【オーディルの冒険 –Brain Heart Infusion】 0005 | こころの色…  ~love you, so "Nice Smile"

こころの色…  ~love you, so "Nice Smile"

はじめまして。
とうとう、ブログを始めることにしました‼️

アークエンジェル、始動します。

湖のほとり。

パーティーも終盤にさしかかり、いっそう歓喜に満ち溢れていた。大鹿のタブローは、パーティーの進行に余念がなく、的確にそして穏やかに指示を出していた。パーティーに参加している多数の動物たちは大いにパーティーを満喫し、口々に今日のこの日を神様に感謝していた。

 

そこへ、オーディルとパブリロがバークスマンに突かれ、歩いては止まり、止まっては歩きしながら現れた。大鹿のタブローはパーティーの進行に忙しく、すぐには彼らに気付かなかった。バークスマンは厳しい口調でいった。

 

「おまえ達!そこで止まるんだ。」

「大鹿さん!怪しい奴らを連れてきたぜ。」

 

犬達に指示していた大鹿は、その声に振り向いた。うなだれて下を向く二人の闖入者と鳶のバークスマンが眼に入って、小走りにそちらに向った。

 

「大鹿さん、こいつ等がこの辺りをウロウロしていたんで連れてきたぜ。こいつら、何か企んでるみたいだ。」

 

バークスマンの言葉に反応して顔を上げたオーディルは反論した。

「そんな、ぼくたちは何も企んでなんかないよ。本当だよ。」

 

「では、君たちはこの辺りで何をしていたのですか?」

 

タブローは森の動物達を代表して尋ねた。パーティーに集まった全ての者達の視線が彼らに注がれていた。木々の上の鳥達も歌うのを止め凝視していた。パーティーのあらゆる喧騒がストップして静寂が辺りを支配した。

 

「ぼくたちは、」オーディルはタブローに、というより、ここに集まっている皆に説明した。「森の入口で眠っていたんです。すると、森の奥からいろんな歓声が聞えてきて・・・何が始まったんだろう、て思って森へ入ってきたんです。そしたら、鳶さんに突かれてぼくたちはここへ連れてこられました。ぼくたちは何も悪いことはしていないし、するつもりもありません。ちょっと気になって、こちらに向っていただけです。それだけなんです。信じて下さい。」

 

「何を信じろって言うんだ。」

 

鳶が口を挟んだ。それをタブローが眼でたしなめて優しく言った。

 

「私たちは、今夜ここでパーティーをしています。夕刻、あなた方がこちらに向って草原を歩いていたのを知っていました。森の入口で休んでいるのも観ていました。私たちがあなた方の眠りを邪魔したのなら謝ります。すみません。しかし、あなた方が私たちに危害を加えないという保障はありますか?」

 

オーディルは困った。どうやって証明すべきか分からなかった。

“パブリロにこの森へ行こうと言ったのは、ぼくだ。その後疲れて、入口で眠っていた。パーティーがあるなんて知らなかった訳だけど・・・。ぼくたちの気持ちをどうやったら解ってもらえるのだろう。どうしたら証明出来るのかな。”

 

オーディルは考えを巡らせながら、その場に突っ立ってタブローの眼を見ていた。彼は水晶のように透き通っていて吸い込まれそうな眼をしていた。何でも見抜いているような、体の中までも見通せそうな、そんな瞳を・・。

 

“この瞳の奥にある青いところが、ぼくの心の中を見てくれればいいのに・・・。”

 

「わかりました。」タブローは顔を少しほころばせながら言った。「あなた方を信じましょう。」

 

鳶のバークスマンは身を乗出して何か言いかけたが、タブローの眼を見て言葉を呑込んだ。オーディルは、ホッとしてパブリロに視線を向けた。彼も安堵の表情を浮かべていた。

 

「あなた方も、ご一緒にどうですか。パーティーはもう少しで終わってしまいますが、皆と一緒に楽しんでは。」

 

「はい、喜んで。」オーディルの顔にいつもの陽気さが戻った。二人は森の仲間たちに名を名乗ってパーティーに加わった。

 

「それでは皆さん、パーティーを続けましょう。」

タブローはそう告げると新しい参加者を案内した。鳶のバークスマンは飛び上がって再び偵察に戻っていった。

 

森のなかに喧騒と歓喜の声が甦り、夜の賑わいが再開する。

美しい調べを奏でる鳥達。一緒に合唱する森の仲間たち。

参加者全員による大合唱の<陽だまりの中で>・・・。

 

