大荒れ、レーザーテック株! | 投資家リプリーの気まぐれブログ

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株式投資に関して気になった事、調べた事などを気まぐれにアップしていきます。

レーザーテックの株価がここ数日乱高下しています。

 

原因は、空売りファンドの「スコーピオン・キャピタル」が

レーザーテックに関し非常にネガティブなレポートを公開した事。

レーザーテックの株価はこの5月23日に最高値45,500円に

到達した後は調整が入ってましたが、このレポートで下げに

拍車がかかった格好です。

一昨日6月6日の終値は 34,520円で、レポートが出る前の

6月4日の終値 38,460から2日で 10%下落、5月23日の

最高値からは 24%下落しました。

 

レポートは334ページにわたりとても読んでられませんが、

56ページの要約版があったのでザッと目を通しました。

 

内容をめちゃめちゃ大雑把にまとめると;

 

(1) レーザーテックの最新鋭のEUVパターンマスク欠陥検査装置

 「ACTIS A300」はパフォーマンスが悪く顧客は不満たらたら。

 

(2) だから売れてないが、売れてるように見せかけるために

 粉飾決算を行なっている。実際は在庫の山。

 

(3) 粉飾決算はいつか辻褄が合わなくなる。そうなると、

 いずれは辻褄合わせの為に莫大な金額の損失を公表する事になる。

 

これに対し、レーザーテックは、6月5日には不正会計の疑惑を

明確に否定。翌6日には補足説明を公表しています。

 

これが功を奏したか昨日7日には反発し、終値は前日終値より

約 5%上昇しています。

 

さて、実際はどうなのか?

筆者は公表された決算書などを見るしかできず、これで

粉飾決算の有無を断ずるのは難しいのですが、過去に

産業機械を取り扱った経験を活かして不自然なところが

あれば多少は感じる事ができるかと思います。

そこで、スコーピオンの言い分とレーザーテックの

決算書などを突き合わせて意見を書いてみました。

以下、「→」の後が筆者の個人的な意見です。

 

 

その前に、まずはスコーピオンが槍玉に挙げた

「ACTIS A300」とは何か?

について述べます。

 

 

シリコンウェハに電子回路を焼き付ける工程を「露光」といい、

その工程を行う機械を「露光機」と言います。

焼き付けるには光(光源からの光)が使われるのですが、

その光の波長が短ければ短い程、微細な電子回路を

焼き付ける事ができる、即ちより小さな半導体チップを

作る事ができます。

 

露光の工程はガリ版印刷に似ています。

原稿(電子回路)をガリ版に刻み込み、これにインクではなく光を

当ててビラ(半導体チップ)に印刷(焼き付け)します。

このガリ版みたいなのを「フォトマスク」と言います。

 

焼き付けに使う光は、EUV(波長が極端に短い紫外線)を

使ったものが現時点での最先端で、この技術を持っているのは

オランダのASML社のみです。

 
このASML社のEUV露光機に使うフォトマスクに欠陥がないかを

検査する機械を、レーザーテックは製造しています。

この検査でも光を当てて検査する訳ですが、これも波長が

短ければ短い程、検査の精度が上がります。

 

EUV露光機のフォトマスクの検査には従来はEUVよりも

波長の長い「DUV」が光源として使われており、

この検査機械はレーザーテックの他に米国のKLA社も

製造しているようです。

 

しかし、より小型化へと向かう半導体チップの検査の

精度を上げていく為に、露光機と同様に短い波長の

光を使った検査機械が求められ、この為に開発されたのが

レーザーテックのACTISシリーズで、その中で最新鋭なのが

今回スコーピオンが槍玉に上げたACTIS A300です。 

 

尚、競合のKLAはまだEUVを光源とした検査機械を開発できていないようです。

 

 

それでは、スコーピオンが指摘する問題点を見てみましょう。

 

(1)「ACTIS A300」のパフォーマンスについて;

 

 スコーピオンの主な主張は;

 

 (a) ASML社が 100億ドルもかけて開発した露光技術と同等のものを

  レーザーテックは殆ど開発費をかけずに開発してる、

  そんなのできる訳ない、というのがスコーピオンの主張です。

 

  → 研究開発費、結構かけてます。

  

   

  スコーピオンの言うASML社の開発費が正しい数字かどうかは

  調べてませんが、「半導体に電子回路を焼き付ける為の光源」

  即ち製造機械に使う技術と、「焼き付ける為のマスクに

  欠陥がないか検査する光源」即ち検査機械に使う技術とでは

  同じEUVを使っているにしてもモノが違うのではないでしょうか?

