本日6月5日、上場企業の「さくらインターネット」
(以下「さくら」と称します)が増資を発表しました。
「さくら」は、AI関連のスーパーコンピューターの国内整備に
関与している企業で、経産省から多額の助成金を獲得する事が
決まり一時話題になりました。
ここがどんな会社か?
助成金は幾らもらえる予定か?
…については、このブログの4月21日の記事をご参照下さい。
さくらインターネットのAIスパコン整備に助成金! | 投資家リプリーの気まぐれブログ (ameblo.jp)
この記事で「将来的に相当額の増資を行う可能性がある」と
記載しましたが、その5日後の4月26日、「さくら」は
200億円を上限とした新株式の発行登録を行いました。
→ 1年以内に増資を行う予定、という事。
本日発表の増資は 427万株で、現在の終値は約 5,000円で
丁度 200億円程度の規模になるので、今回の増資は
上述の予定を実行に移しただけに過ぎません。
→ 実際の株価は、6/19~21の何れかの終値の 90~100%の間で
需要状況を見て決定されるとの事で、5,000円よりは
大分下がると思われます。
Yahooの掲示板などを見ていると「増資だ、希薄化だ」と
パニックになっている人もいるようですが、今回の増資は
本来ならば市場は織り込み済みのはずです。
→ 織り込み済みだと思って静観する人が多ければ株価は
あまり動かないでしょうが、それを理解せずにパニックに
なる人が多いと実態とは関係なく株価が下がるかもなので、
注意が必要です。
前回の記事を書いた後に通期の決算発表がありましたが、
まだ見ていなかったので、この機会に見てみました。
その前にまずは株価の動きから見てみます。
(1) 株価推移
日足
3月初めの急上昇と急落、その後の調整や反発を経て、
4月中旬以降は概ね 5,000~6,000円程度で推移。
その間、4/19の助成金公表や 4/26の決算発表の直後は
一時的に上昇したがすぐにじりじり下げる…
という感じで動いています。
今回の増資については、ここで織り込み済みのはずです。
(2) 業績と財務状況
(a) 売上・利益の推移; 増収減益
2024年3月期の売上は、前年比 6%増。
だが、営業利益は、19%減。
減益の主な理由は…
「中長期的な成長促進のための人材採用や
マーケティング強化等の先行投資を加速」
…との事です。
ん? おかしくないか?
この 3カ月前の第三四半期決算発表の時には 33%の増益を
予定していたはず。
四半期毎に見ると;
だがQ4の売上は見通しを 14%下回り、営業利益は見通しの半分以下でした。
→ 売上が予想を下回る事は普通にある事です。
売上減に応じて利益が減る事も分かります。
だが「さくら」が利益減少の理由として挙げている
「人件費やマーケティング費用」は、勝手にでていくもの
ではなく、経営陣がコントロールできる費用です。
第三四半期決算発表は1月31日。
この時点では1月までの経費は確定しており、
残り2ヶ月の経費もかなりの精度で読めるはずです。
それをこんなに大きく外すとは…
この会社の経費コントロールはちょっと甘いようですね。
(b) 安全性; あまり余裕はないが、改善した。
2024年3月時点の流動比率は一般的に「これを下回ると危険」と
言われる境目の 100%ピッタリで、あまり余裕はなさそうです。
しかし3ヶ月前の 72%よりかなり改善しました。
また、営業キャッシュフローは大幅なプラスなので
日銭は稼げています。
つまり、特別な投資をしなければ資金は何とか回る、
だが今後、大型投資を行う予定なので、増資が必要、
という事のようです。
(c) 収益性; 低い。だが改善傾向。
営業利益率は4〜5%と低いです。
だが四半期毎に見ると、Q1の2%からQ2は 3%、Q3は 4%と改善し
Q4には 7%に改善しました。
2025/3期も7%を維持する計画です。
これが実現できるかどうか?
(d) 成長性; 新サービス次第
過去からの推移は下図の通り;
赤色部分の「クラウドサービス」は順調に伸びています。
一方、「物理基盤サービス」が 20年程前には「さくら」の成長ドライバーに
なっていたのが、ここ数年は足を引っ張っているようです。
ここで注目は、上図の緑の枠で囲った部分「GPUクラウドサービス」で
ここに「さくら」は 1,000億円を投資し 500億円の助成金を受け取る計画です。
この分野で予定通りに売上を伸ばす事ができるかどうか?
が、「さくら」の今後の成長性を左右するようです。
総括;
① 今回の増資は、以前から予定されていた事を実行するだけの話で、
新材料ではない。
② 安定性、収益性、成長性、いずれも改善の鍵は
GPUクラウドサービスが上手くいくかどうか?
にかかっていそう。
③ GPUクラウドサービスを進めるには多額の投資が必要。
半分は経産省の助成金でカバーできるが、半分は自己負担。
→ この資金需要を賄うためには今後も増資がある可能性大。
以上です。
尚、この財務分析・評価は筆者個人の考え方に基づいて行ったもので、
別の見方をされる方もおられるかもしれません。
また、数字やグラフも含め、内容には筆者の書き間違いや
勘違いが含まれているかもしれません。
いずれにせよ、この記事は投資を推奨するものではありません。
数字はご自分で検証の上、投資は自己責任でお願い致します。
以上です。