<超豪華クルーズ船,船長たけで動かせるのか?>
たびと 高度な技術者はブログラムなんか見なくて良いという考え方が広まってしまっているのは,残念ながらその通りです。2010年頃にIPA(情報処理振興事業機構)が情報処理技術者のスキルレベルの基準を出しましたが,対象プロジェクトの規模の大小がスキルレベルの基準になっていました。
短善 すなわち,大規模なシステムを担当できる技術者は高度で,数人のチームでできるような仕事をする技術者はまだ低いレベルの技術者ということですね。
たびと 分かりやすく,一見説得力のありそうな考えですが,もし「ソフトウェアの技術では大は小を兼ねないし,管理だけができても役立たない」という以前から,私が言っている考え方が正しいとすれば,説得力の前提が崩れてしまいます。
短善 IPAの基準だと,大規模システムの全体を取りまとめる能力,いってみれば超大規模クルーズ船の艦長のような管理スキルを最終目標としているように見えますが,そんな人ばかりを速成しても船は動かせないということですね。
たびと 素晴らしい喩えですね。今のIT人材を育成する施策は,いわばどんなに優秀な「大工」でも技術者としてはまだまだ未完だという建築人材育成のように見えます。
短善 ただ,建築業過などでは,製品のユニット化が進んでいて,いわゆる大工のような職人はだんだん要らなくなって聞きますが。
<「余裕があればソフトウェア保守も気にしてね」でよいのか?>
たびと 新築の場合はそういう面もあるでしょうね。ただ,私の話の前提条件に「新築」「新規開発」などがないこと,さきほど話した自動車業界の整備士育成の話を,もうお忘れになっていますね。
短善 すみません。徹底して既存ソフトウェアの「保守」を中心に考えているたびとさんであることを失念し,失礼しました。
たびと あなただけではありません。すぐ「新規開発」「開発」のイメージに話を移し,現実の実態を見ず,これからの話だけをしたがる人だらけですよ。ITに関しては,「新規開発」「開発」へ偏りは極端で,正直あきれるばかりです。
短善 ソフトウェアに関して,「保守」について,語られることが少ないのは何故でしょう?
たびと IPAが2017年に出している「i コンピテンシ ディクショナリ2017」なるものを見ると,ITエンジニアとして知っておかなければならないキーワードが,何千と並んでいるけれど,ソフトウェアの保守に関するキーワードはほんのわずかです。せめて,JIS X0161に出てくる主要なキーワードぐらい入っているかと期待した,まったくソフトウェア保守の国際規格でJIS規格になっているJIS X0161を参考にした気配もないのです。
<ITの有識者はどこまで「保守」の現場を知っているのか?>
短善 何でそうなのでしょうか。
たびと 私は,今ソフトウェアの保守現場で作業効率化に苦労して,さまざまな工夫をして,生産性や品質を高めて作業をしている人たちが,そういった施策を検討する有識者としては見られていないからなのです。
短善 さっきたびとさんが言ったいくら優秀な「大工」も建築有識者としては,未完成だから評価されないということと同じですね。
たびと 映画「シンゴジラ」で有識者なる人物が緊急事態に何の役にも立たない姿が出てきますが,ソフトウェア保守というさまざまな緊急事態への対応を彼らのような人にな考えさせたら「i コンピテンシ ディクショナリ2017」のソフトウェア保守の記述レベルしか出てこないのです。
短善 大学の教授や研究所や企業の重役はソフトウェアの保守作業の経験をしていないし,そもそもなぜ保守が発生するかの本質的な要因についても関心がないのです。だから,勢い,実践面に踏みこまない管理面ソフトウェアの話に偏ってしまうのです。
たびと 日本のIT振興を,従来の有識者と呼ばれる人たちに今後のIT振興策の検討を任せておいては,日本は完全なIT後進国,またはITをアウトソースするだけの国になってしまうというのがも私の危惧です。
(16話につづく)