白兎の地図と歴史の巡検記 -2ページ目

水上バスで東京散歩

2008年02月11日~2008年02月16日掲載


~隅田川から東京ベイエリアへ~


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江戸の昔、武蔵の国から下総の国へと渡ったことから名付けられた両国橋。忠臣蔵の赤穂浪士たちが、深川の吉良邸から芝高輪の泉岳寺へ行くのに渡った永代橋。下町の歴史と文化が薫る隅田川を水上バスで潜り、お台場海浜公園を巡るゆらり旅である。


●はじめに
 昔は「綺麗な川」を意味するアイヌ語のアラペツとか、あばれ川とか呼ばれていたが、この荒川も現在の隅田川の位置を流れていた。たび重なる洪水により大規模な治水工事が行われ、昭和5年(1930)に荒川放水路が完成し、これまでの荒川本川を「隅田川」と呼び、荒川放水路を「荒川」と呼ぶようになった。戦後、隅田川の流域では市街化が進み、路面舗装、建築物の乱立によって遊水や保水能力も低下、大雨時には水が急激に流入するようになった。また、近年は地下水の汲み上げで地盤も沈下、隅田川より低い土地が沿川に広がっており、海面上昇とも相俟って水害の危険性が心配されている。


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●浅草~お台場海浜公園クル-ジング
 (財)東京都公園協会の東京水辺ライン、両国・お台場クル-ズでフィ-ルド学習が楽しめる。地球温暖化による海面上昇を実感したり、ひと味違った超近代的に変貌している東京を眺められる。昨年12月、「聞いて、見て、分かる、面白い」というタイトルでテクニカルツア-が行われた。低地を水から守る、橋梁の想い、洪水、高潮、地盤沈下、防潮堤や水門の整備等々を学習するものである。テキスト代込みで大人1500円であるが、満員という人気であった。それだけ関心が高いということであろう。今回の水上バスは両国国技館前を出発し、お台場海浜公園で折り返し、両国へ戻ってからはさらに浅草の桜橋まで行って帰る。この間約2時間30分、大人2000円というゆらり旅である。

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●両国橋を潜り次々と由緒ある橋を潜る
 両国国技館前の発着場をゆったりと出発するとすぐに両国橋を潜る。近年は観光客を乗せた屋形船や東京湾での釣り船が人気を呼んできたが、満潮時になると海面上昇の影響で橋を潜れなくなってきた。船底に水を注入し船を沈めるという対策を取っている。また、川の両岸に造った遊歩道にも水が上がってくるようになった。水上バスは近代的なデザインで船型も低く快適な乗り心地である。

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 続いて、新大橋(上段左)、清洲橋(上段中央)、隅田川大橋(上段右)と潜り、永代橋(下段2点)にやってくる。赤穂浪士たちが渡った時は木の橋であり水面はかなり下であったはずである。今は鉄骨とコンクリ-トでしかも船上のデッキで飛び跳ねると手が届きそうである。やがて越中島に到着する。観光客だけでなく日常の足として利用している人もいる。


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 次に比較的新しい中央大橋(左)を潜ると佃大橋(右)に来る。橋の無かった昔は佃煮を買い求める人が渡し舟を利用していたが、現在は車で簡単に来られるようになった。船上から見る佃島は昔の面影がまだ少し残っているようである。


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●霊岸島の水位観測所跡
 越中島、佃島の対岸に昔は「霊岸島」といい、東京湾の水位観測所があった。現在は逆三角形のモニュメントがある。明治6年(1873)に我が国の陸地の高さを測量するために設置されたものである。明治6年6月から12年12月まで東京湾の潮位を測り、その平均海面を0mとして決めたのである。この0mを基準として明治24年(1891)5月、東京都千代田区永田町1-1憲政記念館構内に日本水準原点を設置、ここを標高24・5000mと決め、我が国の陸地の高さを決める原点にした。大正12年(1923)の関東大震災後は三浦半島油壺験潮場に移転、同時に内陸部の不動と思われる地点からの、直接(一等)水準測量の平均値を検討した結果86㎜の修正が行われ、24・4140mと定められた。この日本水準原点を中心として全国の主な国道や主要地方道に沿って、一等水準点が約2km間隔、2万2000カ所に設置されている。このように霊岸島水位観測所跡は、我が国の陸地の高さを決めた草分け的な場所なのである。


