■ 読書雑感:「記者ラストベルトに住むートランプ王国、冷めぬ熱狂」

(金成隆一かなりりゅういち、朝日新聞出版、2014.6@1400)・・・中間層を壊すと国が壊れる

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■ はじめに
1 中間層を壊すと国が壊れる

(1-1)米国大統領がオバマからトランプに代わった(2017.1.20)。トランプは、米国が「大赤字の貿易不均衡を変える」ためと、「先端技術の流出防止・優位確保」のために、関税などを手段に、中国と交渉を始めた。

カナダ、メキシコとの北米自由貿易協定も見直している。また同盟国のEU、日本とも交渉を始める。

 メキシコや中南米諸国からの「不法移民」に対して、国境に壁を作る、追い返すという移民対策を示している。長い「国境に壁」と聞いて、疑わしかったが、本気らしい。

 これらは、同大統領の反感を得やすい物言いと合わさって、「米国第一主義」、保護主義、米中貿易戦争、また大統領選挙中から、「ポピュリズム(大衆迎合主義)」、排外主義など、非難的な論調で反対を受けている。

 本当にそうか、他の人が、経済・政治の実相、地殻変動に気が付いていないだけではないか。

(1-2)表題の本を見る前に、最近書いた3つのブログの内容を抽出して、おさらいをする。

① 不平等(不公平)を許容するイデオロギーを考える

② 今の世界の課題は「自由貿易の過剰」

③ トランプVSバーニー・サンダース~類似点と相違点


2 <読書雑感「グローバリズムが世界を滅ぼす」「世界の未来」・・・自由貿易と民主主義、不平等(不公平)を許容するイデオロギーを考える>

https://ameblo.jp/t1997/entry-12392677671.html

(2-1)上記の【2018.7.23ブログ】で書いたとおり、今の世界の課題は【自由貿易の過剰】であり、その前提には【不平等(不公平)を許容するイデオロギー】がある。


(2-2)【「自由貿易の過剰から規制へ転換」する時期だが、各国の政治システムが無能力で転換できない。】
~「無能力で転換できない」というのは、【「新自由主義とグローバリゼーション」が国民経済を壊しているが、それが世界では主流派経済学であり、また国家の統治に係わるエリートの考えの主流であり、そのために現下の問題を解決できない】ことを指す。

~自由貿易が始まった当初は良いものだった。「ある歴史的段階では、貿易の増大がポジティブな結果をもたらす。」「一定の時間が経過すると、自由貿易が過剰になるときが来て、ネガティブな結果になる。」ところが人々の頭には、以前の良いときの印象が残っている。


(2-3)【資本主義の理論は、当初の格差拡大は悪しきことだが、富全体が増加すれば、何らかの分配をすればよい、解決する、と説明する。】【自由貿易では、企業が国外市場のために生産するので、また国外企業との競争をしながら生産するので、賃金は内需に貢献する要素であるよりも、賃金コストと見なして、削減抑制する考えになっていく。】「賃金が低いままに張り付く。人々の生活は向上しない。」

【アメリカの輸入消費が、世界規模の需要不足を解決していた】【自由貿易で世界の企業が、賃金をコストと見なして削減抑制して、世界規模で需要不足になっても、米国が過剰に輸入するので、需要不足という問題点が、経済危機に直結、現実化しなかった。】

(2-4)高等教育の普及が【不平等(不公平)を許容するイデオロギー】を定着させる、経済格差拡大

~資本主義・自由貿易の「自らの利益を求める人間の本能から出発しても、経済発展の結果、大多数の人々の生活向上が実現する」という理屈は、実際には破綻している。1950年から1975年頃には、資本主義であっても、建前であっても、「経済発展の結果、大多数の人々の生活向上が実現する」という考えが確かにあった。【自由貿易によって、賃金を需要創出要素からコストと見なすイデオロギー転換があった。】

~日本の政策、経済界、雇用条件で見れば、非正規雇用の拡大、裁量労働・高度プロフェッショナル制度による残業代削減には、賃金コストの削減抑制が通底していることは明らか。【金持ちは社会システムから収入を得ながら、その維持コスト、税金を応益負担していない。】


