はじめに

今回の投稿は、近年日本でも注目されているTBLT(Task-based Language Teaching)の「付加価値」について、このブログのテーマに沿って書いてみます。

 

僕自身はTBLT推進派ではありますが、現状の日本の中高の授業にはあまりフィットしないと考えております。とはいえ、taskを授業に取り入れる価値はあると思っており、その価値は言語習得だけに留まらず、現代の英語学習・教育として意義深いものでしょう。

 

ではさっそく、書いていきましょう!

 

  TBLTとは

まずはtaskについて、その定義を確認しましょう。

taskといったらこの人、Rod Ellisですよね!

Ellis (2019) によると、taskには4つの特徴があるようです。

  1. やりとりをする人の間に、意見や情報にギャップがあること
  2. タスクのゴール(成果物など)があること
  3. 意味のやり取りが主要な目的であること
  4. 言語・非言語両方の意味資源を活用すること

これらの特徴を兼ね備えるものをEllisはtaskと呼んでいます。

つまり、ただ音読をしたり、自由会話をする事はtaskとはいえません(この点を気にせず「タスク」という言葉を使われる方がとても多いです)。

taskのわかりやすい例を挙げると、「間違い探し」や「絵の順番を並び替える」などがあります。

 

これらtaskのメリットはなんと言っても、interaction(やり取り)を自然発生させることができるということです。音読を制限時間内にする、自由会話を1分続けるといった「人工的」な練習とは異なり、日常的にことばを使って我々人間がやっていることを第二言語でやるだけといった感じです(もちろん、「人工的」な練習も必要ですが)。

 

また、Ellis (2019) によると、TBLTは文法や語彙などをターゲットとして教えるのではなく、taskに携わる (engage) するなかで自然と言語を学ばせることを主眼に置いていますそのため学ぶ内容が各学習者によって異なっていてもいいという考え方なのです(taskを完遂させる過程で、キーとなる語彙や文法が必要になる仕掛けはあったほうがいいと思いますが)。

 

この辺りがTBLTの一般的な定義とメリットになります(もちろんもっと多くのことをEllis (2019)のなかでは議論されていますので、よろしければご一読ください)。

 

  TBLTの「付加価値」

さて、ここからはこのブログのテーマに引き寄せて考えていきたいと思います。identitytranslanguagingの2点から考えていきましょう。

 

TBLTの「付加価値」:学習者のidentityへの影響

たとえば、taskにおいて学習者は、English users (English learnersではない)になります。英語を使ってtaskに取り組む過程においては、言語的側面を学ぶことより意味のやり取りがメインなので、英語を学ぶ人 (English learners) ではなく英語の使用者 (English users)です。

このidentity shiftは軽視できない重要なことです。なぜなら、usersであるならば、言語的「正解」(=accuracy)に縛られず、主体性を持って英語を使用して良くなるからです。また、English usersである以上、教師も生徒も対等な立場になります。実際、Ellis (2019) では、TBLTにおいて教師のメインロールはcommunicatorsだと述べられています。この状況下では、「教師=教える人 / 生徒=学ぶ人」といった「分厚い壁」は薄くなり、言語をより上手に使いこなすかどうか (expertかnoviceか)という程度の関係になるでしょう

 

この関係性の変化は、学習者として位置付けられているとき(たとえば、音読を制限時間内にする、文法問題を解くなどを課せられている状態)では起こり得ないことです。

学習者がEnglish usersになって初めて主体性を持って英語学習に励むことができるので、このidentity shiftは重要な意味があるのです。

 

また、「学ぶ内容が各学習者によって異なっていてもいい」というのもidentityに関連してきます。taskに臨む際には個性が現れることになるので、その取り組み方は必然的に「十人十色」になるからです。taskのなかでどこに着目し、どのようなことばを使ってtaskに臨むかは各学習者に委ねられています。taskの中で学習者自身が「イマ・ココ」にcontext(文脈)を生み出し、identityを表現するのです。これがまさに、taskが学習者のidentityに関わっているといえる所以です。

 

TBLTの「付加価値」:必然的なtranslanguaging

taskは意味のやり取りがメインなので、辞書的な意味で「正しい」英語が必ずしも必要とされているわけではありません。会話をするもの同士で意味が通じ合う言葉を作り出しても良いのです。

 

もちろん日本語に頼りきって英語を全然使わないとなると、英語のTBLTとしては問題だと思いますが、多少英会話の中に日本語や別の言語が混ざる事はむしろ自然なことなので、全く問題ありません。また、会話をするもの同士で、そのcontextにふさわしいことばを創造するなんてことも期待できます。多くの学習者が英語だけで会話を淀みなくできるわけではないからこそ、translanguagingが必然的なものになるのです。

 

もちろんこれをネガティブにみる見方があることも理解していますが、taskを通じて自然なtranslanguagingが引き出せるのは間違いないでしょう。「ことば」をどう捉えて定義するかで考え方が大きく変わりそうですが、僕はこのブログにずっと書いているように、自然な英会話ではcode-switchingやtranslanguagingが起こるのはとても普通のことと捉えています。であるならば、taskにおいて「自然」な言語環境が形成されることを歓迎すべきだと思います。

 

 

  おわりに

以上、taskについて基本的な定義とメリットをまとめ、そして「付加価値」の部分に言及してみました。

 

TBLTは確かに大学受験のような「ペーパーテスト」において効果をもたらさない(or 効果をもたらすのに時間がかかる)かもしれませんが、「付加価値」まで考慮に入れると、現代において意義深い指導法の一つだといえると思います。

 

近年TBLTについての議論は盛んになってきたように感じていますが、ぜひこの「付加価値」も頭の片隅に入れておいていただけると幸いです。

 

参考文献

Ellis, R. (2019). Introducing task-based language teaching. Shanghai Foreign Language Education Press.