●勝鬨橋~浜離宮恩賜庭園
 水上バスは次の発着場、明石町・聖路加ガ-デン前に到着する。眼前には高層の聖路加病院やマンションが建ち並び、再開発により超近代的な都市に変貌した東京の姿がある。よく見ると、もうすぐ東京湾に出ようとするこの辺りにも遊歩道、公園、トイレなども整備されている。子どもを連れた人の散歩、ジョギング姿などが水辺利用の楽しさを映し出しているが、満潮時には水が上がるのであろうか、遊歩道にはくっきりと水の跡が見てとれる。


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 発着場を出発してすぐに勝鬨橋を潜る。ここも船上のデッキで飛び跳ねると手の届くような高さになってしまったし、交通量も多くなったので船のために橋を開けなくなってしまった。だから低い船しか通行できなくなったのである。



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 移転が決まっている築地魚市場(写真左)を横目に見ながら、浜離宮恩賜庭園発着場へと来る。浜離宮恩賜庭園は防潮堤で護られているので、水門(写真中央)を潜らなければならない。水上バス一隻がギリギリ通行できる水門で、この日現在の「水深4.1m」(写真右)と電光掲示板に表示が出ている。水上バスはしきりに警笛を鳴らし、ゆっくりとした速度で水門を通り発着場に向う。水門の中では他の水上バスが出るために待機している。入るも出るも一隻ずつしか通れない水門なのである。浜離宮恩賜庭園ではそんな船の光景を眺めたり、散策を楽しむ人たちが手を振ったりしている。


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●レインボ-ブリッジ
 お台場海浜公園までのクル-ジングで最後に潜るのがレインボ-ブリッジである。船上のデッキから上を見上げると違った風景が見られる。もちろんほとんどの船は潜れるが、クイ-ンエリザベス号やタイタニック号は潜れない高さになっている。なんでも羽田空港発着の飛行機に支障のないように高さ制限されたのだそうである。そういえばしきりに飛行機の飛ぶ姿が見られる。


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●お台場海浜公園発着場
 1時間が過ぎて東京湾に出てきた。竹芝桟橋に停泊している船や行き交う大型船、通って来た後の超近代的に変貌した東京の景色を眺めしばしくつろぐ。幕末にペリ-が来航し開国を迫られたとき、幕府が砲台を造った跡のお台場を傍に見る。そしてゆっくりと発着場に向かう。


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 正面にはフジテレビの本社ビルが迫ってくる。発着場にはすでにたくさんの人が折り返し出発する水上バスの到着を待っている。外国人観光客の姿も多く国際色豊かで、東京湾のクル-ジングを楽しむのであろう。到着すると乗客全員が下船、水上バスは点検と清掃のためしばらく停泊し乗客を待つのである。


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●再び両国をめざし東京湾から隅田川へ
 来た航路を戻り、逆の方向から眺める景色も違った趣がある。林立する高層ビルやマンションに混じって遠く東京タワ-の姿も見え隠れする。来た時には目にしなかった物も見えて楽しい。夜のクル-ジングは夜景もすばらしくカップルに人気があるという。


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 両国に戻ってからは蔵前橋(上段左)、厩橋(上段中央)、駒形橋(上段右)、吾妻橋(下段左)、言問橋(下段右)と潜る。沿岸には隅田川公園があり桜並木が1kmにわたり植えられ、春には花見客で賑わう。浅草では屋形船や釣り船が沿岸に横づけされており、観光シ-ズンを待ちかねているようだ。水上バスはまもなく終点桜橋に到着、休む間もなく両国へと折り返して戻った。


●変貌する隅田川沿岸都市
 下町の文化と歴史が薫る隅田川沿岸であるが、ますます近代化の波が押し寄せている。平成23年度(2011)には業平橋、押上地区に、デジタル放送用アンテナを付け、450mの高さに展望台を備えた、約610mの新タワ-が完成する。国内外から世代を超えて多くの人々が訪れる国際観光都市に変貌することであろう。カナダ・トロントにある553mのCNタワ-をはるかに凌ぐ世界一の新タワ-と共に、超近代化した下町文化の薫る隅田川沿岸地域、まちがいなく東京の賑わいが隅田川に架かる多くの橋々を渡り東へ展開していくであろう。かつて江戸時代に両国橋を渡り、武蔵の国から下総の国へと人・物・金の流れを創ったようにである。