(2-5)【経済格差の拡大に、緩慢にしか反応しないのは何故か】

~不平等(不公平)を実現した富裕層・資本の影響力が、社会システムの中で強くなっている。

【社会階層の上中下で、上に居て、そう自己認識する人は、現状肯定的になる。政策決定に影響力があり、不平等(不公平)があると認識しても、特権を自ら手離さない。】


(引用者注)「近年、非正規雇用が若者の半数以上になった。アルバイト程度の千円前後の賃金に長期に固定される。経済的理由から結婚・子育て・持ち家(終の棲家)は、不可能な生活。」「他方、経営者の報酬1億超え・株式配当が増える。」【社内配分は経営者の意思決定だが、「なぜ生活が安定しない低賃金を放置して、経営報酬等を増やすのか。」自由貿易で他国の低賃金労働との競争があるとしても、「経営者報酬・株式配当を調整減するなどしないのは、不平等(不公平)の潜在意識・格差を当然視する見方を持っているから」、となる。】

(引用者注)同じく政治家も、前記のような現状を知りながら、【最低賃金引上げは微々たるもので、不労所得である配当所得・資産所得への課税は低い】などの【経済格差拡大を促す(!!)政策決定】をしている。


(2-6)【自由貿易の問題を解決するためには、規制・国際協議が必要。】

【米国はかつて自らの利益になった自由貿易が、もはや「国内の白人中間層を破壊して、社会を維持できない」ほどに不利益になってきたので見直す。】・・・中間層を壊すと国が壊れる


3 <米国大統領の玉石混交~今の世界の課題は「自由貿易の過剰」・解決方法は何か>

https://ameblo.jp/t1997/entry-12422256583.html

(3-1)上記の【2018.11.25ブログ】で、注目を集めているトランプの言動を、「玉と石」に仕分けしてみた。

現下の問題は、これまでの「主流派経済学、経済・政治を行うエリート、評論する知識人」の理解の仕方・行動では、解決できない。トランプの言動を非難して「自分は進歩的陣営に居ると安住して終わる」態度から抜け出して、現下の問題を直視して、「個別に解決策を立てる」ことを提唱する。

トランプ支持が固い理由を、「ポピュリズム(大衆迎合主義)」と非難するのは、誤っている。

4 <トランプVSバーニー・サンダース~類似点と相違点>

https://ameblo.jp/t1997/entry-12434409299.html

(4-1)上記の【2019.1.20ブログ】で、2人の政策について【類似点と相違点】を書き出すと、今の世界の課題である【自由貿易の過剰】への対応策が色濃い。


(4-2)2016年の大統領予備選挙。民主党では非主流派のバーニー・サンダースが、妻クリントンと接戦だった。他方、共和党では非主流派のトランプが大統領候補になった上、そのまま大統領に当選した。

元々は無所属で民主社会主義者を自称する「サンダース側に不利な情報をメディアリークした」不正行為疑惑が民主党指導部にある。このため2020年大統領選挙は、「トランプVSバーニー・サンダース」も有り得る。

 一見すると対極のような2者だが、トランプは意外なことに、けっこう長い民主党歴がある。またバーニー・サンダースが政策上重視する、支持者は【労働者、低所得者、経済的に苦労している若者】だ。これはトランプと重なっている。更に政策的主張でも重なっている。


(4-3)結論として、現下の問題を解決するには、【「モラルサイエンスとしての経済学・財政学」を、政策形成の指針にすることが不可欠】だ。 

「政治的再配分を否定すること(新自由主義)」は、単に景気変動対策・経済活性化策であることを超えて、富裕層になるための金儲けの手段になり、「グローバリズム、TPP」も、その方法として利用されて、モラルを欠いた。

 ケインズ経済学に、【「近隣窮乏政策」(不況の輸出)の戒め】と、【「私欲(エゴ)を抑えて、道徳心をもって行動する人(モラリスト・・・国民、官僚、政治家、経済人)による国家運営」】がある。

 【いま一度、初心に立ち還ることが、現下の問題を解決する。】


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【その2】<読書雑感「記者ラストベルトに住むートランプ王国、冷めぬ熱狂」>

■ 読書雑感:「記者ラストベルトに住むートランプ王国、冷めぬ熱狂」/1 本の内容は? ・・・中間層を壊すと国が壊れる/2 フライ・オーバー・カントリー・・・(頭上を飛び越えられる地域 flyover country)/3 ラストベルトの暮らし・・・ラストベルト(錆び付いた工業地帯 Rust Belt

https://ameblo.jp/t1997/entry-12448929347.html