<スーパーエンジニアは孤立している?> 
短善 頂点に立つようなスーパーエンジニアだけでなく,それに続くスキルレベルのエンジニアの層に厚さがない。だから,もっと底上げ教育が必要だとたびとさんはお考えですか?
たびと いいえ。少し違います。単純な底上げ教育なんてやっても,効果は薄いというのが私の考えです。
短善 例えば,今政府がやろうとしている小学校からプログラミング教育をするなんて,愚の骨頂ということをたびとさんなら言いそうですね。
たびと 「愚の骨頂」とまでは言いません。論理的思考を訓練するような教育すること自体の価値を私は否定はしません。ただし,優秀なスーパーエンジニアの多くは,そういった教育を受けて現れてくるのではなく,本人が感じる強い興味・努力・センスが相乗して自分自身の力でその域に達したのだと私は思います。
短善 ソフトウェアのセンスがあるとないのでは大違いだというのは,社員を採用してきて私も強く感じます。わが社の例では,結果としてプログラムセンスがない社員と分かった場合,いくら経験を積ませても,周りが教えてもダメな場合が多いというのが私の経験認識です。
たびと また,さらに悪い状況として,そういった世界と渡り合えるようなスーパーエンジニアの多くが,大学や企業の研究所などの現場とは比較的隔離されたところにいて,そのセンスやスキルを広く示す機会がないのが実態だと考えます。く
短善 情報処理学会などの学会での発表で,それらが共有されることはないのですか?
たびと そういった論文を読んで,スーパーエンジニアのセンスが広まり,次々とそういったエンジニアが陸続と現れるとは私にはとても思えません。どちらかというと,個人の力量の発表をしても論文としては認められませんからね。
短善 スーパーエンジニアがいることは分かっても,どこがスーパーなのかを広く,わかりやすく伝える人もいない。どちらかというと,孤立しているということになりますね。
 
<サブスーパーエンジニアの層は厚いか?> 
たびと 結局,富士山の八合目くらい割合の数いなければならない層のエンジニアが育たないことらなります。勘違いしてほしくないのは,この層のエンジニアはプロジェクトマネージャ候補という管理面が得意なエンジニアというイメージではないのです。あくまでも,自分で力で誰も考えもしない素晴らしいプログラムを自由に操る力をもったエンジニアのことです。
短善 では,八合目にあたる技術を持つエンジニアを育てるためには,たびとさんは何をすべきだとお考えですか?
たびと 誤解を恐れずにいうと,日本の大手ITベンダが自らスーパーエンジニアを数多く育てるために地道に努力することです。
短善 それをやっていないということですね。たとえば,どんな努力が足らないというのですか?
たびと 必要な時になれば,即戦力のエンジニアを中途採用するか,アウトソースすればよいという安易な考えを捨てることです。
短善 でも,そんな目先の戦力補強の仕方は,IT産業以外でもよくやっていることではないですか?
 
<自前で学校を作る気概のあるITベンダは?> 
たびと そうですか? 例えば,自動車メーカーは自社で学校を作り,自動車整備士をしっかり育成していますよ。「~自動車大学校」「~テクニカルカレッジ」「~工業技術短期大学校」など整備士養成の専門学校を自らが作っています。品質が非常に高い日本の自動車を作っているメーカーでもですよ。
短善 いくら品質の良い自動車といえども,自動車整備士になるには必要な知識がやはり多くあり,整備ができるようになるためにはそれなりに訓練が必要ということですね。
たびと その必要性を自動車メーカーが自覚しているから,品質の良い自動車を製造する研究費にくらべそん色ない費用を掛けて,整備士養成学校を作って,整備士の層が薄くならないようにしているのです。
短善 IT業界では,幅広いスキルをもったITエンジニアの養成は,自分たちの仕事ではなく,専門学校,大学,大学院で教育を受けた新人を採用することで十分だという発想ですで済ませている。自ら学校を作ってでも,優秀なエンジニアの層を厚くする努力を放棄しているということですか。
たびと はい。大手IT企業ほど,有名国立,公立,私立の情報システム工学系の大学院生に絞って新規を採用していますが,それで済ませているように私は感じます。
短善 IT専門学校卒業生になると我々のような中小のソフトウェア会社の会社説明会に来るという構図ですね。そして,一生懸命弱小ソフトウェア会社だけれど,何とか育てようとしている。
たびと そういったIT人材の確保の仕方が現実となってしまっている。私から言わせると,その考え方自体にプログラムを実際に作成・修正する技術者を低く見る考え方が見えてしまいます。
短善 高度な技術者は,個々の機能のプログラム自体なんか見ることは仕事の範囲ではないという考えですね。
(15話につづく)