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●災害は忘れた頃やってくる
 東京深川の木場に州﨑神社がある。この神社の境内に波除碑・津波警告の碑があることは今の人にあまり知られていない。5代将軍綱吉の生母桂昌院の守り神として建立され、弥生(3月)の潮時には海岸で蛤がとれた絶景地だったという。
 寛政3年(1791)9月4日、深川の州﨑一帯に襲来した高潮によって附近の家屋がことごとく流され、多数の死者、行方不明者が出た。火事と喧嘩は江戸の華と言われ、明暦の振袖火事(1657年)に代表されるごとく、大火は定期的に発生、その対策には色々と手がうたれていた。しかし、海からの高潮、津波対策は手薄であった。
 幕府はこの災害を重視して、州﨑弁天社から西のあたり一帯の東西285間(約518m)、南北30余間(約54m)、総坪数5467余坪(18000㎡)を買い上げ空地とし、これより海側に人が住むことを禁じた。そして空地の東北地点(州﨑神社)と西南地点(平久橋の袂)に波除碑を建てた。寛政6年(1794)に完成した石碑は、砂岩で脆く関東大震災と東京大空襲での損傷が著しいが現存している。現在この附近は開発され何事もなかったかのようにビルやマンションも建っている。しかし、地球温暖化による東京湾の海面上昇が進み、満潮時の台風による高潮、大地震による津波の襲来による被害で、折角の波除碑による教訓が生かされなかったというようなことにならないよう祈りたい。


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●おわりに
 今回のクル-ジングでも明らかなように、隅田川、東京湾沿岸、旧江戸下町が変貌し熱くなろうとしている。ちなみに、東京23区の総面積は621.4k㎡(平成16年)であるが、干潮面以下の低地124.3k㎡(20%)、満潮面以下の低地31.5k㎡(5.1%)、満潮面以上ではあるが高潮危険地254.6k㎡(41%)、合計410.4k㎡(66%)であり、実にこの大半が東京湾岸、隅田川東部地区だということを忘れてはならない。昭和22年(1947)のカスリン台風、昭和24年(1949)のキティ台風、昭和33年(1958)の狩野川台風による浸水被害を忘れてはいけない。2010年には外国人観光客1千万人誘致をめざす。今秋には観光庁も新設される。世界の観光地日本、その玄関口の東京、隅田川、東京湾岸、下町が賑やかになっていく。災害は忘れた頃やってくるという、万全を期した防災対策と普段の備え、関心を怠ってはならない。

おしまい

「はんなり」Hannari Geisha Modern

2007年12月03日掲載


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京都の歴史と文化の象徴、花街。伝統文化の継承に魂を注ぐ芸妓と舞妓、これを支える多くの人々。「おもてなしの心」と美の世界を追求する日本の伝統文化が、ハリウッドから日本へ逆輸入され反響を呼んでいる。


●「はんなり」とは
京都で華やかさを表わす「はななり」という言葉から「はんなり」というタイトルにしたという。およそ1200年前に、都が「京都」に置かれた。以来様々な文化を創造し、今なお多くの伝統文化が世界に発信されている。昔、北野天満宮(京都市上京区、祭神は菅原道真)へ参詣に訪れた人々を、お茶で「おもてなし」したことから始まったとされる。お茶屋は、やがて酒席のおもてなしへと変わり、花街が形成されていった。京都の花街とは、先斗町(ぽんとちょう)、祇園東(ぎおんひがし)、祇園甲部(ぎおんこうぶ)、宮川町(みやがわちょう)、上七軒(かみしちけん)、島原(しまばら)の6カ所にあり、今も昔ながらの街並みや文化が息づいている。この花街のシンボル的存在が、芸妓と舞妓さんたちなのである。職人達の匠の技で作られた、着物、帯、扇子、小物類等々、最高級の伝統工芸品で身を包み、約300年以上経った今でも、日夜修業を積み重ね、美しい舞等の伝統芸能や作法、言葉づかいを「心の美」として演じ発信している。


