上場企業のAbalance 略称エーバラの元執行役員による
インサイダー取引疑惑についての記事を先日このブログに掲載しましたが、
この機会に同社の現状と直近の決算とを見てみました。
(1) どんな会社か?
主に以下の2つの事業を行う会社です;
① 太陽光パネル製造事業;
エーバラの連結売上の 95.5%、営業利益の99.6%を占める最重要事業
(2024/6年度 Q1〜3期実績)
ベトナムの連結子会社「VSUN」により太陽光発電用のパネルを製造し、
世界各国で販売する事業。
② グリーンエネルギー事業;
エーバラの連結売上の 4%、営業利益の 6.3%を担う。
太陽光発電の事業者から設計、設備製造、建設/据付などを
請け負う事業。設備などの物販のみの場合もある模様。
また、自社で発電所を持ち、売電も行っている。
その他、当社の設立時から行なっている IT事業や光触媒事業なども
行っているが、 売上は微々たるもの。
営業利益は管理費なども加えると赤字。
(①と②の営業利益合計が100%を超えるのはその他が赤字だから)
また、上場企業の明治機械に39.99%出資(持分法適用関連会社)し
間接的に中古建設機械の販売/レンタルなどを行なっている。
注) VSUNは連結子会社。
→ エーバラの連結売上にはVSUNの売上を含む。
→ VSUNの100%の数値を足して(グループ内での取引は
差っ引いて) 連結純利益を算出した後に、
出資比率に合わせて最終利益が算出される。
明治機械は持分法適用の関連会社。
→ エーバラの連結売上には明治機械の売上は含まない。
→ 営業外損益の中で出資比率分の損益が取り込まれる。
具体的にエーバラの損益計算書で図示すると;
つまり、連結子会社か持分法適用会社か?は、
どちらかも最終損益を算出する前に出資比率に合わせて
調整される事に変わりはないですが、
決算書の見栄え(売上規模など)では大きく異なります。
エーバラの場合、VSUNへの出資比率は 43.2%で過半数に
足りておらず、普通だったら持分法適用会社になるはずです。
→ もしそうなら、エーバラは年間売上 2,000億円規模の会社
ではなく、100億円規模の会社になる訳です。
しかし、次のような投資の流れを組む事により、VSUNは
持分法適用会社ではなく、連結子会社になっています。
VSUN → WWB社に100%出資 (WWBは連結子会社になる)
WWB → FUJI SOLAR社に51%出資 (FUJI SOLARも連結子会社に)
FUJI SOLAR → VSUNに 84.85%出資 (VSUNも連結子会社に)
連結子会社の連結子会社の連結子会社なので、
VSUNも連結子会社になっています。
→ なんかズルいなあ… と思ってしまいます。
太陽光パネルの製造工程は;
・シリコン粒からインゴット(結晶の塊)を作り、
・インゴットをスライスして板状のウェハを作り、
・ウェハを加工してセル(電池)を作り、
・セルを組み立ててパネル完成品を仕立てる…
…という感じです。
注) このウェハは半導体用と同様にシリコンから作られますが、
半導体用より低純度で、硬さも弱く、分厚く、
SUMCOなどが作る半導体用ウェハとは全く別物です。
この工程の中で、VSUNは他社からウェハを仕入れて組み立てて
パネルを完成し販売する、というビジネスを行なってました。
組立工場は4つの工場が稼働中 (第4工場は2022年10月竣工)。
これに加え、部材の内製化を進め、
セルの工場を2023年10月に完工、
ウェハの工場も 本年2024年4月に稼働開始。
部材の内製化によりパネルの製造コスト削減を図り
同時にセルは外部への販売も行なって売上増も図る
という狙いのようです。
(2) 株価;
日足です;
2023年2月にウェハ工場新設計画を公表、
更に2023/6年度の通期見通しを上方修正し、
株価は 2,700〜2,900円程度から 4月中旬までの
2ヶ月少しで 13,370円と4倍超に上昇。
その後、委託保証金率の引き上げや工場建設資金の
調達方法の公表などを受けて株価は激しく上下しつつ
5月には最高値 13,620円に到達。
だがそこで空売りファンドによる売り煽りを喰らって下落、
以後も上下しつつ 2023年夏頃は9,000円前後で落ち着いた。
が、8月中旬に2023/6年度の決算発表を延期した事を機に
株価は急落、数日後に実際に決算が発表されると
翌期の計画が期待外れとして更に急落。
9月に入って下落ペースは落ち着いてきたが
以後もジリジリと下げ、ここ最近は
2,000円前後で推移している。
直近の終値(2024/5/17)は 2,148円 (PER 4.7)
(3) 決算内容;
① 当期決算: 減収増益。
当年度Q1~3期の累計売上は前年同期比 4%減、
通期売上の推移を事業別に見ると以下の通り;
VSUNを連結し始めて以降、VSUNの売上増と工場増設による
製造キャパ増とにより2023/6年度まで売上は急激に増加。
