上場企業の「HEROZ」が6月9日の引け後に2023/4期決算を
発表しました。
その後、株価は時間外取引で 20%以上も上昇しています。
何があったのか?
株価の推移と決算内容を見てみました。
(1) 株価
月足;
HEROZは 2018/4に公募価格 4,500円で上場。
(その後、2018/12と2020/1に株式分割を2回、合計で
4分割しており、分割後の換算値は 1,125円)
当時は「AI関連銘柄」として大人気で、初値は
公募価格の10倍を超える 49,000円!
(分割後の換算値は 12,250円… 上図の通り)
→ IPOに当選してすぐ売った人は45万円出して
一撃で445万円も儲けた格好(裏山)。
ところが、その後は大きく値を崩し、一旦は復活しかけたが
すぐに下落、低迷していました。
日足;
だが、昨年7月に 774円で底を打ってからは上下に振れつつも上昇、
特に最近は株式市場での AIブームに乗ったのか上昇ペースを上げ、
決算発表日の6/9終値は 1,789円。
そして、決算発表後のPTSは 2,189円。
この調子で上昇を続けるのでしょうか?
(2) 2023/4期(当期) 通期決算
(a) 収益(単位 百万円);
売上; 2,980
営業利益; 257 (営業利益率 8.7%)
経常利益; 216
税後損益; ▲574 (赤字)
当社は2022/8月にサイバー攻撃対策のバリオセキュア社(V社)、
2022/9月にSaaS関連のストラテジット社(S社)を子会社化し、
当期の第3四半期から連結決算を開始。
それ以前は単体決算しかなかった為、短信には
前年比の数値を記載していない。
過去の単体決算と当期の連結決算、翌期の連結見通しとを
繋げた推移は以下の通り;
売上は当期、翌期と大幅に伸びているが、これは当たり前。
当期はV社の6ヶ月分、S社の5ヶ月分の売上が上乗せされており、
翌期は両社の 12ヶ月分の売上が載っているため。
当期のHEROZ単体の売上は 1,572百万円(連結の53%)で
前年比6%増。世間でAI、AI、と騒がれている割には控えめ。
営業利益は 2022/4期に大きく落ち込んだが当期は回復...
と言っても、営業利益率は 8.7%と控えめ。
HEROZ単体での営業利益率は 7.7%、
V社、S社合計の営業利益率は 9.7%.
両社の買収が営業利益率の改善に少し役立った模様。
税後利益は、当期は 574百万円の赤字。
この主因は、以下の特別損失を計上した事;
① 段階取得に係る差損; 541百万円
→ 当社は 2021年9月にV社の株式を買い関連会社化し、
2022年8月に買い増して子会社化した。
子会社化した際に、その前に買った株式を
子会社化時点の時価に合わせて評価替えし、
この評価替えにより損失が出た模様。
(以前、高買いしていたという事ですね)
② 契約損失引当金; 101百万円
→ V社の「VCR」という商品の売れ行きが悪く、
調達先との最低購入保証を満たせそうにない為に
引当金を計上した模様。
どちらも一過性で今後は発生しない損失のようだが、
翌期2024/4期は経常利益見通し 385百万円に対し
税後益見通しは 30百万円に留まっているので、
2024/4期も何か特別損失を予定している可能性あり。
(b) 安定性; 良好。
流動比率は499%で、「余裕あり」と言われる200%を
大きく上回っている。
流動負債の 3.8倍もの現預金を持っており、
営業キャッシュフローも大幅にプラス。
売掛債権は売上の2.6ヶ月分で常識的な範囲内。
これらを考えると、資金繰りには十分な余裕がある模様。
ただ在庫が 1.9ヶ月分あり。月数自体は問題視するレベルでは
全くないが、当社の業態で在庫するようなものがこんなに
あるのか少し疑問。
今後の推移を少し注意しておいた方がいいかも。
(c) 収益性; 当面は弱め。
(a)で述べた通り、当期の営業利益率は8.7%と低め。
2024/4期見通しも 8.3%と低い。
この最大の原因は「のれん」の償却と推察される。
当社がV社/S社を買収した際に支払った対価が両社の
時価より高かったようで、これが「のれん」として
計上されている。
当社の2024/4期見通しではEBITDAは800百万円、
営業利益は400百万円で、差は400百万円。
この殆どが、のれん償却費と推察される。
2023/4時点ののれんは 2,312 百万円なので、
2024/4期のペースで償却するなら、あと5年。
つまり、売上があまり伸びない場合は、営業利益率は
今後も5年程は8〜10%程度に留まる可能性が高い。
だが、償却が終わった後は15〜20%程度に上昇すると
推察される(個人的な勝手な推察です)。
→ 売上が急激に伸びれば営業利益率も大きく改善
するはずだが、売上の伸びについては次項参照。
一方、税後益に関しては当期は特別損失により
赤字だったが、2024/4期もプラスながらも
わずか30百万円に留まっている。
これも一過性の理由によるものか今後の決算を
良く見る必要がある。
(d) 成長性; 未知数。
(a)で述べた通り、一見したところは売上は
大きく伸びているが、これは買収企業の
上乗せによるもの。
HEROZ単体の売上は前年比6%増と控えめな伸びで、
買収した2社も各々の売上が伸びているのかどうか
当期の決算を見る限りではわからない。
9月に公表される2024/4期 第1四半期決算を見て、
2023/4期 第3/第4四半期から伸びているかどうかを
見なければ判断し難い。
結論;
① PTSの急激な伸びは単純に売上の伸びを見ての
ものだと推察される。
② だが中身を見れば、これが買収による上乗せに
よるもので、実際のビジネスが伸びているか
どうかは不透明である事がわかる。
→ 9月のQ1決算を見ねば方向性が見え難い。
③ 但し、今のAIブームの中で、実態とは関係なく
株価は動く可能性はある。
という事で、判断は難しいと思います。
以上です。
尚、この財務分析・評価は筆者個人の考え方に基づいて行ったもので、
別の見方をされる方もおられるかもしれません。
また、数字やグラフも含め、内容には筆者の書き間違いや
勘違いが含まれているかもしれません。
いずれにせよ、この記事は投資を推奨するものではありません。
数字はご自分で検証の上、投資は自己責任でお願い致します。