●「はんなり」の意味するところ
 我が国は観光立国を宣言、2010年には外国人観光客1000万人招致を目標としている。緑豊かな自然観光資源と、数多くの歴史と伝統文化を発信し、広く世界からの観光客招致をめざすことにしたのである。その意味でも京都の歴史と文化は、我が国の観光資源として貴重なものと言えよう。なかでも、花街文化は春の都おどりをはじめ、四季を通しての景観と華やかさがあり、外国人観光客ならずとも、日本人でも一度は触れてみたい世界といえよう。これまでも多くの人達が取材すべくカメラを持ち込もうとして来たが、「一見のお客さんお断り」と同様、やんわりとその扉を閉められてきた。これまで「フジヤマ・ゲイシャ」に関するマスコミ報道や映画はかなりあったが、決して本当の姿が描写され紹介されていたわけではない。花街としてはむしろ沈黙を守ってきたのである。
 先頃話題を呼んだ中国人女優による「さゆり」などは、典型的な誤った芸妓像といえよう。今回の製作者であり監督曰く「本物の芸妓、舞妓は常に芸事に精進し、はっと息をのむほどに美しく、まさに生きる芸術である。日本女性独特の凛とした中に、薫る、思いやりある優しい心遣い、その美しさを支える伝統芸能や伝統工芸の匠の技が一体となっている」、と語っている。この「はんなり」こそ芸妓・舞妓の美の世界を追及する貴重なドキュメンタリーと言えるであろう。2006年9月に行われたジェトロ主催のシャパン・パビリオンでの出展で絶賛され、2008年春から全米で上映されることになった。これに先だち11月23日六本木ヒルズ49で上映記念イベント、特別試写会が行われた。これから順次全国各地で紹介されていく。全米で上映のあかつきには、大きな反響を呼ぶことであろう。


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●製作者・監督のプロフィール
 曾原三友起、サクラプロダクションUSA代表で今回プロデュ-サ-、監督、脚本の三役をこなす。ロサンゼルス在住、SAG米国俳優組合に所属。宮崎県都城市出身、幼少の頃よりバレエ、ダンスを学びミュ-ジカル俳優をめざしていたが、18歳の時に膝の怪我で断念。日本のイベント会社、局アナウンサ-、FM、DJなど経験、1999年に渡米。現在、制作プロダクション及び劇団を主宰しながらハリウッド映画制作現場などに於いて、日本文化のアドバイス、コ-ディネ-ト、映画やイベント、舞台のプロデュ-ス、脚本、演出などを手掛け、二児の母でもあるス-パ-ウ-マン。今回、ハリウッドの日本人女性監督として、日本に帰り自らが芸妓を体験、その強い熱意についに花街も動かされた。そして、京都の全花街が協力するという世界初の快挙を成し遂げ、この貴重なドキュメンタリ-映画は作られたのである。そして、見る者に感動を与え、伝統文化継承に一石を投じることとなろう。

日本での上映  12月2日(日)~14日(金)
        渋谷アップリンクX(03-6825-5503)
        当日券1500円 学生1200円 シニア1000円
        前売り1200円 和服での来場者当日券1000円
        他、京都シネマ、宮崎キネマ、都城ウエルネス交流プラザ他
        問合せ http://www.hannari.info/

観光地トイレの向上について

2007年11月26日~2007年11月30日掲載


毎年11月10日はトイレの日である。(いいトイレ)トイレのない人は世界で26億人いるという。今年インドで開催されたワールド・トイレ大会では45カ国が参加、国際社会のテーマとして2015年までに、トイレのない人半減の13億人を目標とした。我が国では11月9日、第23回全国トイレシンポジウムが開催されたが、そのなかから観光地トイレの整備について考察してみる。


●はじめに
 平成18年12月13日、観光立国推進基本法(昭和38年の観光基本法を前面改正)が与野党一致で成立、今年1月1日より施行された。その目的や基本理念はさておき、我が国は平成19年6月29日の閣議決定を受けて観光立国を宣言した。策定された観光立国推進基本計画における基本的な目標は平成22年(2010)までに、
一、外国人旅行客を733万人から1000万人(現在世界一位はフランスの7600万人で日本は32位)。
二、日本人の海外への旅行者1753万人を2000万人。
三、国内における観光旅行消費額24.4兆円を30兆円。
四、日本人国内旅行宿泊数年間2.77泊を4泊。
五、我が国における国際会議開催168件(平成17年)を252件(平成23年)
 とした。この動きを受けて国土交通省、環境省、総務省等国の機関に加え各地方自治体が中心となって、観光振興策に乗り出した。また、新たに観光庁を創設することも検討されている。
 日本トイレ協会ではこれまでに、公共・公衆トイレ、学校トイレ、災害時トイレ等とともに、早くから観光地トイレ、山岳トイレの向上をテーマに取り組んできた。今回、観光立国宣言で観光振興の盛り上がり機運を受け、あらためて観光地トイレの向上について、シンポジウムで活発な議論が交わされた。そこで、このテーマについて旅ジャーナリストの立場から、その内容の一部を紹介するとともに、私見を混ぜ提言し関係者の忌憚のないご意見を拝聴したいと思う。