だが2024/6期は上述の通りQ1~3累計で前年同期比4%減、
Q4は更に下がり前年同期比 44%減に終わる見通し。
2024/6年度の通期見通しは前年比 15%の売上減となる見込み。
売上減の理由は、太陽光パネルの販売価格の下落。
太陽光パネルは世界的に供給過剰らしく、その為に
VSUNの販売価格が低下したとの事。
四半期別でみると下図の通り;
売上は2023/6年度Q1以降はほぼ横這い、
2024/6年度には入ってからは減少し、
Q4は更に大きく落ち込む見通し。
一方、営業利益率は2021/6年度に低迷。
→ コロナ禍の影響で物流費が高騰した為。
だがコロナ禍沈静化に伴い営業利益率は 徐々に回復、
2023/6年度Q3~2024/6年度Q3には8~10%で安定。
この結果、2024/6年度Q1〜3の実績は前年同期比 52%増となった。
営業利益率は 2024年度Q4は更に大きく上昇し22%に達する見通し。
→ 2024/6年度は Q3にセル、Q4にウェハに自製を開始
した事でコストを削減できた模様。
この為、Q4は売上が前年同期比 44%も下がるにも関わらず、
営業利益は前年同期比 83%も増加する見込み。
この結果、営業利益の2024/6年度の通期見通しは
前年比 61%増となる見通し。
② 安全性: あまり余裕は無さそうだが心配なさそう。
流動比率は96%で、一般的にこれより下げたら危険と
言われる 100%を僅かに下回る。
資金繰りにはあまり余裕は無さそう。
しかし営業キャッシュフローは2023/6年度は大幅なプラスで
2024/6年度上期も大幅にプラス。
日銭を稼げており、流動比率は上述のように低くても
何か特別な大問題が起きなければ資金繰りに行き詰まる
事態にはならなさそう。
売掛金回収期間は0.2ヵ月と非常に短い。
これは多分、輸出の決済条件を L/C at sightに
しているのだと推察され、それなら安全度が高い。
仕入債務支払期間も1.0ヶ月とかなり短いが、
売掛金回収期間の方が短いので、販売増が
資金繰りを圧迫するという事態に陥る心配は無さそう。
在庫期間は2.4ヵ月と常識的な範囲内。
2023/6末の 3.5ヶ月より改善している。
流動比率に余裕がない為、在庫が溜まりだしたら
たちまち資金繰りに苦労する事になりそうなので、
在庫の状況は常に注視しておいた方がよさそう。
③ 収益性: 低めだったが急上昇中。
売上総利益率は19%で、2023/6年度の 14%より改善。
営業利益率は2023/6年度は 6%と低かったが、
2024/6年度Q1〜Q3は 9%に改善。
Q4は 22%への急上昇を見込んでおり、
これが実現し翌期以降も定着すれば、
エーバラは低収益企業から高収益企業に一気に脱皮する事になる。
太陽光パネルの部材内製化による利益率改善の目論見が
見事に奏功した事になる。
ROEは40%と極めて高い。
だがこれは自己資本比率が 12%と低い事も一因で、
これだけで収益性が高いとは言い切れない。
④ 成長性: 判断が難しい。
売上だけを見ると、
・過去は急成長、
・2023/6年度に入って足踏み、
・2024/6年度に入って下落
これで来期以降は販売を伸ばす事ができるのか?
エーバラによれば、太陽光パネルの年間製造能力を
現在の 5GW分から2026年に 10GWに引き上げ、
更に2030年には 12GWに引き上げる計画。
(その間、米国でも製造開始する計画)
これが実現できれば(これだけ製造を引き上げて
それに見合うだけ製品が売れるなら)、2026年には
倍増に近いレベルの売上増が期待できる。
→ 成長性は高いと言える。
しかし、現時点で太陽光パネルは供給過剰との事で、
そんなに作って本当に売れるの?
という疑問が湧いてくる。
この辺りは太陽光パネル市場の状況や先行きを
詳しく分析しないと判断がつき難い。
→ エーバラの今後の販売推移をよく見ておく必要がある。
一方、部材内製化による営業利益率の向上は注目に値する。
2024/6年度 Q4の実績が見通し通りの高収益となるか?
2025/6年度以降もその傾向が続くか?
→ 続くならば、売上が多少落ちたとしても
利益が結構上がってくると期待できる。
総括 (全て個人的意見です);
① 供給過剰による売上減少に歯止めがかかり
増加に転ずる事ができるか?
② 2024/6年度Q4で見込んでいる高い営業利益率を
実際に実現できるか?
その後も継続できるか?
上記①②がエーバラの目論見通りに進むならば、
現在のPER 4.7はかなり割安なレベルと思われる。
以上です。
尚、この財務分析・評価は筆者個人の考え方に基づいて行ったもので、
別の見方をされる方もおられるかもしれません。
また、数字やグラフも含め、内容には筆者の書き間違いや
勘違いが含まれているかもしれません。
いずれにせよ、この記事は投資を推奨するものではありません。
数字はご自分で検証の上、投資は自己責任でお願い致します。