このブログで、今週最もアクセスの多かった記事はなんだったか?
なんと、最新の記事たちを抑えて一位だったのが、本年1月の
「出前館 ー 黒字化への道は厳しい!?」
という記事でした。
出前館の注目度は結構高いのかもですね。
1月の記事は1月11日公表の2023年8月期 第1四半期(Q1)決算を
受けてのものです。その記事では、以下の様に総括しました;
「決算の実績は以前よりは随分改善している。
しかし、黒字化の為にはまだまだ不十分で、
より一層の利益率向上と経費削減、
これと売上増とを両立せねばならない」
それ以後、4月に公表された Q2決算内容も含め
現状を見てみました。
まずは株価の推移を見てみます。
1) 株価
月足
2020年初頃からコロナ蔓延によるフードデリバリー需要の急増
という追い風を受けて上昇気流に乗った当社の株価は、
2021年8月期Q1決算で約32億円の営業赤字を計上した事で反転下落、
(2020年8月期の通期赤字26億円を僅か3ヶ月で上回った)、
その後は激しく下落し、漸く下げ止まった感はありますが
低迷したままです。
日足
この半年は概ね 400~500円で推移しています。
1月11日のQ1決算発表の後に400円近辺から上昇し
25日線を上抜け、一時は500円に達したが、
上昇の勢いは続かず反転下落。
4月12日のQ2決算の後には400円を割り込みました。
しかし、5月に入ってから400円台を回復、
6月2日の終値は 426円、PBRは1.23倍です。
(赤字なのでPERは数値無しです)
では決算の中身を見てみましょう。
2) 2023年8月期 Q2決算
a) 当期決算; 増収、損失縮小
売上は前年同期比 12%増。
営業損益は赤字だが赤字幅は前年同期の 224億円から
87億円に大幅に縮小。
四半期別では以下の通り;
売上は前年度Q2までは順調に上昇したが、以降は横這い。
ただこのQ2はQ1より8%増、前年同期比 6%増で、
緩やかだが上昇を再開した感じではある。
ただ、消費者が出前館を通じて食事を注文した場合、
以下の2つのケースで売上が異なる:
① 配達を飲食店が自分で行うケース;
→ 出前館の売上は「サービス利用料」のみ。
② 配達を出前館が手配するケース;
→ 出前館の売上は「サービス利用料」に加え
「配達代行手数料」も。
つまり、消費者の注文金額が同じでも、出前館の売上は
②のケースが大きい。
出前館によれば、Q2の売上増は上記②のケースが増えた為で、
消費者からの注文金額(配達料込み)そのもの(略称GMV)は
前年同期比11%減に留まった。(Q1比では7%増)
GMVの推移は以下の通り;
2022/8期Q2までは増加しているが、以後は一旦減少して
そのまま横這い。
営業赤字は前々年度は四半期あたり50億円程度だったのが
前期Q1とQ2に急拡大、特にQ2は134億円もの赤字を計上。
この赤字幅がQ3・Q4は各70億円前後に減り、そして
当年度のQ1・Q2は各々42億円・45億円に減少。
赤字が減っている理由は、コスト削減。
赤字幅が最も大きかった前年度Q2と比較すると;
売上は前年度Q2の124億円に対し今年度Q2は132億円と
約8億円増加した中;
①広告宣伝費; 26億円減
→ これがGMVの減少を招いた模様。
②人件費; 10億円減
→ 当社は従来は配達の一部を自社の社員で、残りを外注
(外注先は多分Uber)していたが今年度から全て外注に
切り替える事を決定。
この分が人件費削減に効いてる模様。
③売上原価; 55億円減
→ 配達を外注に変えたらその分外注費(=売上原価)が
増加するはずなのに、実際は大幅に減少した。
この要因は、当社資料によれば;
(a) 配達員の充足とプロダクト改修による配達時間の短縮。
→ 店と顧客から遠くの自社配達員を使うのではなく、
最も近くにいるUber配達員を使う事により効率が
上がったという事かと推察。
(b)1件辺りの配達報酬の適正化。
→ Uberから値引きを取ったのだと推察。
という事で、纏めると:
「広告宣伝を減らした為にGMVは減ったが、
配達を出前館が請け負う(実際はUberに外注)ケースが
増えた為に売上は増加し、
売上原価や経費を大きく減らしたので損失が減った」
という事の様です。
b) 安全性; しばらくは大丈夫そうだが、早期黒字化が必要。
「短期間で払わねばならない債務を手持ちの現金と
短期間で回収可能な資金とでどれだけカバーできるか」
を示す流動比率は473%で一般的に「安全」と言われる
200%を大きく超えており、今現在は資金に余裕がある模様。
しかし、この上半期の営業キャッシュフローは85億円の赤字。
(前回の記事で「月14億円の赤字」= 半年で84億円と
推察しましたが、ほぼピッタリでした)
この場合、2月末の現預金は447億円で、今のペースで
減れば現預金は約2年半で枯渇する計算。
この間に採算性を改善せねば資金繰りが苦しくなっていくと見られる。
一方、2月末の純資産は455億円で、今のペース(半期で87億円)の
赤字が続いたらやはり2年半を過ぎた頃には債務超過になる。
従い、資金面からも、純資産の面からも、2年半以内に
黒字化する事が必要。(或いは増資)
c) 収益性: 非常に悪いが改善中。
2019/8期から既に4期連続赤字で、今年度の2023/8期も赤字見通し。
前年度までは赤字幅は年々拡大したが、今年度は縮小を見込む。
d) 成長性: 非常に高かったが…
上述の通り、GMVは一旦減少し、ここ最近は横這い。
当年度通期見通しでは、GMVは前年比 9%減に留まる。
つまり、採算改善に力を入れた結果、成長性はかなり
落ちてきている状況。
3) 黒字化への道
採算性改善の為に広告宣伝費を抑え、結果として
成長が足踏みしてしまった。
だが成長の為に広告宣伝費を増やすと、
採算性悪化を招きかねない。
今年度上期の実績に基づいて年間経費 268億円、
売上総利益率 18.3%として簡便法で計算すると、
損益分岐点は「年間売上 1,465億円」
つまり前年度の約3倍、今年度見通しの約2.9倍。
仮に広告宣伝費を前年度Q2並に増やし(年間100億円増)
売上総利益率が同じだとすると、
損益分きては「年間売上 2,012億円」
つまり前年度の4.2倍、今年度見通しの約4倍。
逆に、売上や経費が今のレベルのままだとすると、
黒字化に必要な売上総利益率は、約50%になります。
… いずれにしても、結構無理のある数字です。
黒字化の為には、
・売上総利益率を改善
・経費は削減
・売上は拡大
をかなり高いレベルで同時に満たさねばならないようです。
総括;
決算の実績は以前よりは随分改善している。
しかし、黒字化の為にはまだまだ不十分で、
より一層の利益率向上と経費削減、
これと売上増とを両立せねばならない。
だが、Q2の数字を見ると、売上、経費、利益率、
どれを見てもQ1の数字と大差なく、
このままではいつ黒字化できるか判らない。
もっと過激で抜本的な対策が必要に思われる。
以上です。
尚、この財務分析・評価は筆者個人の考え方に基づいて行ったもので、
別の見方をされる方もおられるかもしれません。
また、数字やグラフも含め、内容には筆者の書き間違いや
勘違いが含まれているかもしれません。
いずれにせよ、この記事は投資を推奨するものではありません。
数字はご自分で検証の上、投資は自己責任でお願い致します。