●これからの観光地トイレ
 観光地のイメージはトイレの良し悪しによって左右されると言っても過言ではない。観光地における適切なトイレの整備と管理は観光地としての必然的な課題といえ、単に排泄という問題に限らず、今や地球温暖化や節水対策、衛生問題などへの配慮が必要で、かつユニバーサルデザインやバリアフリー、メンテナンスへの配慮について欠くことは許されない状況になっている。これまでの観光地は「観光資源として何があるか」が叫ばれてきたが、これからは「観光地として何ができるか」ということの、情報提供が必要であり、観光コースとしての活動の中で最も重要な補完施設がトイレであることは論を待たない。安心・安全な観光拠点の整備を図る第一歩としても、最近の好事例を紹介しながら考察してみたい。


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●都市型観光地トイレの起爆剤となるか--情報の町秋葉原に有料トイレ「オアシス@akiba」誕生(全国より350件応募の中から区内在勤女性が命名)
 東京都千代田区は皇居を中心として、東京駅、有楽町周辺から日比谷公園、国会議事堂、靖国神社、神保町古書街、近年著しく変貌した秋葉原などを抱える典型的な都市型観光地といえる。千代田区内には30カ所にのぼる公衆トイレがあるが、メンテナンスやランニングコスト、それにもまして破壊などによる汚れ、破損が絶えず「暗い・臭い・汚い・怖い・壊れている」の5Kそのものである。千代田区まちづくり推進部では、首都東京の顔としてのイメージアップを図るため抜本的な見直しをして、平成15年に調査を開始「公衆トイレに関する検討協議会」を設置、提言を受けてモデル有料トイレの設置に踏み切った。平成18年12月16日オープン。美しいユニバーサルデザインの先端を行くトイレ、もちろん障害者、子供、乳児、オストメイト、着替え、化粧と万全な設備を整えている。また、無料のインターネット検索ができるパソコンを設置、文字通り情報の発信地秋葉原の駅前に相応しい憩いの場である。スタッフが常駐し安心・安全・綺麗を売物に公衆トイレのイメージを一新、隣りには喫煙スペースも備えている。利用料一人一回100円(小学生以下・身障者無料)、7時~22時とし年中無休。この約1年間の利用者数は7万5000人、1日当たり約200人だが、最近の利用者数は倍増している。筆者の取材時もテレビ取材の時で放映後の反響もあって増えているらしい。


●今後の展開
 千代田区の分析では概ね好評を得ているとしながらも、意見として「利用料100円の価値はある」「とても綺麗」「着替える時に便利」「支払にスイカが使えて便利」などといった肯定的な意見が多い一方、「公衆トイレが何故有料なのだ」「用を足すのに100円は高すぎる」「税金の無駄」「喫煙コーナーはいらない」等の否定的な意見もある。しかし、着実に常連が増えてきており、定着しつつあると考えている。ただ男女別利用者の問題、即ち男8割、女2割をどう考えるか、やはり女性はトイレはタダが良いと思っているのであろうか、今後の推移を見守りたい。


●有料トイレへのアレルギー
 我が国ではトイレは「タダ」という意識が定着している。もつとも江戸時代から戦後しばらくの間、農作物の肥やしにするため便所の汲み取りは、金を払い引き取っていた時代があったほどである。チップ制は当り前のヨーロッパとは異なる。千代田区内にしても公共施設、JRや地下鉄、オフィスビル、大手デパートや商業施設等トイレはタダで利用でき、しかも綺麗で快適なトイレがほとんどである。果して都市型観光地、この千代田区に限らず東京をはじめ札幌、仙台、名古屋、京都、大阪、福岡などに波及できるか? トイレはタダという我が国で果たして定着するだろうか? 今後の動向が注目される。