 チュチュチュルルル ルララ

 おいらの歌は風のささやき

 わたしの声は小川のせせらぎ

 

 チュチュチュルルル ルララ

 花のかほりと雲のテノール

 森の妖精、星のかがやき

 

 チュチュチュルルル ルララ

 チュチュチュルルル ルララ

 ・・・

 

 森の大音楽会は、夜遅くまで続いた。

 

     **

 

地平線の彼方が紅く染まって、真ん中辺りからいつもと変りない太陽が頭を出す。黄色い直線が地平線を支配して、陽光が静かに拡がる。紫紺に静止していた風景が精気を取り戻していく。新しい朝のきれいな光が植物たちを貫いて鮮やかな本来の色彩が甦る。植物たちを反射した光は様々な色に変化し、植物たちは自ら輝きはじめる。

 

湖のほとりの木に寄かかってぐっすり眠っているオーディルは、木漏れ陽にそして輝きはじめた世界に煽られ、目を覚ました。そして、世界の眩しさに眼を細め、新生した朝の風景を感じていた。森には朝靄がかかり、湖面に白い煙が立ち篭め湖の対岸は全く見通せない。オーディルは起上がり湖まで行った。そして、自分の顔を湖面に映してみる。我ながら冴えない顔をした自分がそこにいた。その上に両手を突っ込んで冷ややかな水で顔を洗い、空を見上げる。

 

爽やかな青空。

 

オーディルはその場に寝そべり、一度大きく伸びをして眼を閉じた。土の感触、樹々のかおり、そして時折吹く風を感じていると、頭の中が次第に生彩を取り戻してきた。昨夜の出来事に思いを馳せ、賑やかなパーティーにフラッシュバックしていく。

 

“本当に楽しかった。ぼくを信じてくれた大鹿のタブロー、シマりすさん達、野うさぎさん達、その他の森の仲間たち、そして鳶のバークスマン、皆良くしてくれた。見知らぬ相手に本当に優しく心を開いてくれた。”

 

 チュチュチュルルル ルララ

 おいらの歌は風のささやき

 わたしの声は小川のせせらぎ 

 

オーディルは何気なくあの詩を口ずさんで、胸が踊る歓喜の情景を憶い浮かべていた。そして、体を俯せに反転させ辺りを見渡した。そこには、昨夜の喧騒が嘘のようにひっそりとした静寂が横たわっていた。他には何もない。樹々と土そして草があるだけ。タブローもシマりす達も誰もいない。二人を突いたバークスマンもいない。彼には一夜の賑わいが急に幻に思えてきて、夢と現実の区別が薄まりかけていた。

 

“そんなバカな、あれは全部夢だったのかな。”

 

オーディルは勢い良く起上がって、彼の唯一の友達である真っ黒なパブリロを探した。パブリロは、オーディルが身をもたせ掛けていた樹の裏側で眠りこけていた。彼の体をオーディルは大きく揺すった。パブリロは覗き込んでいるオーディルの顔を目のあたりにして一瞬体を硬直させたが、我に返って言った。

 

「オーディル。どうしたんだい、こんな朝早く。」

 

「あのさ、昨日の夜、ここでパーティーをしたよね。森の動物たちと楽しく戯れながら、ぼくたち歌ったり踊ったり・・・。」

 

「そんなに大きな声を出さなくても聞えてるよ。・・・昨日は楽しかった、とっても。おいらなんか、飲みすぎちゃってもうフラフラだったよ。お腹一杯料理を食べてさ、何が何だか分からないくらい、はしゃいじゃったよ。」

 

「そうだよね。」オーディルは心の中では半信半疑ながら一言相槌ちを打ち、パーティー会場を見つめていた。瞼の裏には昨夜の光景が鮮明に浮び上がり、今すぐにでも大鹿のタブローが現れそうな、そんな気がしていた。

 

「オーディル、これからどうする?」

 

「・・・そうだな、」オーディルは宙を見ながら「あの山へ行ってみよう。向こうに何があるのか確かめたいしね。」

 

上空には大きな鳥が二羽、気持ち良さそうに風と戯れている。太陽は本来の輝きと暖かさを取戻し、薄雲が時おり陽光を遮りながら微風に流されていく。森は森になり、湖は湖の輝きをたたえ、空は空になって、真実の舞台を色濃く描き出している。

 

二人は森の中を横切って山の方へと歩いていった。

 

     **