政出動、景気回復のための追加予算が重要になってきます。

島倉原氏がメルマガ『「財政健全化」と「緊縮財政」は似て非なるもの』でとてもわかり易い解説をしていました。
「積極財政を行うと政府の財政は健全化し、緊縮財政を行えば政府の財政は逆に悪化する」
まさにそうなっているじゃないですか。
去年の景気回復に見えたGDP増では、内訳を調べると公共事業の増額分がGDP増加分と一致していたそうです。
一方、デフレへの突入・長期化は5%への消費税増税と緊縮財政への傾斜と時期が一致します。
つまりそういうことなんですよね。


10%への再増税、ありやなしや。
政府がどちらを選ぶのかわかりません。

政府の言う財政健全化は、消費税の増税ではなく、景気回復で可能なのです。
そのために
自国建て通貨…円による政府の借金は返す必要はない。
財政均衡・緊縮財政への固執を解く。
「再増税なし・積極財政への転換」へと方向転換させる。
この認識が大勢になれば政府を動かすことができるかもしれません。

そうすれば「日本経済は終わる」などと二度と言えなくさせられるでしょう。

しかし、選択の結果が悪ければ、安倍政権は責任をとり倒されて当然、ということになります。