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●他地区のトイレ状況
 都市型観光地で外国人観光客の多い典型的な例を紹介しよう。「浅草」である。ご承知のように仲見世から浅草寺にいたるまでのトイレ事情は、外国人ならずとも観光客泣かせと言わざるを得ない。案内板やパンフレットにトイレの位置は表示されている。でも、あればいいというものではない。設備といえば到底外国人観光客の満足のいくものではない。
 旅ジャーナリスト会議のメンバーで通訳ガイドをしているSさんの話では、仲見世を観光中トイレに入っても、あわてて飛び出してくる。そして近くのホテルへ駆け込み用を足すのだそうである。日本トイレ協会でも観光地トイレの調査を行った際、筆者も実際に浅草を調査してみたが、これでは当然だと思った。観光立国宣言、外国人観光客1000万人誘致どころではない。ほかに「上野」なども同じような状況と言える。


●国立公園での有料チップ制の現状
 我が国の国立公園は29か所208万6790ha、国土面積の5.52%ある。最近は世界自然遺産登録をめざすところが増加している。世界自然遺産というのは観光振興の観点はない。むしろ尚一層の保護の徹底が必要とされる。しかし、この趣旨が理解されずに我が国では観光振興の道具にされているという。そして世界遺産ブームとなり多くの観光客が大量かつ、季節によっては大変な混雑でピーク時対策に追われている。これは本来避けるべき事態なのである。このような意見は当然のことながら環境省や国土交通省にもある。
 一方、観光立国宣言により観光振興、観光客誘致を推進する国土交通省の観光関係部局や経済産業省などとは意見を異にする。また、国定公園56カ所、都道府県立自然公園309カ所ともなると、地方自治体の管轄となる。今年は自然公園法制定50周年、国立公園法制定から76年目を迎えており、富士山をはじめとする山岳、国立公園でのトイレ対策は喫緊の課題と言えよう。


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上高地の有料トイレ


●上高地、尾瀬にみる有料チップ制の成功例
 山岳トイレ補助金(山岳環境等浄化、安全対策緊急事業費補助)により、環境保全型トイレを整備した山小屋においては、トイレのチップ制導入や有料化を実施している。公衆トイレについては、チップ制導入箇所は少なく、成功例は上高地と尾瀬であり、それ以外は概ね赤字となっている。上高地はバスの駐車場側(マイカーは乗り入れ禁止)にある公衆トイレで、スタッフが協力金を徴収している。協力依頼金は一人一回100円。この一カ所の協力金で公園内の各所のトイレ管理、メンテナンスに充当しているのである。
 しかし、マイカー乗り入れ禁止により70万人の観光客が35万人と半減、収入も半減した。尾瀬でも60万人から33万人に半減しているという。さらにチップは硬貨であるため、集金する銀行員が背負って下山するなどの問題も抱えている。多くの観光客は「トイレはタダ」という観念を持ちつつも、上高地や尾瀬のようなところでは環境保護意識の高まりからか、チップ制は定着しているものと思われる。いずれにしろ受益者負担と行政サービスの配分について多くの課題を抱えているのである。


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秩父鉄道三峰口駅前の無料トイレ


●その他の観光地トイレ
 都市よりもローカルになればなるほどトイレを探すことが大変になる。自然観光地になればなるほどトイレの整備が進んでいないし、ピーク時対策、男女比対策も進んでいない。もちろん、和式のトイレが多く、車椅子用のトイレもない。施設管理者は利用者がどのようにトイレを使っているか把握しているのだろうか? 手の力だけで便器に乗り移れない人もいるのである。ひと昔前と格段に身長、体重も増え体格が良くなったことも考慮しているのであろうか。サービス産業としての宿泊施設で寝床とトイレは完璧でなくてはならない。だから今までの既成概念を取り除き、物事の基準を自分に置かず、関係者の意識の統一化を図ることが重要である。
 観光振興策について聞かれることがある。筆者は必ず「トイレ」のことを提案する。そのくらい満足な観光地は少ないと言える。行政も観光協会や観光関係の方々も、皆一様に頷くがそれから先一歩も進んだためしがないといっても過言でない。観光客誘致策として不可欠な一つにトイレ問題が重要ことは判るが、対策は進まないのは何故か、筆者はトイレは行政のやることと思っているところが多いことを指摘しておきたい。トイレはタダ、しかも鉄道や行政がやってくれるものと勘違いしている観光地の人たちが多い。観光振興策の一環としてトイレ問題に地域ぐるみで取り組んでいるところもある。いくつかの好事例を紹介してみたい。

