コンサートのチケットを買う時、演奏予定の曲目は重要な選択の要素だ。しかし、どんなプログラムでも聴きたいオーケストラもある。その一つが、世界最古の歴史をもつドレスデン国立歌劇場管弦楽団。重厚ないぶし銀の音色が、他にない魅力を放つ名門オーケストラだ。
2018年の東京公演で用意されたプログラムは、サントリーホールでのシューマンの交響曲全曲演奏会。10月31日と11月1日の二夜連続で、交響曲第1番から第4番までが、番号順に演奏された。
音が出た瞬間、またこの魅惑の音世界に帰ってきた嬉しさに、思わずニンマリ。鉄壁の合わせ技によって、すべての楽器が一体化して、巨大な音の壁として立ち上がる。その壁は、全く隙がなくびっしりと音の粒が詰まった、極めて密度の濃いものだが、決して硬直ではなく、まるで生き物のようなしなやかさで自在に形を変えながら、荘厳な音の絵巻を紡ぎ出していく。
合わせ技だけでなく、要所要所を締めるソロ奏者の妙技や、歌劇場付オケならではの歌心溢れる表現力も素晴らしい。
指揮者、クリスティアン・ティーレマンは、大柄な身体を大きく動かし、かなり尖がった振り方をする人だが、オケから出て来るのは、カドのとれたまろやかな美音で、このギャップも目と耳で楽しむ生演奏ならではの面白さ。
正直なところ、シューマンの交響曲にはあまり思い入れがないのだが、このオケで聴くと新鮮な味わいがあった。
このオケのコンサートは、毎回、客席が黒く見えるほど、ダークスーツ族が多いのも特徴。両日ともに満席ではなかったが、熱心なファンが集まり、終演後は熱狂的な拍手の嵐が続いた。両日、アンコール曲はなし。