【オーディルの冒険 –Brain Heart Infusion】 0004 | こころの色…  ~love you, so "Nice Smile"

こころの色…  ~love you, so "Nice Smile"

はじめまして。
とうとう、ブログを始めることにしました‼️

アークエンジェル、始動します。

 

湖の畔では今夜のパーティーの準備が着々と整えられていた。

料理担当のオオカミの血をひく犬達、木の実を運ぶシマりす達、料理を盛付ける熊達とその子供達、テーブルや椅子・飾り付けをする大鹿達、みんな額に汗してパーティーの準備をしていた。

 

その頃、森中に散らばった野うさぎ達の先導で、あらゆる方角からたくさんの動物達が湖へと向っていた。

 

大鹿のタブローは湖の畔に戻ってくると、それぞれの役割分担が順調に進んでいるかを確認していた。鳶のバークスマンは相変わらず空を飛回り、森の上から偵察に勤しんでいた。森を取巻く外側の空間は無限の静寂が立ち込め、お月様は出来る限りの力で淡々と自分の役割を果していた。

 

「お集まりの皆さん、今夜はこの盛大なるパーティーに、ようこそ、おいで下さいました。私はこのパーティーの進行役を務めます、タブローです。何か不都合がございましたら、何なりとお申し付け下さいませ。では、パーティーを開催致します。どうぞ、ごゆっくりとお楽しみ下さい。」

 

タブローの第一声が湖のほとりに響きわたり、鳥達の大合唱と共にパーティーは始まった。

 

テーブルに彩られた幾種類もの料理、ワイン、シャンパン、見事に飾られた花々、燭台から放たれる柔らかな光・・・。森に棲むたくさんの動物達が行き交い、会話に華をさかす。料理を口にほおばる者もいれば、美酒に酔いしれる者もいる。湖のそばで水と戯れる者、木々の根に腰を下ろして楽しいひと時を笑顔で見守る者、久しぶりの再会に冗談交じりにふざけ会う者・・・。

 

各々の者がそれぞれの楽しみ方で今夜のパーティーを堪能していた。

 

鏡のような紫紺の湖がパーティーの喧騒に煽られ、さざ波を立てる。気持ち良さそうにさえずる鳥達の声が更にパーティーを盛り上げていく。

 

 チュチュチュルルル ルララ

 おいらの歌は風のささやき

 わたしの声は小川のせせらぎ

 

 チュチュチュルルル ルララ

 花のかほりと雲のテノール

 森の妖精、星のかがやき

 

 チュチュチュルルル ルララ

 チュチュチュルルル ルララ

 

鳥達のシンフォニーに合わせて陽気にダンスを踊る者、軽やかな調べに耳を傾け口ずさむ者、そして、ゆったりと聞入る者…。

 

この時ばかりは、鳶のバークスマンも偵察そっちのけで一緒に楽しんでいた。

 

     **

 

オーディルは、かすかに聞える森の賑わいに目を覚ました。

 

“何だろう。こんなに夜遅く・・・。”

 

彼は半身を起こしてパブリロを見た。パブリロは月明かりに照らされながら、ぐっすりと眠っていた。オーディルは這ってパブリロの傍に歩みより、彼を揺すった。

 

「パブリロ・・・。パブリロ・・・、何か聞えるんだよ、森の中から。」

パブリロは眠そうな眼を擦りながら、月の眩しさに薄目を開けてオーディルを見た。

 

「何だよ、オーディル。」

 

「森から何か聞えてくるんだよ。」

 

「そんなことないよ、気のせいだって。」パブリロは再び瞼を閉じて寝返りを打った。

 

オーディルはもう一度パブリロの体を揺すりながら言った。「おい、パブリロ。起きてよ、何か変なんだよ。」

 

「わかったよ、わかったから。」今度はパブリロも半身を起こし、森の方へ耳を澄ました。すると、喧騒と歓喜の声がかすかに聞えてくる。パブリロはオーディルの顔を見て、眼を大きく見開きながら言った。

 

「本当だ、何か聞えてくる。」

 

「何だろうね、パブリロ。」オーディルはそう言って、森の中へ視線を向け、勢い良く立ち上がると「行ってみよう。」と独り言のようにつぶやいた。

 

「大丈夫かな。何か面倒に巻き込まれるんじゃないかな。」

 

「心配することないさ。近くまで行って、茂みに隠れてそっと見てれば。」

 

オーディルは音を立てず忍び足で森へ入っていった。パブリロも静々と後を追った。

 

     **

 

森の上空では、鳶のバークスマンが月明かりを背に偵察していた。

 

パーティーは中盤に差掛り、彼の役目もあと半分で終わろうとしていた。上昇気流に流され空高く翔び、時折翼をはためかせて左右に揺れながら森のあらゆる場所に目を配り、変わらない光景を確かめてゆっくりと下降する。右に旋回…。

 

と、その時、木々の隙間に何か動くものを発見した。

 

バークスマンは、気のせいかなと思いながらもう一度右へ旋回してみた。すると、確かに何かが動いている。鳶は急降下して木々の梢を縫うように不審物に近付いた。

 

腰を屈めて湖のほうへ進むオーディルとパブリロ。

 

背後から迫るバークスマン。

 

鳶は鋭いくちばしで二人のお尻を交互に突いた。

 

「いてっ。」

「痛っ。」

 

オーディルとパブリロはびっくりして全速力で駆け出した。二人とも怖くて、脇目も振らず一心不乱に走った。バークスマンは長い翼をはためかせて後を追っかけた。彼はわかっていた。夕刻、大鹿のタブローと一緒に観た、あの子供達であることを。

 

オーディルとパブリロは懸命に走った。

“得体の知れない魔物が自分たちを襲ってくる。捕まれば、食べられてしまうに違いない。早く逃げないと。捕まって堪るものか。”心の中でそう叫んでいた。

 

「うわぁー。」

 

オーディルは木の根につまずいて前のめりに転がった。後ろを走るパブリロはオーディルに蹴つまずいて上を飛び越え、頭から地面に落ちた。あまりの痛さに倒れたまま呻いている二人。

 

バークスマンはその光景を眼にしてスピードを緩め、二人の傍に降り立った。

 

「おまえ達、ここで何をしている。」

 

低音で威厳のある声が響いた。オーディルは声の方向へ顔を向け、その姿が鳶とわかると急に怒りを覚え大声で怒鳴った。

 

「ぼくたちは何もしちゃいないよ。一体、ぼくたちが何をしたって言うんだい。」

 

「おまえ達は身を屈めて歩いていたな、」鳶のくちばしが上下に動く。「それはどういう事だ。何か良からぬ事を企んでいるんじゃないのか。」

 

この会話を聞いて、パブリロも鳶に視線を投掛けていた。オーディルは彼をチラッと見た後、すぐにまた鳶に向き直り、言った。

「ぼくたちは怪しい者じゃないよ。森の入口で眠っていると、森の中が何やら騒がしいから、何が起こっているのか確かめに来たんだよ。何も企んじゃいないさ。・・・ぼくの名前はオーディル、彼はパブリロ。決して悪い者じゃない!!」

 

「ふん、わかるものか。」バークスマンは疑っていた。「おまえたち!俺と一緒に来てもらおう。大鹿のタブローに報告しなきゃならないからな。」

 

バークスマンは二人を促し先に行かせて、自分は監視しながらゆっくりと枝から枝へ飛んでいった。

 

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