京都東山観光マップ
 大規模な観光地のトイレ対策として、観光トイレマップを作成して提供している。この取り組みの趣旨に賛同する会員から協力金を集め、観光リーフレットなどのほか、地域で統一されたトイレ利用可能を示す表示を行う点や、民間協力による事例である。
千葉県銚子市トイレマップ
「どなたでもご自由に」をキャッチフレーズとして、トイレの所在地リストと場所を表示した地図を置いて配布している。ホテル、スタンド、お寺、ラーメン、寿司、市場、観光施設等々で参加54カ所にのぼる。
福島県会津若松市
 アネッサクラブ(商店街の姉さま)。地元商店街が一体となって取り組んでいる「4つのどうぞ」①お茶をどうぞ、②お荷物をどうぞ、③椅子をどうぞ、④トイレをどうぞ、である。トイレについては個人商店も含め既存施設の活用を図りサービスしている。
宮城県気仙沼市
 1995年第14回全国トイレシンポジウム開催市。早くから行政と地域住民一体となった取り組み。市役所職員、商店主、会社員、主婦などのボランティアにより公衆トイレの清掃、メンテナンスを行っている。
群馬県
 ぐんまビジタートイレ認証制度(認証マーク)。①清潔、②安心・安全、③誰でもみつけやすい、④誰でも使いやすい、⑤まちにあったものを。県内約600カ所の公衆・公共トイレを調査し、平成18年度末で約100カ所を認定した。
富山県
 富山県快適トイレ推進プラン。「いつでも、どこでも、だれでも、安心して、快適に」利用できる。「環境に配慮した」トイレの推進。富山県トイレマップの作成。「環日本海トイレフォーラム」の活動。「トイレガイドマップ」の作成。
新潟県
 観光客へのトイレをどうぞというメッセージ。「まちなか、みちなか、どこでもトイレ事業」
熊本県
 「商店街がUD事業でトイレの提供」中心市街地6商店街がトイレを無料で提供。(私たちはお手伝いします)トイレが使えますシールを店頭に掲示。


●長野県伊那市に注目
 平成18年3月、伊那市、高遠町、長谷村が合併して新しい伊那市が誕生した。同時に中央アルプスの山腹を貫いて権兵衛トンネルが開通した。これによりJR中央線、飯田線、中央高速道、長野自動車道、甲州街道、三州街道、中山道を利用した広域観光エリアが形成された。中央アルプス、南アルプスに抱かれた、伊那路が新しい観光地として脚光を浴びようとしている。さらに飯田市、伊那市、富士見町、大鹿村は南アルプスの世界自然遺産登録をめざし、すでに協議会も設置して推進を図っている。
 恵まれた自然環境を生かしながら、産業と観光振興を図る取り組みが行われているが、観光資源としては充分過ぎるくらい持っていると言っても過言でない。あとは観光立国の一翼を担うアイデア、仕かけ、取り組みなどが期待される。その一環として筆者は昨年「観光地トイレの整備と充実」に関する提案を行った。関係者も関心を持って前向きに検討している。幸い地元には立派なモデルケースがある。
「かんてんぱぱガーデン」のトイレである。南アルプスの景観を眺めてのヘルシーで美味しいかんてん料理も良いが、このガーデンのトイレはユニバーサルデザイン、メンテナンス、数ともに申し分ないと思う。きっとリピーターも多いことであろう。春には高遠城址公園の桜が有名で、多くの観光客で賑わうがトイレ対策もさぞ苦労していることであろう。今後、伊那市が南アルプスの世界自然遺産登録をめざす上からも、総合的な観光地トイレの向上にどう取り組んでいくか注目していきたい。



白兎の地図と歴史の巡検記
長野県伊那市、中央構造線分杭峠の磁場ゼロ地、浄化槽式有料エコトイレ


●観光地トイレの今後と対策
 前述のごとく観光地といっても東京のような都市型や上高地・尾瀬といった国立公園型では大きく異なる。なかでも、国立公園や自然遺産地域での維持管理やコスト負担のあり方が大きな課題となっている。このため有料チップ制や指定管理者精度の導入等が模索されている。また、地球温暖化やCO2削減は、トイレの分野においても処理レベルの維持を図りつつ、省エネ化や節水化が進められている。
 世界では今や6㍑便器は当たり前の時代であるが、日本では依然として10~13㍑便器を使用している。1回に流す水の量が世界に比べて倍であり、いくら水の豊富な日本だといっても、世界からは無駄遣いと言われている。「受益者負担の原則」がある一方、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」第五条には、「清潔の保持は市町村固有の業務」が定められている。今こそ、誰がどのようにして負担すべきなのかが問われている。


