一般論化が難しい「レイアウト」 | Tempo rubato

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アニメーター・演出家 平松禎史のブログ

7月になって台風もやってきてますね。
7日は七夕。
今年も半年過ぎたことを実感して胃がキリキリと痛みます(笑)

ストレスの少ないアニメの話。

若い人からよく訊かれるのは「レイアウトをとるコツ」です。

レイアウトとは、絵コンテという1本のアニメに必要な映像の流れをラフな絵とセリフ、ト書きを記したものを基に、完成画面に必要な様々な具体的要素を示すものです。
背景や人物などの動きが絵コンテよりも大きな紙(テレビの場合A4紙程度)に詳細に描かれます。

レイアウトを描く時、絵コンテを前にして、まず大きく分けて二つのことを考えておく必要があります。
・「カット単体」で考えた場合、必要なことは何か。
・「シーン(全体)の中の1カット」としてみた場合、必要なことは何か。

どちらの場合にも「5W1H」つまり「いつ・どこで・誰が・何を・何のために・どのように」を常に念頭に置く必要があります。

「カット単体」に求められるものは何か。
・場所の情報(いつ・どこなのか)
・人物などの情報(誰が または 何が、何をしているか)
・やっていることが的確に伝わるか(どのように)
これらをクリアした画面になるかどうかを、まず押さえる必要があります。

カットによっては、これらのうち一つか二つでも的確なら大丈夫な時があります。
たとえば、情景カットの場合は「いつ・どこ」で十分な場合があります。

「何のために」が入っていませんね。
これは、主に「シーンの中の1カット」として考えた場合に必要になります。
(すんません。絵で説明した方が良いんですが用意する時間がなくて… でも想像してもらった方が良いかな?)
たとえば
1)深夜のとあるマンションの一室。
2)室内のドアを開けて入ってくる主人公。腰上サイズ。手前を見て「!」となる。
3)居間のソファーでうたた寝をしている奥さん。
4)2)と同じアングル・サイズで、微笑む主人公。静かにドアを閉める。

2では、主人公は室内の様子を理解しないままドアを開けて入ってきます。
たぶん、1、2歩。そこで様子を見て「!」と気づきます。
この気付き方は前回のブログで書いたように、記号的に処理してしまうのでなく、適切な気付き方をよく検討する必要があります。

4では、うたた寝してる奥さんを「(かわいいな)」と微笑みながら、起こさないように静かにドアを閉める芝居です。

1は情景カット。3もそれに近い。
2と4では、3で状況を知った主人公の表情変化が「どのように」行われるかが重要です。
変化を強調するために、2では疲れて帰ってきた表情にしておくのも良いですね。
4では、微笑み方や、起こさないようにドアを閉める芝居に「優しさ」が求められます。

これら一連のカットによって、幸福そうな夫婦の1場面が印象づけられます。
「なんのために」は、「幸福そうな夫婦の様子」を描くため、ということになります。
カット単位では、2の気づき方や、4での表情、ドアの締め方に、それが十分伝わるような芝居が出来るように、画面を構成するわけです。

もう少し細かく説明すると
2と4は、うたた寝してる奥さんを意識したアングルにする必要がありますね。
このシーンは主人公と奥さんの関係性を描いていますから(目的)、カメラの置き方もそれを表現するのに適した位置を考えます。
つまり、奥さんの顔くらいの高さにカメラを設置して撮っている画面を想定します。
少しアオリになります。
挟まる3は、主人公の見た感じの画面にする必要がありますから、立って見下ろしているアングル。
ややフカンになります。

フカンにしすぎたり、フカンであることを強調してしまうと、カット単体で良かったとしても、つなげた時に変に見下ろした感が強すぎたり、パースが強調されて落ち着かない画面になってしまったりします。
2、3、4は、カット単位の絵的なおもしろさでアングルを強調してしまうと目的からズレてしまいます。
つなげて見た時のことを考えて描くのがキモです。

細かいことをいうと、4は2より少し寄った画面のほうが良いですね。
表情が2よりも明確に見えたほうがこのシーンの目的に適います。
そうすると、手やドアノブが画面外になって芝居が難しくなりますが、静かに閉じる芝居に説得力があれば情感のある良いシーンになると思います。

何が求められているのか
レイアウトでは、上記のことが原画段階で可能になるように考えて描くことになります。
最近はレイアウト作業で原画のラフが全て描かれていて、タイムシートまで付いているものが多いです。
演出・作監は原画マンの意図を理解しやすいので良いですが、上手くいってない場合は、リテイクにしろ演出・作監が直す場合にしろ全て最初から再構築する必要が出てしまうのでけっこう大変(^_^;)

昔は最初と途中のいくつかのポーズと最後の絵だけ描いて提出していました。
それで十分わかりますし、それで伝わらないレイアウトは、上記の要素をクリア出来ていないことになります。

重要なのは、何が求められているカットなのか? ですね。

アングルや空間把握(パース)の正確さも、上記の要素をクリアするためにありますから、手法であって目的ではありません。
パース線が縦横に書かれたレイアウトを散見しますが、(ボクの場合ですが)パース線や消失点は、人物の配置を決め、アングルを決めて、背景に映り込む物が上記要素に必要か不要かを考えながら大ラフを描いて、それからやっと、空間的な間違いがないようにパース線を引いて確かめます。
たいていはフリーハンドです。
定規を遣う場合もありますが、ビル街や、正確性が求められる対象でない限りフリーハンドです。
正確すぎると気持ち悪いので。

自ずと見えてくる
「5W1H」はアニメーターになったばかりでまだ時間があった頃、演劇関係の本をいくつか買って読んだ中に出てきました。
シナリオ(戯曲)の書き方…みたいな項目で、基本中の基本として説明されていました。
演技面ではスタニスラフスキーシステムついて簡単に説明されていました。
役柄の内面と自分自身の内面に共通項を探し、一致するものを強調して同化、共鳴させていく…などと書かれていたように記憶しています。
ハリウッドのアクターズ・スタジオでの基礎だそうです。
(ヒッチコックはここ出身の役者が苦手だと「映画術」で言っていました。その理由は演出をやる時に少し理解出来ました。。。)

こういうことも、原画マンになってから役に立ってますし、演出では大いに役立ってると思います。

基本を押さえることで、様々な局面で、必要なことが自ずと見えて来たりします。
経験を積んでいくと、去年の苦労は今年の朝飯前になり、今年の苦労は来年には鼻くそほじりながらでもできるようになる。。。
ならない時もあるけどね。
問題先送りしても必ず付いて回るのでいつかは挑戦しないといけない。

積み重ねていくと難しいことはだんだん楽になっていきます。
そうすると、同じような内容のカットでは、以前よりも高いところを目指すようになります。
そしてまた苦心することになります。
苦心すればするほど、その時はただ大変だったとしか思わなかったとしても、振り返ってみると高いハードルを跳んだことに気が付きます。
そうなってくると、自信もついて仕事がおもしろくなってきます。


「レイアウト」という作業工程は、多種多様な要素を内包しているため、一言で説明するのが難しい。
一般論としてこうだ、ということすら言えないものなんですよね。
実戦の中で、わからないことや疑問に思ったことが出た時に確かめるのが良いと思います。

あきらめずに食いついて、わからないことは近くにいる先輩を捕まえて質問しまくりましょう♪