はじめに

最近は次々といい本に巡り合えています。大変な日々ですが、確実に僕の人生に潤いを与えてくれています。著者の方には最大のリスペクトと感謝を送りたいです(勝手に)。

 

今回の投稿では、最近読んだ『ムラブリ』という本の簡単な感想を書きます。英語学習・教育とidentityを「研究」している僕にとっては、とても考えさせられることが多く、また読んでいて楽しい本でした!

 

それでは、みていきましょう!

 

  『ムラブリ』を読んで

まずはムラブリについて簡単に紹介しますと、この本のサブタイトルにもあるのですが、「(タイやラオスの山岳地帯で生活している)文字も暦も持たない狩猟採集民」のことをいいます。

筆者の伊藤さんはこのムラブリの研究者で、文字がないためフィールド言語学という手法で現地に赴いてムラブリの生活や言葉について研究しています。

 

僕は英語学習・教育を主軸に「ことば」に興味を持っている人間なので、ムラブリ語自体にはさほど関心はないのですが、この本を読んで共感したり学んだことについて少し書いていきたいと思います。

 

言語学習と身体性

筆者はムラブリ語の学習について、ムラブリ語を学ぶということは、その身体性を身につけるということであり、また別の身体性には別の人格が伴うといったことを述べています。

 

まさに、このブログのテーマである、英語学習・教育とidentityと同じことをおっしゃっているわけです!

これは僕にとって大ヒットでした。ムラブリ語を身につけてムラブリ的身体性を身につけた筆者は、最終的にムラブリ的な生き方を模索していく方向に向かうのですが、言葉を学ぶということはこのような変化があるということなのだと改めて思いました。

 

もちろん日本で英語学習をしているだけではそこまでのインパクトはないかもしれませんが、ただ文法を覚えて文字ベースで学ぶということを超えてどっぷりとその言語につかれば、「かくれた文化」(鈴木, 1973)を身につけ、自分のidentityに大きなインパクトをもたらせてくれるでしょう。英語教育者としては、そのような体験を学習者にさせていきたいと強く思いました。

 

グループ間の差を示すためのことばの差異

ムラブリは他のムラブリグループに興味はあるのですが、「人食い」であるといった噂を信じて、あまり馴染もうとはしてこなかったそうです。それもあり、他のグループとの違いを示すために、少し言葉を変えたりしているのだそうです(男女で使う言葉を変える、など)。

 

これもこのブログで書いていることばとメンバーシップ・排除の問題と似ていると思いました。やはりどの部族や地域であっても、ことばはidentityを示す重要なマーカーなのだと改めて認識しました。

 

translanguagingとの接点

この本自体には、このブログの2大テーマであるtranslanguagingに関する話題はありませんでしたが、筆者の考えのなかにtranslanguagingに通じるものがあったので、それを紹介したいと思います。

 

筆者は、語というのは誰にでも作れるが、それにはセンスが必要であるといったことを述べています。そしてそれは、芸術的であると。また、上にも書いたように、ムラブリは言葉を変えることでグループ間の差異を生み出しているというのです。

 

これを読んだ時、僕はtranslanguagingが頭に浮かび、やはりことばは自由なのだと思いました。ことばとは、文法が先にあって必ずそのルールに従って使わなければいけないというわけではなく、芸術的な営みと同様に自分で創り出してもいいのです。そしてそこには、センスが必要であるわけですが、そのセンスにはtranslanguagingのセンスと似たものがあると思います。どういうことかというと、translanguagingもただコードスイッチするのではなく、何かしらの目的や意図を持って、その言語使用者のセンスを駆使して行う芸術的な営みなので、筆者のいう「誰にでもできるがセンスが必要」と重なりました。

やはり言葉の学習はもっと自由でいいと思いました。

 

筆者の人間的魅力

筆者は自身のことを「運がいい」と形容していました。

いいタイミングでいい縁が舞い込む、といったことだと思いますが、縁を掴むべく行動していた筆者だからこそ得られた成功があったと思います。

 

私自身も何かと運がいい人間だと思っているので、少し共感してしまいました。

そして、正規のルートで研究に励んでいたのに最終的には独立して研究をしている筆者のように、自分自身の道を掴んでいきたいと強く思うのでした。

 

また時よりこの本を読み返して、自分自身を奮い立たせていきたいと思います。

 

  おわりに

『ムラブリ』を読んで、僕自身に響いた4つのことをまとめましたが、もちろんこの本にはもっと多くの魅力があると思います!

 

なんとなく教養として読むのも面白いですし、ことばに興味がある人は読んでみるべき1冊なのではないでしょうか。

これからもこのような面白い本に巡り合えるよう、アンテナを貼って生活していきたいと思います。

 

 

参考文献

伊藤雄馬 (2023). 『ムラブリ: 文字も暦も持たない狩猟採集民から言語学者が教わったこと』集英社インターナショナル.

鈴木孝夫 (1973).『ことばと文化』 岩波新書.