●観光地トイレの印象は観光地全体の印象に影響する
 いわゆる「暗い、臭い、汚い、怖い、壊れている」の5Kが印象の悪いトイレであり、かつ外国人観光客ならずとも、近年は洋式、水洗、乙姫と広さが求められている。観光地トイレに関するアンケート調査によっても、①清潔、②メンテナンスが良い、③ユニバーサルデザイン対応済。であり、悪いトイレは①不潔・臭気、②便器の数が少ない、ピーク時対策がとられてない、③メンテナンスが悪い(トイレットペーパーが無いなど)である。印象の良いトイレにするためには設置者の悩みもある。①メンテナンス②落書き、いたずら、破壊、③利用者マナー、④維持費の財源、などがあげられる。


●解決策は
一、 これまで述べてきたように観光客誘致には地域ぐるみの取り組みが必要であり、行政や観光施設、業者などだけが携われば良いというものではない。事例で紹介したように、地元商店街や市民団体、ボランテアなどによる協力体制が必要で、これに取り組んでいる観光地のトイレは良い印象を受けている。
二、落書防止や破壊防止等に安心・安全街づくりとして地域ぐるみで取り組んでいる。
三、ピーク時対策や男女比対策にも取り組んでいる。
四、様々なトイレのタイプ(処理方法)にも積極的に取り組んでいる。例えば、浄化槽方式、浄化循環式、コンポスト処理(バイオトイレ)、焼却式、土壌処理、汲み取り、また災害時トイレで活躍する仮設トイレなどである。
五、重要な財源であるが現在のところ我が国では、環境省、国土交通省、経済産業省、財務省、総務省それぞれが縦割りで、各々トイレの重要性は認識しつつもその域を出てはいない。大幅な予算化にはほど遠い。
 したがって各々の観光地で好事例を参考にしながらも、地域にあった方法を知恵を出しあわなければ解決しないし、トイレの向上は図れない。自分たちの問題として資金を出したり、スポンサーを得るか、有料チップ制を導入するか、商店や個人までもトイレを提供するか(改装や増設資金の補助を行政に働きかける)、広告トイレの導入を図る、また山岳地では登山客に排泄物を持ち帰って貰う、等々である。



白兎の地図と歴史の巡検記 白兎の地図と歴史の巡検記

靖国神社のトイレ(狭い和式で高齢になった遺族会には気の毒)


●おわりに
 観光地でのトイレ問題がクローズアップされた原点は、19世紀末、エッフェル塔の完成にあわせたパリ万博と言われる。フランスは国の威信をかけてトイレの改善を図り、世界に先駆けて下水道処理を行った。我が国でも1970年の大阪万博、その後の沖縄、つくば、大阪花博、愛知万博と続き多くの外国人観光客受け入れを機に、ユニバーサルデザイン化とメンテナンスの向上が図られてきた。この流れは都市型観光地を中心としてトイレの改善が急ピッチで進み、世界でも有数のトイレ先進国となっている。
 背景には日本人の綺麗好きもさることながら、電力事情、豊富な水資源、良質なトイレットペーパー、メーカーによる設備の研究開発、などがあげられる。一方で地方の観光地トイレの問題は、観光立国を宣言し、2010年に外国人観光客1000万人誘致や、国内では団塊の世代による旅行の増加見込みに対して、やや立ち遅れていることは否めない。早急に観光地トイレの充実を図るべき時にきていると思われる。
 地方から東京への修学旅行といえば、本郷、上野界隈の旅館であったが、今の子どもたちは洋式で水洗、乙姫でなければ用を足せないから、ディズニーランド周辺のホテルや設備の整ったホテルに宿泊するのだという。逆に本郷の旅館では多少の改善をして、低料金と日本の風情を求める外国人観光客に人気があるという。いずれにしても観光立国宣言は観光地トイレの整備抜きには考え難い。時間も限られている、早急に官民一体となった取り組みが期待されるところである。

おしまい