 

  この両者の開発費の金額に差があるのは当然だと思います。

 

 (b) ACTISの主要顧客である米Intel、台湾TSMC、韓国Samsungの

  関係者はこの機械に満足しておらず、米の検査機械メーカーのKLAに

  競合品を作って欲しいと依頼している、というのが、

  スコーピオンの主張です。

 

  → 少なくともIntelとTSMCはレーザーテックを「優秀なサプライヤー」

   として表彰しています。(下のリストはIntel・TSMCのHPより抜粋)

 

   「会社全体の意見として」レーザーテックに不満があるという事は

   ないと思います。

 

   Intelの表彰サプライヤーリスト

   

   TSMCの表彰サプライヤーリスト

   

 

   → EUVを光源としたACTISシリーズが従来のDUVを光源とした

    検査機よりもメンテの頻度やコストがかかる事はレーザーテックも

    決算説明会の席で認めています(機関投資家はこれをサービス収益の

    増加に繋がるとポジティブに捉えていたようです)。

    この点を捉えて、顧客企業の現場では同製品を悪く言う人がいる

    かもしれません。

    それをスコーピオンが取り上げたのかもしれません。

  

   → ユーザーである顧客が、選択肢を広げて価格を叩くために

    サプライヤーの競業者に類似品を開発するようにプレッシャーを

    かける事はごく普通の事です。従い、顧客がKLAに頼んだという

    スコーピオンの主張は、ACTISのパフォーマンスが良いか悪いかには

    関係ないと思います。

 

   上記より「ACTISは製品としてダメ」というスコーピオンの主張は、

   根拠が薄いと思います。

 

 

(2)粉飾決算の疑惑について;

 

 スコーピオンの主な主張は;

 

 (a) 在庫が異常に多い。

 

  売上を計上する時の経理処理は;

  ・売上 ー 売れた物の原価 = 売上総利益

  ・売上前の在庫金額 ー 売れた物の原価 = 売上後の在庫金額

 

  レーザーテックは、売上総利益を大きく見せる為に

  売れた物の原価を実際より小さい価額に換えている、

  この為に本当の原価と売上計上時に消し込んだ原価との差が

  消されずに在庫金額の中に残り、これが蓄積されて

  在庫の金額が実態よりも大きく膨れ上がっている、

  というのがスコーピオンの主張です。

  

  → レーザーテックの在庫月数が多いのは事実。

   筆者の計算では、2022/6末は約29カ月分、2023/6末は

   約27カ月、2024/3末は18カ月もあり。

   だがこれは次の2つの要因によるもの;

 

  ①レーザーテックの売上計上基準。

 

   レーザーテックに限らず、産業機械のビジネスの流れは;

 

   受注→製造→完成→出荷→輸送→据付→試運転→検収

 

   となります。   

 

   検収時は宅急便のように「受け取った、はい捺印」という

   具合にならず、据え付けて試運転し「ユーザーが満足の

   いくパフォーマンスが出たら検収」となる事が一般的です。

   ユーザーの現場社員への研修も検収条件に入る場合もあります。

   つまり時間がかかります。

 

   レーザーテックは、売上基準を「検収時」にしているので、

   受注後、上記のプロセスの間は売上が立ちません。

   その間はその製品は在庫扱いとなります。

 

   一方、在庫金額は、受注直後から部材を仕入れて発生、

   その後も製造コストを加算し、輸送コストも加算し、

   据付コストも加算し、試運転コスト(多分レーザーテック社員が

   立ち会い、そのコストも在庫に算入すると推察)を加算、

   とプロセスが進むにつれて膨れ上がっていきます。

      

   この為、他の製品を製造する製造業に多い「出荷したら

   売上計上」という所と比べると、輸送、据付、検収の期間だけ

   在庫月数は長くなります。

 

   決算説明会での経営陣の説明は、出荷から検収まで早くて数カ月、

   長ければ一年以上かかる事もあるそうです。

   受注から製造/出荷に数カ月、出荷から検収に数カ月~1年、

   この合計となるので、在庫月数は長くなります。

 

  ②後回しにされがちの半導体関連の検査装置。

 

   半導体の検査機械の納期には、上記に加えて「待ち時間」が

   加わって更に長くなりがちです。

 

   例えば新設工場に納入する場合、工場の建物が完成し、

   クリーンルームが完成するまで納入を待たされます。

   また、クリーンルームが完成した後も、納入は製造機械が優先、

   検査機械はそれが終わるまで待たされます。

   従い、納期がその分、長くなります。

 

 

  → 一方、レーザーテックの製品は不良在庫になり難いと思います。

 

   メーカーが物を作る際、次の2通りがあります。

 

   ①見込み生産; 顧客から受注を受ける前に需要を

    自分で見込んで生産する。

    スーパーや量販店などに並んでる製品の多く、

    即ち多くの顧客が買うような汎用品や、

    即納を求められる製品は大概が見込み生産です。

    実際の需要が見込みと食い違うと、売れ残って

    不良在庫になってしまうリスクがあります。

 

   ②受注生産; 顧客から製品を受注してから生産開始。

    顧客ごとに仕様の異なる特殊な製品は大概が受注生産です。

    汎用品でも販売店が需要を見込んで見込み発注する場合もあり

    その場合は在庫リスクは販売店が取るのでメーカーにとっては

    受注生産です。  

    受注生産の場合、不良在庫になるリスクは殆どありません。

 

   レーザーテックの場合、一部の製品は見込み生産もあるそうですが、

   ACTISなど殆どの製品は受注生産であり、そもそも不良在庫の

   リスクは極めて低いと考えられます。

 

