<どうしてもソフトウェアの保守作業は好きになれない?> 
下辺 私は,とてもたびとさんのようには考えられず,保守作業はバックログがあるからやむなくやっている。だれもやらないからやっている。利用者に迷惑がかかるからやっている。いっそ無くなればよいのにと思いながらやっているというのが実感です。
たびと 下辺さんは,保守作業には誇りが持てず,本当に嫌いな作業なのですね?
下辺 どこを見ても誇りがもてる状況ではないというのが,正直な気持ちです 他人の尻拭い以外の何物でもないし,他人が開発した問題だらけのソフトウェアの保守作業が,素晴らしい,誇れる作業だと明確に言っているのを聞いたのはたびとさん位です。
たびと でも,下辺さんは私の話を聞いてくださっている。嫌いかもしれないけれど保守作業の必要性は感じているし,保守の改善に対して救いを求めているのではありませんか? たとえば,..
下辺 たとえば?
 
<保守作業を劇的に楽にするツールは今はないのか?> 
たびと よく耳にするのが,保守作業をもっと簡単に楽にできる魔法のような方法とか,ツールとかないのか?という救いですね。
下辺 そういえば,たびとさんはソフトウェアの専門技術者とご自分で仰っている以上,何かそういう素晴らしいものを持っておられても不思議ではないと私は思うのですが..。
たびと どんな保守にも使える,そんな素晴らしい魔法,昔「銀の弾丸」といっていましたが,今もありません。ただ,ソフトウェア保守作業に市民権を与え,みんながその作業の重要性に目覚め,積極的に研究すれば,近いものは出てきますよ。
下辺 やはり,オオカミを一発でやっつける「銀の弾丸」は,今もないんですか?
たびと 下辺さん,よく勉強されていますね。ソフトウェアに関わるみんなが保守を他人事としている,または保守作業が無くなってほしいと思っているから,保守作業そのものを改善・向上・高度化する研究を,個別業務部門として行うことはあっても,総合的,包括的,専門的にしないだけなのです。
下辺 「銀の弾丸」研究をあきらめ,保守を悪者にし,保守作業が発生しない開発ばかり研究してきたのですね。「銀の弾丸」の発見が難しいと仰るのに,研究をすれば,保守作業は楽になるのですか?
 
<開発並みに研究費をつぎ込めば成果はすぐ出る。だが,‥> 
たびと 保守作業なんか無くせっこないのに,いつまでも保守をしっかりやったことのない人が「保守が楽になる」という夢みたいな開発方法論や開発品質の研究をしている。そのパワーの半分でもいいから保守の研究に掛ければ,「銀の弾丸」のような必殺効果でなくても,ソフトウェア保守作業の各タスクを飛躍的に楽にできる研究成果がすぐ出ると私は考えています。
下辺 確かに,何もしていなかったわけですからね。でも,実際にソフトウェア保守をやっている企業などが,保守の実態や各種メトリクスを研究者に公開しますか? そんな恥ずかしいモノを出すとは思えないのですが。
たびと 下辺さん,メトリクスなんて言葉がでてくるのは,よく勉強されていますね。ソフトウェアの保守作業に市民権が無いから,保守に関する手順が揃ってしまっていることや保守作業量が多いというメトリクスを出すのが恥ずかしいモノという発想になるのです。
下辺 結局,臭いものにはフタをしたくなってしまうというわけですね。
たびと ソフトウェア保守は悪いこと,臭いことで,そんな作業がいっぱいあることは良くないことをしているという認識,すなわち多くが「開発善/保守悪」の固定的な見方が消えないからです。実際には多数あるソフトウェアの保守作業を,積極的に公開しないだけでなく,隠蔽する体質が生まれ,それが現場の一番必要なソフトウェア技術者を苦しめているのです。
(14話につづく)