対話ケース4の場面:
フィクション対話ストーリ第4弾を始めます。ストーリとしてたびとが以前勤めていたSI会社D社の発注先W社の社長である短善多久郎(たんぜん たくろう:60歳)との対話です。W社は従業員15人ほどの技術者を集め,ソフトウェア専門会社として短善が30歳代後半に立ち上げました。既存ソフトウェアの改修などD社から実績を買われ取引口座を持った直契約だが,不定期な受注が売り上げの大半で,現在安定受注確保のため苦労しながら経営を続けています。たびとに,短善から久々に会いたいとの連絡が入り,まだ他の客がいない平日午後4時頃,二人だけで都心の個室居酒屋で話をしています。
なお,この対話ストーリの中でD社調達部門Nについて機微な個人情報に当たる話が出てきます。たびと,短善,N,他の登場人物も架空の人物であり,D社,S社,W社なども架空の企業です。特定人物や企業をモデルにしているものではありません。


 <短善社長,大幅に遅れて到着> 
短善 あ~,申し訳ありません。ちょっと出かける前に,たびとさんもご存知の調達さんのNさんから電話があり,その電話が長くなってしまって..。 
たびと いえいえ,全然問題ありません。お待ちしている間はモバイルPCであちこちから依頼を受け,溜まっている資料作りをしていましたから。N君からの電話でしたら,なかなかすぐに片付くことはなさそうですからね。やっぱり値引きの話ですか? 
短善 そう当たりです。いつものことですね。ただ,今回は同じ契約案件に対して,一度持ち出し覚悟で下げることを了承したのに,検収ぎりぎりになって,再度下げてほしいと来たものですから,さすがに今回は説明に時間をかけてでも丁寧にお断りしましたけどね。
たびと 私はD社を辞めて何年にもなる身ですが,本当に申し訳ありませんと言いたくなりますね。私が短善さんの立場なら,多分完全にキレていますね。
短善 まあ,私もたびとさんに負けず短気でしたが,あっ失礼(笑),以前に比べて我慢強くなりましたよ。たびとさんと一緒のS社いた時やその後たびとさんから,大変お世話になり,たくさん仕事を頂戴し,良くしていただいたのはありがたかったです。 
たびと 今もそう思っていただけるのは嬉しいですね。合併でD社ができる前のS社で,W社を立ち上げる前は一緒だったのはもう30年近く前になりますかね。
短善 元のS社は合併で数千人になったD社と異なり,数百人のファミリーな会社でしたが,親会社のからの天下りが増え,当然仕事は言いなり,将来性は微塵もない会社に私には見えました。あっ,ビールが来ましたので乾杯しましょう。カンパーイ。
たびと う~,旨い! たしかにS社はファミリーな雰囲気のみが唯一の特徴みたいな会社でしたね。仕事は,親会社から口を開けていれば来るし,天下りが来る前はやばい仕事をどう波風を立てずに断るか考えていればよかったのに,天下りが増えてからはそうもいかなくなった。 

<合併前のS社で,たびとは浮いていた?>
短善 ところで,まだS社にいたとき,正直たびとさんほど不思議な人で,完全に浮いている(笑)人はいなかったように感じましたね。
たびと そんなに浮いているように見えましたか~? 
短善 仕事ができなくて浮いている人もいっぱいいましたけど,情報処理関連の上級資格を20歳代でいくつも取得し,プログラミングの本は何冊も出す,コンピュータ雑誌に連載原稿は書く,大学の非常勤講師はする,でも最新の開発技術を追い求めることにあまり興味はなく,開発済みソフトの保守に興味あるなんて,当時では私も周りもまったく何を目指しているのか理解不能でした。
たびと あの~,すみません。S社規模にとっては結構戦略的な大規模プロジェクトを始め,S社の仕事もちゃんとやって成功させ,さらにその上でって言っていただけますか?(笑)  
短善 まったくその通りなのでさらに理解不能でした。だからこそ,本を書いたり,大学で教えたり,他社の人と研究サークル活動する暇があったら,仕事をもっといっぱいできるはずなのに,「たびとは完全に余裕こいてる」と陰でけなす先輩や管理職もいて,短善さんには近寄りにくい雰囲気もあったかもですね。
たびと 周りを気にせず,そういうことができたのも,当時は会社がファミリーで寛容だったからですかね。短善さんはわたしのことを当時はどう見ていたのですか?
短善 私は若いうちに独立して会社を作ることを人生の目標にしていましたので,たびとさんこそ,私より早く会社を作って独立するのかなと思っていました。 

<たびとはなぜ独立しなかった?>
たびと そうそう,社内外のいろんな人からも同じことを言われましたね。「いつ独立するんですか?」「独立したら声を掛けてください」とかね。
短善 結局のところ,今も別系統の勤務先で還暦をはるかに(笑)過ぎたITエンジニアとしてサラリーマンをなさっていて,どうして独立せずそのままでずっといようとなさったのですか?
たびと 少なくとも楽がしたくてとか,挑戦心が薄くてサラリーマンに固執したつもりはありませんでしたね。              
短善 普通のサラリーマンと完全に違うたびとさん自身の可能性を試してみるとか,可能性に賭けてみたいとお思いにならなかったのですか?
たびと 私は短善さんとは違って,競馬・競艇・競輪・オードなどの賭け事はまったくやらないのでね(笑)。              
短善 おっと,そうきましたか~。でも,会社にいるより,一発当たった時の収入はドデカいし,独立すれば,それを所属会社に搾取される心配もありませんねよ。 
たびと 確かに,「男なら一発にかける」ということに挑戦的魅力を感じることはあります。ただ,私の場合は会社にいるほうが結局さまざまな広い人たちと接することができたと思っています。特に合併でD社となってからは,会社規模が大きくなったこともあり,S社時代で接する社内外の人の何倍にも膨らんだのです。 
短善 そういえば,合併後のD社では,忠誠心欠落人間と干されていた(笑)S社のときより,はるかに速いスピードでたびとさんは昇進されていきましたね。 
(2話につづく)