<保守作業が発生しない開発研究は錬金術研究と同じ?>
下辺 保守作業が発生してしまうのは,現場が開発を不完全で終わらせ,その結果として保守をやらざるを得ないだけだからと,研究者は保守そのものを研究対象にせず,他人事と考えているということですか。
たびと 実態は,ソフトウェア保守作業のほうがはるかに多い。にも関わらず,開発さえ成功すれば保守作業が少なくなる(だろう)という開発方法論の研究ばかりしている。私から言わせれば,保守作業が要らないソフトウェアの開発方法論や開発環境の研究は,中世に流行った錬金術と同じだと思っています。
下辺 私がこの仕事をして20年近くなり,いろんな既存システムの対応をしていますが,正直一向に保守が楽になっているという感じはないですね。
たびと ところで,下辺さんね。保守作業が発生しないソフトウェアの開発方法論を考えるは実はものすごく簡単なんですよ。
下辺 えっ? 今,そんな研究は錬金術と同じで,見果てぬ夢だと仰ったばかりですよね?
<誰も使わなければ保守作業は発生しない>
たびと 誰も使わない,見向きもされないソフトウェアを開発すれば良いのです。使わなければ保守案件は発生のしようがない(笑)。
下辺 保守作業の発生しないソフトウエアは実は利用者から使う価値がないソフトウェアと見られているだけということですね。人気があるソフトウェアほど,いろいろ保守対応の必要性が出てくるはずだからですね。
たびと だから,ソフトウェア保守作業に市民権を与え,その作業がある以上は,その作業に対して,真正面から生産性や品質の向上研究をやればよいだけなんです。
下辺 すなわち,ソフトウェア保守の存在がポジティブに認められれば,保守対応の良否が正当に評価される可能性が出てくるということなんですね。
たびと そのための第一歩として,下辺さんのような現場技術者にはソフトウェア保守対応を前向きに,ポジティブに,積極的に,プロアクティブに,楽しく,既存ソフトウェアの保守に取り組んでほしいのです。
下辺 実際に保守作業を担当している技術者が,保守作業を嫌がるのではなく,誇りを持つことなのですね。そして,そういう考えの人が現場に増えてくれば,変わってくると仰りたいのですね。
<保守作業を不可触作業にしてはいけない>
たびと そうです。仕事に貴賤はありません。必要だから仕事があるのです。同じ仕事をやるなら,やらされ感を持たず,その道のプロフェッショナル,第一人者を目指してください。
下辺 わかりました。保守作業に対してネガティブな発言ばかりしてすみませんでした。文句を言う暇があったら,保守の作業プロセス改善を担当者と話し合ってみます。
たびと 解っていただいてありがとうございます。ただ,ソフトウェア保守のプロセス改善をするなら,精神論で頑張ろうとせず,JIS X0161,ソフトウェア保守プロセスの国際規格を日本語にしたものを参考にすることをお勧めします。
下辺 何ですか? JISなんて難しくて手におえなさそうですか..。
たびと そんなことはないですよ。すべてを取り込む必要はありません。自分たちでやっていけそうなところで,足らない部分や順番が違う部分があったら,一つずつでも合わせてみることを検討されればよいのです。短期的には多少コストや工数が膨らむかもしれませんが,その場しのぎでない現実的な対応プロセスが確立できて,私の経験ですが,長い目で見れば保守対応を安定的に効率化できていくと思います。,
下辺 もう少し,そのJISのソフトウェア保守の規格はどんなものかを教えください。
(15話<最終話>につづく)