   受注生産の場合は上記の流れにある通り、受注してから部材を購入し

   製造に取り掛かって在庫金額が積みあがっていきます。

   つまり、受注残が在庫金額よりも大きいはず。

 

   レーザーテックの受注残は下図の通り在庫金額を大きく上回っており

   不良在庫になるリスクは極めて低いと思います。

   

 

   以上より、在庫月数は確かに長いしこれを短くした方がいいのは

   確かですが、「半導体の検査機械」で「売上が検収条件」という事と

   「受注残が在庫より大幅に大きい」という事実とから、

   この在庫月数は心配するようなレベルではなく、これを以て

   粉飾決算の根拠とするには説得力に欠けると思います。
 

 

 (b) 完成品の在庫はゼロで、殆どが仕掛品。ありえない、

  これは完成品の在庫が多く不良化している事を隠そうと

  している証拠だ、というのがスコーピオンの主張です。

 

  → レーザーテックの主張は、

   完成とはお客様に引き渡し(所有権移転)できる状態の

   ものの事。検収が済むまではお客様に引き渡せないので

   仕掛け品である。

 

  → レーザーテックの主張には問題なく、しかも受注生産なので

   そもそも在庫の不良化懸念もあまりなく、スコーピオンの

   主張は的外れだと思います。

 

 

 (c) 書類上は営業利益を稼いでいるようだが、

  実際にはキャッシュを稼いでいない、これは 

  粉飾決算しているからだ、というのがスコーピオンの主張です。

 

  → 上述の受注から検収までの流れの中で、代金の支払いは

   「受注時A%、出荷時B%、検収C%、A+B+C合計100%」

   というパターンが多いです。

 

   A,B,C%の内訳は、顧客や取引毎に異なりますが、

   通常は出荷時の支払いBが最大になります。

   筆者の経験では、A 20, B 60, C 20,くらいが

   多かった様に記憶します。 

 

   レーザーテックは売上が検収条件なので、受注時や出荷時に

   支払われた金額A,Bが前受金として貸借対照表に載ります。

   

   つまり、売上として計上される金額はA+B+Cで

   営業利益はそれに基づいて算出されますが、

   その時の実際の入金(営業キャッシュフロー)に

   反映されるのはCのみです。

 

   そして、前受金として受け取っていたA,Bの金額が

   売上代金に充当されます。具体的には、貸借対照表上の

   前受金から消し込まれます。

 

   つまり、営業利益が計上される時期(A+B+C)と

   入金の多い時期(出荷後までのA+B)とは、ずれており、

   同時期の営業利益と営業キャッシュフローとを比較して

   多い少ないを論じるのは的外れです。

 

   実際に2024/6期の第1~3四半期累計では、

   ・営業利益; 581億円

   ・営業キャッシュフロー; 243億円

   差は 338億円。

   → この主な要因は;

     ・前受金の減少; 177億円

      (上述のA,B。既に過去に受け取ってしまっており

      売上計上の際に前受金から消し込んだ)

     ・法人税支払い; 238億円

 

   ちゃんと説明がつき、辻褄は合っているどころか、

   寧ろ営業キャッシュフローが多いと言えます。

   

   「営業利益が多いのに営業キャッシュフローが少ない、

   だから粉飾」というスコーピオンの主張は、

   全くの的外れだと思います。

   

 

 (d) 2018年に監査法人を換えた、これは粉飾決算が

   バレ難くする為だ、というのがスコーピオンの

   主張です。

 

   → 確かにレーザーテックは 2018年にデロイト トーマツを

     解任しました。しかし、後任はPwC あらた、一流です。

     粉飾決算を隠す為だったらもっと三流のところに

     したでしょう。

 

   「監査法人を換えたのは粉飾決算をしている証拠」

   というスコーピオンの主張は、的外れだと思います。

 

 

(3)莫大な損失計上リスクについて;

 

 スコーピオンの主な主張は、

 「粉飾決算で生じるゆがみの辻褄を合わせるために、

 将来莫大な損失を公表するリスクがある」です。

 

 → 上述の通り、スコーピオンが主張する「粉飾決算の証拠」が

   筆者の目には的外れか、少なくとも根拠が薄いと見えます。

   従い、粉飾決算自体がありもしない話で、それに

   起因する損失というのも現実的ではないと思います。

 

 

最後に、

筆者はスコーピオンのレポートを精読した訳ではなく、

要約版をさっと斜め読みしただけです。

その限りにおいて、読み取った事に対する個人的な意見を

書きました。

 

スコーピオンのレポートにはここに記載されてない問題点が

より深く記載されているかもしれず、それに対しては筆者は

意見できませんが、少なくとも上記の部分については

上述の通りです。

 

また、本当にレーザーテックが粉飾をしていないのかどうか?

は、PwC あらたでさえ見抜けていない事を筆者に見抜けるはずもなく、

これは分かりません。しかし、PwC あらたが気付いていないという事は、

粉飾の可能性は非常に低いんじゃないかと思います。

 

尚、この文書は投資を推奨するものではありません。

投資は自己判断でお願いします。

 

以上です。